著者
福井 幸太郎 飯田 肇 小坂 共栄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.43-61, 2018-01-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
64
被引用文献数
1

飛騨山脈の四つの多年性雪渓で,地中レーダーで氷厚を,測量用GPSで流動を観測し,氷河の可能性を探った.その結果,カクネ里雪渓と池ノ谷雪渓は厚さ30mを超える氷体を持ち2m/年以上の速度で流動していたことから氷河,内蔵助雪渓は厚さ25mの氷体を持つが流動速度が3cm/年と遅いため多年性雪渓に移行しつつある氷河,はまぐり雪雪渓は現在流動していない多年性雪渓であることが分かった.日本で氷河と判明した多年性雪渓は合計六つになった.また,飛騨山脈の氷河の特性を現地観測データから検討した.その結果,気候条件的に現在の飛騨山脈では氷河が存在可能であること,平衡線高度が同じ地域内で大きくばらつくこと,カクネ里雪渓と池ノ谷雪渓は1955~2016年の61年間で面積がそれぞれ12, 16%減少したことが分かった.
著者
有江 賢志朗 奈良間 千之 福井 幸太郎 飯田 肇
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

福井・飯田(2012)と福井ほか(2018)は,近年の小型化かつ高性能化した観測機器を用いて,氷厚の実測と流動観測をおこない,飛騨山脈北部に分布する御前沢雪渓,内蔵助雪渓,三ノ窓雪渓,小窓雪渓,カクネ里雪渓の6つの多年性雪渓が現存氷河であることを明らかにした.北アルプス北部には,氷河調査がおこなわれていないが,氷河の可能性が高い雪崩涵養型の多年性雪渓がいくつか存在する.そこで,本研究では,7つ目の氷河の可能性が高い唐松沢雪渓の氷厚と流速をGPR観測とGNSS測量により測定し,唐松沢雪渓の氷河の可能性について検討した.その結果,唐松沢雪渓では約30mの氷厚と流動現象が確認できた.
著者
福井 幸太郎 岩田 修二
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.23-28, 2000-01-15
被引用文献数
17 2

1999年10月10日, 飛騨山脈北部に位置する立山, 内蔵助 (くらのすけ) カールの標高2,720mの地点で, 日本アルプスでは未報告であった永久凍土であると考えられる凍結層の存在をピット調査によって確認した. ピット掘削時の活動層の厚さは120~130cmであった.<BR>この永久凍土の形成には秋の積雪前の凍結とマトリクスを欠く角礫層やルースな砂礫層の存在が, 維持には夏遅くまで残る積雪層が大きな役割を果たしていることがピット調査と地表面温度観測結果から分かった.<BR>また, 永久凍土が確認できたプロテーラスランパートと呼ばれている岩屑地形は, 今まで雪渓 (氷体) 上に砂礫が堆積した地形と考えられており, この地形内の凍土は, 下層に存在する氷体の断熱効果のために底面融解が抑制されている可能性があった.しかし, 電気探査の結果からこの地形の下に氷体は存在しないことが明らかになった.
著者
澤柿 教伸 福井 幸太郎 岩田 修二
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.163-178, 2005-03-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
85
被引用文献数
1 2

近年,あいついで惑星探査機が火星に到達し,地表面の詳細な数値標高データが得られたことから,地形の解析は飛躍的に進展した.火星表面の環境は,寒冷・乾燥を主な特徴とする「極地砂漠」であると言われ,地球上のアナロジーとして南極大陸のドライバレー地域に見られる地形が用いられている.また,これまで,火星表面の広範囲に水流の侵食を受けたと考えられる地形が認識されてきたことに加えて,寒冷環境の水に関わる地形として氷河や永久凍土に起因すると考えられる地形も多く確認されており,その詳細な形態も明らかにされつつある.しかし,水が流れた地形と氷が流れた地形に決定的な違いはあるのか,といった両者の判別に関する問題は,地球上の地形についても未解決の部分が多く,火星の地形の解釈に適用する際には注意を要する.雪氷の流れによって形成される,岩石氷河や岩屑被覆氷河などの地形の解釈についても,地球上の研究例を火星の地形に単純に当てはめるには問題がある.
著者
福井 幸太郎 菊川 茂 飯田 肇 後藤 優介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100277, 2015 (Released:2015-04-13)

はじめに 「新湯」は立山カルデラの底にある熱水をたたえる池で現在の立山の火山活動の中心である地獄谷の南3.5 kmに位置する。かつてのマグマ水蒸気爆発でできた小規模な火口湖で直径は30 m、水深は5.6 m、表層の水温は65~70℃である。池中央にある複数の噴出口から熱水が湧出し続けているため常に満水で、熱水は北側の切れ口から溢れだし、立山カルデラ内を東西に流れる湯川に流れ込む。 近年、噴気や地熱活動が活発化している地獄谷周辺と異なり、新湯では水位や水温に全く変化がみられなかった。ところが2014年春先から突如激しい水位や水温の変動を起こすようになった。本発表では2014年6月中旬~10月末に発生した水位と水温変動について報告する。 方法 ・水位の変化を明らかにするため池の岸にインターバルカメラを設置して30分間間隔で湖面を連続撮影した。観測期間は2014年6月11日~10月29日である。 ・水温の変化を明らかにするために水深30 cmと水深2 mに自記温度計を用いて10分間隔で水温の連続観測を実施した。観測期間は2014年6月15日~10月29日である。 結果 ・インターバルカメラの画像の分析から、2014年6月11日~10月29日に新湯は合計11回干上がったり満水になったりを繰り返していたことが分かった(図1)。満水の熱水は噴出口に吸い込まれて1日で完全に排水し、干上がった状態が3~4日続いた後、噴出口から熱水が湧き出して4~5日で再び満水の状態に戻った。したがって、2014年春先から新湯は熱水をたたえる池から間欠泉に変化したといえる。 ・2014年6月15日~10月29日までの満水時の新湯の水温は平均で74℃であった(図2)。2006年10月22日~2007年8月9日の新湯の水温(水深30 cm)は平均64℃で(図2)、平均水温は10℃も上昇した。
著者
山本 遼平 奈良間 千之 福井 幸太郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100275, 2016 (Released:2016-04-08)

北アルプスの北部に位置する立山連峰は日本で唯一の氷河が存在する地域であるが,氷河の年間質量収支や形態,環境条件などは明らかにされておらず,例えば北アルプスの局所的に氷河が維持されている要因なども不明である.そこで本研究では,立山連峰における氷河の年間質量収支および,局所的に氷河と越年性雪渓が発達する環境条件を明らかにすることを目的として,現地調査や解析をおこなった.以下に研究方法と結果を示す. 1),立山三山に存在する御前沢氷河に対し,融雪期末期の氷河上および氷河周辺の位置情報を高精度GNSS測量により取得した.また,冠雪の2日前の2015年10月9日に北アルプス北部で小型セスナ機からの空撮を実施した.現地調査により得たGNSS測量データと空撮画像からSfMで氷河表面の25cm解像度のDEMを作成した.作成したDEMから算出した融雪期末期の御前沢氷河の平均表面高度は2637.7m,末端高度は2502.0mであり,面積は0.112km2であった.また,作成したDEMの精度検証のために現地のキネマティックGNSS測量データと比較をした結果,氷河全体の平均鉛直誤差が0.55mであった. 2),衛星画像と国土地理院の解像度10mDEMを用いて,北アルプス全域において主稜線から一定の距離にある点を流出点とする集水域を作成し,雪の涵養・消耗に関連する地形的要素を集水域ごとに比較した.解析の結果,北アルプスに現存する氷河はその周辺の谷地形よりも涵養に関わる要素の値が大きい結果が得られた.
著者
有江 賢志朗 奈良間 千之 福井 幸太郎 飯田 肇 高橋 一徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.109, 2019 (Released:2019-09-24)

1.はじめに 福井・飯田(2012)と福井ら(2018)は,飛騨山脈の多年性雪渓において,近年の小型かつ高精度な測量機器を用いて氷厚と流速の測定を実施した.その結果,流動現象が確認された六つの多年性雪渓は氷河(小窓氷河,三ノ窓氷河,カクネ里氷河,池ノ谷氷河,御前沢氷河,内蔵助氷河)であると判明した.飛騨山脈は,氷河と多年性雪渓が存在する山域となった.しかしながら,飛騨山脈のすべての多年性雪渓で氷河調査がおこなわれたわけではなく,飛騨山脈の氷河分布の全貌は明らかでない.福井ら(2018)は,飛騨山脈の未調査の多年性雪渓のうち,氷体が塑性変形を起こすのに十分な氷厚を持ち氷河の可能性があるのは,後立山連峰の唐松沢雪渓,不帰沢雪渓,杓子沢雪渓などごくわずかであると指摘している.そこで,本研究では,唐松沢雪渓において氷厚と流動の測定をおこない,現存氷河であるかどうかを検討した.さらに,本研究の唐松沢雪渓で測定された氷厚と流動速度を,氷河の塑性変形による氷河の内部変形の一般則であるグレンの流動則で比較し,唐松沢雪渓の流動機構について考察した.2.研究手法 氷河と多年性雪渓は,氷体が顕著な流動現象を示すかどうかで区別される.本研究では,唐松沢雪渓の氷厚を測定するために,アンテナから電波を地下に照射し,その反射から地下の内部構造を調べる地中レーダー探査による氷厚測定を実施した.また,縦断測線と横断測線との交点ではクロスチェックをおこない正確な氷厚を求めた.測定日は2018年9月21日である.さらに,雪渓上に垂直に打ち込んだステークの位置情報を融雪末期に2回GNSS測量を用いて測定し,その差分から唐松沢雪渓の融雪末期の流動速度を測定した.また,雪渓末端の岩盤に不動点を設置し,2回の位置情報のずれをGNSS測量の誤差とした.2回の測定日は,2018年9月23日と10月22日である.図1に地中レーダー探査の側線とGNSS測量の測点を示した.3.結果 地中レーダー探査の結果,唐松沢雪渓は30m以上の氷厚を持ち,塑性変形するのに十分な氷厚を持つことが確認された. また,流動測定の結果,2018年融雪末期の29日間で,P1で18cm,P2で25cm,P3で19cm,P4で18cm,P5で19cm,北東方向(雪渓の最大傾斜方向)に水平移動していた.雪渓末端部の河床の岩盤の不動点(P6)での水平移動距離は2㎝であった.今回の測量誤差を2㎝とすると,雪渓上の水平移動で示された雪渓の流動は,誤差を大きく上回る有意な値であるといえる.流動測定を実施した融雪末期は,積雪荷重が1年で最も小さいため,流動速度も1年で最小の時期であると考えられている.このことから,唐松沢雪渓は一年を通して流動していることが示唆され,現存氷河であることが判明した. さらに,唐松沢雪渓で測定された表面流動速度は,グレンの流動則による塑性変形の理論値を上回っていた.このことから,唐松沢雪渓の融雪末期における底面すべりの可能性が示唆される.引用文献福井幸太郎・飯田肇(2012):飛騨山脈,立山・剱山域の3つの多年性雪渓の氷厚と流動―日本に現存する氷河の可能性について―.雪氷,74,213-222.福井幸太郎・飯田肇・小坂共栄(2018):飛騨山脈で新たに見出された現存氷河とその特性.地理学評論,91,43-61.
著者
福井 幸太郎 飯田 肇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

飛騨山脈,剱岳(2999 m)にある小窓雪渓および三ノ窓雪渓で,2011年春にアイスレーダー観測を行い,厚さ30 m以上,長さ900~1200 mに達する日本最大級の長大な氷体の存在を確認した.同年秋に行った高精度GPSを使った流動観測の結果,小窓,三ノ窓両雪渓の氷体では,1ヶ月間に最大30 cmを超える比較的大きな流動が観測された.流動観測を行った秋の時期は,融雪末期にあたり,雪氷体が最もうすく,流動速度が1年でもっとも小さい時期にあたる.このため,小窓,三ノ窓両雪渓は,日本では未報告であった1年を通じて連続して流動する「氷河」であると考えられる.&nbsp;立山の主峰である雄山(3003 m)東面の御前沢(ごぜんざわ)雪渓では,2009年秋にアイスレーダー観測を行い,雪渓下流部に厚さ約30 m,長さ400 mの氷体を確認した.2010年秋と2011年秋に高精度GPSを使って氷体の流動観測を行った結果,誤差以上の有意な流動が観測された.流動速度は1ヶ月あたり10 cm以下と小さいものの,2年連続で秋の時期に流動している結果が得られたため,御前沢雪渓も氷河であると考えられる.
著者
福井 幸太郎
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地學雜誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.111, no.4, pp.564-573, 2002-08-25
参考文献数
29
被引用文献数
2 2

A pit survey, near-surface ground-temperature monitoring, DC resistivity tomography, and an eighteen-year interval survey elucidate the internal structure and the recent movements of the active protalus rampart in the Kuranosuke Cirque, the northern Japanese Alps. Permafrost was found beneath the lower part of the protalus rampart by using ground temperature monitoring and DC resistivity tomography. The results of DC resistivity tomography suggest that the materials of the protalus rampart has a at least 15 m in thickness. Four targets placed on the lower part of the protalus rampart moved at mean horizontally rates of 2.4 to 7 mm a<SUP>-1</SUP> between 1983 and 2001. These displacements probably occurred due to permafrost creep and/or deformation in the lower part of the active layer.
著者
有江 賢志朗 奈良間 千之 福井 幸太郎 飯田 肇 高橋 一徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p><b>1.はじめに </b></p><p> 福井・飯田(2012)と福井ら(2018)は,飛騨山脈の多年性雪渓において,近年の小型かつ高精度な測量機器を用いて氷厚と流速の測定を実施した.その結果,流動現象が確認された六つの多年性雪渓は氷河(小窓氷河,三ノ窓氷河,カクネ里氷河,池ノ谷氷河,御前沢氷河,内蔵助氷河)であると判明した.飛騨山脈は,氷河と多年性雪渓が存在する山域となった.しかしながら,飛騨山脈のすべての多年性雪渓で氷河調査がおこなわれたわけではなく,飛騨山脈の氷河分布の全貌は明らかでない.福井ら(2018)は,飛騨山脈の未調査の多年性雪渓のうち,氷体が塑性変形を起こすのに十分な氷厚を持ち氷河の可能性があるのは,後立山連峰の唐松沢雪渓,不帰沢雪渓,杓子沢雪渓などごくわずかであると指摘している.そこで,本研究では,唐松沢雪渓において氷厚と流動の測定をおこない,現存氷河であるかどうかを検討した.さらに,本研究の唐松沢雪渓で測定された氷厚と流動速度を,氷河の塑性変形による氷河の内部変形の一般則であるグレンの流動則で比較し,唐松沢雪渓の流動機構について考察した.</p><p><b>2.</b><b>研究手法</b></p><p> 氷河と多年性雪渓は,氷体が顕著な流動現象を示すかどうかで区別される.本研究では,唐松沢雪渓の氷厚を測定するために,アンテナから電波を地下に照射し,その反射から地下の内部構造を調べる地中レーダー探査による氷厚測定を実施した.また,縦断測線と横断測線との交点ではクロスチェックをおこない正確な氷厚を求めた.測定日は2018年9月21日である.さらに,雪渓上に垂直に打ち込んだステークの位置情報を融雪末期に2回GNSS測量を用いて測定し,その差分から唐松沢雪渓の融雪末期の流動速度を測定した.また,雪渓末端の岩盤に不動点を設置し,2回の位置情報のずれをGNSS測量の誤差とした.2回の測定日は,2018年9月23日と10月22日である.図1に地中レーダー探査の側線とGNSS測量の測点を示した.</p><p><b>3.結果</b></p><p> 地中レーダー探査の結果,唐松沢雪渓は30m以上の氷厚を持ち,塑性変形するのに十分な氷厚を持つことが確認された.</p><p> また,流動測定の結果,2018年融雪末期の29日間で,P1で18cm,P2で25cm,P3で19cm,P4で18cm,P5で19cm,北東方向(雪渓の最大傾斜方向)に水平移動していた.雪渓末端部の河床の岩盤の不動点(P6)での水平移動距離は2㎝であった.今回の測量誤差を2㎝とすると,雪渓上の水平移動で示された雪渓の流動は,誤差を大きく上回る有意な値であるといえる.流動測定を実施した融雪末期は,積雪荷重が1年で最も小さいため,流動速度も1年で最小の時期であると考えられている.このことから,唐松沢雪渓は一年を通して流動していることが示唆され,現存氷河であることが判明した.</p><p> さらに,唐松沢雪渓で測定された表面流動速度は,グレンの流動則による塑性変形の理論値を上回っていた.このことから,唐松沢雪渓の融雪末期における底面すべりの可能性が示唆される.</p><p><b>引用文献</b></p><p>福井幸太郎・飯田肇(2012):飛騨山脈,立山・剱山域の3つの多年性雪渓の氷厚と流動―日本に現存する氷河の可能性について―.雪氷,74,213-222.</p><p>福井幸太郎・飯田肇・小坂共栄(2018):飛騨山脈で新たに見出された現存氷河とその特性.地理学評論,91,43-61.</p>
著者
福井 幸太郎
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.187-195, 2004-03-15
参考文献数
24
被引用文献数
3 4

飛騨山脈北部の立山は豪雪かつ多雨という特異な気候環境下にある.ここでは,永久凍土が一年の大半を積雪に覆われるカール内の北向き斜面に分布しているが,その形成維持機構は不明であった.そこで,永久凍土が分布しているカール内と分布していない稜線付近の2地点で2000~2002年にかけて地中温度,降水量,土壌水分の無人観測を行い,両地点の地中温度状況の比較から,永久凍土の形成維持機構を検討した.稜線付近では梅雨期の降水の浸透により地下深部まで熱が速やかに運ばれ,凍土の急速な融解を引き起こす.故に永久凍土が分布できる環境にない.一方,カール内では,10月下旬~11月上旬の積雪から露出している時期に生じる速やかな凍結と1~5月の積雪を冷源とした凍結により凍土が形成,冷却され,夏遅くまで残る積雪により凍土は一年の大半を融解から免れる.このため,カール内では永久凍土が形成維持される.
著者
有江 賢志朗 奈良間 千之 福井 幸太郎 飯田 肇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.124, 2019 (Released:2019-03-30)

はじめに 現在の飛騨山脈の気候環境では,降雪量が融解量を上回ることができない.そのため,飛騨山脈における氷河と多年性雪渓の分布は,吹きだまりやなだれの地形効果がある場所に限定される.樋口(1968)は,多年性雪渓の地形効果による涵養様式を雪渓の分布高度で分類しており,稜線からの標高差と分布高度が小さい雪渓を「吹きだまり型」,稜線からの標高差と分布高度が大きい雪渓を「なだれ型」,稜線からの標高差が小さく,分布高度が大きい雪渓を「混合型」とした.本稿では,「吹きだまり型」を「吹きだまり涵養型」,「なだれ型」と「混合型」を「なだれ涵養型」と呼ぶ. 質量収支の一般的な測定方法は,氷河や雪渓上に雪尺を打ち込み,1年後の雪面の高度変化を測る雪尺法が用いられる.しかしながら,日本の山岳地域は,膨大な涵養量と消耗量のため,雪尺が倒れてしまい実測できない.そこで,日本の多年性雪渓の質量収支観測では三角測量やトラバース測量がおこなわれている.観測実績のある雪渓は三角測量やトラバース測量の実測が可能な「吹きだまり涵養型」の小規模な多年性雪渓に限定されており,氷河を含む「なだれ涵養型」の多年性雪渓の質量収支は明らかでない. 本研究では,セスナ空撮とSfMソフトを使用し,2015~2018年の飛騨山脈北部の氷河と多年性雪渓の質量収支を算出し,「吹きだまり涵養型」と「なだれ涵養型」の違いを考察した.さらに,氷河の可能性が高い唐松沢雪渓において氷厚と流速を測定し,唐松沢雪渓の氷河の可能性について検討した.研究手法ⅰ)なだれ涵養型の氷河と雪渓の質量収支 飛騨山脈北部の立山連峰の「御前沢氷河」,「内蔵助氷河」,「三ノ窓氷河」,「小窓氷河」,「はまぐり雪雪渓」,「剱沢雪渓」,後立山連峰の「白馬大雪渓」,「カクネ里氷河」の8つの氷河と雪渓において,2015~2018年の春と秋に小型セスナ機からデジタルカメラで空撮を実施した.空撮画像と2次元の形状から3次元形状を作成するSfMソフトを用いて,多時期の高分解能の数値表層モデル(DSM)を作成した.これらDSMの比較から「なだれ涵養型」の氷河と雪渓の高度変化を算出した.ⅱ)唐松沢雪渓の氷厚と流動 後立山連峰の唐松岳の北東斜面に位置する「なだれ涵養型」の唐松沢雪渓において,2018年9月に,中心周波数100MHzの地中レーダー(GPR;GSSI社製)を使用し,雪渓の縦断方向に2列と横断方向に6列の側線で測定を実施した.縦断方向と横断方向で反射波のクロスチェックをおこない正確な氷厚を求めた.GPRの解析結果をもとに氷厚の大きい上流部において,アイスドリルを用いて,長さ4.5mのステークを5地点に設置し,GEM-1(測位衛星技術社製)で9月末と10月末でGNSS測量を実施し,2時期のステークの位置情報の差から流動量を求めた.9月末に水平に打ち込んだステークは,再測時の10月末でも水平を保っていたことから,積雪のグライドやクリープは,流動に関与していない.結果 ⅰ)8つの氷河と雪渓の質量収支は,2015/2016年に全域が消耗域となり,2016/2017年に全域が涵養域となり,2017/2018年にパッチ状に涵養域と消耗域が点在する結果であった.2015~2018年の融雪末期の中で最も氷河と雪渓の規模が小さくなったのは,小雪年の2016年である.2016~2018年までの高度変化で,「吹きだまり涵養型」の雪渓と「なだれ涵養型」を比較したところ,「なだれ涵養型」のほうが大きく涵養していた.ⅱ)唐松沢雪渓では,GPRの結果から最深部で30mほどの長さ1㎞ある氷体を確認した.流動観測では,ステークは1ヶ月間で斜面方向に20cmほど動いており,得られた氷厚と流速は氷河の流動則とほぼ一致した.
著者
福井 幸太郎 菊川 茂 飯田 肇 後藤 優介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

はじめに<br>&nbsp;2014年5~6月,立山カルデラの温泉の池「新湯」で湯枯れが発生し湖底が干上がった.6月13日なると温泉が再び湧出して水位が上昇,6月15日にはもとの温泉の池にもどった.新湯が一時的に干上がることは数十年前から富山県内の山岳関係者の間で指摘されていた.しかし,写真などの記録は無く,現地で確認できたのは今回が初である.本発表では,湯枯れの発生と温泉の再湧出による水位回復の経過について報告する.<br><br>新湯について<br>新湯は立山カルデラ内を流れる湯川左岸に位置する直径約30 m,水深約5 mの円形の火口湖.もともと冷水の池であったが1858(安政5)年の安政飛越地震(M7.3~7.6)の際の激しい揺れによって熱水が湧き出したとの伝承がある.現在も約70℃の湯が湧出している.希少な玉滴石(魚卵状蛋白石=オパール)の産出地で2013年10月17日に国の天然記念物に指定された. <br><br>湯枯れと温泉再湧出の経過<br>・2014年4月15日:立山砂防事務所撮影の航空写真から新湯では温泉が湧出しており水位も平年通りであることを確認.<br>・5月13日:博物館撮影の航空写真から新湯が干上がっていることを確認.<u>このため,新湯は</u><u>4</u><u>月</u><u>15</u><u>日~</u><u>5</u><u>月</u><u>13</u><u>日の間に干上がったと考えられる.<br></u><u></u>・6月11日:<u>現地にて新湯が完全に干上がっていることを確認(図</u><u>1a</u><u>).</u>池の最深部(水深約5 m)に直径1 m程の凹みが3つあり活発に湯気を噴き上げていたが温泉の湧出はなかった.<br>・6月13日:立山砂防事務所より新湯で再び温泉湧出がはじまったとの連絡が入る.<br>・6月15日:現地にて池の最深部付近から温泉が湧出しており水位が元のレベルまで回復していることを確認(図1b).水位は<u>6</u><u>月</u><u>13</u><u>日~</u><u>15</u><u>日の</u><u>3</u><u>日間程で元のレベルで回復したといえる.</u>湯温は池の切れ口付近で72.6℃と干上がる前と同程度だった.<br><br>謝辞<br>今回の調査は国土交通省立山砂防事務所の協力・支援によって実現しました.お礼申し上げます.
著者
福井 幸太郎 菊川 茂 飯田 肇 後藤 優介
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.77, 2014 (Released:2014-10-01)

はじめに 2014年5~6月,立山カルデラの温泉の池「新湯」で湯枯れが発生し湖底が干上がった.6月13日なると温泉が再び湧出して水位が上昇,6月15日にはもとの温泉の池にもどった.新湯が一時的に干上がることは数十年前から富山県内の山岳関係者の間で指摘されていた.しかし,写真などの記録は無く,現地で確認できたのは今回が初である.本発表では,湯枯れの発生と温泉の再湧出による水位回復の経過について報告する.新湯について新湯は立山カルデラ内を流れる湯川左岸に位置する直径約30 m,水深約5 mの円形の火口湖.もともと冷水の池であったが1858(安政5)年の安政飛越地震(M7.3~7.6)の際の激しい揺れによって熱水が湧き出したとの伝承がある.現在も約70℃の湯が湧出している.希少な玉滴石(魚卵状蛋白石=オパール)の産出地で2013年10月17日に国の天然記念物に指定された. 湯枯れと温泉再湧出の経過・2014年4月15日:立山砂防事務所撮影の航空写真から新湯では温泉が湧出しており水位も平年通りであることを確認.・5月13日:博物館撮影の航空写真から新湯が干上がっていることを確認.このため,新湯は4月15日~5月13日の間に干上がったと考えられる.・6月11日:現地にて新湯が完全に干上がっていることを確認(図1a).池の最深部(水深約5 m)に直径1 m程の凹みが3つあり活発に湯気を噴き上げていたが温泉の湧出はなかった.・6月13日:立山砂防事務所より新湯で再び温泉湧出がはじまったとの連絡が入る.・6月15日:現地にて池の最深部付近から温泉が湧出しており水位が元のレベルまで回復していることを確認(図1b).水位は6月13日~15日の3日間程で元のレベルで回復したといえる.湯温は池の切れ口付近で72.6℃と干上がる前と同程度だった.謝辞今回の調査は国土交通省立山砂防事務所の協力・支援によって実現しました.お礼申し上げます.
著者
畠 瞳美 奈良間 千之 福井 幸太郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100288, 2016 (Released:2016-04-08)

北アルプス北東部に位置する白馬大雪渓は日本三大雪渓の一つで,夏季には毎年1万人以上の登山者が通過する日本屈指の登山ルートである.白馬大雪渓上では岩壁の落石や崩落で生産される岩屑により毎年のように登山事故が起こっている.本研究では,落石・崩落の実態や大雪渓周辺の地形変化を明らかにすることを目的として,2014~2015年に現地調査を実施した.2014年の7月~8月に設置したインターバルカメラの撮像結果より,この時期に岩壁から生産された礫の雪渓への侵入はわずかであり,雪渓上に無数に点在する礫の多くは雪渓内部から融出したものであった.UAVの空撮画像を用いて作成した50 cm解像度DEMから得られた表面傾斜角をみると,大雪渓本流では緩傾斜地と急傾斜地が交互に存在し,インターバル撮像から急傾斜地で礫の再転動・再滑動が多く確認された.また,大雪渓上には6種類の礫を確認し,その分布は本調査地域の地質を反映していた.2011~2014年にかけて,大雪渓上流(白馬岳,杓子岳),2号雪渓,3号雪渓及び大雪渓下流右岸側において岩壁が部分的に後退していた.アイスレーダー探査の結果によると,雪渓の厚さは薄いところで約3 m,厚いところで約20 mであり,場所による雪渓の厚さの違いが確認された. 白馬山荘において観測された気温・地温データから,気温が0度付近となる時期は4月末~5月末であり,凍結融解作用で岩壁から礫が生産される時期は非常に短く,7~8月は降水や再転動などの要因で落石事故が生じていると考えられる.さらに,融雪に伴い岩盤が露出することで,凍結融解作用によって生産された岩屑が落石へと発展することがわかった.雪が著しく融けて昨年の雪渓表面が出現する場合,少なくとも雪渓上には2年分の礫が存在するため,礫の再転動・再滑動による災害のリスクが高まると考えられる.本流において急傾斜地で再転動・再滑動が多く起こるという結果から,より急傾斜な2号雪渓と3号雪渓ではそのリスクは非常に高くなることがわかった.本調査地域の地質,大雪渓上の礫の関係及び岩盤の経年変化から,落石はほぼ全ての方向の岩壁斜面から発生しているが,特に杓子岳周辺では落石による激しい岩盤侵食と崖錐の形成が起こっていると考えられる.