著者
松本 浩実 中祖 直之 松浦 晃宏 秋田 朋子 萩野 浩
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11092, (Released:2015-12-12)
参考文献数
42

【目的】ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)の重症度と転倒頻度,低骨密度およびサルコペニアとの関連性を調査すること。【方法】地域在住の高齢者217名を研究対象とした。対象者を非ロコモ群,プレロコモ群,ロコモ群の3群に群分けし,転倒頻度,低骨密度およびサルコペニアの有病率を調査した。転倒,低骨密度およびサルコペニア,それぞれの有無を従属変数,ロコモ3群を独立変数とし,年齢,性別で調整した二項ロジスティック回帰分析を行った。【結果】非ロコモ,プレロコモ,ロコモの転倒頻度はそれぞれ13.8%,14.3%,34.2%,低骨密度は32.5%,23.2%,57.9%,サルコペニアは3.3%,3.6%, 15.8%であった。二項ロジスティック回帰分析では,転倒とロコモが有意に関連し,非ロコモがロコモとなった場合の転倒リスクは約3.5倍であった。【結論】年齢,性別を問わずロコモに対する転倒予防対策が必要である。
著者
秋田 朋子 中祖 直之 松浦 晃宏 松本 浩実 萩野 浩
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】世界有数の長寿国である我が国において,医療技術の進歩,健康志向の高まりにより,今後もさらに平均寿命が延びると予想される。同時に,要介護者の割合も年々増加し,介護予防は大きな課題である。要介護状態となる原因の一つとして,加齢に伴い筋肉量が低下するサルコペニアがあげられる。サルコペニアを引き起こす要因は複数あるが,中でも活動量の不足は中核的な問題であり,特に退職後の高齢期における活動量の減少が懸念される。一方,山間地域では高齢期にも農業に従事する者が多く,その場合の活動量は高く維持されると考えられる。そこで,本研究では,山間地域在住高齢者におけるサルコペニア有症率を調査し,さらに農業への従事がサルコペニアに関連するかを検討した。【方法】鳥取県西部の山間地域で実施された特定健診において,平成26年または27年に受診した65歳以上の高齢者で,研究参加への同意の得られた281名(年齢75.4±6.8歳,男性105名,女性176名)を対象とした。自己記入式アンケートおよび問診にて,運動器疾患の診断歴,現在の職業と農業従事の有無などを聴取した。サルコペニアの判別はEWGSOPの診断アルゴリズムに従った。補正四肢骨格筋量低下はインピーダンス法により測定し,Tanimotoらの基準(男性7.0kg/m<sup>2</sup>未満,女性5.7kg/m<sup>2</sup>未満)を採用した。そのうち,握力低下(男性30kg未満,女性20kg未満)もしくは歩行速度の低下(0.8m/s以下)のある者をサルコペニアと定義した。統計解析は,サルコペニア群と非サルコペニア群間で説明変数の差の検定を行った。次に単変量解析にて有意差の認められた項目を説明変数とし,年齢と性別を調整変数,サルコペニアの有無を従属変数とするロジスティック回帰分析を行い,サルコペニアの有無に関連する要因を検討した。有意水準は5%未満とした。【結果】農業従事者155名中11名(7.1%)がサルコペニアに該当し,非従事者は126名中19名(15.1%)がサルコペニアに該当した。対象者全体の有症率は10.7%であった。サルコペニア群と非サルコペニア群間における単変量解析では,年齢(P<0.001)と農業従事の有無(P<0.05)に有意な差を認めたが,その他には認めなかった。サルコペニアの有無を従属変数とし,農業従事の有無を説明変数,年齢と性別を調整変数として行ったロジスティック回帰分析においては,農業従事の有無は有意な関連を認めず(odds ratio=0.61,95%CI:0.25-1.43,P=0.254),年齢にのみ有意な関連を認めた(odds ratio=1.19,95%CI:1.11-1.27,P<0.001)。【結論】山間地域の高齢者においては,農業従事者はサルコペニアの有症率が有意に低いという結果を得た。これは農業を行うことが身体活動性を高く維持し,サルコペニアの発症頻度を軽減させる可能性を示唆する。また,サルコペニアは農業活動以上に加齢の影響を受けやすいことが考えられた。