著者
立岩 真也
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.426-445, 1998-12-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
19
被引用文献数
1

1) 国家による生存のための資源の分配と, 2) その資源の使途についての個々人の直接決定の最大化とは共在しうるし, また私達はその結合を追求すべきである。もし生存が権利であり, したがって生存の支持が義務であると考えるなら, 1) が採用されるべきである。なぜなら, 国家だけが法によって国民に義務を課すことができるからである。国家による分配の限界は, 国境内に義務を課しつつ, しかも人と財の移動が国境を越えてなされることにある。したがって, 社会的資源の調達と配分において私たちが採るべき方向は, 国家間の格差の是正であって, 国家から「コミュニティ」への移行ではありえない。他方, 2) はあらゆる社会政策, 社会的支出の再考を私たちに迫るものである。すなわち, 私たちは, 特定の目的のために予算が使われること (例 : 景気浮揚) の一切を生に対する余計な介入ではないかと疑ってみることができるのである。社会サービスにおいては利用者の直接選択が困難であるとしばしば言われる。この指摘は部分的には正しい。しかし, 私たちはそうした場合がいったいどれほどあるのかを再検討し, 利用者による直接選択を増やしていくことができる。また, 利用者の決定に対する社会的支援が必要な場合でも, 不要な介入を減少させるための方途を作りだしていくことができるのである。
著者
立岩 真也
出版者
日本法哲学会
雑誌
法哲学年報 (ISSN:03872890)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.43-55,204, 2005-09-30 (Released:2008-11-17)

まず「報告要旨」として送った文章を再掲する。拙著『自由の平等』(岩波書店、二〇〇四年)に考えたことを書いた。第一章でリバタリアニズムに対する反駁を行っている。また、契約論的な理論構成からもリバタリアニズムが正当とする規則は導出されると限らず、導出されても規則の正当化に至らないことも述べた。また第二章では嫉妬や怨恨を持ち出して社会的分配を非難する論に対する反論を行い、そして第三章で私たちがどのような私たちであれば、分配はより積極的に支持されることになるのかを検討した。(第四章から第六章は社会的分配に肯定的なりベラリズムの議論の吟味なので、今回の議論には直接には関わらない。)この本は基本的には財の所有・分配について論じた本なのだが(それ以外のことを論じた本ではないのだが)、その範囲内については、基本的なところでは間違っていないことが述べられていると考えている。だから報告もその線に沿ったものになる。(関連情報はホームページhttp://www.arsvi.comをご覧いだだきたい。)「Aが作ったものをAが所持し処分することは認められるが、それをBがとることは認められないとされる。/しかしこれを自由の立場から正当化することはできない。『私が私のためのものをとる』という状態と自由とを等値する人、自由とつなげる人もいるが、それはただ単に誤解している。この状態で自由であるのはAであり、Bは自由ではない。Bはしたいことができない、自由を妨げられていると言いうる。この状態を是認する立場を「私有派」と呼ぶならそれは自由の立場ではない。」(pp. 40-41)つまり、所有・分配については、私の立場はリバタリアンの立場とはまったく異なっており、その立場は間違っていると考えている。ゆえに、以下に引用するその本の第一章の冒頭近くは、私としては比較的好意的な記述と言えるのかもしれない。「これは別に論ずることにするが、リバタリアンの主張にはおもしろい部分もある。おもしろいことも言う人たちがなぜこんなことを言うのか、不思議に思える。だから考えてみようとも思う。/まず、国家が行うことの性質を強制と捉えること自体はもちろん間違いではない。むしろ本質を捉えている。国家が他と異なるのは、それが強制力を持つことであり、リバタリアンはこのことにはっきりと焦点を当てている。だからその主張は検討するに値する。」(pp. 37-38)強制されることがさしあたり歓迎されざることであることを認めよう。また強制を介在させることに伴う厄介事が様々あることを認めよう-それをどのように軽減できるかを考えることは興味深く重要な主題である。しかし所有権を設定し保護する規則を設定するのであれば、それは強制であり、様々ありうる規則の違いは、強制の有無という違いではなく、どのような強制を行なうかの違いである。むろん、これと別に、ここに一切の規則を設定しないという選択肢 リバタリアンの中にもそれを支持する人は多くないように思うが-もある。しかしやはりこの場合でも、多くの人々は生きるに除去あるいは軽減することのできる制約を課せられることになる。それでよいかと考えると、やはり望ましくないと答えることになる。そして以下は、学会大会で私が述べたと記憶していることである。そこでなされたように思う議論の一部にもふれている。またすこし論点を補った部分もある。リバタリアンの言説は湿気ってなくて、それは私が好きなところだ。また、森村進の論などに存する一種の脱力感、妙な力が入っていないところも好きだ。このようにまず述べて、あるいは後で補足して、私は以下のようなことを述べたはずである。
著者
立岩 真也
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.81-97, 2012-05-30 (Released:2019-10-10)
参考文献数
37

まず,被災地の後方において私たち(研究者)が何ができるのか,できるはずのことの中でどれほどのことをしているのか(していないのか)を報告する.次に,障害や病を伴って生きるのに必要なものを確保し使い勝手よく使っていくための準備と知恵があり,知識は共有されるべき範囲に共有され,取れる策は取られるべきであるという言うまでもないことを述べ,それに関わる活動をいくらか紹介する.さらに, とくに「個人情報保護」のもとに所在がつかめない人たちが,知られないままに「移送」され,そのままにされている可能性と現実があることを述べ,その不当性を強く訴える必要があり,実際その訴えがなされていることを報告する.そして,原発の近くから逃亡し新しい生活の場所を作ろうとする動きがあることも紹介する.そしてこれらの活動が, この約40年の,さらに阪神淡路震災後の障害者運動の継承・展開によって支えられていることを示し,その意義を再確認する.
著者
立岩 真也 西原 和久 永田 えり子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.168-171, 2004-12-31 (Released:2009-10-19)

本特集「差異/差別/起源/装置」は, 2003年日本社会学会大会 (中央大学) における同名のシンポジウム「差異/差別/起源/装置」をもとに企画されたものである.本シンポジウムは構築主義に対する下記のような, いわば「素朴な問い」に端を発する.「とくに社会学をする人は何かが社会的に構築されていることを言う.しかし, それはどんな行いなのか, よくわからないと思えることがある.まず, そこには多く, 批判の意味が明示的あるいは暗示的に含まれる.しかし社会的であることは, それ自体としてよいことでもわるいことでもないと言うしかないのではないか.そして脱することは, 与えられたものや作っていくこととどのように関わるのだろうか.そして, 性に関わる差別, 抑圧は何に由来するのだろうか.何がそれらを駆動しているのだろう」 (立岩真也「日本社会学会ニュース」179号 (2003年8月) より抜粋)
著者
立岩 真也 田中 耕一郎 田中 恵美子 深田 耕一郎 土屋 葉 長瀬 修 山下 幸子 渡辺 克典 廣野 俊輔 天田 城介 堀 智久 岡部 耕典 荒井 裕樹 野崎 泰伸 杉野 昭博
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

◆インタビュー調査を行った。石田圭二、佐藤一成、堀利和、斎藤縣三、本間康二、古込和宏、Gudion Sigurdsson、Conny Van der Mejiden、Danny Reviers、坂川亜由未、高橋咲緒、平井誠一、近藤秀夫、樋口恵子、奥平真砂子、小林敏昭、他。「共同連」関係者については公開インタビューとした。音声記録を文字化した。◆1980年代からの聞き取りの録音記録、文字記録を整理し、リストを作成した。一部の録音記録については文字化した。◆手をつなぐ親の会、りぼん社等から雑誌、機関紙、書籍、等の寄贈を受け、整理・配架した。◆『共生の理論』、『にじ』、『バクバク』、『ノーマライゼーション研究』、『障害児を普通学校へ』等の、既に収集してある機関紙・書籍、また新たに購入・入手したものについて、整理し、必要なものについてはデータベースを作成した。一部についてHPに書誌情報他を掲載した。◆1970年代から2011年の東日本大震災前後の東北・福島における障害者運動の推移をまとめる本の準備作業を行った。◆韓国、中国、台湾、アイスランド、ノルウェー、オランダ等における運動の動向について、韓国で開催された障害学国際セミナーにおいて、また研究代表者・分担研究者が韓国(光州・ソウル他)、ボストン、中国(武漢)等を来訪し、講演・学会参加した際に、運動や運動史に関する情報を提供し、また入手した。◆立岩真也編『リハビリテーション/批判――多田富雄/上田敏/…』(2017)を刊行した。その他、論文を公刊し、学会報告・講演等を行った。◆海外の難病に関わる運動を担う人について英語のHP頁を作成した。立岩『ALS』の関係する章を英訳してHP掲載した。◆以上すべての作業履歴・業績についてhttp://www.arsvi.com/d/hsm.htmに詳細な作業履歴・業績についての情報がある。
著者
松原 洋子 石川 准 菊池 尚人 立岩 真也 常世田 良 松原 聡 山口 翔 湯浅 俊彦 青木 千帆子 池下 花恵 植村 要
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

視覚障害等により印刷物の読書が困難なプリント・ディスアビリティのある学生の修学支援では、資料のデジタル化とICTインフラの活用が有効である。しかし日本の高等教育機関の図書館では対応が進まず、大学図書館の情報アクセシビリティに関する研究の蓄積も乏しかった。本研究では、大学等の高等教育機関における読書環境のアクセシビリティについて、公共図書館や海外事例を参照しながら制度・技術の両面から総合的に検討した。その結果、印刷物のデジタル化では未校正データの提供も一定有効であること、電子図書館サービスにおいてはコンテンツの形式以上にウェブアクセシビリティが重要であること等が明らかになった。
著者
岡本 仁宏 荒木 勝 菊池 理夫 木部 尚志 古賀 敬太 杉田 敦 千葉 眞 寺島 俊穂 富沢 克 的射場 敬一 丸山 正次 山崎 望 山田 竜作 大澤 真幸 岡部 一明 遠藤 比呂通 ありむら 潜 大竹 弘二 立岩 真也 石井 良規 天野 晴華
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

冷戦後の世界において、多くの人びとは我々の政治理論・社会理論が動揺する世界秩序を把握する言葉や構想を持ちえていないことを感じているという現状認識のもとに、近代政治理論における政治主体の基本用語の可能性と限界を追求した。「人間、国民、市民」(ヒューマニティ、ナショナリティ、シティズンシップ)という基幹的主体用語を中心に、「市民社会、ナショナリズム、グローバリズム」という三つの政治思想との関連において、その妥当性を検証し、既存概念の限界を指摘すると同時に、それらに代わる政治主体の可能性を検討した。
著者
姫岡 とし子 中川 成美 池内 靖子 松本 克美 立岩 真也 二宮 周平 松井 暁
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、1、労働概念が男性の多い有償の経済労働を中心に組み立てられ、2、職業/家事、正規社員/パートなどジェンダー問でさまざまな境界線が引かれ、3、労働法も中立ではなく、4、労働研究がジェンダーの構築に関与している、という多様な意味合いで、労働がジェンダー化されていることを出発点とした。そして概念、制度、労働分担、働き方、セクシュアリティなどにいかにジェンダーが組み込まれているのかを、その変容過程も含めて考察し、また分析するために、歴史、社会学、法学、政治学、経済学、表象の分野で学際的な研究を行った。本研究では、労働の脱ジェンダー化に向けての提案も行った。本研究の過程で、「労働のジェンダー化」シンポジウムを開催し、制度面と表象面の2つの側面から、買売春やアンペイドワークなど、従来の労働概念に含まれていない労働も含めて考察した。その成果は、『労働のジェンダー化-揺らぐ労働とアイデンティティ』として平凡社から2005年に公刊されている。労働のジェンダー化は、家族と密接に関連している。家族については、歴史的観点から、日独の近代家族の形成と現在における家族の個人化について考察し、未完に終わったととらえた資本制と家父長制をめぐる論争に関して、性別分業がなお存在しつづけている理由とそこから誰が利益を得ているのかが検討された。家族法では、女性差別撤廃条約の視点から民法改正がなされる必要性が指摘された。また教育現場のセクシュアルハラスメントに関して、当該機関に環境配慮義務のあることが指摘された。表象については、アングラ演劇をマスキュリニティ構築のパフォーマンスとして読み解いている。
著者
立岩 真也 天田 城介 小泉 義之 福島 智 星加 良司 上農 正剛
出版者
立命館大学
雑誌
新学術領域研究(研究課題提案型)
巻号頁・発行日
2008

報告書『視覚障害学生支援技法 増補改訂版』を関係者・機関に配布。大学附属図書館と書籍のディジタル・データ化、そのデータの提供の仕組みについて協議。7月に開始されたその運用のあり方について提言すべく検証作業を行った。文字データのディジタル・データ化を巡る議論や実践の歴史を検証する研究を進めるとともに、電子書籍を巡る最近の動向を把握する作業を開始。電子書籍のアクセシビリティについて、その基本的な方向と社会的仕組みを検討し提言することを目的とする「電子書籍普及に伴う読書バリアフリー化の総合的研究」が2011年度から5年間の立命館大学グローバル・イノベーション研究機構研究プログラムに採択される(年間1000万円)。京都市内のALS等コミュニケーションの困難な人を支援する活動を継続的に行い、その記録および種々の技術に関わる情報をHPに掲載。大学院生が日本難病看護学会等で報告。2011年2月には「重度障害者コミュニケーション支援講座--難病者・重度障害者ITコミュニケーション支援技法を学ぶ」を開催。利用者・支援者が参加。全国手話通訳問題研究会、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、全日本ろうあ連盟、全国要約筆記問題研究会から参加を得た2010年3月のシンポジウム「聴覚障害者の情報保障を考える」の記録に新たな文章を加えた報告書を作成。2011年5月に刊行予定。以上の他、障害者のコミュニケーションに関わる技術・制度の歴史、関連文献、著作権に関する報道等をまとめ、ウェブサイトhttp://www.arsvi.com(→「異なる身体のもとでの更新」)に掲載、随時更新して提供している。