著者
立石 裕二
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.412-428, 2015 (Released:2017-03-08)
参考文献数
38

今日, 環境問題の政策決定において不確実性に言及することは不可避になっている. 福島第一原子力発電所事故後の放射線被曝問題においても, 政府批判をする側だけでなく政府側に立つ論者も, 科学研究に不確実性があることは認めている. しかし, 彼らの論じ方は「一般論」的であり, 個別・具体的な不確実性に向き合っておらず, そのことが異なる立場間の意味のある議論を阻んでいるのではないか. こうした問題関心から出発して, 政府が設置した2つのワーキンググループ (WG) の議事録を分析した. その結果, 不確実性の論じ方に量・質の両面で大きな違いが見られた. 放射線・原子力の専門家からなる低線量被ばくWGでは, 原子放射線の影響に関する国連科学委員会 (UNSCEAR) や国際放射線防護委員会 (ICRP) といった「国際的合意」の解釈が多くを占め, その限界に対する批判的吟味を欠いていた. それに対して, 放射線以外のリスク研究者が加わった食品安全委員会WGは, 個別の論文やその不確実性へと自覚的に立ち入った議論をしていた. 自らが依拠する研究成果も含めて, 不確実性について系統的に検討する「負の自己言及」は, 政策決定に至るプロセスを外部に開いてみせるとともに, 各メンバーの立場・価値観の違いを可視化することにもつながっていた. また, 負の自己言及を伴う議論は, 非専門家が参加した場では成立しにくい可能性があることが示唆された.
著者
立石 裕二
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.931-949, 2006-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

科学委託とは, 行政が科学者に研究を委託し, その結論をもとに政策を実施する仕組みである.これまでの環境社会学は, 科学者を被害者と加害者の対立構造の中で捉えがちで, 科学者がそこから自律して動く可能性が十分に捉えられていなかった.本論文は, イタイイタイ病, 熊本水俣病, 四日市喘息を事例に, 科学と社会が自律しながらも相互作用するという観点に立って科学委託を分析することで, 科学委託を批判的に検討するための枠組みを提供することを目的とする.科学委託は, 研究内容が研究者に委ねられる自主型, 行政が特定調査を研究者に委託する限定型, 既存知見のとりまとめを委託する審議型の3形態に分けられる.科学委託の持つ意味は, 科学的知見が蓄積される前後で異なる.当該問題で知見が蓄積される前の自主型委託では, 学術的業績を挙げられる見込みが高く, 学術動機から研究者が積極的に取り組みがちである.業績を挙げた研究者は, 被害者側に立って積極的に研究・発言するようになる.これに対し, 蓄積後の委託や, 蓄積前でも研究内容の限られる限定型・審議型の委託では, 業績を挙げられる見込みが低く, 研究者は消極的に振る舞いがちであり, 意見が途中で変化しにくいため, 最初の人選が重要となる.こうして進められた科学委託は, 行政の姿勢や研究者のとりまとめ志向, 世論などに影響されつつとりまとめられ, 世論と相互作用しながら政策実施につながる.
著者
立石 裕二
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.103-118,154, 2007-05-31 (Released:2016-03-23)
参考文献数
36

This paper deals with the case of the Nagara River Estuary Barrage in Japan and examines how the scientific sector interacts with the government sector and the movement sector in society and affects the social process of the problem. In this problem, the government justified the construction of the barrage based on river engineering, while environmental movements opposed it based on the results of ecological research. Here we can observe a disparity in the academic disciplines that the government and the movement pursued. When the government intends to investigate a scientific topic, it sets up a commission of scientists. Whereas, when an environmental movement intends to investigate, it seeks to establish a network of critical scientists who hold opposing views. The interactions of scientists in an academic discipline with society vary according to whether the discipline has scientific autonomy and whether the government and the movement intend to promote further investigation. It was found that both the government and the movement intended to investigate the limnology, and the research results of both entities affected the government policy institutionally, ideologically, the movement sector actively conducted research, the results of which had an influence on the government policy via public opinion; the government, on the other hand, was not eager to investigate. The interaction within a new discipline arises without institution and subsequently changes into the institutional form. Any institutionalized discipline, however, cannot represent the purpose of the movement completely, and there always remain issues related to uninstitutionalized disciplines. In river engineering, the movement sector was unable to establish a network of critical scientists because the government and scientists had a strong connection. In public economics, the scientific framework for the discussion was under construction at that time. In such cases, social conflicts do not lead to the progress of scientific investigation.
著者
立石 裕二
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.931-949, 2006-03-31
被引用文献数
1

科学委託とは, 行政が科学者に研究を委託し, その結論をもとに政策を実施する仕組みである.これまでの環境社会学は, 科学者を被害者と加害者の対立構造の中で捉えがちで, 科学者がそこから自律して動く可能性が十分に捉えられていなかった.本論文は, イタイイタイ病, 熊本水俣病, 四日市喘息を事例に, 科学と社会が自律しながらも相互作用するという観点に立って科学委託を分析することで, 科学委託を批判的に検討するための枠組みを提供することを目的とする.<BR>科学委託は, 研究内容が研究者に委ねられる自主型, 行政が特定調査を研究者に委託する限定型, 既存知見のとりまとめを委託する審議型の3形態に分けられる.科学委託の持つ意味は, 科学的知見が蓄積される前後で異なる.当該問題で知見が蓄積される前の自主型委託では, 学術的業績を挙げられる見込みが高く, 学術動機から研究者が積極的に取り組みがちである.業績を挙げた研究者は, 被害者側に立って積極的に研究・発言するようになる.これに対し, 蓄積後の委託や, 蓄積前でも研究内容の限られる限定型・審議型の委託では, 業績を挙げられる見込みが低く, 研究者は消極的に振る舞いがちであり, 意見が途中で変化しにくいため, 最初の人選が重要となる.<BR>こうして進められた科学委託は, 行政の姿勢や研究者のとりまとめ志向, 世論などに影響されつつとりまとめられ, 世論と相互作用しながら政策実施につながる.
著者
立石 裕二
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.14, pp.101-118, 2008-11-15

現代の日本ではどのような環境問題が重視されているか,それは世代ごとにどのように異なっているか,そうした違いが生じるのはなぜか。本論文ではロジスティック回帰分析を用いて,ゴミ処理・処分場の問題原生林・湿地などの保全,原子力発電に伴う問題,遺伝子組換え食品の問題資源・エネルギーの枯渇という5つの環境問題のいずれを重視するかが,どのような要因によって規定されるか分析した。子どものころ注目を集めていた環境問題を現在でも重視しがちであるという「子どものころの記憶」仮説について検討したところ,10歳ごろに新聞で多く報じられていた環境問題と,現時点で重視する問題との間にゆるやかな対応関係が見られた。1950年代後半の原子力への注目を経験した50〜64歳世代が原子力問題を,1970年代のオイルショックを経験した30〜49歳世代がエネルギー問題を,1980年代末〜90年代初頭の自然保護ブームを経験した20〜24歳世代が保全問題を,それぞれ重視する傾向が見られた。学歴と環境意識,行政・科学技術への信頼と環境意識との結びつきかたにも,世代ごとに違いが見られた。たとえば,65〜79歳世代では高学歴の人がエネルギー問題を重視するのに対し,子どものころオィルショックを経験した49歳以下の世代では低学歴の人が重視するというねじれが見られた。