著者
籔脇 健司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.259, 2020-06-15 (Released:2020-06-15)

二項対立とは,「二つの概念が対立や矛盾の関係にあること.また,そうした対立概念によって世界を単純化して捉えること」を意味する(広辞苑 第7版).わが国の作業療法は,この二項対立であふれているように感じる.実践に目を向ければ,(要素)還元主義的か全体論的かの議論が古くからなされ,現在でも,機能か作業か,トップダウンかボトムアップか,evidence-basedかnarrative-basedかなど,視点はそれぞれ異なるものの作業療法の方針に関する話題となることが多い.研究に目を向けても,量的研究か質的研究か,実験的研究か記述的研究か,基礎研究か応用研究かなどの二項対立に遭遇することは少なくない.このような議論は,作業を用いて対象者の健康に寄与するという作業療法の専門性が,きわめて複雑で多様な特徴をもつことから引き起こされると考えられる.
著者
鈴木 渉 籔脇 健司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.604-613, 2023-10-15 (Released:2023-10-15)
参考文献数
33

本研究の目的は,作業療法で用いられる理論や実践手法に関する教育やそれらの実践経験が職業的アイデンティティに及ぼす影響について仮説モデルを作成し,その関連性を定量的に明らかにすることである.対象は身体障害領域や高齢者領域に勤務する作業療法士207名であった.このモデルを検証するために構造方程式モデリングを実施した.結果として,作業療法独自の理論や実践手法に関する卒後教育を受けて実践経験を積むこと,さらには性別や現在理想とする作業療法士の存在が職業的アイデンティティに影響を及ぼすことが明らかとなった.本研究にて検証したモデルより,職業的アイデンティティを高める教育方法の指針を示すことができる.
著者
中原 啓太 籔脇 健司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.52-60, 2021-02-15 (Released:2021-02-15)
参考文献数
32

要旨:本研究の目的は,地域在住高齢者の健康関連QOLに対して,作業参加,環境因子,運動量がどのように影響するか統計学的に検証することである.対象は,地域活動などに参加している高齢者105名とした.横断研究デザインを用い,先行研究に基づいて作成した仮説モデルを構造方程式モデリングで検討した.結果,最終モデルの適合度は基準を満たし,標準化係数は環境因子から作業参加が0.574,作業参加から健康関連QOLが0.574,運動量から健康関連QOLが0.312となり,全て有意となった.地域在住高齢者の健康関連QOLに対して,環境因子と因果関係にある作業参加を促進することが,運動量のみに焦点を当てるよりも強い影響を与えることが明らかとなった.
著者
佐野 裕和 籔脇 健司 佐野 伸之
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.60-69, 2020-02-15 (Released:2020-02-15)
参考文献数
25

地域リハビリテーションでは高齢者の役割支援が課題とされるが,役割の促進要因や健康関連Quality of life(以下,HRQOL)への影響を明らかにした報告はきわめて少ない.本研究の目的は役割チェックリスト3の日本語暫定版を用い,要支援・要介護高齢者の役割遂行,環境要因,身体機能がHRQOLへ与える影響を包括的に明らかにすることである.作成した仮説モデルを構造方程式モデリングにて分析した結果,環境要因からHRQOLへの直接効果と役割遂行を介した間接効果があった.一方,身体機能からHRQOLへの影響はなかった.要支援・要介護高齢者においては環境を包括的に支援し,役割遂行を十分に促すことでHRQOLの向上につながることが示された.
著者
鈴木 渉 籔脇 健司 中本 久之
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.450-459, 2019-08-15 (Released:2019-08-15)
参考文献数
22

身体障害領域および高齢者領域に勤務する臨床経験が1〜3年目までの作業療法士を対象とし,作業療法士の職業的アイデンティティ自己評価尺度(以下,PI尺度)の項目反応理論を用いた項目分析を行い,構造的妥当性を検討した.PI尺度は,中本らが回復期病棟に勤務する作業療法士用に改変したものに,加筆・修正を加えて使用した.結果として,PI尺度は,作業療法士に独自性があると思う程度が平均的な回答者に対する測定精度が高く,4因子29項目の2次因子モデルで適合していたことから,身体障害領域および高齢者領域の作業療法士を対象として,広く使用できる尺度であることが明らかとなった.