著者
平田 幸一 鈴木 圭輔 春山 康夫 小橋 元 佐伯 吉規 細井 昌子 福土 審 柳原 万理子 井上 雄一 西原 真理 西須 大徳 森岡 周 西上 智彦 團野 大介 竹島 多賀夫 端詰 勝敬 橋本 和明
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.166-179, 2020 (Released:2020-08-31)
参考文献数
51
被引用文献数
4

難治性の疾患における持続中枢神経感作と言われる病態の疫学,基礎・臨床的な位置付けさらには患者のケアにむけての研究をまとめた.本総説は厚生労働研究班の各員の研究結果を示したものなので,必ずしもまとまりがない点に限界があるが,今までは疾患縦断的に診断治療がおこなわれてきた難治性疾患における中枢神経感作の役割を横断的にみたという意味でもわれわれの研究の結果は一部ではあるが解明したものといえる.結果として,中枢神経感作は種々の疾患,特に難治性のもので明らかに何らかの役割を呈していることが示せた.さらにその治療法の解明には至らぬまでも,患者ケアに繋がる方略を示せたものと考えられ,今後の研究の基盤となることが望まれる.
著者
細井 昌子 安野 広三 早木 千絵 富岡 光直 木下 貴廣 藤井 悠子 足立 友理 荒木 登茂子 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.445-452, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
4

線維筋痛症は病態が未解明な部分が多いが, 独特な心理特性, 免疫学的異常, 脳機能異常, 自律神経機能異常など多面的な病態が近年の研究で報告されている. 本稿では, 九州大学病院心療内科での治療経験をもとに, ペーシングの異常, 受動的な自己像が構築される背景と過剰適応・過活動, 安静時脳活動の異常について, 線維筋痛症における心身相関と全人的アプローチの理解促進のために, 病態メカニズムの仮説について概説した. 線維筋痛症では, default mode networkと呼ばれる無意識的な脳活動が島皮質と第2次感覚野と強く連結しているといわれており, これが中枢性の痛みとして, 過活動に伴う筋骨格系の痛みや自律神経機能異常といった末梢性の痛みと合併し, 複雑な心身医学的病態を構成していると考えられる. ペーシングを調整し, 意識と前意識や無意識の疎通性を増すための線維筋痛症患者に対する全人的アプローチが多くの心身医療の臨床現場で発展することが望まれる.
著者
細井 昌子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.404-410, 2018 (Released:2018-07-01)
参考文献数
4
被引用文献数
1

慢性疼痛の難治例は, 共通の心理身体特性を有していることが多い. 幼少期の養育者との関係性において十分な信頼関係が得られなかった愛着や不信の問題, それによって規定される独特な認知・情動・行動の様式があり, 症例独自のストレス反応が固定されている. 九州大学病院心療内科では長年にわたり全国各地からの慢性疼痛難治例の段階的心身医学的治療を行ってきており, 近年慢性疼痛についてのエビデンスが注目されている第三世代認知行動療法であるマインドフルネスストレス軽減法やアクセプタンス&コミットメントセラピー (ACT) の治療概念も導入している. しかし, 被養育体験や愛着の問題・虐待・トラウマ, 失感情・失体感傾向, 強迫性・過活動・過剰適応があると, これらの心理療法に導入するまでに, 自律訓練法, 描画や箱庭などの芸術療法や家族へのアプローチを取り入れるなどの多面的な段階的心身医学的治療が有用である.
著者
細井 昌子 安野 広三 早木 千絵 富岡 光直 木下 貴廣 藤井 悠子 足立 友理 荒木 登茂子 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.445-452, 2016

線維筋痛症は病態が未解明な部分が多いが, 独特な心理特性, 免疫学的異常, 脳機能異常, 自律神経機能異常など多面的な病態が近年の研究で報告されている. 本稿では, 九州大学病院心療内科での治療経験をもとに, ペーシングの異常, 受動的な自己像が構築される背景と過剰適応・過活動, 安静時脳活動の異常について, 線維筋痛症における心身相関と全人的アプローチの理解促進のために, 病態メカニズムの仮説について概説した. 線維筋痛症では, default mode networkと呼ばれる無意識的な脳活動が島皮質と第2次感覚野と強く連結しているといわれており, これが中枢性の痛みとして, 過活動に伴う筋骨格系の痛みや自律神経機能異常といった末梢性の痛みと合併し, 複雑な心身医学的病態を構成していると考えられる. ペーシングを調整し, 意識と前意識や無意識の疎通性を増すための線維筋痛症患者に対する全人的アプローチが多くの心身医療の臨床現場で発展することが望まれる.
著者
河田 浩 細井 昌子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

慢性の広範囲痛および慢性の限局痛と家族機能の関係における差異を検討した。慢性の限局痛患者に比べ、慢性の広範囲痛患者は「役割」と「情緒的関与」における機能が低かった。本研究で慢性の広範囲痛患者の家族機能は慢性の限局痛患者くらべより適応的でない家族機能を有していることを示した。幼少期の養育と成人後の慢性疼痛の重症度の間の関係について検討した。1)慢性疼痛のない一般住民、2)慢性疼痛のある一般住民、3)外来慢性疼痛患者、4)入院慢性疼痛患者の4つの群において両親のケアと過干渉を比較した。両親とも望ましくない養育スタイル(低ケアと過干渉)の頻度は1)群から4)群まで段階的に優位に増加した。
著者
細井 昌子 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.885-892, 2009
参考文献数
6

慢性疼痛は無効な医療の繰り返しになることが多く,不快情動が増大するため患者や家族のQOL(quality of life)を障害し,医療コミュニケーションの問題を起こし,社会医療経済学的にも大きな問題となっている.国際疼痛学会は,国際的な痛みの臨床研究評価のコンセンサスとして,2003年および2005年にIMMPACT recommendationを提起した.この評価軸を参考に,九州大学病院心療内科でも,多数の医療機関の診療を受けた後に来院される難治の慢性疼痛患者の心身医学的な治療対象を明確化するために,痛みの自覚的強度,生活障害,不安・抑うつ・破局化,失感情傾向,器質的および機能的病態,パーソナリティ傾向やパーソナリティ障害・発達障害,精神医学的障害,疼痛行動の分析,痛みに対する認知と対処法,家族や社会との交流不全(役割機能障害),医療不信といった観点で病態を評価する多面的な評価法を行っている.心身医学的治療法に結びつく慢性疼痛の評価法は発展途上であり,今後の発展が急務である.
著者
藤本 晃嗣 細井 昌子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.50-56, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
26

器質的疾患を指摘できない慢性疼痛において,近年その生物学的基盤が明らかになりつつある.特に注目を浴びているのが,神経炎症である.視神経脊髄炎スペクトラム障害などの脱髄疾患を中心として神経炎症との関連が明らかになるにつれ,病態に基づいた治療が実臨床に導入されつつある.慢性疼痛においても炎症メディエーターやミクログリアの関与が知られているが,近年グリア細胞の活性をin vivoで評価できる18kDa-translocator protein(TSPO)をリガンドとして用いたPET検査が行われるようになり,病態の解明が進んでいる.また,統合失調症や自閉症スペクトラム障害での関与が疑われているシナプス刈り込みも慢性疼痛の病態形成に関与している可能性がある.遺伝子ビッグデータを用いた研究においても,抑うつ,PTSDや自己免疫性疾患との関連が確認された.近い将来,慢性疼痛の生物学的基盤の理解がさらに進み,臨床的場面で有用なバイオマーカーの開発につながることを期待する.
著者
木村 慎二 細井 昌子 松原 貴子 柴田 政彦 水野 泰行 西原 真理 村上 孝徳 大鶴 直史
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.206-214, 2018-03-16 (Released:2018-04-20)
参考文献数
29
被引用文献数
2

2011年のNakamuraらの調査では,日本人の慢性疼痛の有症率は約15%で,その患者数は増加傾向である.慢性疼痛は急性痛と異なり,通常の薬物療法が効きにくい例があり,日本整形外科学会の2012年腰痛診療ガイドラインでは,運動療法,小冊子を用いた患者教育,さらには認知行動療法がGrade Aとして強く推奨されている.認知行動療法は,ある出来事に対する認知(考え方)と行動を変えることで,問題への効果的な対処の仕方を習得させる心理教育を踏まえた治療法である.慢性疼痛患者の生活および生きがいを獲得することを目的に,筆者は認知行動療法理論に基づき,「いきいきリハビリノート」を用いた運動促進法を開発し,普及に努めている.
著者
細井 昌子 久保 千春 柴田 舞欧 安野 広三 澤本 良子 岩城 理恵 牧野 聖子 山城 康嗣 河田 浩 須藤 信行 二宮 利治 清原 裕
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

心身医学の中心概念である失感情症(自身の感情に気づきにくい傾向)と陽性感情(生活満足度)および慢性疼痛の合併リスク,養育スタイルと慢性疼痛合併率について福岡県久山町の一般住民で調査した.失感情症群では慢性疼痛の罹患リスクが有意に高く(OR : 2. 7),生活満足度が有意に低下していた.さらに,両親の養育スタイルでは,冷淡と過干渉の両親の養育スタイルを受けた住民で慢性疼痛合併率が高く,とくに父親の養育スタイルが冷淡/過干渉群では有意に慢性疼痛合併率が増加していた.
著者
扇谷 昌宏 加藤 隆弘 細井 昌子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.390-393, 2022 (Released:2022-09-01)
参考文献数
17

脳細胞の一種であるミクログリアは,微小な環境変化に敏速に反応し,貪食やサイトカイン産生などを行うことで脳内免疫応答の中心として機能している.また,その機能不全や異常活性化がさまざまな病態に関与していることが示唆されている.慢性疼痛は,単なる痛みだけの疾患ではなく,人間(ヒト)に特有の多面的な疾患ともいえる.このヒト特有の疾患を研究するためには,当然ながらヒトの細胞を用いて実験する必要がある.しかし,そのハードルはきわめて高い.われわれは末梢血中の単球からミクログリア様細胞(induced microglia-like cells:iMG細胞)を作製する技術開発に成功した.iMG細胞は,単球にGM-CSFとIL-34の2種類のサイトカインを添加して2週間培養するだけで作製することが可能である.iPS細胞と異なり,遺伝子組み換えの操作を行わない化学誘導によって作製が可能なため,簡便で安全性が高く,一般臨床施設においても作製が容易である.われわれはこのiMG細胞を用いて那須・ハコラ病や双極性障害といった疾患におけるミクログリア異常を報告してきた.本稿では,われわれの開発したiMG細胞のトランスレーショナル研究ツールとしての有用性と可能性についてこれまでの結果を報告し,線維筋痛症を対象としたトランスレーショナル研究の実際を報告する.
著者
田代 雅文 有村 達之 細井 昌子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.388-396, 2017-05-15 (Released:2017-06-17)
参考文献数
17
被引用文献数
1

慢性痛と心理・社会的要因との関連が注目されている.日本臨床麻酔学会第35回大会シンポジウムでの講演をもとに,慢性痛患者にどのように心理アセスメントを行うかについて,特に怒りについて論考した.怒りという否定的感情と慢性的な痛みには関連がある.慢性痛患者の怒りの表現形式は怒りの興奮よりも怒りの抑止が多い.感情を読み取るツールとして表情ポスターと表情カードを紹介した.慢性痛の治療において怒りを治療対象とする観点は重要である.感情調整の一つとしての怒りへの対処の仕方について,交流分析,アサーション・トレーニング,芸術療法,マインドフルネストレーニング,弁証法的行動療法で用いられている承認戦略を概説した.
著者
有村 達之 小宮山 博朗 細井 昌子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.7-15, 1997-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

本研究の目的は慢性痔痛患者における生活障害を測定する疹痛生活障害評価尺度(PDAS)の開発である。32項目からなる予備尺度を慢性痔痛患者100名に適用して項目分析を行ない,最終的に20項目からなるPDASを構成した。さらに尺度の妥当性検討のため健常者113名のデータが収集された。PDASの内的一貫性,再検査信頼性は高かった。PDASと抑うつ重症度との間,およびPDASと役割機能障害度との間にはそれぞれ有意な相関が見られた。また,入院患者は外来患者より有意に高いPDAS得点を示した。さらに慢性疹痛患者は健常者より有意に高いPDAS得点を示し,PDAS得点を用いての両群の弁別が可能であった。