著者
美馬 達哉 小金丸 聡子 芝田 純也 佐藤 岳史
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.1111-1117, 2022-11-18 (Released:2023-01-20)
参考文献数
21

2010年代以降に注目を集めているN-of-1研究について,従来の症例研究との差異,高いエビデンスレベルである理由,臨床研究としての実験計画および論文執筆の際の注意点などについて概説した.個別性の高いケアを重視するリハビリテーション医学の領域において,この研究手法は大きな可能性を有すると考えられる.さらに,近年では,複数のN-of-1研究を標準化してまとめ,集団疫学と同様に扱う手法も提案されている.Patient-centered careやprecision medicineが議論されている現状では,今後も重要性が高まると予測され得る.本稿の最後では,非侵襲的脳刺激法のリハビリテーション応用について,N-of-1研究から切り拓かれる展望についても,筆者らの経験を例として論じる.
著者
美馬 達哉
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.66-77, 2018-11-20 (Released:2019-12-02)
参考文献数
18

ベックやギデンズのような社会理論家が提唱したリスク社会論は,1980 年代以降の現代社会を科学技術の巨大化によるグローバルなリスクの出現として特徴付けた.そして,リスク社会を統治するために専門家支配でも民主的多数決でもない専門家と市民社会との公共的な関わり方を可能とする仕組みを構想し,その点で科学技術社会論にも大きな影響を与えた.本稿では,フーコーの言うバイオポリティクス論を援用して,このタイプのリスク社会論を批判的に検討し,現代社会における個人化されたリスクのマネジメントが「方針・説明責任・監査」の三角形による自己統治であることを示した.こうした状況は,リスクそれ自身の変容の結果ではなく,よりよい未来を夢見るユートピア的な構想力の衰退の帰結と考えられる.
著者
美馬 達哉
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.7-18, 2015-03-30 (Released:2016-06-03)
参考文献数
15

「治療を超えて」生物医学的テクノロジーを健常人に対して用いることで、認知能力や運動能力を向上させようとする試みは、「エンハンスメント(Enhancement)」として1990年代後半以降から社会学や生命倫理学の領域で注目を集めている。とくにスポーツの分野では、新しいトレーニング手法、エンハンスメント、ドーピング、身体改造などの境界は問題含みの混乱状況にある。本稿では、医療社会学の観点から、まず、カンギレムの『正常と病理』での議論を援用して、正常、異常、病理、アノマリーなどの諸概念を整理し、正常/異常が文化的・社会的な価値概念であることを明確化した。 次に、スポーツと身体能力のエンハンスメントに力点を置いて、エンハンスメントをめぐる生命倫理学での議論を概観した。病者への治療(トリートメント:treatment)と健常者へのエンハンスメントを対比して、前者を肯定し後者を否定して線引きする伝統的な議論では不十分であることを、具体的実例を挙げて示した。また、資質と努力の賜物としての達成(アチーブメント:achievement)とエンハンスメントを対比して、前者の徳としての重要性を指摘する議論を紹介した。加えて、本稿は、エンハンスメントの根本問題とは何かという点で、現代社会のテクノロジーによる人間的自然の支配こそが再考されなければならないという視点に立って、エンハンスメントを超える展望を提示した。
著者
美馬 達哉
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.12-19, 2021-09-28 (Released:2022-08-01)
参考文献数
39

2020年に発生したCOVID-19のパンデミックによって、世界各地で医療資源(特に人工呼吸器に象徴される二次救命措置の可能なICU病床)が逼迫し、その配分の必要性がICUトリアージとして論じられた。本稿では、①高齢者の扱い、②医療資源配分時の優先順位、③医療資源再配分の問題の三つを中心に、パンデミック時のICUトリアージについての生命倫理学的な議論を概観した。そして、①年齢を治療の除外基準とすることは高齢者差別になること、②優先順位については、不要とする説、医学的必要性による順位とする説、治療的有効性による順位とする説があったが、トリアージの有用性に関するエビデンスが不十分であること、③功利主義的なICUトリアージで医療資源を再配分することは刑法上の問題になり得ることを指摘した。また、生政治の観点から、パンデミックのような例外状況で功利主義的なトリアージが論じられる意味を分析した。
著者
前澤 仁志 松橋 眞生 吉田 和也 澤本 伸克 美馬 達哉 長峯 隆 別所 和久 福山 秀直
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3+4, pp.258-267, 2009 (Released:2011-06-30)
参考文献数
14

脳磁図は非侵襲的にヒトの脳活動を捉える技術であるが、磁性を帯びた金属がアーチファクトとなり計測を妨げることがある。本研究では18種類の歯科用金属の組成の違いが脳磁図計測へ与える影響、磁気共鳴画像装置(MRI)による高磁場の影響、さらにハンディタイプの消磁器の効果を検証した。それぞれの金属材料を(1)未処理、(2)消磁器による消磁後、(3)MRIによる磁場印加後、(4)再度の消磁後の4つの状態で磁場計測した。各材料を往復運動させた時の磁場を全頭型脳磁図計で計測し1分間の平均パワーを求めた。対照として材料のない状態での状態の磁場を1分間、10回ずつ記録し、平均値+標準偏差の5倍をアーチファクトの判定基準値とした。主成分が強磁性体の8種類のうち状態1から4で基準値以上であった材料は、それぞれ6、5、8、7種類であった。強磁性体でない10種類では、それぞれ1、0、4、2種類であり、状態1での1種類も基準値を6.2%上回るのみであった。以上より、1.強磁性体でない材料では脳磁図計測に大きな影響を及ぼさない可能性が高いこと、2.強磁性体であっても脳磁図計測に支障をきたさない材料も存在すること、3.MRI検査による磁場の印加では磁性体の性質に関わらず材料が磁化する可能性が高いことが示された。この結果は様々な歯科用金属を装着する被験者の脳磁図計測の際に役立つ。
著者
野嶌 一平 美馬 達哉 川又 敏男
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.82-89, 2012
参考文献数
41

【目的】ミラーセラピー(Mirror Therapy:以下,MT)による運動機能,脳機能の変化を検討するとともに,経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて大脳皮質に直接的介入を行い,MTによる運動学習時の一次運動野(M1)の役割をあきらかにすることを目的とする。【方法】対象は,健常成人12名とし,全例右利きであった。運動課題は30秒間の左手でのボール回し課題とし,脳機能はTMSにより導出された運動誘発電位振幅を指標とした。MTは,左手に重ねられた鏡に映る右手運動の視覚フィードバックを伴った右手での運動介入を行った。その後,大脳皮質の活動性を抑制するcontinuous theta burst stimulation(以下,cTBS)をM1と視覚野(Occipital:以下,OC)に各々2群に分けて実施した。その後,再度MTを実施した。運動機能と脳機能の評価は,各介入後に実施した。【結果】MTにより運動機能と脳機能の有意な向上が見られた。そしてcTBS実施により,M1群でのみ運動機能,脳機能ともに一次的に低下が見られ,再度MTを実施することで運動機能と脳機能の向上が見られた。【結論】MTによる運動機能の向上にはM1の活動性向上が必要である可能性が示唆された。
著者
美馬 達哉
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.7-18, 2015

「治療を超えて」生物医学的テクノロジーを健常人に対して用いることで、認知能力や運動能力を向上させようとする試みは、「エンハンスメント(Enhancement)」として1990年代後半以降から社会学や生命倫理学の領域で注目を集めている。とくにスポーツの分野では、新しいトレーニング手法、エンハンスメント、ドーピング、身体改造などの境界は問題含みの混乱状況にある。本稿では、医療社会学の観点から、まず、カンギレムの『正常と病理』での議論を援用して、正常、異常、病理、アノマリーなどの諸概念を整理し、正常/異常が文化的・社会的な価値概念であることを明確化した。 次に、スポーツと身体能力のエンハンスメントに力点を置いて、エンハンスメントをめぐる生命倫理学での議論を概観した。病者への治療(トリートメント:treatment)と健常者へのエンハンスメントを対比して、前者を肯定し後者を否定して線引きする伝統的な議論では不十分であることを、具体的実例を挙げて示した。また、資質と努力の賜物としての達成(アチーブメント:achievement)とエンハンスメントを対比して、前者の徳としての重要性を指摘する議論を紹介した。加えて、本稿は、エンハンスメントの根本問題とは何かという点で、現代社会のテクノロジーによる人間的自然の支配こそが再考されなければならないという視点に立って、エンハンスメントを超える展望を提示した。
著者
伊豫谷 登士翁 平田 由美 西川 裕子 成田 龍一 坪井 秀人 美馬 達哉 イ ヨンスク 姫岡 とし子 坂元 ひろ子 足立 真理子
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

プロジェクトの目的は、ジェンダー研究の提起してきた課題をグローバリゼーション研究がどのように受け止めることができるのか、二つのG研究(ジェンダー研究とグローバリゼーション研究)の接点から現代という時代を読み解く課題をいかに発見するか、という点にあった。こうした課題への接近方法として、プロジェクトでは、移動する女性に焦点を当ててきた。それは、1)人の移動にかかわる研究領域が二つの研究領域を連接する接点に位置すること、2)二つのG研究が、国家の領域性と一体化してきた近代的な知の枠組に対する挑戦でもあり、定住あるいは居場所と対比した移動はそのことを明らかにするテーマのひとつであること、にある。プロジェクトでは、これまでの移民研究の方法的な再検討の作業から始め、民博地域企画交流センターとの共催で開催したシンポジウム「移動から場所を問う」は、その研究成果である。ここでは、人の移動にかかわる隣接領域の研究者を中心として、移動から場所を捉え返すという問題提起に対して、海外からの報告者9名を含めた11名の参加者を得た。移民研究の再検討を手がかりとして、移動のジェンダー化という課題を理論的に明らかにするとともに、人文科学と社会科学との対話を通じて、二つのG研究が提起する問題を模索することにした。<女性、移動、かたり>を掲げたワークショップは、韓国の世宗大学の朴裕河、アメリカのコーネル大学のブレット・ド・バリー両氏の参加によって、海外研究者との交流を進め、その成果の一部をオーストラリア国立大学、コーネル大学において報告した。これらワークショップを通じて、1)グローバリゼーション研究が新しい局面に入っており、2)再生産のグローバル化におけるジェンダーの課題として、ジェンダー研究の成果を踏まえた女性移民研究が要請されており、3)二つのG研究を含めた研究領域の間での対話の必要性が再認識された。
著者
美馬 達哉 澤本 伸克 松橋 眞生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

経頭蓋的直流刺激法:Transcranial Direct Current Stimulation : tDCS)は、近年、新しい脳刺激手法として神経科学研究および臨床応用が行われている。本研究計画では、tDCSの作用機構を、皮質基底核ループに着目して、複数の非侵襲的神経イメージング手法を組み合わせることによって解明した。この結果によって、tDCSがヒトの脳に与える影響を多面的に解明することができ、今後の研究発展につながると期待される。