著者
山下博由 芳賀拓真 Jørgen Lützen
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.123-133, 2011

シャコ類の巣穴に共生することで知られているDivariscintilla属(ヨーヨーシジミ属,和名新称)の新種が,大分県から発見された。これは同属の日本及び北太平洋からの初めての記録である。Divariscintilla toyohiwakensis n. sp.ニッポンヨーヨーシジミ(新種,新称)殻長約4 mm,殻高約3 mm,膨らみは弱く,丸い亜三角形で,殻頂は僅かに前方に寄り,腹縁中央はごく僅かに窪む。白色半透明,薄質で,殻表は平滑で光沢があり,殻の内側には縁部で強まる多くの放射条がある。両殻に1主歯があり,側歯を欠く。外套膜は殻を覆い,前部に2対,後部に1対と1本の外套触角がある。口の直下の内蔵塊前部に1個のflower-like organ(花状器官:和用語新称)を備える。足は前部・後部に分かれ,後部は顕著に伸張し,その後端背面にbyssal adhesive gland(足糸粘着腺:和用語新称)があるが,組織切片では腺構造は確認できなかった。足の底面にはbyssal groove(足糸溝)が前部から後端まで走っている。フロリダ産のDivariscintilla octotentaculata Mikkelsen & Bieler, 1992に,殻や軟体外形が近似するが,D. octotentaculataは触角が1対多く,花状器官を欠く。ニッポンヨーヨーシジミは,Acanthosquilla acanthocarpus (Claus, 1871) シマトラフヒメシャコの巣穴中に小集団を形成して生息し,その壁面に足糸で付着している。タイプ産地:大分県中津市大新田付記:ヨーヨーシジミ属は,ニュージーランド・西オーストラリアに1種,フロリダ・カリブ海に5種,日本に1種が分布するが,いずれもトラフシャコ上科の種の巣穴に生息し,同上科との生態・進化上の密接な関係が示唆される。種小名toyohiwakensisは,タイプ産地の大分県中津市を含む豊前・豊後地方の古名「豊日別」に由来する。属・種の和名は,玩具のヨーヨーのように足糸でぶら下がり上下する生態に着目して命名されたDivariscintilla yoyo Mikkelsen & Bieler, 1989と,そこから派生した英名yoyo clamに由来する。D. yoyoには,ヨーヨーシジミの和名を与える。