著者
藤代 裕之
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.93-99, 2019 (Released:2019-10-29)
参考文献数
16

2016年のアメリカ大統領選挙を契機に、フェイクニュースに対する注目が世界的に集まっているが、国内においては研究がほとんど行われていない。本研究は,国内におけるフェイクニュースの生成過程を,オンラインニュースにおける生態系で重要な役割を果たすミドルメディアに注目して分析したものである。分析の結果、ミドルメディアは、マスメディアのニュースと検証困難なソーシャルメディアの批判的・否定的反応を組み合わせることでフェイクニュースを作り出していた。これはミドルメディアの新たな役割である。また、ミドルメディアにより作り出されたフェイクニュースが記事配信されることにより、オンラインにおいて大きな影響力を持つポータルサイトに到達する「フェイクニュース・パイプライン」の存在を明らかにすることができた。
著者
藤代 裕之 松下 光範 小笠原 盛浩
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.49-63, 2018

<p>東日本大震災以降,ソーシャルメディアは大規模災害時の情報伝達ツールとして重要度を増しているが,情報爆発やデマといった課題により活用が困難になっている。本研究では,課題解決を目的に,限られた時間的制約のもとで優先度の高い情報を整理する情報トリアージのソーシャルメディアへの適用可能性を検討する。調査手法は,熊本地震に関するソーシャルメディア情報を収集・分析するとともに,報道機関や消防機関に対してソーシャルメディア情報の影響についてインタビューを行った。その結果,ソーシャルメディアから救助情報を探すことは困難であること,消防機関では通常時には情報トリアージが機能しているが,大規模災害時にはソーシャルメディアの情報を含む膨大な通報が寄せられたことにより,機能不全に陥っていたことが明らかになった。ソーシャルメディア情報の整理を消防機関の活動と連携して行うことで,情報トリアージが機能し,情報爆発やデマといった課題を解決出来る可能性があることが明らかになった。本研究は,大規模災害時の情報伝達ツールとしてソーシャルメディアを活用するためには,ソーシャルメディア情報のみを対象に研究するだけではなく,被災地での活動を調査し,連携する方法を検討することが重要であることを示している。この知見は,救助活動のみならずソーシャルメディアを通した被害状況の伝達や物資支援などにも応用が可能であろう。</p>
著者
興梠 紗和 木村 昭悟 藤代 裕之 西川 仁
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J99-D, no.4, pp.403-414, 2016-04-01

SNSの隆盛によりニュースを取り巻く環境は大きく変化している.新聞やテレビから一方的に配信される記事を受け取るのではなく,膨大な情報で溢れるSNS上から関心のある記事を選択して購読する新たなニュースの読まれ方が生まれている.この変化により,ニュースメディアはSNS上で記事を読者に対して効果的にアピールする必要に迫られている.その一方で,刺激的な言葉を用いてむやみに拡散させるのではなく,記事を正確に説明し,その内容に興味をもつ読者に記事を届ける必要がある.本研究では,ニュース配信者がニュース消費者に適切なニュース記事を提供するための一手段として,ニュース記事を的確に説明する説明文が,SNS上でより多くの読者に読まれるために備えるべき性質を特定することを目指す.この目標に向け,本論文ではまず記者と編集者を対象としたヒアリング調査と,ニュースサイトがSNSに投稿している説明文の調査を行った.これらの調査を分析することで明らかになった,説明文がもつべき性質を利用することで,与えられたニュース記事をSNS上で紹介する説明文を幾つかの候補の中から自動的に選択する手法を提案する.
著者
藤代 裕之
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.58-63, 2011-02-01
参考文献数
28

ソーシャルメディアの登場は, ジャーナリズムに大きな影響を与えている。ソーシャルメディアを利用することで, 新聞やテレビといったマスメディアを介さずに多くの人々に対して情報発信することが可能になった。本稿では, 海外と日本においてソーシャルメディアがジャーナリズムに与えた影響や課題についての事例を紹介し, まず, 記者だけでなく個人もジャーナリズム活動に関与するようになっていることを明らかにする。次いで, 情報発信者も, メディアスクラムやプライバシー侵害, 倫理問題に直面していることに触れ, 情報発信者である「私たち」がどのような役割や責任を担っていくかを考察する。
著者
藤代 裕之 松下 光範 小笠原 盛浩
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.49-63, 2018 (Released:2018-05-19)
参考文献数
10

東日本大震災以降,ソーシャルメディアは大規模災害時の情報伝達ツールとして重要度を増しているが,情報爆発やデマといった課題により活用が困難になっている。本研究では,課題解決を目的に,限られた時間的制約のもとで優先度の高い情報を整理する情報トリアージのソーシャルメディアへの適用可能性を検討する。調査手法は,熊本地震に関するソーシャルメディア情報を収集・分析するとともに,報道機関や消防機関に対してソーシャルメディア情報の影響についてインタビューを行った。その結果,ソーシャルメディアから救助情報を探すことは困難であること,消防機関では通常時には情報トリアージが機能しているが,大規模災害時にはソーシャルメディアの情報を含む膨大な通報が寄せられたことにより,機能不全に陥っていたことが明らかになった。ソーシャルメディア情報の整理を消防機関の活動と連携して行うことで,情報トリアージが機能し,情報爆発やデマといった課題を解決出来る可能性があることが明らかになった。本研究は,大規模災害時の情報伝達ツールとしてソーシャルメディアを活用するためには,ソーシャルメディア情報のみを対象に研究するだけではなく,被災地での活動を調査し,連携する方法を検討することが重要であることを示している。この知見は,救助活動のみならずソーシャルメディアを通した被害状況の伝達や物資支援などにも応用が可能であろう。
著者
藤代 裕之
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.143-157, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
24

本研究は,2018年に行われた沖縄県知事選挙に関するフェイクニュース検証記事を事例に,地方紙である沖縄タイムスのニュース制作過程を,地方紙のニュースバリューである「地域性」,「取材先」,「社内」,「同業他社」をインターネットメディアとの関係性を考慮に入れながら明らかにしたものである。3人の記者の聞き取り調査から,フェイクニュースを取材することで,これまでは異なると考えられていた既存メディアとインターネットメディアのニュースバリューが重なり,インターネットメディアであるバズフィード日本版が「同業他社」として位置づけられたことが分かった。これにより,候補者間で偏りが生じないよう報道するという記者が捉えていた選挙報道のニュース制作過程の公平性の「原則」が揺らぐことになった。また,地理的環境に左右されないインターネットメディアにより,地方紙が重視するニュースバリュー「地域性」に二重性が生じた。これらの変化が,これまでの地方紙のニュースバリューで取材を進める記者に戸惑いを生むことになった。選挙時のフェイクニュース検証記事における課題として,公平性についての議論が必要である。本研究の調査対象者は限られており,フェイクニュース検証記事の制作過程を一般化することは難しいが,フェイクニュース検証というソーシャルメディア時代の新たなニュース制作過程を明らかにしたという点で意義がある。
著者
藤代 裕之
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.15-28, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
12
被引用文献数
1

ファクトチェックは,2016年のアメリカ大統領選挙をきっかけに世界的に拡大しているが,党派的な偏りや人々に適切な情報を届ける難しさといった課題が指摘されている。国内では,政府がフェイクニュース対策のためファクトチェック推進を求めているが,課題に関する議論は置き去りとなっている。本研究では,2018年に行われた沖縄県知事選挙を対象に,地元新聞社が行ったファクトチェックに対するソーシャルメディアの反応を定性的に分析することで課題を明らかにする。その結果,一部のファクトチェック記事が党派的な反応を引き起こし,政党関係者により対立候補の攻撃に利用されていた。ファクトチェック記事を紹介するツイートとフェイクツイートの反応を比較したところ,党派的な分断が存在することが明らかになった。党派的な反応を引き起こす要因は,ファクトチェックの国際基準違反とファクトチェックとうわさ検証の区分の曖昧さにあった。ファクトチェックにおけるジャーナリズムの役割は,有権者に判断材料を提供することにある。その実現のためには,ファクトチェックという言葉を整理すること,確認・検証する対象を分かりやすく有権者に提示して透明性を高めること,ファクトチェックの取り組みが中立・公正であることを有権者が確認できる仕組みの導入が必要である。
著者
根本 藍 藤代 裕之 野々山 正章
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.68, 2021

<p>電車内には車内広告をはじめとして多くの情報が存在し、ビーコンなどを用いた情報提供の方法も実験されているが、心地よい情報行動をもたらしているわけではない。</p><p>そこで本研究では、スマートフォンと電車の時間的・空間的制約に注目し、電車移動における心地よい情報行動の要因を明らかにすることを目指す。乗車時間という電車の時間的制約と、混雑率や立ちか座りかという電車の空間的制約によって電車内の情報行動が異なるのではないかという仮説のもと、電車内の情報行動についてアンケート調査を行った。</p><p>調査の結果、乗車時間が短い場合は断片的な情報行動が多く、スマホから目を離すのは乗車後10分弱であった。立っている場合は車窓や車内広告を見るなど車内に目を向けやすいことも明らかになった。さらに、目的地の違いによっても情報行動が異なった。</p><p>これらの結果から、スマホと電車の時間的・空間的制約と目的地が電車移動における情報行動のデザインの要因であるといえる。具体的には、乗車後10分と目的地ごとの情報行動の違いを踏まえてデザインする必要がある。</p>
著者
藤代 裕之
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.143-157, 2019

<p>本研究は,2018年に行われた沖縄県知事選挙に関するフェイクニュース検証記事を事例に,地方紙である沖縄タイムスのニュース制作過程を,地方紙のニュースバリューである「地域性」,「取材先」,「社内」,「同業他社」をインターネットメディアとの関係性を考慮に入れながら明らかにしたものである。3人の記者の聞き取り調査から,フェイクニュースを取材することで,これまでは異なると考えられていた既存メディアとインターネットメディアのニュースバリューが重なり,インターネットメディアであるバズフィード日本版が「同業他社」として位置づけられたことが分かった。これにより,候補者間で偏りが生じないよう報道するという記者が捉えていた選挙報道のニュース制作過程の公平性の「原則」が揺らぐことになった。また,地理的環境に左右されないインターネットメディアにより,地方紙が重視するニュースバリュー「地域性」に二重性が生じた。これらの変化が,これまでの地方紙のニュースバリューで取材を進める記者に戸惑いを生むことになった。選挙時のフェイクニュース検証記事における課題として,公平性についての議論が必要である。本研究の調査対象者は限られており,フェイクニュース検証記事の制作過程を一般化することは難しいが,フェイクニュース検証というソーシャルメディア時代の新たなニュース制作過程を明らかにしたという点で意義がある。</p>
著者
藤代 裕之
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.93-99, 2019

<p>2016年のアメリカ大統領選挙を契機に、フェイクニュースに対する注目が世界的に集まっているが、国内においては研究がほとんど行われていない。本研究は,国内におけるフェイクニュースの生成過程を,オンラインニュースにおける生態系で重要な役割を果たすミドルメディアに注目して分析したものである。分析の結果、ミドルメディアは、マスメディアのニュースと検証困難なソーシャルメディアの批判的・否定的反応を組み合わせることでフェイクニュースを作り出していた。これはミドルメディアの新たな役割である。また、ミドルメディアにより作り出されたフェイクニュースが記事配信されることにより、オンラインにおいて大きな影響力を持つポータルサイトに到達する「フェイクニュース・パイプライン」の存在を明らかにすることができた。</p>
著者
小笠原 盛浩 川島 浩誉 藤代 裕之
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Sociology, Kansai University (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.121-140, 2018-03

本研究では東日本大震災時のコスモ石油流言の発生・発展・消滅段階で、NHKなどのマスメディア報道がTwitter 上の災害流言の抑制にどの程度効果があったかを定性的に分析した。著者らは東日本大震災発生から1週間の約18万ツイートのデータから、流言に関する特徴的なツイートを目視で抽出して流言の文脈を解釈した。分析結果によれば、マスメディア報道は発生・発展段階では流言抑制に効果がなかったが、消滅段階ではある程度の効果があったと考えられる。災害時の事実ではないTwitter 流言を抑制するには、流言の発展段階でマスメディアが流言を特定し、人々が状況理解のために求めている情報を的確に発信することが有効と考えられる。This study examined the effectiveness of mass media reporting in controlling the spread of the Cosmo Oil Rumor on Twitter; at birth, adventures, and death stages, during the 2011 Great East Japan Earthquake. Authors manually extracted characteristic tweets and analyzed these texts, from over 180 thousand tweet data for the first week in the disaster. The result suggests that mass media reporting did not contribute to control the rumor at the birth and the development stages, and was effective to some extent at death stage. Mass media reporting will be effective to control false rumor via Twitter during disasters, when it provides right information which people need for understanding their environment at the developemnt stage.
著者
藤代 裕之
出版者
情報処理学会 ; 1960-
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1080-1084, 2017-11-15

メディアと社会のあり方は密接に結びついている.ベネディクト・アンダーソンは印刷技術と紙に媒介された言語の登場が,想像の共同体である国民国家を作り出したとする.新聞は衰退し,ニュースはソーシャルメディアや検索エンジンなどのプラットフォームが媒介し,その価値はアルゴリズムが判断するようになった.プラットフォームは,マスメディアが生み出した共同体を崩壊させ,世論操作やプロパガンダの舞台となっている.ソーシャルメディア時代における想像の共同体とは何か,ジャーナリズムの役割とは何か,を検討する.
著者
藤代 裕之 河井 孝仁
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.59-73, 2013

東日本大震災では,利用者が増加しているソーシャルメディアを通じて被害状況が発信された。災害時における情報発信はマスメディアの重要な役割であり,ソーシャルメディアへの情報提供の必要性も高まっている。しかしながら,東日本大震災時に新聞社がソーシャルメディアをどのように利用して読者に情報を届けたのかは十分に明らかになっていない。本研究では,東日本大震災における新聞社のTwitter利用を比較して調査し,取り組み状況の差異と要因について考察を行った。全国紙5社と被災地にある地方紙4社を対象にTwitterのフォロワー数,担当部門や運用方法などの聞き取り調査を行った。その結果,Twitterのフォロワー数に違いが見られた。その要因は新聞社の規模ではなく,日頃からの運用実績と業務に含まれているか否かによるものであった。紙面とソーシャルメディアを連携して情報発信するという新たな取り組みが見られる一方で,記者との連携が不足したことで十分な情報発信ができていないという課題が明らかになった。今後もソーシャルメディアの利用者は増加していくことが予想される。新聞社が災害時にソーシャルメディアに情報を発信するためには,日頃からの運用と業務の位置付けを明確にし,あらゆるメディアを通じて情報を発信するという意識を組織全体が共有する必要がある。