著者
西条 昇 木内 英太 植田 康孝
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.26, pp.199-258, 2016-03

2015 年は,アイドルシーンにとって画期的な年であった。ジャニーズやAKB48 を中心としたアイドル・ブームはまだまだ堅調であったが,これが「仮想空間」にも拡大,一般化して「アイドルアニメ」がエンタテインメント市場を席捲した。現実のアイドルは近年,ちょっとでも容姿や体型が落ちるとインターネット上で「劣化」と騒がれてしまうが,アニメのアイドルは「劣化」せず純粋にグループのために頑張る理想の集団としてファンに映り,「ラブライブ!」「アイドルマスター」「うたの☆プリンスさまっ♪」の3 大作品が大ヒット,「ラブライブ!」から派生した声優9 人組によるユニット「μ's(ミューズ)」が2015 年末の「第66 回NHK 紅白歌合戦」に出場,2015 年流行語大賞の候補に熱狂的ファンを表す「ラブライバー」が選ばれるなど社会現象化した。「ラブライバー」が成立した背景には,「ヴァーチャル空間」拡大による「ファン母数増加」と「ファンコミュニティ内つながりの緊密化」の2 点が挙げられる。現代アイドルの魅力は,具体的な素の存在に基づく「現実空間」における「キャラクター」性と,アニメやマンガのキャラクターに通じるように,類型化されたイメージの中から選び取られた「仮想空間」における「偶像」性の二重構造を持っていることにある。「現実空間」における「キャラクター」と「仮想空間」における「偶像」が合致した時,アイドルの魅力は一気に高まる。一方,その乖離が露呈すると,虚構性が興ざめ感を惹起する危険性も兼備する。かつて安室奈美恵やSPEED などアーティスト志向が強かったグループはアイドルとして捉えられることに対し拒絶する動きを見せたが,SNS や動画配信な「ヴァーチャル空間」が拡大してファンとの距離が近く感じられるようになった現在においては,アーティスト然と振る舞うことは逆にカッコ悪く映り,身近に感じさせられるアイドル的行動がファンを増やす点で効果的になっている。ファンになってもらうためには,SNS やイベントを通して「人となり」を伝えることが求められる。アイドルはイベントで握手や写真撮影に応じることに加え,公式サイトやFacebook,Twitter でグループや自らの現況を積極的に発信して,実際に触れ合う「現実空間」とネットを通じた「ヴァーチャル空間」の両空間において,ファンに「楽しみ」を提供している。また,新曲が出るとPV の動画が「ヴァーチャル空間」に流れるため,ファンは無料で身近にアイドルに接することが可能となっている。男性ファンは女性アイドルに対して,潜在的に疑似恋愛的な視線を向ける傾向がある。可愛い女の子が一生懸命全身全霊でファンのために人生の応援歌を歌い踊り演じる。アイドルが頑張るから,自分も一緒に頑張ろうという意識の下,アイドルを応援する。AKB48 で有名な「恋愛禁止」ルールは,個々のメンバーが切磋琢磨し高め合うことに一生懸命であれば恋愛している暇なんてないだろうという意味づけであり,結果として男性ファンの疑似恋愛を守ることに成功している。一方,女性アイドルファンにとって,ジャニーズアイドルを中心とする男性アイドルは理想の恋愛相手という存在に留まらず,別機能を備えた存在となっている。ジャニーズアイドルは,「わちゃわちゃ感」と呼ばれる男性同士の親密さや絆を有する「現実空間」における「キャラクター」をアピールして,アイドルに付随する女性の存在を無化する「偶像」になることに成功している。以前の女性を救い上げる男性イコール王子様,選ばれる女性というジェンダー役割は変質して,男性アイドルは,身近な自分の好みと合致させやすい「キャラクター」であると同時に,自分とは異性愛関係を結べない「偶像」(仮想空間における「偶像」)でもある。女性ファンにとって,男性アイドルは手の届かない遠い「偶像」ではなく,現実空間に極めて近いところにいる「キャラクター」として認識されている。
著者
西条 昇 木内 英太 植田 康孝\n
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
vol.26, 2016-03-15

2015 年は,アイドルシーンにとって画期的な年であった。ジャニーズやAKB48 を中心としたアイドル・ブームはまだまだ堅調であったが,これが「仮想空間」にも拡大,一般化して「アイドルアニメ」がエンタテインメント市場を席捲した。現実のアイドルは近年,ちょっとでも容姿や体型が落ちるとインターネット上で「劣化」と騒がれてしまうが,アニメのアイドルは「劣化」せず純粋にグループのために頑張る理想の集団としてファンに映り,「ラブライブ!」「アイドルマスター」「うたの☆プリンスさまっ♪」の3 大作品が大ヒット,「ラブライブ!」から派生した声優9 人組によるユニット「μ’s(ミューズ)」が2015 年末の「第66 回NHK 紅白歌合戦」に出場,2015 年流行語大賞の候補に熱狂的ファンを表す「ラブライバー」が選ばれるなど社会現象化した。「ラブライバー」が成立した背景には,「ヴァーチャル空間」拡大による「ファン母数増加」と「ファンコミュニティ内つながりの緊密化」の2 点が挙げられる。現代アイドルの魅力は,具体的な素の存在に基づく「現実空間」における「キャラクター」性と,アニメやマンガのキャラクターに通じるように,類型化されたイメージの中から選び取られた「仮想空間」における「偶像」性の二重構造を持っていることにある。「現実空間」における「キャラクター」と「仮想空間」における「偶像」が合致した時,アイドルの魅力は一気に高まる。一方,その乖離が露呈すると,虚構性が興ざめ感を惹起する危険性も兼備する。かつて安室奈美恵やSPEED などアーティスト志向が強かったグループはアイドルとして捉えられることに対し拒絶する動きを見せたが,SNS や動画配信な「ヴァーチャル空間」が拡大してファンとの距離が近く感じられるようになった現在においては,アーティスト然と振る舞うことは逆にカッコ悪く映り,身近に感じさせられるアイドル的行動がファンを増やす点で効果的になっている。ファンになってもらうためには,SNS やイベントを通して「人となり」を伝えることが求められる。アイドルはイベントで握手や写真撮影に応じることに加え,公式サイトやFacebook,Twitter でグループや自らの現況を積極的に発信して,実際に触れ合う「現実空間」とネットを通じた「ヴァーチャル空間」の両空間において,ファンに「楽しみ」を提供している。また,新曲が出るとPV の動画が「ヴァーチャル空間」に流れるため,ファンは無料で身近にアイドルに接することが可能となっている。男性ファンは女性アイドルに対して,潜在的に疑似恋愛的な視線を向ける傾向がある。可愛い女の子が一生懸命全身全霊でファンのために人生の応援歌を歌い踊り演じる。アイドルが頑張るから,自分も一緒に頑張ろうという意識の下,アイドルを応援する。AKB48 で有名な「恋愛禁止」ルールは,個々のメンバーが切磋琢磨し高め合うことに一生懸命であれば恋愛している暇なんてないだろうという意味づけであり,結果として男性ファンの疑似恋愛を守ることに成功している。一方,女性アイドルファンにとって,ジャニーズアイドルを中心とする男性アイドルは理想の恋愛相手という存在に留まらず,別機能を備えた存在となっている。ジャニーズアイドルは,「わちゃわちゃ感」と呼ばれる男性同士の親密さや絆を有する「現実空間」における「キャラクター」をアピールして,アイドルに付随する女性の存在を無化する「偶像」になることに成功している。以前の女性を救い上げる男性イコール王子様,選ばれる女性というジェンダー役割は変質して,男性アイドルは,身近な自分の好みと合致させやすい「キャラクター」であると同時に,自分とは異性愛関係を結べない「偶像」(仮想空間における「偶像」)でもある。女性ファンにとって,男性アイドルは手の届かない遠い「偶像」ではなく,現実空間に極めて近いところにいる「キャラクター」として認識されている。
著者
植田 康孝 木内 英太 西条 昇 田畑 恒平
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.25, pp.171-184, 2015-03

近年の大学教育において、特に学生集めに奔走する私学では、学生に分かり易い「現実」や「過去」を教育対象とする傾向がある。いわゆる「置きに行く」と呼ばれる行為である。しかし、本来「大学」とは長期的視座に立って時代や学生の一歩先、半歩先の方向性を提示する機関であるべきはずである。本稿は、このような反省に立ち、新たな時代概念として「インフォテインメント(Infotainment)」を提示して、概説するものである。「インフォテインメント(Infotainnment)=情報娯楽」とは,「エンタテインメント(Entertainment)=娯楽」と「インフォメーション(Information)=情報」を融合させた上位レイヤー概念である。アナログ文化に留まらず,「(デジタル)インフォメーション」と融合することにより,「エンタテインメント(Entertainment)」をより魅力あるものにすることが可能となる。「スマート(賢い)エンタテインメント」とも言うべき存在である。具体的には,初音ミクや末永みらい,プロジェクションマッピング,ライブ・ビューイング,AR(拡張現実)を用いた劇場演出などが挙げられる。一方でイノベーションの基に生まれる画期的な「(デジタル)インフォメーション」もスムーズに社会や市民に受け入れられる訳ではない。材料を削る切削加工,金型を用いた射出成形,板金やプレス成型などを代替する新しい製造技術として期待される「3D プリンター」も,フィギュアやキャラクターグッズ,アクセサリーなど「エンタテインメント」との融合を起点とすることにより,ユーザー・インターフェイスを格段に向上させる。「クール(カッコイイ)インフォメーション」とも呼ぶべき出発点はユーザーフレンドリーな存在である。平成27 年度カリキュラムから本学マス・コミュニケーション学科に創設される「エンタテインメント」コースは,これら「スマート・エンタテインメント」や「クール・インフォメーション」の上位レイヤーのコンセプトとして「インフォテインメント」を掲げ,これを学ぶものである。従来のアナログ中心の「エンタテインメント」教育や,効率性・利便性を中心とした工業的な「情報」教育とは,明確なる区別を目指すものであり,新たな時代の実践モデルを図る。平成26 年度においては,「プロジェクションマッピング」「3D プリンター」や「ユーストリーム中継」を用いた教育を実践し一定の教育効果を見た。平成27 年度は改組した上で,「人工知能(AI)ロボット」や「AR ウェアラブル端末」を用いた新たな「インフォテインメント教育」を導入する計画である。
著者
田畑 恒平 西条 昇 木内 英太 植田 康孝
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.26, pp.291-300, 2016-03

クラウドとビッグデータ,人工知能などの情報通信技術(ICT)の発達によって今後必要となる能力や人材が今までとは大きく異なってくる。多くの人がそう感じ始めているが,問題であるのは,その動きがかなり急速なことである。必要とされる能力が急ピッチに変化するならば,その変化に応じた能力開発も急ピッチで行っていく必要がある。もちろん大学教育の内容も大きく変革していかなければならない。急速な時代変化に合わせた大学教育の変革の必要性を感じた植田・木内・西条・田畑[2015]は,「エンタインメント」と「インフォメーション」を融合させた上位レイヤー概念として,「インフォテインメント(Infotainnment)」を定義した。本学マス・コミュニケーション学科「エンタテインメント」コースにおいては,「ハロウィンパーティ」の企画および実際に自らが仮装して歌や踊りなどのパフォーマンスを行う「エンタテインメント」の要素と,イベントをライブストリーミングで配信するという「インフォメーション」の要素を融合させた教育を2015 年10 月30 日に実践した。動画配信サービスは,ユーザーが投稿した動画を共有する「動画共有」と,ユーザーがライブ放送を共有できる「ライブストリーミング」の2 つから成るが,前期(2015 年5 月8 日)に行った動画共有サービス「Vine」による実習に加えて,後期でライブストリーミングによる実習も付加することにより,動画配信サービスに対する知識とスキルを学生は習得してくれたことを確認できたため,本稿に事例紹介する。LINE がスマホで動画を配信す「LINE ライブ」は,2015 年12 月10 日に始まったばかりのサービスであるが,視聴者は対話アプリ(日本国内は5,800 万ユーザー)と別の専用アプリをダウンロードすることにより,公演中のコンサートをスマートフォンでどこでも見ることが可能である。ドワンゴが手掛ける「ニコニコ生放送」サービスに続く生中継サービスが登場することにより,テレビに代替するサービスになると注目されていたが,インディーズアイドル「原宿駅前パーティーズ」による2015 年12 月24 日限定のクリスマス公演は128 万8,000 視聴という驚異的な数字を記録し実証する形になった。また,テイラー・スウィフトやアデルが世界ツアーの映像を「アップル・ミュージック」でコンサート映像を独占配信したり,リアーナが世界ツアーの映像をサムソン「ミルクミュージック」で,コールドプレイがロサンゼルスで行ったコンサート映像をJay-Z「タイダル」で配信したりするなど,人気アーティストが積極的に活用するようになっている。「ライブストリーミング」は,テレビ番組では視聴者が少なくて放送できないようなリアルタイムの映像を届けることができるため,テレビ番組に飽き足らず「テレビ離れ」を進めた若者世代が視聴するメディアに位置づけた結果,テレビの求心性は解体しその啓蒙機能は著しく減衰,レガシー化されつつある。更に,レッド・ブルやコカ・コーラなどの有力広告主が「ライブストリーミング」に対してテレビを代替するメディアとしての有効性と成長性に期待し,この流れに拍車を掛けている。このようにライブ配信は,ライブアイドルにとって不可欠のサービスになっており,芸能事務所や音楽関係を志す学生が多いエンタテインメントコースにおいては習得することが求められる重要技法の一つに位置づけられる。