著者
西野 友年 日永田 泰啓 奥西 巧一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.763-771, 2000-10-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
22
被引用文献数
4

多粒子系の基底状態や素励起を観察したければ,理論武装するのも一法ですが,ともかく系のハミルトニアンを計算機で対角化して,まずは物理現象を目前で観察するのも賢明な選択肢です.しかし相手は天文学的な自由度を持っ問題だけに,数値的対角化を適用できる系のサイズには強い制限があります.約10年前のこと,S. R. Whiteはこの制限をアッと驚く密度行列の使用法により取り払いました.密度行列を介して出現頻度の低い状態を無視することによって,系の物理的性質を高い精度で保ちつつ数値計算で取り扱うべき自由度を劇的に減らして見せたのです.この方法は密度行列繰り込み群と呼ばれ,多粒子系の数値実験的解析に活躍しています.
著者
西野 友年 大久保 毅
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.702-711, 2017-10-05 (Released:2018-08-06)
参考文献数
52

原子・分子スケールの微視的な物理は,我々が目にする巨視的な測定量に,どう現れるのだろうか.微視的なものとして,例えば磁性体を構成するスピン自由度を考えてみよう.結晶格子中で,幾つかのスピン自由度を含む“ブロック”に着目すると,これを新たに「1つの有効的な自由度」とみなすことが可能だ.このような「自由度の抽出」はカダノフによって半世紀前に提唱されたもので,ブロックスピン変換と呼ばれている.この変換を繰り返せば1つのブロックに対応する領域が指数的に大きくなり,やがて巨視的な大きさへと到達する.このように物理系を粗く眺める粗視化や,逐次的なスケール変換のアイデアはウィルソンによって整理され,繰り込み群の概念が生まれた.巨視系には普遍的に現れる相転移と臨界現象を,繰り込み群は定量的に説明する.ただ,ブロックスピン変換を用いる実空間繰り込み群によって,相転移を特徴付ける臨界指数を正確に求めることは困難であった.粗視化に伴う相互作用の変化である「有効ハミルトニアンの流れ(flow)」を,精密には追えなかったのだ.実は,ブロックから抽出する自由度の選び方に問題が潜んでいたのである.本稿で紹介するテンソルネットワーク形式では,隣接するブロック間の結合に着目し,相互の連絡に「物理の本質」を見出す.ブロックの境界(辺や面)に並んでいるスピン自由度をまとめ,1つの多状態自由度として取り扱うのだ.例えば立方体のブロックを考えるなら,それぞれの面にi,j,k,ℓ,m,nの,合計6つの多状態自由度を割り当てる.他方,境界に面していないブロック内のスピンは,配位和を取り消去してしまう.このような手続きを経て粗視化を行うと,系が持つ相互作用や相関を全て,局所的な重率テンソルAijkℓmnへと押し込んでしまえるわけだ.この自由度抽出を,系の持つエンタングルメントを保ちつつ,行列の特異値分解(SVD)によって効率的に行うことが,テンソルネットワーク形式の特徴である.本稿では,磁性体の模型であるイジング模型を例に取り,同形式の概要を紹介し,最近のマルチスケールな発展についても触れる.テンソルネットワーク形式は行列積状態(MPS)に,その原型を見ることができる.イジング模型の相転移を導出するクラーマース・ワニエ近似に端を発し,菊池の近似を経て,半世紀前にバクスターが確立した角転送行列(CTM)の手法は,実質的には3脚テンソルAiαβの縮約で転送行列の固有ベクトルを近似する変分法だ.1次元スピン鎖のAKLT状態,デリダによる非平衡定常状態の記述,密度行列繰り込み群(DMRG)による数値計算など,MPSは何度も「再発見的に」用いられて来た.近年では,高次元系への拡張であるテンソル積状態(TPS/ PEPS)が,2次元量子系の基底状態解析に応用されつつある.テンソルネットワーク形式は,数値解析に適した物理系の表現手段なのだ.
著者
西野 友年 奥西 巧一 引原 俊哉
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.133-155, 1997-05-20

密度行列繰り込み群(DMRG)の正体は、「密度行列より導かれる精密な数値変分法」です。変分法というと、「基底波動関数の形を物理的直感に基づいて独断と偏見で定める」ような職人芸的な方法…に聞こえますが、DMRGは「計算対象に最適な変分関数を自動生成する」という点で従来の数値変分法とは一線を画しています。この解説記事では、DMRGの細かな計算手続きよりも、その基本原理に目を向けることにします。「密度行列」繰り込み群という名前の由来や、DMRGの背後にある変分原理について、一緒に考えましょう。
著者
西野 友年
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05252997)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.697-701, 1998

「密度行列繰り込み群(DMRG)[1]を学び、これを使いこなして研究を進めようと思い立った方々にお勧めの文献は何ですか?」と聞かれると、しばらく返答につまります。何よりもまずWhiteによる本論文[2]をお勧めしたいのですがヽこれは解説記事ではないので、[3]読みこなす為には多少の"数値計算の心得"が必要だからです。そういう訳でDMRG学習の副読本を探してみました。これから、幾つか文献を挙げて行きますが、とりわけお勧めなのが最初に挙げる成島毅氏の修士論文です。[4]和文の丁寧な解説としては、今の所これに替わり得る物はありません。幸いなことに、成島氏の論文はこの記事の直後に全文掲載されていますので、ぜひ御覧になって下さい。
著者
西野 友年
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

有限温度密度行列繰込み群(DMRG)では、有限温度の一次元量子系を表現する筒形の二次元古典系に「切れ目」を入れて密度行列を構成することが、一般的に行われている。この場合、系のトポロジーが平面とは異なるので、従来から行われて来た単純な密度行列構成が、フリーエネルギー最小の意味において必ずしも最適ではないことが判明した。その理由は、筒を「回り込む」形の情報伝達が正しく取り込まれないからである。同様な困難は三次元古典系にも現れる。そこで本年度はDMRGの基礎に立ち返って、テンソル積で表現された変分関数を改良するという視点から、三次元古典系に対する有効な密度行列構成方法を検討した。その結果として、補助的な自由度を持ったテンソル積型変分関数を最適化する基本方程式を得ることに成功した。また、角転送行列繰込み群(CTMRG)を用いると、この方程式を数値的に解けることが判明した。以上のようにして得られた、新しい密度行列変分法(TPVA)を三次元Ising模型およびPotts模型に応用し、相転移温度や潜熱の測定などを行い、モンテカルロ法の結果と比較し得るデータを得た。他方、CTMRGを16vertex模型に適用することによって、これまでに調べられていなかったパラメター領域での相図を確定した。
著者
西野 友年
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では2次元的な局所重率の積として表される試行関数を、2次元量子系および3次元古典系の変分関数として用いる数値くりこみ群手法を開発した。2次元量子系については、その代表例であるS=1/2正方格子XXZ模型に対して、3自由度の等方的IRF模型を変分波動関数として用い、少ない自由度で基底エネルギーの上限値を精度良く評価できることを実証した。特に、XY異方性が強い場合に、近似精度が改善される。3次元古典系では、その代表例である立方格子イジング模型に対して、162自由度の局所重率を敷き詰めた変分関数を適用してみた。この場合は最適化すべきパラメターの数が多いので、自動的にテンソル要素を改良する必要がある。試行錯誤の結果として、エネルギーの変分極小を正しく導く計算アルゴリズムの開発に成功し、相転移温度の精密評価が可能であることを実証した。以上2つの例では系が一様であった。これは、変分エネルギーの評価手段として「角転送行列繰り込み群」を用いたことによる制限である。そこで、秩序変数が空間変調を持つ場合も取り扱えるように「密度行列繰り込み群」をテンソル積型変分の形式中に取り入れる試みもはじめた。古典競合相互作用系の代表であるANNNI模型にこの新たな解析法を適用し計算を進めている。これまでに、標準的な相図として従来用いられて来た「悪魔のバラ」的な構造には、平均場近似による「整合的変調秩序相の強い安定化」が含まれている可能性などが得られている。これらの研究の副産物の一つとして、空間次元をひとつ下げた1+1次元対称/非対称確率的拡散系に対する光円錐内部での局所因子の足し上げに、角転送行列繰り込み群がそのまま応用できることが判明した。ただ、系の初期条件によっては、角転送行列繰り込み群で用いる密度行列が自明になり、繰り込み群変換に利用できない場合がある。この問題は、今後解決すべき研究課題の一つとしたい。
著者
西野 友年 Roman Krcmar Andrej Gendiar
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会講演概要集 72.1 (ISSN:21890803)
巻号頁・発行日
pp.2755, 2017 (Released:2018-04-19)

正方格子上の6状態クロック模型の BKT 転移を、角転送行列繰り込み群により数値的に観察し、臨界現象をエンタングルメント・エントロピーから解析した。得られた、エンタングルメント・エントロピーのグラフは、「天の香具山」を彷彿とさせる、のどかな曲線であった。主観はともかくとして、定量解析により、BKT 転移を外挿により推定した。
著者
西野 友年 奥西 巧一 引原 俊哉
出版者
物性研究刊行会
雑誌
物性研究 (ISSN:05272997)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.133-155, 1997-05-20

この論文は国立情報学研究所の電子図書館事業により電子化されました。