著者
三尾 裕子 末成 道男 中西 裕二 宮原 暁 菅谷 成子 赤嶺 淳 芹澤 知広
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、主に東南アジアの現地化の進んだ中国系住民の研究を中心に据えて、これまで等閑視されてきた周縁に位置する中国系住民の事例研究から、従来の「華僑・華人」概念を脱構築することを企図した。特に、彼らの社会・文化そしてエスニック・カテゴリーの変容のプロセスを分析することを通して、中国系住民の文化が、移住先でのホスト社会やその他の移民との相互作用によって形成されることで、もはやその文化起源を分節化して語りえないほど混淆するあり様を明らかにし、これを「クレオール化」と概念化した。主な成果は、2007年8月にクアラ・ルンプールで行われたInternational Conference of Asia Scholarsで2つのパネルを組織、また、11月にも日本華僑華人学会の年次大会において、パネルを組織した。それぞれの学会では、中国系住民が中国的な習慣や中国系としての意識を失って土着化していく過程、再移住の中でのサブエスニシティの生成過程、宗教的な信仰や実践と民族カテゴリーの変容、国家の移民政策と移民の文化変容などについて、現地調査に基づく成果を発表した。また、現地の研究協力者を3回ほどに分けて招聘し、メンバーとの共同研究の成果を発表するワークショップを行った。そのうち、2006年度に実施したワークショップについては、Cultural Encounters between People of Chinese Origin and Local People (2007)という論文集を出版した。そのほか、国際学会の発表をもとに、英語による論文集の出版を予定している。
著者
赤嶺 淳
出版者
北海道立北方民族博物館
雑誌
北海道立北方民族博物館研究紀要 (ISSN:09183159)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.001-030, 2020 (Released:2021-01-31)

This article deals with the history of whaling in Norway, and provides an overview of the current situation of coastal minke whaling in the northern part of Norway and the commodity chain of minke whale meat in Norway. The first section briefly illustrates the history of whaling in Norway: how Norway developed the modern method in the mid-19th century, and how Norway developed pelagic whaling in the Antarctic Ocean in the early 20th century. While modern whaling had its roots in seal hunting for its fur and blubber, pelagic whaling in the Southern Ocean was exclusively for the oil. Aside from the pelagic whaling for oil, Norway has practiced small scale coastal whaling for meat since the late 1920s. When IWC decided to put the Moratorium in place in 1982, Norway objected to this decision, which allowed Norway to continue its commercial whaling. Using various secondary statistical data, I explore the current situation of minke whaling in Norway, that started in 1993 when Norway resumed commercial whaling after the voluntary moratorium set in 1988. Based on data gathered from my fieldwork, a case study of one whale meat processing company, operating in Lofoten Islands, Norland county, is also discussed. The characteristics of coastal whaling in Norway can be summarized as: 1) domestic demands for minke whale meat is about 600 tons, 2) whale meat processing industry heavily depends on seasonal migrant workers from eastern Europe, 3) supply of whale meat has been decreasing since 2015, 4) this is probably due to low price of whale meat, and 5) major processors target Japanese sashimi market for their products, which may cause structural changes in minke whaling in Norway in the future.
著者
Jun Akamine 赤嶺 淳
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.393-461, 2023-03-03

本稿の目的は,かつての世界商品であった鯨油に着目し,水産業の近代化と水産資本の拡大という政治経済的文脈から日本における近代捕鯨の発展過程をあとづけることにある。20 世紀初頭に液体油を固形化する技術が発明されると,固形石鹸とマーガリンの主要原料としての鯨油需要が拡大し,良質な鯨油を廉価に大量生産するため,鯨類資源の豊富な南極海での操業がはじまった。1934/35 年漁期に日産コンツェルン傘下にあった日本捕鯨株式会社が日本初の捕鯨船団を派遣したのは,こうした鯨油需要にわく欧州市場に参入するためであった。第二次世界大戦以前,日本から南極海へ 7 漁期にわたって最大 6 船団が派遣されたが,いずれも鯨油生産を主目的とし,鯨肉生産は副次的な位置づけしかあたえられていなかった。GHQ の指導もあって戦後の南極海捕鯨では鯨油と並行して鯨肉の生産もおこなわれた。しかし,1960 年代に鯨類の管理が強化され,世界の鯨油市場が縮小すると,鯨肉生産の比重が高まっていった。本稿は,こうした歴史をあとづけたのち,今後の捕鯨史研究の課題として,①近代捕鯨の導入過程でロシアが果たした役割,②輸出産業としての捕鯨業の社会経済史的役割,③鯨油とほかの油脂間競争という 3 点を提示する。
著者
赤嶺 淳 長津 一史 安田 章人 落合 雪野 浜本 篤史 岩井 雪乃
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ゾウ類や鯨類など環境保護運動のシンボルとして表象(エコ・アイコン化)された特定の稀少生物と、そうした野生生物が生息する生態空間(生態資源)を資源としてツーリズム振興をはかろうとする人びとの動態を、①東南アジアとアフリカ、日本でのフィールドワークにもとづき批判的に検証し、②エコ・アイコン化された野生生物のみならず、そうした生物群を利用してきた人びとの生活様式・生活文化の保全を目的に、観光振興の可能性を展望した。本研究が目指すmulti-sited approachの実践例として、ラオスにおいて野生生物の利用者と(調査者をふくむ)多様な利害関係者間の対話を創出し、研究成果の社会還元をおこなった。
著者
赤嶺 淳
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.59-112, 2000
被引用文献数
1

東南アジア海域世界の人々は,香料や乾燥海産物などの生物資源をもとめて移動分散をくりかえす傾向が強い,と指摘されてきた。本研究の目的は,人々の移動を誘発した資源のなかでも干ナマコに焦点をあて,ナマコ資源の経済的価値の多様性と利用状況について報告することにある。従来の海域世界論研究では,干ナマコやフカのひれなどの乾燥海産物をめぐる人の移動とネットワークに着目する必要性が唱えられてきたものの,実際の流通事情を調査したものはほとんどなかった。また,干ナマコも一元的に高級食材として理解されるにとどまっていた。ところが,現在のフィリピンでは20種の干ナマコが生産され,高級種と低級種との価格差が30倍におよぶように,干ナマコ資源の価値は多元的である。さらに,近年においては低級種の価格は上昇する傾向にある。また,香港やシンガポールなど干ナマコの主要消費地とフィリピンでおこなった聞き取り調査によって,多様な経済的価値をもつ干ナマコが,高級料理と大衆料理の異なった料理に区別されて使用されていることがあきらかとなった。そのような消費概況と各種の統計資料から,本稿はフィリピンのナマコ資源の特徴を低級種の大量生産にもとめた。そして,パラワン島南部マンシ島の事例にもとついて,その仮説の実証を試みた。マンシ島でみられる干ナマコ生産の現状を「フロンティア空間の重層性」と解釈し,ナマコ資源の価値変化に敏感な漁民像を記述した。In this paper I discuss variation in trepang or holothurian resourceutilization in the Philippines generally, and on Mangsee Island, in thesouthern part of Palawan Province. Many scholars working inSoutheast Asian maritime societies have noted the dynamic human networksinvolved in pursuing dried sea products like trepang or shark fins.However, few scholars have dealt with the actual materials of the trade.This paper establishes that 20 species of trepang are traded in thePhilippines at present, and that the price of the most expensive is some30 times greater than that of the cheapest. Moreover, in recent years,lower quality trepang has been acquiring more commercial value.Trepang today is not just an exclusive expensive foodstuff as mentionedin historical records it is also an ordinary material used in the present.The cheaper trepang species are consumed more than ever before in thePhilippines and elsewhere. One of the most important aspects of thePhilippine trade is that the country exports a huge volume of trepang oflower commercial value. Here, I interpret fishing activities on Mangsee,where mostly lower value species are harvested today, in relation to theisland's 30 year history as a location for modern frontier settlement.
著者
山尾 政博 島 秀典 濱田 英嗣 山下 東子 赤嶺 淳 鳥居 享司
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

東アジアに巨大な水産物消費市場圏ができつつあり、水産物貿易がダイナミックな動きをみせている。日本と韓国では、水産物消費の多様化・簡便化が進み、輸入水産物への依存がいっそう高まっている。日本では、輸入水産物に対する消費者意識、寿司の消費需要動向、回転寿司産業を事例に輸入マグロの利用実態、活魚の輸入、中国からの水産食品輸入の動向などを具体的に検討した。韓国でも中国からの水産物輸入が急増し、国内漁業の存立を脅かしていた。中国では、輸出志向型の水産食品産業が目覚ましい発展を遂げている。当初は対日輸出の割合が高かったが、現在では北米大陸・EU市場などにも水産食品を輸出している。ただ、中国国内での原料確保が容易ではなく、そのため、世界に原料を求めて輸入し,それを加工して再輸出するビジネスが盛んである。日系企業による委託加工が定着すると、日本の大型水揚げ地の中には、中国に原漁を輸出する動きが活発になった。北海道秋鮭の事例を検討したが、加工を必要とする漁業種類の今後のあり方を示すものとして注目される。一方、中国では、経済成長にともなって、水産物消費が急激に増加している。日本を含む周辺アジア各国は、中国を有望な輸入水産物市場として位置づけつつある。東南アジアでは中華食材の輸出が急増して、資源の減少・枯渇が深刻化し、ワシントン条約による規制の対象になる高級水産食材もある。日本の水産物輸入は、近いうちに、中国と競合すると予想される。東アジア消費市場圏の膨張が続くなかで、アジア諸国は水産業の持続的発展をはかるため、資源の有効利用が求められている。「責任ある漁業」の実現が提起され、それに連動する形で、「責任ある流通・加工」、「責任ある貿易」の具体化が迫られている。地域レベル、世界レベルでその行動綱領(Code of Conducts)を議論すべき時代に入った。