著者
大西 伸悟 足立 昌夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bb1413-Bb1413, 2012

【はじめに】 抗NMDA受容体抗体脳炎は、Dalmau(2007年Ann Neurol)らによって卵巣奇形腫に関連した傍腫瘍性抗NMDAR脳炎として12例が紹介された。本邦では、若年女性に好発する非ヘルペス性急性脳炎として報告されているが、病態について明確ではない。これまで本邦において、本疾患における理学療法の介入報告はなかった。今回我々は、13歳の抗NMDA受容体抗体脳炎症例への理学療法の介入を病期に分けて検討し若干の考察を加えて報告する。【方法】 症例は13歳女性。既往歴に特記事項なし。入院2~3日前から不穏、軽い健忘、不安感や悲観的な感情失禁、幻聴などあり、精神科病院を受診し頭部CT施行するが明らかな異常所見はなし。その後不穏状態が悪化し鎮静された状態で脳炎及び脳症などの精査目的で当院小児科へ紹介入院となった。入院直後の、MRI、脳血流SPECT、髄液検査(細胞数、蛋白)などの検査では異常所見は認めず。第24病日の髄液及び血清中の抗NMDA受容体抗体が陽性と判明し本疾患の診断に至った。本症例に行った理学療法の介入を、飯塚ら(2008年、BRAIN and NERVE)が提唱する臨床病期分類に沿って後方視的に検討した。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言の倫理規程に準拠し、症例の発表について、本人と家族にその目的を説明し同意を得た。【結果】 前駆期と精神病期は当院入院2~3日前からみられたが、明らかな先行感染症状はなく、統合失調症様症状を呈した。無反応期では第11病日に呼吸抑制と意識障害が出現、ICU病棟にて気管内挿管下での呼吸管理が行われた。不随意運動期は第12病日から52病日にみられ、筋強直など多彩な不随意運動と血圧や心拍変動など自律神経症状が頻発し理学療法は処方されたが施行困難であった。第39病日不随意運動にて挿管管理が困難となり気管切開術を施行。緩徐回復期は第52病日以降でみられ、初期には意識障害が強く、呼びかけや感覚刺激への反応は乏しかった。しかし、不随意運動が始まると徒手的な抑制は困難となり投薬での鎮静が行われた。車椅子座位では10分程度で不随意運動が出現した。第150病日以降では覚醒時間が徐々に増え口頭指示にも反応を示した。車椅子上では30分~1時間程度座位可能となった。しかし覚醒レベルは低く、立位練習を試みるが両下肢の支持性は得られなかった。後期に入ると、発語が増え車椅子やベッド上での座位活動時間が増加。第270病日には病室にて腋窩介助での自動様歩行が出現したが、歩行練習では廃用性筋萎縮による不安定性と股関節を起因とした失調様の跛行がみられた。症例にセラピストの肩を把持させ、骨盤または腋窩を介助することで下肢への荷重量の軽減および骨盤の動揺が軽減でき以後の練習が進んだ。発症より第360日で独歩を獲得し、第400病日には家族の監視下にてADL自立となり退院となった。退院と同時に理学療法も終了となったが、記憶障害と軽度の失語症が残存し、元の学校の特別支援学級への復学となった。【考察】 本症例は飯塚らの報告とほぼ同様の臨床経過となったため、その病期分類に沿って検討した。本症例への理学療法の介入は不随意運動期からであった。不随意運動期には多彩な不随意運動と血圧や心拍変動など自律神経症状がみられ積極的な介入や練習課題の変更は困難であった。一方、緩徐回復期では、薬物による不随意運動の調整が徐々に可能となったが意識障害の残存期間が長く、理学療法を積極的に進めたが離床が困難で歩行獲得には時間を要した。その原因については、庄司ら(2009年国際医療福祉大学紀要)の症例と同様、下肢の廃用性筋委縮、記憶・注意障害などが影響を与えたと思われた。本疾患の予後についてDalmauらは、完全回復とほぼ回復が75%、重度後遺症が18%、死亡が7%、脳炎再発率は15%とし、比較的良好としている。しかし、記憶・注意障害については回復までに時間を要し、残存例も多い。本症例の復学状況もそれに類似していた。以上のことより本症例における理学療法は、前駆期から不随意運動期での介入は困難であったが、緩徐回復期では積極的に介入できたと考える。一方で、離床開始時期や立位歩行練習の開始時期については、不穏並びに意識障害や失語症などが正確な評価を困難にした。そのため、緩徐回復期移行後の不随意運動と失調様歩行に留意した介入方法などについて検討が必要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】 抗NMDA受容体抗体脳炎は病態について明確な報告はされていない。また、予後に関する報告は散見されるが理学療法の介入に関して検索し得た範囲では皆無であった。本疾患における理学療法の介入では、精神症状や不随意運動、呼吸管理など多彩な症状に対して適切な対応が求められる。今回の報告が、本疾患に対する理学療法の関わりについて一助になると考える。
著者
親里 嘉展 中川 温子 西山 敦史 足立 昌夫
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.323-325, 2013 (Released:2014-10-11)
参考文献数
9

乳児期に小児交互性片麻痺と診断した7歳男児, 寝返り以上の粗大運動は不能で言語も獲得していない. てんかんを合併し, 4歳半以降は片麻痺発作に嚥下障害を伴うようになり重症な経過を辿っていた. Flunarizine hydrochlorideと抗てんかん薬による治療では効果は乏しく, 重度の片麻痺発作やてんかん発作に対してはdiazepam坐薬で対応していた. 検査入院時に嚥下障害を伴う片麻痺発作を呈していたが, 五苓散を投与したところ短時間で症状は消失した. その後も五苓散の使用を継続したところ, 片麻痺発作短縮と回数減少, 発作時の嚥下障害の消失といった発作の軽症化を認めた. 本症例には五苓散が有効であり, 五苓散が小児交互性片麻痺の治療薬の1つとなる可能性が示唆された.