著者
遠矢 福子 山本 明弘 橋本 明
出版者
広島文化学園大学
雑誌
看護学統合研究 (ISSN:13460692)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.11-23, 1999-09-25

わが国の地域精神医療・保健を巡る状況は、この10年間で著しく変貌している。欧米諸国の実状を見据え、今、地域社会をケアの場とする生活モデルづくりが始まろうとしている。その一つの示唆として、ベルギー・ゲールのファミリーケアは、長い伝統を引き継ぎながらも時代の流れに対応し、現代においても、世界的に高い評価を受けている。一方、京都・岩倉村コロニーは、終戦と共にその幕を降ろし、今では、営利目的の集団的私宅監置、差別的隔離収容といった評価さえ受けている。けれども、保養所における入所者の動向や処遇状況を丹念に見ると、そこもまた、今日的な意味での「中間施設的要素」をもって運営されていたことが見えてくる。ファミリーケアが地域精神医療に果たすべき役割の重要性は、今や世界中で確認されており、今後、わが国においても、これを如何に地域支援システムに取り込むかが、必須の課題となろう。他の障害者と違い、家族の支援さえ得にくい精神障害者にとって、医療と福祉(生活)が有効に連動する公的支援システムは不可欠であり、「岩倉村保養所」再考の意味はそこにある。