著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.321-328, 2020-11-30 (Released:2020-11-26)
参考文献数
15

学習者が明確な目的を持ち,仮説を立てて観察・実験が行われるには,その実験で確かめようとする理論だけでなく,その理論が含まれる理論体系全体が観察・実験に先だって概観されている必要がある(遠西・福田・佐野,2018)。本研究はこの視点に立って,このような「先行的了解」を保証し,明確な目的を持ち仮説を設定して実験に臨ませる小学校第5学年「電流がつくる磁力」の実践的研究である。本実践では,短文や教科書の先読みによる「テクストの通読」とより基本的な「基礎実験」の導入による「先行的了解」の形成によって,探究活動過程全体と探究活動を構成する個々の観察・実験を見通すことができた。その結果,児童は解決すべき問題を科学的な文脈の中に発見して目的を明確にし,さらに実験に方法的根拠を与えている理論を生成して仮説を設定することができた。仮説は実験を有意味なものにし,児童自身による実験の成否の評価を可能にして理解を確かなものにした。この確かな理解はそれを可能にした基礎実験に対するコミットメントを強化し,「短文」や教科書の記述の理解をさらに深めるという循環的理解を生じて,電磁石理論の体系全体への深い理解を可能にした。
著者
遠西 昭寿 福田 恒康 佐野 嘉昭
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.79-86, 2018-07-31 (Released:2018-08-22)
参考文献数
27
被引用文献数
4

「主体的な学習」においては, 行為や具体的操作よりも心的・認知的な意味での主体性が問われなければならない。本研究の目的は, 観察・実験における主体的探究者としての科学者と授業における学習者の認知的活動を比較して, その差異から授業を改善することである。その結果, 観察や実験の結果の考察においては, 観察・実験が確証をめざす当該の理論のみならず, その理論を含む理論体系の全体が学習に先行して概観されていなければならないことを示した。さらにアプリオリな理論体系の存在は, 問題の発見から仮説設定, 観察・実験の方法の決定といった一連の過程においても必然であることを示した。すなわち, 観察や実験で演繹されるべき理論(仮説)のみならず, 学習の成果として期待される理論の体系的全体の概観が, 当の学習の前提であるという循環論である。本論文ではこの問題を解決する具体策として, 教科書記述の改善と現在の教科書を使用した対応の方法を提案した。
著者
遠西 昭寿 加藤 圭司
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告 (ISSN:18824684)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.7-10, 1992-07-18 (Released:2017-11-17)

本報告は、近年理科教育等の分野で注目されている構成主義理論について、特に子ども達の興味・関心に関わる側面に対して、具体的な実態調査の結果をもとに、その理論の適応範囲を模索しようとするものである。本報告では、特にウィットロックの生成的学習モデル^<1)>における動機づけの理論との整合性を中心に検討したが、小学校6年はこの理論によく適合するが、3・4年では理論への適合というよりも、即物的に興味を示すことがわかった。このような結果は、構成主義で説明されるような認知的行動の発達によって解釈することの困難さを示している。
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.155-162, 2023-11-30 (Released:2023-11-30)
参考文献数
20

本研究は,小学校第6学年「燃焼の仕組み」に,『ロウソクの科学』(ファラデー,2012)のテクストの一部を用い,三読法(石山,1973)による解釈的読みによって,「炭素と酸素の結合による二酸化炭素の生成」を理解させることを試みた実践的研究である。児童はテクストに科学的な問題を発見し,理論,実験方法,得られる結果を読み取りながら有意味に実験を行うことができた。また,実験の成功から理論を確証することでテクストの読みを確かにすることができた。ここでは,粒子モデルを導入して「炭素と酸素の結合」をイメージさせる指導がテクストの読解を支援した。また,テクストの中心的な内容を児童実験で,補足的な内容を演示実験で行うことで,燃焼単元の標準時間内に本実践を組み込むことができた。児童は科学のテクスト読解により「炭素と酸素の結合」を理解することができた。
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.53-60, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
17
被引用文献数
1

自然科学においては,実際に実験ができないような状況ではシミュレーションが行われる。観察結果がよく一致するシミュレーションを選択することで「どのようになっているか」を理解しようとする。本研究は,「月は日光を受けて輝き,私たちの周りを公転しているので日光の当たる角度が変わり,形が変化して見える」という理論からなる理論モデルに基づくシミュレーションを行い,実際の観察事実と理論モデルとの一致によって,この理論モデルを成立させた理論にコミットさせることを試みた,小学校第6学年における実践的研究である。児童は,観察事実がこの理論モデルによく一致することから,上述した理論に対するコミットメントを形成できた。実際の観察と中心に地球をおいた一般的な月の公転モデルの間では,視点移動・空間認識の困難性が生じることが報告されているが,公転する月の中心に地球ではなく,観察者である「私」を直接に置くことで,その困難性から逃れることができた。また,このモデルでは,太陽を我々の周りを回る24時間時計として認識すると夜間の太陽の方位を推定できるので,夜間でも「太陽と月の関係」を知ることができた。さらに,月齢がわかれば,月の観察が可能な「時刻と方位」を決定できるので,月の観察を計画的・予測的に行うことが可能になった。
著者
福田 恒康 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.333-340, 2014

本研究は中学校において, イオン概念のような不可視な概念をどのように指導すればよいかを提案する実践的研究であり, 経験によって審判を受けるのは個々の理論ではなく科学理論の体系的全体であるというクワイン(1992)の主張に依拠している。このような観点からの指導事例には粒子の熱運動(遠西・佐野, 2012)や天動説に対する地動説の優位性(福田・大嶋・遠西, 2013)が報告されている。本研究では上述したクワインの理論をイオン概念の習得に適用している。クワインの主張に従えば, イオンは見えないが, イオンの存在を信じることによって構成される理論体系全体が経験の審判を受け, 理論体系全体にコミットできるとき, その構成要素であるイオンの存在を確信できると考えられる。観察や実験による経験的事実は理論体系における周辺的な事実であってイオン概念の説明にはほど遠いが, 理論体系全体にコミットできれば, このような事実も十分にイオン概念を確証できることを示した。このための方略としてコンセプトマップは有用なツールとして機能する。
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.323-330, 2021-07-30 (Released:2021-07-30)
参考文献数
16

本研究は,小学校第5学年「振り子の運動」における「周期と振れ幅」の学習に概念転換方略(ストライク・ポズナー,1994)を導入し,児童が競合する複数の概念に対するコミットメントを変化させて理論を切り替え,科学理論へコミットしていく過程を運勢ライン法(遠西,2012)によって調査した実践的研究である。授業では,「周期と振れ幅」に関する対立理論の積極的な競合を可能にするため,振り子の運動をおもりの「速さ」と「移動距離」で説明する指導(川崎・中山・松浦,2012)を,先行的了解(野家,2007)に位置付けて単元冒頭に指導した。本実践では,概念転換が児童相互,児童と教師による社会的相互過程によって生じる(福田・遠西,2016)ことが確認された。この過程では理論が実験結果を予測する正確さや理論の合理性の理解に基づく理論間の葛藤といった認知的側面だけでなく,理論支持者の人数やそこに属する児童の特徴,教師が授業終末に行う科学理論への公知としての支持といった社会的側面が,概念の生態学的ニッチの変動に機能していることが明らかになった。
著者
福田 恒康 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.45-52, 2016
被引用文献数
3

<p>概念転換は, 新しい理論を受容し古い理論を放棄することであるが, 古い理論の放棄は忘却ではなく, 保持する理論に対するコミットメントの順位の入れ替わりである(ストライク・ポスナー, 1994)。理解は, 理論に対するコミットメントの形成であり(ヘッド・サットン, 1994), 概念や理論に対して自信や信念を持つことである。概念転換は, 理論の切り換えと新しい理論に対するコミットメントの強化からなる(遠西・久保田, 2004)。本研究では授業をとおして概念転換の詳細な過程を, 運勢ライン法(White and Gunstone, 1992; ホワイト・ガンストン, 1995)を用いて調査した。授業では, 高等学校物理における「力のモーメント」の課題が実施された。その結果, 学習者によって概念転換が極めて多様な認知的過程を経て生じるにもかかわらず, 既有の理論に対するコミットメントの弱化, 理論切り換えによる新しい理論の受容, 新しい理論へのコミットメントの強化という共通のパターンが存在することが明らかになった。さらにこの過程は「既有の理論に対するコミットメントの弱化とそれに続く理論切り換えによる新しい理論の受容」と「新しい理論へのコミットメントの強化」という独立した2段階の構造を持つことが明らかになった。理論切り換えは, 理論の競合とコミットメントの弱化を前提とするので, 生徒どうし・生徒と教師による社会的相互過程において生じる。これに対して実験は, 理論からの予測と結果との一致・不一致によってコミットメントを変化させる。実験は, 理論を創造したり理論を変えることはないが, コミットメントを変える。これらは, 遠西・久保田(2004)が中学校において行った概念(理論)転換の実践的研究の正当性を強く支持するものであった。 </p>
著者
比樂 憲一 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.425-432, 2019-11-29 (Released:2019-12-20)
参考文献数
18
被引用文献数
1

自然界における水の循環の中で水蒸気概念を理解し,水蒸気概念の習得によって自然界における水の循環を理解するという,解釈学的循環を考慮した単元構成によって,水蒸気を思考の道具としてプラグマティックに理解させることを試みた,小学校4年生の実践的研究である。導入時に自然界における水の循環を図示し,説明させることで,合理性を維持するには降った雨が再び雲に戻らねばならないという「問題」を発見させることができた。そこから「空気中には見えない水があるはずだ」という仮説を得ることができた。水蒸気概念は,凝結と蒸発の実験を積極的に関係づけ,さらに日常生活上の諸経験をうまく説明できることから思考の「便利な道具」としてプラグマティックに理解され,はじめの理論枠組みに還元されて自然界における水の循環の理解をより確かにし,主体的で深い学びを実現できたと考えている。
著者
福田 恒康 遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.45-52, 2016-07-12 (Released:2016-08-09)
参考文献数
8
被引用文献数
3 3

概念転換は, 新しい理論を受容し古い理論を放棄することであるが, 古い理論の放棄は忘却ではなく, 保持する理論に対するコミットメントの順位の入れ替わりである(ストライク・ポスナー, 1994)。理解は, 理論に対するコミットメントの形成であり(ヘッド・サットン, 1994), 概念や理論に対して自信や信念を持つことである。概念転換は, 理論の切り換えと新しい理論に対するコミットメントの強化からなる(遠西・久保田, 2004)。本研究では授業をとおして概念転換の詳細な過程を, 運勢ライン法(White and Gunstone, 1992; ホワイト・ガンストン, 1995)を用いて調査した。授業では, 高等学校物理における「力のモーメント」の課題が実施された。その結果, 学習者によって概念転換が極めて多様な認知的過程を経て生じるにもかかわらず, 既有の理論に対するコミットメントの弱化, 理論切り換えによる新しい理論の受容, 新しい理論へのコミットメントの強化という共通のパターンが存在することが明らかになった。さらにこの過程は「既有の理論に対するコミットメントの弱化とそれに続く理論切り換えによる新しい理論の受容」と「新しい理論へのコミットメントの強化」という独立した2段階の構造を持つことが明らかになった。理論切り換えは, 理論の競合とコミットメントの弱化を前提とするので, 生徒どうし・生徒と教師による社会的相互過程において生じる。これに対して実験は, 理論からの予測と結果との一致・不一致によってコミットメントを変化させる。実験は, 理論を創造したり理論を変えることはないが, コミットメントを変える。これらは, 遠西・久保田(2004)が中学校において行った概念(理論)転換の実践的研究の正当性を強く支持するものであった。
著者
遠西 昭寿 久保田 英慈
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.37-42, 2004
参考文献数
7
被引用文献数
8

概念変換をめざす理科の授業において、個々の生徒の心的変容をリアルタイムでフィードバックするためのツールとして「運勢ライン法」を改良し、使用した。概念変換は概念切り替えとコミットメントの変化によって測定した。この結果、授業者の授業設計の意図にもかかわらず、多様な学びのパターンが存在することがわかった。また、概念変容は実験によってより、むしろ討論など相互作用の中に生じることが明らかになった。さらに、授業における教師の「まとめ」が科学理論習得にとって重要な役割を演じていることも明らかになった。運勢ライン法は授業の流れにほとんど影響を与えずに、個々の生徒の心的変容をリアルタイムで測定でき、その解釈も直感的に可能であり、教育の臨床研究のツールとして有用である。
著者
遠西 昭寿
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会研究会研究報告
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.1-4, 2007
参考文献数
11

科学リテラシーを育成する理科学習においては、科学の方法や技法、科学的能力や態度の育成ではなく、科学の「ことば」である科学知識の習得とその使用の方法を教えるべきである。観察や実験は、それ自体が目標なのではなく、科学の「ことば」としての科学知識の意味を確証し正当化するために行われるべきである。