著者
西尾 美穂 岡田 十三 武居 和佳子 酒本 あい 吉見 佳奈 市田 耕太郎 安田 立子 村越 誉 本山 覚
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.321-326, 2010
被引用文献数
1

産婦人科医師不足や閉科医療機関の増加に伴い,産婦人科救急患者の受け入れ困難が社会問題となっている.そこで産婦人科一次救急の現状を改善すべく,当院産婦人科救急外来を受診した症例について分析し検討を加えた.対象は2008年1月から12月までの1年間に千船病院産婦人科救急外来を受診した2913例である.22.9%(667)は当院受診歴のある再診例で,10.8%(314)は母体搬送を含む紹介例,残りの66.3%(1932)は紹介状のない全くの初診例であった.1920例が救急車での受診であり,入院を要したのは17.8%(519)であった.受診時刻別の分析では20時から0時までの症例数がとくに多く,0時を越えると受診症例数は減少したが,救急搬送数は時刻による変動は認められなかった.さらに紹介例,初診例に関し受診理由,入院,手術施行の有無などを詳細に分析した.受診理由として母体搬送では切迫早産が最も多く,母体搬送以外の紹介例では子宮外妊娠,卵巣腫瘍などが多かった.初診症例では切迫流産などの流産関連疾患,月経困難症,骨盤腹膜炎が多く認められた.産婦人科一次救急では約半数の症例が救急搬送であるが,多くは帰宅可能な軽症例で,かかりつけ医をもたずその場しのぎの受診となっている症例が多く認められた.一方で,緊急手術を要する症例や分娩まで医療機関にかからない未受診ハイリスク妊婦などの症例も少なからず存在した.これらのハイリスク症例や0時を越えても減らない救急搬送などが産婦人科業務をより過酷なものとし,産婦人科医師減少や周産期医療縮小へとつながる悪循環となっていることが推察された.救急車利用に対する患者教育とともにこれらの悪循環を断ち切ることが肝要であり,各因子の問題点を改善しつつ産婦人科救急における患者・医師双方に有益であるような新体勢を構築していくことが,今後重要と考えられた.〔産婦の進歩62(4):321-326,2010(平成22年11月)〕