著者
野村 文子
出版者
川村学園女子大学
雑誌
川村学園女子大学研究紀要 (ISSN:09186050)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.169-181, 2006-03-15

布橋灌頂会(ぬのはしかんじょうえ)とは,江戸時代の民俗行事であり,宗教儀礼である。女性は明治5年まで「女人禁制」のために立山に登拝できず,それゆえに,立て前としては極楽往生できなかった。実際には,それの代替えとも言うべき儀礼が女性救済のために用意されており,それが,布橋灌頂会であった。本稿では,立山博物館を中心とした研究・調査に基づいて再現された,この宗教儀礼2回(1996年・2005年)に参加した体験をもとに,この儀礼の意義を考察する。富山県国民文化祭立山フェスティバルの中心的イベントとして再現された第1回の時点では,白い死装束を着て女人衆を演じ,その後9年ぶりに再現された第2回の時点では,観客として参加した。伝統文化の継承,及び,女性学(女人救済・女人禁制)の視点に加え,2005年の調査では新たに「生と死」,すなわち,再生儀礼の要素を重要視する。目隠しをして布橋を渡り,血脈(けちみゃく)をいただき,いったん死んで,生き返る。これは現代人にも魅力ある一種の癒し儀礼とも考えられる。