著者
中江 竜太 佐々木 和馬 金谷 貴大 富永 直樹 瀧口 徹 五十嵐 豊 萩原 純 金 史英 横堀 將司 布施 明 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.398-402, 2019-10-20 (Released:2019-10-20)
参考文献数
12

カイロプラクティックという軽微な外力により両側頸部内頸動脈解離を来したと考えられた1例を経験したので報告する. 症例は41歳の女性, 痙攣を主訴に救急搬送された. 頭部CTでくも膜下出血を, 脳血管撮影でくも膜下出血の原因と考えられる左内頸動脈瘤を認めた. また両側頸部内頸動脈解離を認めた. 同日脳動脈瘤クリッピング術を行ったが, 翌日脳梗塞が出現した. その後の病歴聴取で27日前からのカイロプラクティックへの通院歴が判明し, 両側頸部内頸動脈解離の原因であると考え, 脳梗塞の原因も左頸部内頸動脈解離からの血栓塞栓症と考えた. 抗血小板薬で治療を行い第29病日にリハビリ病院に転院した. 発症3ヵ月後のMRAでは両側頸部内頸動脈解離は軽快した.
著者
久志本 成樹 横田 裕行 宮内 雅人 川井 真 辻井 厚子 金 史英
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.101-117, 2010-03-15 (Released:2010-05-13)
参考文献数
105
被引用文献数
1 1

敗血症における臓器不全の発現には,侵入病原微生物に対する過剰炎症反応が重要である。しかし,この理論的根拠は,高用量のエンドトキシン(ET)や細菌によるサイトカインストームモデルでの基礎研究結果であり,臨床病態を必ずしも反映しない。過剰炎症反応では説明できない臓器不全の遷延が予後を規定している。敗血症の病態は以下のような視点からの捉えることができる。(1)過剰炎症反応は,従来考えられていたほど長期間に及ばず,早期からの免疫抑制状態の存在が示唆される。剖検で共通してみられる細胞死は,リンパ球と腸上皮細胞のapoptosisであり,免疫担当細胞のapoptosisは急性期からの免疫抑制に関与しうる。(2)組織学的変化では説明のできない臓器機能障害には,ミトコンドリア機能障害が注目されている。細胞死がわずかであるにもかかわらず,臓器機能障害が認められることを支持するものであり,cytopathic hypoxiaとして捉えうる。ETは詳細に研究されている毒素であり,生理的状態の消化管内に約25gが貯蔵されるが,生体への少量の投与により敗血症病態が再現される。従来のETを標的とした抗体による臨床研究では転帰の改善を証明しえたものはない。EUPHAS trialは,腹腔内感染によるsevere sepsis/septic shockを対象として,ポリミキシンB固定化ファイバーによる血液吸着療法(PMX-DHP)による,(1)循環動態,(2)呼吸機能,SOFA(sequential organ failure assessment)score,28日死亡率などを検討したものである。PMX-DHPは循環動態の改善のみでなく,28日死亡率の改善を示し,中間解析にて中止基準を満たしたため64例にて中止された。本治験に関わる疑問点は,(1)ETレベルが測定されていないが,ET除去により効果が得られたものか? (2)治療対象として重要な白血球減少,血小板減少症例が含まれていない,(3)標準療法群では循環動態の改善がないのか? (4)標準療法群の28日死亡率 53%は高すぎないか? (5)ETの完全な除去が重要か? PMX-DHPは免疫抑制状態を改善するか? (6)64例エントリーでの中止は尚早,などが挙げられる。本治験結果は,わが国の診療を再認識するとともに,世界に影響を与える可能性がある。
著者
村田 希吉 大友 康裕 久志本 成樹 齋藤 大蔵 金子 直之 武田 宗和 白石 淳 遠藤 彰 早川 峰司 萩原 章嘉 佐々木 淳一 小倉 裕司 松岡 哲也 植嶋 利文 森村 尚登 石倉 宏恭 加藤 宏 横田 裕行 坂本 照夫 田中 裕 工藤 大介 金村 剛宗 渋沢 崇行 萩原 靖 古郡 慎太郎 仲村 佳彦 前川 邦彦 真山 剛 矢口 有乃 金 史英 高須 修 西山 和孝
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.341-347, 2016-07-20 (Released:2016-07-20)
参考文献数
26

【目的】重症外傷患者における病院前輸液と生命予後, 大量輸血および凝固異常との関連について明らかにする. 【対象と方法】Japanese Observational Study of Coagulation and Thrombolysis in Early Trauma (J–OCTET) で後方視的に収集したISS≧16の外傷796例について, 28日死亡, 大量輸血 (24時間Red Cell Concentrate : RCC10単位以上), 外傷性血液凝固障害 (Trauma–Associated Coagulopathy : TAC : PT–INR≥1.2と定義) の3つを評価項目として, 病院前輸液施行の有無の影響を検討するために多変量解析を行なった. さらに年齢 (65歳以上/未満), 性別, 重症頭部外傷合併の有無, 止血介入 (手術またはIVR) の有無により層別化解析した. 【結果】病院前輸液施行85例, 非施行711例であり, 両群間における年齢, 性別, 28日死亡, 大量輸血, 止血介入に有意差を認めなかった. 病院前輸液群ではISSが高く (中央値25 vs. 22, p=0.001), TACが高率であった (29.4% vs. 13.9%, p<0.001). 病院前輸液は28日死亡, 大量輸血の独立した規定因子ではなかった. TACの有無を従属変数とし, 年齢・性別・病院前輸液の有無・ISSを独立変数とするロジスティック回帰分析では, 病院前輸液 (オッズ比 (OR) 2.107, 95%CI 1.21–3.68, p=0.009) とISS (1点増加によるOR 1.08, 95%CI 1.06–1.10, p<0.001) は年齢とともに独立したリスク因子であった. 層別解析では, 65歳未満 (OR 3.24, 95%CI 1.60–6.55), 頭部外傷合併 (OR 3.04, 95%CI 1.44–6.42), 止血介入例 (OR 3.99, 95%CI 1.40–11.4) において, 病院前輸液は独立したTACのリスク因子であった. 【結語】ISS≧16の外傷患者に対する病院前輸液は, 28日死亡および大量輸血との関連は明らかではないが, TAC発症の独立したリスク因子である. 特に65歳未満, 頭部外傷合併, 止血介入を要する症例に対する病院前輸液は, TAC発症のリスクとなる可能性がある.
著者
金 史英 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.39-45, 2014-07-20 (Released:2014-07-20)
参考文献数
43

外傷診療における画像診断の有用なモダリティとなったCTが,短時間での全身撮影を可能とした結果,外傷初期診療時に全身CTを行う概念が広く受け入れられ,多くの施設で施行されることとなった.しかしJATECでは,primary surveyでのCTは推奨されず,循環不安定例に対する撮影は一般的には禁忌とされている. 近年,CTの技術的進歩とCTやIVR-CTの蘇生室等への設置がなされた結果,外傷患者に対する全身の撮影がより容易となり,全身CTのprimary surveyへの導入や循環不安定例に対する撮影が行われ,死亡率を減少させることが報告されている.従来の身体所見や画像検査を用いたprimary surveyは,もはや最適とは限らないともされ,最短時間で最適な治療をもたらし得る全身CTを,循環不安定例に対しても積極的に適用すべきである.しかしながら,循環不安定例の全てに安全に全身CTが施行可能とは限らず,我々はCTを撮影しない勇気を持ち続ける必要がある.