著者
鈴木 晃志郎 于 燕楠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>研究目的</b><br><br> 本発表は,地理学が得意とする空間的可視化の手法を用いて,富山県内の心霊スポットの分布が現代と100年前とでどう異なるかを空間解析し,その違いをもたらす要因について考察することを目的とする.本発表はエミックに扱われがちな事象をエティックに捉える試みであり,民俗学を中心に行われてきた妖怪変化の分類学を志向するものでもなければ,超常現象そのものの有無を論ずるオカルティズム的な関心も有しない.<br> 超常現象が何であるにせよ,それらが超常現象となり得るには,人目に触れ認知されなければならない.ゆえに超常現象は高度に文化的であり,その舞台として共有される心霊スポットは,組織化され商業化された一般的な娯楽からは逸脱した非日常体験を提供する「疎外された娯楽(Alienated leisure)」(McCannell 1976: 57)の1つとして社会の文化的機能のなかに組み込まれているとみなしうる.その機能に対して社会が与える価値づけや役割期待の反映として心霊スポットの布置を捉え,その時代変化を通じて霊的なものに対する社会の側の変容を観察することは,文化地理学的にも意義があると考えられる.<br><br><b>研究方法・分析対象</b><br><br> 2015年,桂書房から復刻された『越中怪談紀行』は,高岡新報社が1914(大正3)年に連載した「越中怪談」に,関係記事を加えたものである.県内の主要な怪談が新聞社によって連載記事として集められている上,復刻の際に桂書房の編集部によって当時の絵地図や旧版地形図を用いた位置情報の調査が加えられている.情報伝達手段の限られていた当時,恐らく最も網羅的な心霊スポットの情報源として,代表性があるものと判断した.この中から,位置情報の特定が困難なものを除いた49地点をジオリファレンスしてGISに取り込み,100年前グループとした.比較対象として,2018年12月にインターネット上で富山県の心霊スポットに関する記述を可能な限り収集し,個人的記述に過ぎないもの(社会で共有されているとは判断できないもの)を除いた57の心霊スポットを現代グループとした.次にGIS上でデュアル・カーネル密度推定(検索半径10km,出力セルサイズ300m)による解析を行い,二者の相対的な分布傾向の差異を可視化した.このほか,民俗学的な知見に基づきながら,それらの地点に出現する霊的事象(幽霊,妖怪など)をタイプ分けし,霊的事象と観察者の側とのコミュニケーションについても,相互作用の有無を分類した.<br><br><b>結 果</b><br><br> 心霊スポットの密度分布の差分を検討したところ,最も顕著な違いとして現れたのは,市街地からの心霊スポットの撤退であった.同様に,大正時代は多様であった霊的事象も,ほぼ幽霊(人間と同じ外形のもの)に画一化され,それら霊的事象との相互作用も減少していることが分かった.霊的なものの果たしていた機能が他に代替され,都市的生活の中から捨象されていった結果と考えられる.<br><br><b>文 献</b>:<br>MacCannell, D. 1976. <i>The Tourist: A new theory of the leisure class</i>. New York: Schocken Books.
著者
鈴木 晃志郎 于 燕楠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.55-73, 2020 (Released:2020-02-22)
参考文献数
134
被引用文献数
3

今日の地理学において,幽霊や妖怪を含む怪異は,専ら民俗学的な手法に依拠して検討されている.しかし隣接分野では,定量的な手法に基づいた知見が数多く存在し,客観性と厳密性を確保することによって学術的信頼性を高める試みが多くなされている.そこで本研究は富山県を対象とし,今からおよそ100年前(大正時代)の地元紙に連載された怪異譚と,ウェブ上に書き込まれた現代の怪異に関するうわさを内容分析し,(1) 怪異を類型化して出現頻度の有意差検定を行うとともに,(2) カーネル推定(検索半径8 km,出力セルサイズ300 m)とラスタ演算による差分の算出により,怪異の出没地点の時代変化を解析した.その結果,現代の怪異は大正時代に比して種類が画一化され,可視性が失われ,生活圏から離れた山間部に退いていることが示された.
著者
鈴木 晃志郎 于 燕楠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.35, 2019 (Released:2019-03-30)

研究目的 本発表は,地理学が得意とする空間的可視化の手法を用いて,富山県内の心霊スポットの分布が現代と100年前とでどう異なるかを空間解析し,その違いをもたらす要因について考察することを目的とする.本発表はエミックに扱われがちな事象をエティックに捉える試みであり,民俗学を中心に行われてきた妖怪変化の分類学を志向するものでもなければ,超常現象そのものの有無を論ずるオカルティズム的な関心も有しない. 超常現象が何であるにせよ,それらが超常現象となり得るには,人目に触れ認知されなければならない.ゆえに超常現象は高度に文化的であり,その舞台として共有される心霊スポットは,組織化され商業化された一般的な娯楽からは逸脱した非日常体験を提供する「疎外された娯楽(Alienated leisure)」(McCannell 1976: 57)の1つとして社会の文化的機能のなかに組み込まれているとみなしうる.その機能に対して社会が与える価値づけや役割期待の反映として心霊スポットの布置を捉え,その時代変化を通じて霊的なものに対する社会の側の変容を観察することは,文化地理学的にも意義があると考えられる.研究方法・分析対象 2015年,桂書房から復刻された『越中怪談紀行』は,高岡新報社が1914(大正3)年に連載した「越中怪談」に,関係記事を加えたものである.県内の主要な怪談が新聞社によって連載記事として集められている上,復刻の際に桂書房の編集部によって当時の絵地図や旧版地形図を用いた位置情報の調査が加えられている.情報伝達手段の限られていた当時,恐らく最も網羅的な心霊スポットの情報源として,代表性があるものと判断した.この中から,位置情報の特定が困難なものを除いた49地点をジオリファレンスしてGISに取り込み,100年前グループとした.比較対象として,2018年12月にインターネット上で富山県の心霊スポットに関する記述を可能な限り収集し,個人的記述に過ぎないもの(社会で共有されているとは判断できないもの)を除いた57の心霊スポットを現代グループとした.次にGIS上でデュアル・カーネル密度推定(検索半径10km,出力セルサイズ300m)による解析を行い,二者の相対的な分布傾向の差異を可視化した.このほか,民俗学的な知見に基づきながら,それらの地点に出現する霊的事象(幽霊,妖怪など)をタイプ分けし,霊的事象と観察者の側とのコミュニケーションについても,相互作用の有無を分類した.結 果 心霊スポットの密度分布の差分を検討したところ,最も顕著な違いとして現れたのは,市街地からの心霊スポットの撤退であった.同様に,大正時代は多様であった霊的事象も,ほぼ幽霊(人間と同じ外形のもの)に画一化され,それら霊的事象との相互作用も減少していることが分かった.霊的なものの果たしていた機能が他に代替され,都市的生活の中から捨象されていった結果と考えられる.文 献:MacCannell, D. 1976. The Tourist: A new theory of the leisure class. New York: Schocken Books.
著者
鈴木 晃志郎 于 燕楠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.55-73, 2020
被引用文献数
3

<p>今日の地理学において,幽霊や妖怪を含む怪異は,専ら民俗学的な手法に依拠して検討されている.しかし隣接分野では,定量的な手法に基づいた知見が数多く存在し,客観性と厳密性を確保することによって学術的信頼性を高める試みが多くなされている.そこで本研究は富山県を対象とし,今からおよそ100年前(大正時代)の地元紙に連載された怪異譚と,ウェブ上に書き込まれた現代の怪異に関するうわさを内容分析し,(1) 怪異を類型化して出現頻度の有意差検定を行うとともに,(2) カーネル推定(検索半径8 km,出力セルサイズ300 m)とラスタ演算による差分の算出により,怪異の出没地点の時代変化を解析した.その結果,現代の怪異は大正時代に比して種類が画一化され,可視性が失われ,生活圏から離れた山間部に退いていることが示された.</p>
著者
鈴木 晃志郎 伊藤 修一 于 燕楠
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.31, 2020 (Released:2020-03-30)

研究目的 異なる2種の点分布間の空間的関係を分析する方法である最近隣空間的随伴尺度(以下NSM)は,地理学では商業集積の分析などに用いられ,多くの成果を挙げてきた(Lee 1979, 石﨑1998).NSMは異なる2つの点分布傾向の随伴性を示す指標であり,ランダム分布である1を挟んで値が大きいほど2者は互いに避け合うように分布し,0に近いほど異なる2種の点同士が近接していることを示す.従って,2種の点分布でさえあれば,使用データが小売店舗などの位置情報である必要はないはずである. 超常現象が何であるにせよ,それらが超常現象となり得るには,何処かで何者かに認知されなければならない.ゆえに,共有された心霊スポットの布置は,社会が超常現象の舞台に与えた価値づけや役割期待の反映と目しうる.本発表はNSMを用いて,心霊スポットの空間分布特性をその他施設の分布傾向から検討することを試み,そこから怪異に投影された社会的役割を捉えることを企図している.主たる関心は,見えない怪異を地理学的・定量的に可視化することに注がれ,超常現象や心霊スポットそのものへのオカルティズム的関心は有しない.研究方法・分析対象 インターネット最大の心霊スポット紹介サイト「全国心霊マップ」から2019年11月入手した心霊スポットの全国住所データ1690件をサンプルとし,国土数値情報の公共施設データを別途用意してQGISで座標値を取得, NSMにより二者の随伴性を検討した.結果 結果を以下の表に示す.紙幅の都合から詳細は述べないが,仮説と反し公共施設のほぼ何れとも異なる独自の分布傾向を示すことが分かった.更に分析を進め,口頭発表では追加データやGIS による解析結果を示す予定である.文献:石﨑研二 1998. 店舗特性・立地特性からみた世田谷区におけるコンビニエンス・ストアの立地分析. 総合都市研究65: 45-67.Lee, Y. 1979. A nearest neighbor spatial-association measure for the analysis of firm interdependence. Environment and Planning A 11: 169-176.
著者
于 燕楠 伊藤 修一 鈴木 晃志郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2022年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.136, 2022 (Released:2022-03-28)

研究目的 超常現象が何であるにせよ,それらが超常現象となり得るには,人目に触れ認知されなければならない.ゆえに,その舞台として共有される心霊スポットの布置には,社会の価値観や役割期待が反映されうる.本発表は,基盤地図情報としてオープンデータ化されている各種公共施設や森林地帯のデータと心霊スポットの位置情報を手掛かりに,心霊スポットがどのような地物と近似の分布傾向を示すかの検討を通じて,分布傾向上の特質を解明する企図をもつ.エミックに扱われがちな事象をエティックに捉える試みであり,妖怪変化の分類学を志向するものでもなければ,超常現象の有無を論ずるオカルティズム的関心も有しない.研究方法・分析対象 周知のとおり,空間解析は商圏分析に代表されるXY軸上のデータの分析と,流域解析に代表されるZ軸の分析からなる.本発表ではこれを,①最近隣空間的隣随伴尺度による空間分布パターンの随伴性の分析(X,Y軸),②森林地帯ポリゴンを用いた被包含率の分析(X,Y軸),③DEMを援用した標高値および傾斜角の解析(Z軸)に読み替えることで,心霊スポットの分布特性を三次元的に検証する.データは,2021年時点で入手可能な最新の国土数値情報の各種公共施設と,森林地帯ポリゴン,「全国心霊マップ」から抽出した心霊スポットの点データである.分析対象には,その総面積(83,450 km²)がチェコ(78,865 km²)やオーストリア(83,871 km²)に比肩し,かつ広域自治体とその地理的領域がいずれも隣接する他の都道府県からの影響を受けない北海道を選定した.結 果 Z検定の結果,病院,最終処分場, 精神病院が心霊スポットとの有意な随伴傾向を示す一方,小学校,公民館, ダム, 浄水場, 役所, 配水池, 僻地保健福祉館, 火葬場が有意な離反傾向を示した.この傾向は、我々が先に公表した日本全国の分析結果と概ね矛盾しない(鈴木ほか2020). しかしながら,水平軸上では離反傾向にある浄水場,火葬場,配水池は,垂直軸(高度や傾斜角)上では心霊スポットと有意差が検出されず,分布傾向の近似性が示された.同様に,森林地帯ポリゴンを用いて,各施設の立地地点が森林地帯に含まれる割合を求めたところ,10%以上の値を示した施設はダム(25.3%),心霊スポット(33.3%),火葬場(37.8%),配水池(43.8%),浄水場(53.4%)の5種類のみであり,ここでも心霊スポットとの近似性が示された(全施設平均とのχ2検定結果はいずれも有意差あり). 心霊スポットは他の公共施設と異なる独自の分布傾向を示す(鈴木ほか2020).この独自性は,水平軸で病院や精神病院,最終処分場に近く,かつ垂直軸で有意差のない浄水場や配水池,火葬場に近似する高度や傾斜,あるいは森林への被包含率をもつ場所が心霊スポットの好発地になりうることを示した本発表の知見によって解釈可能である. 分析はなお継続中であり,当日はオープンデータを用いたさらなる分析結果を議論に供する予定である.文 献鈴木晃志郎・伊藤修一・于 燕楠 2020. 心霊スポットは何と空間的に随伴するのか. 日本地理学会発表要旨集2020(807) https://doi.org/10.14866/ajg.2020s.0_31
著者
若林 芳樹 鈴木 晃志郎
出版者
Japan Cartographers Association
雑誌
地図 (ISSN:00094897)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.3-16, 2003-12-28 (Released:2011-07-19)
参考文献数
107
被引用文献数
1
著者
鈴木 晃志郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.73-83, 2014-03-31 (Released:2014-04-23)
参考文献数
71

急速に多様化が進むジオパークは,国や地域によってさまざまな性格を帯びつつある.ジオパークの活動を地質学者や自治体関係者が牽引してきた日本では,その応用的な側面の検討に際して,教育的効果が強調され,地域振興との関わりでジオツーリズムが論じられることが多かった.しかし,火山地帯であり地震大国である日本においてジオパークのあり方を考える上で避けて通れないのは,地殻変動によってもたらされるネガティブな事象(災害)との関わりではなかろうか.本論文は,近年観光学で注目されているダークツーリズムの概念を紹介しつつ,ジオパークにおけるダークツーリズムの適用可能性について考察することを目的とする.
著者
鈴木 晃志郎
出版者
後藤・安田記念東京都市研究所
雑誌
都市問題 (ISSN:03873382)
巻号頁・発行日
vol.106, no.7, pp.4-11, 2015-07

1980年代以降、迷惑施設の立地に反対する住民たちの態度や行動を指して呼ばれるようになったNIMBY―。用語が広く定着する一方で、概念整理はほとんどなされてこなかった。NIMBY概念の生じた背景を振り返りながら、迷惑施設をめぐる諸問題を考える。
著者
鈴木 晃志郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

1990年代に飛躍的な進歩を遂げたICT(情報通信技術)は、誰もがウェブ上で情報交換できる時代をもたらした。いまや紙地図は急速にウェブや携帯端末上で閲覧できる電子地図へと主役の座を明け渡しつつある。二者の決定的な違いは、地理情報を介した情報伝達が双方向性をもつことである。Google Mapなどの電子地図とLINEやFacebookなどのコミュニケーションツールの連携で、利用者はタグや文章、写真を貼り付けてオリジナルの主題図を作成でき、不特定多数に公開できるようになった。また、OpenStreetmapなどに代表される参加型GISの領域では、官公庁や製図家に限られていた地理情報基盤整備の局面における、一般人の参画を可能にしつつある。<br> しかし、こうしためざましい技術革新に比して、利用者側に要求されるモラルや責任、リテラシーについての議論は大きく立ち後れている。阪神大震災の教訓を踏まえ、電子地理情報の基盤整備に尽力してきた地理学者たちは、2007年に制定された「地理空間情報活用推進基本法」に貢献を果たすなど、電子国土の実現に深くコミットしてきた。電子地理情報の利活用におけるユビキタス化は、その直接・間接的な帰結でもある。ゆえに、ユビキタス・マッピング社会の実現は、地理学者により厳しくその利活用をめぐるリスクや課題も含めて省察することを求めているといっても過言ではない。本発表はこうした現状認識の下、地理学者がこの問題に関わっていく必要性を大きく以下の3点から検討したい。<br><br>(1)地図の電子化とICTの革新がもたらした地理情報利用上の課題を、地理学者たちはどう議論し、そこからどのような論点が示されてきたのかを概観する。この問題を論じてきた地理学者は、そのほとんどが地図の電子化がもたらす問題を「プライバシーの漏洩」と「サーベイランス社会の強化」に見ており、監視・漏洩する主体を、地理情報へのアクセス権をコントロールすることのできる政府や企業などの一握りの権力者に想定している。本発表ではまず、その概念整理を行う。<br><br>(2)地理学における既往の研究では、地理情報へのアクセスや掲載/不掲載の選択権を、一握りの権力(企業や行政、専門家)が独占的にコントロールできることを主に問題としてきた。しかし、逆にいえば、権力構造が集約的であるがゆえに、それら主体の発信した情報に対する社会的・道義的責任の所在も比較的はっきりしており、そのことが管理主体のリテラシーを高める動機ともなり得た。これに対し、ユビキタス・マッピング社会の到来は (A)個人情報保護に関する利用者の知識や関心が一様ではない、(B)匿名かつ不特定多数の、(C)ごく普通の一般人が情報を公開する権力を持つことを意味する。それでいて、情報開示に至るプロセスには、情報提供を求めてプラットフォームを提供する人間と、求めに応じて情報提供する人間が介在し、一個人による誹謗中傷とも趣を異にした水平的な組織性も併せ持っている。ユビキタス・マッピング社会は、そんな彼らによって生み出される時にデマや風聞、悪意を含んだ情報を、インターネットを介してカジュアルに、広く拡散する権力をも「いつでも・どこでも・だれでも」持てるものへと変えてはいないだろうか。本発表では、ある不動産業者が同業他社あるいは個人の事故物件情報を開示しているサイトと、八王子に住む中学生によってアップロードされた動画に反感を抱いた視聴者たちが、アップロード主の個人情報を暴くべく開設した情報共有サイトの例を紹介して、さらに踏み込んだ検討の必要性を示す。<br><br>(3)地理情報をめぐるモラルや責任の問題は、端的には情報倫理の問題である。本発表で示した問題意識のうち、特にプライバシーをめぐる問題は、コンピュータの性能が飛躍的に向上した1980年代以降に出現した情報倫理(Information ethics)の領域で多く議論されてきた。本発表では、これら情報倫理の知見からいくつかを参照しながら(2)で示された論点を整理し、特に地理教育的な側面から、学際的な連携と地理学からの貢献可能性を探ることを試みる。<br>
著者
鈴木 晃志郎 佐藤 信彌
出版者
首都大学東京 大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻 観光科学専修
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
no.3, pp.95-116, 2010-03-30

本研究は、科学社会学の概念モデルであるアクターネットワーク理論を地理学に応用し、鉄道の延伸に伴って生まれたある街の社会史を状況論的に読み解く試みである。かつて太平洋側と日本海側から運ばれる塩の交易ルートにちなんで地名が定着した長野県塩尻市は、明治維新後、養蚕・生糸の生産・流通拠点の一角を担い、文明開化の黎明期を支えた。塩尻の市街化を促したのは、国家的事業として進められた鉄道建設であり、旧中山道に沿う形で延伸してきた中央本線と、北陸方面への大動脈である信越本線であった。鉄道が陸上交通の要として隆盛を極めた時代、二者の結節点に位置する塩尻もまた栄華をきわめ、結果的にそれは、半ば人工的に駅へと依存した中心市街地の形成に繋がった。しかし、そのことが却って、時代の変化に伴う幹線道路の拡張や、大都市近郊のベッドタウンとしての都市改変のいずれをも選択せぬまま、新駅移転とそれに伴う旧中心商店街地区の衰退傾向を座して眺める結果をもたらした。合併によって後年誕生した地元自治体は、旧中心商店街地区の縁辺部に事業所を構え、実質的に中心商店街地区に依存した自治体運営方針から抜けきれないまま、空洞化の進む旧駅前の中心商店街地区へのハコモノ的投資を続けて今日に至った。ここに、国策としての駅舎建設と、鉄道に二重に依存した都市構造が形作られたのである。輸送手段としての鉄道は、もはや地域コミュニティの核としての求心力を失いつつある。今後、自治体を含めた地域コミュニティには、鉄道を核として作り上げた既存の人的ネットワークの維持に留まらず、新規の居住者を増加させるための積極的な施策を提示していくことで、地域コミュニティの再定義をはかる工夫が求められる。
著者
鈴木 晃志郎
出版者
地域生活学研究会
雑誌
地域生活学研究 (ISSN:21869022)
巻号頁・発行日
vol.04, pp.3-11, 2013 (Released:2017-09-07)
参考文献数
21

地域生活学研究会の年報『地域生活学研究』は、大学図書館のリポジトリを活用し、大学の内外、専門のいかんを問わず幅広く寄稿できる実験的な電子ジャーナルとして新たな出発を遂げようとしている。本論文は、当該誌刊行の今日的意義について、特に近年急速に台頭しているメガ=ジャーナルへの批判的検討を踏まえて述べるとともに、メガ=ジャーナルの長所を包含する形で研究機関(とりわけ地方国立大学)における電子ジャーナルのあり方を探り、実践的な地域貢献の実験場として、『地域生活学研究』がもつ可能性についての提言をおこなうことを目的とする。
著者
鈴木 晃志郎
出版者
富山大学地域生活学研究会
雑誌
地域生活学研究 (ISSN:21869022)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.3-11, 2013

地域生活学研究会の年報『地域生活学研究』は、大学図書館のリポジトリを活用し、大学の内外、専門のいかんを問わず幅広く寄稿できる実験的な電子ジャーナルとして新たな出発を遂げようとしている。本論文は、当該誌刊行の今日的意義について、特に近年急速に台頭しているメガ=ジャーナルへの批判的検討を踏まえて述べるとともに、メガ=ジャーナルの長所を包含する形で研究機関(とりわけ地方国立大学)における電子ジャーナルのあり方を探り、実践的な地域貢献の実験場として、『地域生活学研究』がもつ可能性についての提言をおこなうことを目的とする。
著者
鈴木 晃志郎
出版者
後藤・安田記念東京都市研究所
雑誌
都市問題 (ISSN:03873382)
巻号頁・発行日
vol.106, no.7, pp.4-11, 2015-07

1980年代以降、迷惑施設の立地に反対する住民たちの態度や行動を指して呼ばれるようになったNIMBY―。用語が広く定着する一方で、概念整理はほとんどなされてこなかった。NIMBY概念の生じた背景を振り返りながら、迷惑施設をめぐる諸問題を考える。
著者
鈴木 晃志郎
出版者
歴史地理学会
雑誌
歴史地理学 (ISSN:03887464)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-20, 2014-01

本論文は、「歴史的景観権」が史上初めて認められて全国的な知名度を得た広島県の鞆の浦で、筆者が2008年に実施したアンケート調査の結果を分析、推進・反対派双方の論理構造を可視化するとともに、賛否の別を問わずその態度の強弱が、ある種の決まり切った説明図式(「神話」性)にどれだけ自己同一化しているかで説明できることを明らかにした。
著者
鈴木 晃志郎 鈴木 玉緒 鈴木 広
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.51-69, 2008-03-30

福山市鞆町は、古い城下町特有の道路狭小に由来する交通問題を解消すべく自治体が提示した港湾架橋道路案をめぐり、架橋推進派と架橋反対派との間で軋礫が続く場所である。本研究は当地における住民運動に焦点をあて、各種資料の内容分析および当事者への面接調査を通じて各々の住民運動の歴史的経過を詳細に検討した。その結果、鞆の住民運動のうち反対派のそれは、2000年ごろを境にその性格が大きく変化していることが明らかになった。2000年よりも以前、推進派と反対派の活動家は、港湾架橋に関しては相対する一方、まちおこし運動に起源をもつ古民家再生事業では協力する場面も見受けられた。しかし2000年以降、反対派の新しいリーダーの登場とともに、古民家再生事業においても架橋反対運動においても外部の力を取り込む方法が目立つようになり、これに伴って反対派の活動は地元で一種の孤立状況に陥りつつあることも明らかになった。推進派の行動様式は、閉鎖的な伝統的地域社会に由来するウチ/ソト意識や家父長制的性格をもっており、また彼らは地元の多数派であることもあって、世帯単位の署名集めや陳情などの伝統的な活動に終始した。他方、数の上で少数の反対派は、鞆の外部から有識者を呼び込み、マスコミを活用して町外へ援助を訴えることにより、その立場を補強しようとした。鞆の土木・建築景観を関心の対象とする工学系の有識者と、おのが立場を合理化する必要に迫られた反対派の利害が一致することにより、外部有識者は新たなアクターとして反対運動へと参入していくことになった。こうして町外のアクターと町内住民の大多数が架橋問題をめぐって対立する、やや奇妙な構図が成立したのである。
著者
鈴木 晃志郎
出版者
首都大学東京
雑誌
観光科学研究 (ISSN:18824498)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.31-39, 2010-03-30

宮崎県日南市飫肥(おび)地区は、古くから飫肥杉の産地として知られる林業の町であり、1587年に、秀吉の九州征伐で案内役を務めた功で飫肥の地を与えられた伊東祐兵が、同地に飫肥藩を置いて以降は、幕末まで伊東氏の城下町として栄えた。しかし、高度成長期の1955(昭和30)年をピークに人口は長期的な減少に転じ、町内の空洞化が進んでいる。一方でその歴史ある町並みの美しさから、近年は日南市の観光地区としての役割を担っている。1992年には映画『男はつらいよ』の、2004年にはNHK の朝の連続テレビ小説『わかば』の舞台となり、メディア誘発型観光現象が発生した。しかし、その効果は4年以内に終息し、地域への経済効果も限られたものにとどまった。現地ではむしろ、地域住民たちによってそれ以前から続けられてきた、地道なまちおこしや地域活性化の活動のほうが効果を挙げつつある。そこで本稿は、現地調査を通じて、ポスト・メディア誘発型観光の状況下におかれたこの町が、今いかなる試みを進めつつあるのかを検討し、内発的なまちづくりを通じて地域の諸問題を克服するうえでの示唆を得ることを目的とする。
著者
鈴木 晃志郎
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.385-399, 2000-08-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
80
被引用文献数
1 2

This paper summarizes the debate between Blaut and Downs (and his collaborator, Liben) concerning the development of mapping abilities of young children.Jean Piaget's theory of cognitive development has been one of the most influential theories in the field of cognitive mapping research. Two essential elements of Piaget's theory regarding the developmental sequence of spatial abilities with age are nativism and constructivism. A forum in the Annals of the Association of American Geographers journal in 1997 on the mapping abilities of young children helped to distinguish the intrinsic duality of Piaget's developmental theory and its influence on the debate between Blaut and Downs/Liben.Both Blaut and Downs/Liben studied young children's ontogenetic development of mapping abilities, but they examined different aspects of Piaget's theory. On the basis of nativism, Blaut recognized that children can perform various mapping tasks regardless of age, and he insisted that children naturally possess mapping abilities, whereas Piaget implied that they could not. In contrast, on the basis of constructivism, Downs and his colleagues emphasized that children's mapping abilities are the effect of both direct and indirect learning experience, and they pointed out some deficiencies in Blaut's testing method.In spite of their contrasting standpoints, both researchers were influenced by Piaget's theories, but emphasized different aspects of the complex process of cognitive mapping development.