著者
長谷川 美貴子 Mikiko HASEGAWA
出版者
淑徳短期大学紀要委員会
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
no.47, pp.117-134, 2008

最近、「感情を管理する労働」に対する関心が高まり、さまざまな議論がなされている。「感情労働」とは、サービス提供者側の感情を商品としてみなし、職務上望ましいと考えられる感情や精神状態に顧客が変化することを意図して、自分の感情を促進したり、抑制して感情表現の仕方をコントロールすることが、職務の中で課せられている労働のことを指す。わが国においては熟練看護師に関する研究が盛んに行われているが、同じ対人援助職である介護織に関する議論はほとんどなされていない。しかし、介護援助は「ケア」に特化した援助行為であることから、感情労働としての側面を有していることが考えられる。今回、介護学生の実習レポート『私の介護観』や実習中の直接面接方式による準構造的な聞き取り調査の内容分析から、「他者を援助する」という基本的な行為の中に組み込まれている感情管理の困難性が明らかとなった。
著者
長谷川 美貴子 Mikiko HASEGAWA
出版者
淑徳短期大学紀要委員会
雑誌
淑徳短期大学研究紀要 (ISSN:02886758)
巻号頁・発行日
no.48, pp.77-91, 2009

「ケア」とは相手を思いやり配慮する行為と一般的に捉えられており、そのためには相手に対して「共感」することが求められている。しかし、共感とは具体的にどのような感情の変容が起こり、援助者や被援助者に対してどのような影響を与えているのかが明確に説明されていないままである。共感の内実が明らかにされていないのに、援助者は共感することを強いられ、自分の感情を上手に操作することができずに、混乱したりストレスが過重にかかるという現状が生じている。介護援助や看護援助の根本原理となっている「ケア」を行う際に、援助者の感情操作が求められているとするならば、援助者は自分自身の感情のあり方を再帰し反省できなければならない。ここでは、社会学的視点から「共感」概念の明確化を試みる。
著者
飯岡 由美子 長谷川 美貴子 Yumiko Iioka Mikiko Hasegawa
雑誌
淑徳大学短期大学部研究紀要 = Shukutoku University Junior College bulletin (ISSN:21887438)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.123-141, 2017-02-15

高齢者福祉施設の援助者(特に介護福祉士)を対象に、ケアにおける共感性とバーンアウト傾向の関係性を明らかにするための質問紙法調査を行った。その結果は以下の通りである。①バーンアウト傾向と共感性には負の相関がみられた。②介護経験年数毎に特徴をみると、バーンアウト傾向は新人(1~2年目)から中堅(6~8年目)まで増え続けるが、達人(9年目)以降は減少し、新人の頃よりも低くなる。共感性はバーンアウトとは逆の傾向を示し、働き続けることによって低下していくが、9年目以降より高くなっていく。③利用者との関わりの中で、援助者がストレスを一番感じるのは、利用者が同じことを繰り返したり意思疎通困難な状況、次に拒否的な態度、三番目は暴力や暴言であった。④バーンアウト傾向の高い人は、認知的共感性の「視点取得」や「想像性」が低い。⑤心揺さぶられるほどの体験とバーンアウト傾向の関係をみると、バーンアウト傾向が一番高いのは、「ショックな体験」があり「嬉しい体験」の無い人であった。また、「ショックな体験」があったとしても「嬉しい体験」があると、バーンアウト傾向は低いという結果になった。超高齢社会であるわが国にとって、高齢者福祉施設への社会的ニーズは高まり続けているが、その役割を担う介護福祉士資格に対する法整備や教育体制づくりは遅れをとっている。現在の介護福祉士は以前のように三大介護を行っていればよい職種ではなく、「ケア」に関する高度な専門的知識・技術の必要な専門職であることを認識し、ケアに内在する共感性のあり方やバーンアウト、虐待に至るプロセス等の研究を続け、適切かつ明確な対策を早急に立てる必要性のある領域であることが明らかになった。