著者
杉山 昌典 門脇 正史
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.269-277, 2014 (Released:2015-01-30)
参考文献数
17

ヤマネGlirulus japonicusは本州,四国,九州,隠岐島後に生息するが,これまでに実施された全国分布調査は少ない.ヤマネの生息情報は近年ウェブ上で多く見られるようになったので,検索エンジンでその生息情報を収集し生息分布図を作成した.ヤマネの生息情報件数は年々増加の傾向にあり,その多くは中部地方に集中した.次いで関東・東北地方であり,一方,中国・四国並びに九州・近畿地方は少なかった.この地域間の差異は,森林面積の割合より高標高地の面積の割合に大きく関係していると考えられた.1年を通じてヤマネの生息情報が得られたが,生息情報件数は夏期に多く冬期は少なかった.正確にヤマネと同定可能な多くの情報が得られるため,インターネットを活用したヤマネの生息分布情報の調査は有効だと考えられる.
著者
羽方 大貴 門脇 正史 諸澤 崇裕 杉山 昌典
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.67-74, 2020 (Released:2020-02-14)
参考文献数
33

2014年5月から10月まで,長野県東部のカラマツ人工林に架設された297個の巣箱において,休息するヤマネGlirulus japonicusを捕獲し,空間明示標識再捕モデルにより生息密度を推定した.オス37個体,メス34個体,合計71個体のヤマネを個体識別し,再捕獲個体数はオス5個体,メス10個体であった.生息密度は雌雄全体で1.93±0.35個体/ha(平均値±SD),オス0.65±0.25個体/ha(平均値±SD),メス3.32±1.27個体/ha(平均値±SD)と推定され,メスの方が高かった.一方,推定された行動圏サイズは雌雄全体で3.42 ha,オス3.96 ha,メス0.98 haと推定され,オスの方がメスよりも大きかった.
著者
落合 菜知香 門脇 正史 玉木 恵理香 杉山 昌典
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.209-214, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ヤマネGlirulus japonicusの野生下での食性の季節変化を明らかにするため,糞分析を行った.長野県にある筑波大学農林技術センター川上演習林内に,ヤマネ調査用に164個の巣箱を設置し,2011年5月から10月まで約10日間隔で計16回,巣箱を点検して糞を回収した.回収した糞は60%エタノールで十分にほぐし,10×10のポイントフレーム法を用いて各月にその交点1,000点上の内容物を実体顕微鏡下(40倍)で観察し,各餌項目の出現割合を月ごとに比較した.交点上の内容物は節足動物,果皮他,マツ属の花粉,その他の花粉,種子2種に分類された.春には花粉,初夏は節足動物,晩夏から秋には種子を含む果皮などの植物質の餌が多く出現し,食性が季節的に変化していることがわかった.また,どの時期も糞中に節足動物と植物質の餌項目が出現し,特に節足動物は全ての月で25%以上の割合で出現したことから,ヤマネにとって重要な餌資源だと考えられる.
著者
玉木 恵理香 杉山 昌典 門脇 正史
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.15-22, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
24
被引用文献数
2

本研究では,耐久性があると考えられる塩化ビニル樹脂性パイプと木材を組合せた塩化ビニル樹脂製のヤマネGlirulus japonicus用の巣箱(以下,塩ビ管巣箱と略する)を考案した.本巣箱は市販の鳥類用木製巣箱キット(以下,木製巣箱と略する)よりも短時間で製作が可能であった(塩ビ7分/個, 木製20分/個).この巣箱の有効性を検証するため,2009年に長野県にある筑波大学八ケ岳演習林と川上演習林の2箇所に塩ビ管巣箱と木製巣箱を各100個設置して,ヤマネと他の動物による巣箱利用を比較した.2010年には鳥類のみ補足調査した.ヤマネによる平均巣箱利用率は塩ビ管巣箱(1.85±2.91%,平均値±SD)と木製巣箱(1.56±3.45%)間で差がなかったが,ヒメネズミによる平均巣箱利用率は塩ビ管巣箱(0.12±0.85%)の方が木製巣箱(1.84±5.03%)より小さかった(川上演習林のデータのみ示す).鳥類による巣箱利用率も塩ビ管巣箱(3%)の方が木製巣箱(19%)より小さかった.塩ビ管巣箱は製作時間が短いだけでなく,ヤマネ以外の動物の利用が少ない点で森林生態系に与える影響が少ないので,ヤマネの調査に有効と考えられる.
著者
門脇 正史
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-7, 1992-04-10 (Released:2017-05-24)
参考文献数
26
被引用文献数
1

Niche breadth and overlap of diets among two sympatric snake species, Elaphe quadrivirgata and Rhabdophis tigrinus, in the paddy fields in Yamagata were studied for four years (1983-1986). Stomach contents were taken by forced regurgitation and classified into five major categories or eight minor categories : major categories mainly consist of taxonomical groups (e.g. frogs or voles) and minor categories indicate species in a major category. In the major categories, frogs were found to be the most dominant for both E. quadrivirgata and R. tigrinus with food niche breadth, 0.331 (E. quadrivirgata) and 0.441 (R. tigrinus). Food resource overlap was 0.879 in the major categories. In the minor categories, Japanese tree frogs, Hyla japonica were most dominant among the two snake species with food niche breadth, 0.513 (E. quadrivirgata) and 0.600 (R. tigrinus). Food resource overlap was 0.875. Thus, the food breadth was slightly wider among R. tigrinus than E. quadrivirgata with high food resource overlap in both categories. No difference in food size and the distribution of the captured spots was found between the two snake species. Seasonal niche overlap was high (0.788). Abundant frogs as prey items of the snakes would permit a high overlap of food resources between the two snake species in the field studied.
著者
森 哲 戸田 光彦 門脇 正史 森口 一
出版者
日本爬虫両棲類学会
雑誌
爬虫両棲類学雑誌 (ISSN:02853191)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.107-115, 1992-06-30 (Released:2009-03-27)
参考文献数
42
被引用文献数
5

シマヘビ,アオダイショウ,および,ヤマカガシは直射日光により体温を上げて餌を探しまわる昼行性の捕食者であることがこれまで報告されているが,今回,モリアオガエルの繁殖池で夜間に活動しているのが観察された.これらのヘビの夜間の季節活動のピークは,モリアオガエルの季節活動のピークとよく一致した.観察されたヘビのほとんどは樹の枝上で胴体前部をのばして頭部を幹または下方向に向け静止していた.これらのヘビは下顎または側頭部を幹の表面にぴったりと接していることが多かった.3種のヘビによるモリアオガエルの捕食行動は10例観察された.以上の事実から,これらのヘビは,繁殖期間中に樹の幹を日周活動の通り道に利用しているモリアオガエルを,この位置で“積極的に”待ち伏せしていることが示唆された.ヘビの捕食戦術に影響を与えている要因について考察した.
著者
佐藤 真 中村 一寛 玉手 英利 門脇 正史 遠藤 好和 高槻 成紀
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.131-137, 2013 (Released:2013-08-13)
参考文献数
15
被引用文献数
2

山形県のニホンジカ地域個体群は20世紀前半に一時絶滅したと考えられているが,2009年以降,県内でニホンジカが再び目撃されるようになった.山形県で散発的に出没するニホンジカの出自を明らかにする目的で,県内の村山市,鶴岡市,小国町で交通事故死したニホンジカ4個体のミトコンドリアDNA調節領域の遺伝子分析を行った.その結果,1個体の遺伝子型(ハプロタイプ)が北上山地の地域個体群でみられる遺伝子型と一致した.一方,他の3個体の遺伝子型は,北関東以西の地域個体群で報告された遺伝子型と系統的に近縁であることがわかった.以上から,山形県のニホンジカは,少なくとも南北2つの地域から,別々に進出している可能性が示された.
著者
門脇 正史
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-7, 1992-04-10
被引用文献数
2

Niche breadth and overlap of diets among two sympatric snake species, Elaphe quadrivirgata and Rhabdophis tigrinus, in the paddy fields in Yamagata were studied for four years (1983-1986). Stomach contents were taken by forced regurgitation and classified into five major categories or eight minor categories : major categories mainly consist of taxonomical groups (e.g. frogs or voles) and minor categories indicate species in a major category. In the major categories, frogs were found to be the most dominant for both E. quadrivirgata and R. tigrinus with food niche breadth, 0.331 (E. quadrivirgata) and 0.441 (R. tigrinus). Food resource overlap was 0.879 in the major categories. In the minor categories, Japanese tree frogs, Hyla japonica were most dominant among the two snake species with food niche breadth, 0.513 (E. quadrivirgata) and 0.600 (R. tigrinus). Food resource overlap was 0.875. Thus, the food breadth was slightly wider among R. tigrinus than E. quadrivirgata with high food resource overlap in both categories. No difference in food size and the distribution of the captured spots was found between the two snake species. Seasonal niche overlap was high (0.788). Abundant frogs as prey items of the snakes would permit a high overlap of food resources between the two snake species in the field studied.
著者
門脇 正史
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-8, 2002-09-30
被引用文献数
1

ニホンアカガエルは,早春に水田の止水で繁殖する.しかし,近年多くの水田が圃場整備により乾田化し,ニホンアカガエルの繁殖場所である湿田は減少している.また,ニホンアカガエルは,止水であるにしても,ヨシのような植生に被われた湿地ではほとんど繁殖しないことが観察されている.すなわち,ニホンアカガエルとその繁殖場所を保全するためには,繁殖場所の環境条件(例えば,水温,植生被度,pH等)について明らかにしなければならない.水田と植生に被われた湿地の縁のような開けた水域の1日の平均水温は,植生に密に被われた湿地の水温よりも有意に高かった.一方,それらの調査地点間でPHおよびECにはほとんど違いはなかった.開けた浅い水域では,1日中水温が高いことにより,ニホンアカガエルの胚の発生が促進され,夜間や夜明けの低温を回避することが可能となる.湿田の存在はニホンアカガエルやその繁殖場所の保全のためには不可欠であることが示唆される.