著者
阿久津 聡 勝村 史昭 山本 翔平
出版者
株式会社 リクルート リクルートワークス研究所
雑誌
Works Discussion Paper (ISSN:24350753)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.1-21, 2021 (Released:2023-12-13)

本研究では、競争的な仕事環境と主観的不健康感との間の直接的および(ワーカホリズムを介した)間接的な関係を検討した。また、競争的な仕事環境と主観的不健康感の関係、および競争的な仕事環境とワーカホリズムの関係における認知の歪みの調整効果を検証した。データは、様々な業種、職種、さらには職位の就業者 9,716 名から収集した。その結果、競争的な仕事環境は、直接的にも、またワーカホリズムを介しても、主観的不健康感と正の関係性が示された。さらに、認知の歪みが、競争的な仕事環境とワーカホリズムとの間の正の効果を調整し、認知の歪みが高い場合の方が、(低い場合に比べて)その正の関係性が強まることが明らかになった。この研究は、従業員の健康に対する意識が高まっている日本企業にとって、重要で実践的な意味を持つものである。
著者
藤川 佳則 阿久津 聡 小野 譲司
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.38-52, 2012-12-20 (Released:2013-10-01)
参考文献数
48
被引用文献数
6

本論文は,サービス研究における「サービス・ドミナント・ロジック」の視点から,企業と顧客が共に価値創造に加わる「価値共創」プロセスについて論考する.既存研究の「単純,リニア,事前計画的」なプロセスと,我々の定性調査の初期知見が示唆する「複雑,ダイナミック,事後創発的」なプロセスを対比し,「アフォーダンス」,「コンテクスト」,「カルチャー」をキーワードとしたダイナミックモデルの構築への試論を展開する.
著者
阿久津 聡 内田 由紀子 中田 光紀 永田 智久 宮本 百合 Lee Jinju 山本 翔平
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2021-04-05

研究者らはこれまでの研究で、遺伝子発現の技術を使い、会社に対する評価や職場での協調、自己効力感といった要因が高いと炎症マーカーの抑制や細胞性免疫の増強につながることを突き止めた。本研究では、働く人々の健康に影響を及ぼす、①国の文化、②企業、③従業員という3つの要因間の関係性を理論化した「三層モデル」を構築し、産業医学・神経科学・心理学の方法論を援用してモデル検証する。さらにモデルを基に介入調査を立案・実施し、その効果検証まで行い、効果的な健康経営施策への含意をまとめる。
著者
山岸 俊男 坂上 雅道 清成 透子 高橋 伸幸 阿久津 聡 高岸 治人
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

平成29年度には、行動・心理・脳構造・遺伝子多型データセットの解析を進め、ゲーム行動と脳構造の関連性に関する実験を行った。その結果、以下の知見を含む複数の知見を論文化した。知見1:社会的規範の逸脱者への罰は、従来の研究では社会的公正動機に基づく利他的な行動と考えられてきた。しかし本研究の結果、規範逸脱者へ単に苦悩を与えたいという公正さとは無縁な攻撃的動機に基づく罰行使者もかなりの比率で存在することが明らかになった。さらに攻撃的罰行使者は左尾状核が大きいという脳形態的特徴があり、この尾状核は線条体に含まれることから、罰行使で何らかの満足を得ている可能性が示唆された。知見2:攻撃性と社会規範成立との関係については、学生参加者による検討から社会的地位の高さとテストステロン量の多さが、相手への支配的行動を強めることも明らかにされている。本研究の知見は、複数の罰行動の背後にある心理・神経基盤を混同してきた従来の研究へ警鐘を鳴らし、攻撃的な罰が社会的公正の達成へ正負いずれの方向に機能しうるかという観点からの研究の重要性を示唆するものである。海外の研究者と共同で信頼ゲーム実験を17カ国で実施し、ペアの相手の集団所属性について国を単位として内集団・外集団・不明集団で操作したところ、偏狭的利他性(内集団成員をより信頼・協力する)が文化・社会を超えた普遍的な心理的基盤である可能性と、そうした利他性は評判に基づいた間接互恵性によって相殺される可能性も併せて示された。これにより関係形成型独立性へと移行する社会制度設計に評判が重要な役割を果たすことが示唆された。本研究の最終目的につながる文化形成実験は、社会的ニッチ構築の観点からの心の文化差の説明を検証する世界初の本格的実験であるが、プレテストを繰り返し実施する中で適切な実験デザインを確定し、社会的ニッチ構築理論の精緻化を進めた。
著者
久保田 進彦 阿久津 聡 余田 拓郎 杉谷 陽子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.61-74, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
61
被引用文献数
2 1

ブランド研究はマーケティングにおける重要なテーマであり,現在も盛んに議論が行われている。そこで本稿では4人のブランド研究者が,いまなお広がり続けているブランド研究の現状や課題について語っていく。本稿は4つの短い論文の組み合わせから構成されるオムニバス形式であり,企業ブランドが組織におよぼす影響(阿久津論文),BtoBマーケティングにおけるブランディングの効果(余田論文),BtoCマーケティングにおけるブランドの機能(杉谷論文),そしてブランド消費をとりまく環境変化(久保田論文)という順序で議論が行われていく。ブランドという重要なテーマについて,4人の研究者が異なる視点から語ることによって,現代ブランド研究の多面性があらためて示されることとなる。
著者
阿久津 聡
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.14-29, 2002-09-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
95
被引用文献数
1

これまでブランドを研究対象としてきたのが主にマーケティングの分野だったこともあり,ブランド戦略の研究は経営戦略論の中で比較的関心の低いものだった.しかし,市場と組織の接点であるブランドの戦略を策定し実行することは,ポーターの競争戦略論に基づく「外から内」の え方と資源ベースの戦略論に基づく「内から外」の え方との間に生じる対立を弁証法的に綜合する作業と捉えることができる.戦略家が直面する矛盾やジレンマを乗り越えるために,ブランド戦略が広く経営戦略論の中で研究されることの意義について議論する.
著者
楠木 建 阿久津 聡
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.4-18, 2006-03-20 (Released:2022-08-05)
参考文献数
16

コモディティ化の本質は,競争によって製品やサービスの価値が,価格というもっとも可視性の高い次元に一元化されているということにある.そうであれば,価値次元の可視性を意図的に低下させ,競合製品との比較が困難な状態を構築すればコモディティ化を克服することができるという発想が出てくる.こうした脱コモディティ化の思考に立脚したイノベーションとして「カテゴリー・イノベーション」の概念を提示し,既存研究が主張しているさまざまなイノベーションの概念と相対化する.
著者
鈴木 智子 阿久津 聡
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.72-87, 2016-06-30 (Released:2020-04-14)
参考文献数
84

本論文では,日本でもポピュラーになりつつある共同ブランド戦略について,米国を中心として発展してきた先行研究をレビューしてこれまでの知見を整理した上で,日本における共同ブランド戦略について考察する。先行研究からは,共同ブランドは,親ブランドの高い一致あるいは適度に不一致のものが高く評価されることが明らかになっている。このことは日本人においても同様だが,日本人の場合は,さらに,親ブランドの一致が低い共同ブランドも高く評価される可能性があることが指摘される。また,米国では,適度に不一致な共同ブランドが高く評価されるためには,コミュニケーションによる説明の必要性が挙げられているが,日本では,そうした説明がなくても高く評価される可能性がある。本論文では,文化心理学の知見を援用しつつ,日本と米国ではこうした差がなぜ見られるのかについて説明を試みる。最後に,日本における共同ブランド戦略の実施に向けた提案と今後の研究課題についても述べる。
著者
井上 裕珠 阿久津 聡
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.83-98, 2015-01-09 (Released:2020-06-02)
参考文献数
66

解釈レベル理論では,「今ここにいる自分」と出来事との心理的距離によって出来事の解釈の具体/抽象レベルが変わると想定されており,消費者行動研究をはじめとした多くの研究において解釈レベルの違いが後続の評価や態度,行動に影響することが示されてきた。本稿では消費者行動分野における解釈レベル理論研究の動向をレビューしたうえで,多くの消費者行動研究で扱われてきた,個人のある時点の「状態」としての解釈レベルではなく,個人の持続的「特性」としての解釈レベルにも焦点を当てていく必要性を議論する。特に,異なる社会的カテゴリ間における解釈レベルの違いを検討する際に「特性」としての解釈レベルを考慮に入れることの重要性や必要性を指摘する。
著者
阿久津 聡 勝村 史昭
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.5-26, 2016-06-30 (Released:2020-04-14)
参考文献数
36
被引用文献数
4

本稿は,これまで企業と顧客との関係性の問題として議論されることが多かったブランディング活動について,組織力強化プロセスという観点から考察するものである。ブランディング活動は組織力の強化に寄与し,それによってブランド価値が高まるという分析的枠組みを提示し,それを基に複数企業のブランディング活動の内容とその効果を定性及び定量的に検討した。具体的には,当該企業の事例を基に,組織風土や社員の思考・行動様式に対してブランディング活動が及ぼす効果について定性的に分析した上で,日本市場における主要ブランドの価値を測定しているブランド・ジャパンの定量データを用いて対象企業のブランド力の推移からブランディング活動の効果を分析した。