著者
青柳 みどり 兜 真徳
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.167-175, 2006-03-31 (Released:2011-03-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

本論文では,一般の人々の電磁波問題に関するリスク認識認知や態度形成について,社会的なガバナンスの観点から議論を行う。電磁波問題は,新しく出現したリスクの典型である。それは,熱による影響以外の,特に超低周波(Extremely Low Frequency:ELF)の健康影響については,専門家の間での科学的評価が未だ合意に至っていない問題であるためである。暴露の周波数によって異なる健康影響がもたらされるのであるが,それがどの周波数の場合はどのような影響なのか,不確定なのである。このような状況下で,我々は,「予防的方策・予防原則」が社会的なガバナンスを考える上で重要な原則となると考えた。そして,この予防的方策・予防原則についての支持をみるために,インターネット調査を全国5000人の一般の人々を対象として実施した。この予防的方策・予防原則の支持についての要因をロジット回帰分析によって抽出したところ,予防的方策・予防原則を支持する有意な要因として,携帯電話への依存指数(常に携帯電話を使っているなど携帯電話への依存度を表す指数),携帯電話不安指数(携帯電話がないと不安,等不安度を表す指数)があがったが,送電線への不安は有意な変数としてはあがらなかった。これは,携帯電話については個人の使用状態を制御することでリスクの制御が可能であるが,送電線については個人ではまったく制御不可能であるためであると考えられた。
著者
青柳 みどり
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.197-208, 1990-07-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
16

従来の自然保護行政は,自然公園行政が中心で,貴重種や絶滅の危機にある生態系の保全が中心であったために,自然公園以外の地域にある森林などは余り積極的な保全施策がなされてこなかった。これに対して,最近,これら身近な森林を積極的に保全していこうという動きが高まってきた。それは自然公園などに比べて自然度の低い森林地域も自然保護の観点から大きな役割を果たしており,それぞれの特性に応じて保全していくことが必要であると認識されてきたためである。しかし,一方ではこれらの地域を適切に評価する方法がないために,説得力のある施策の展開には至っていないのが現状である。 本研究では,自然保護のための実用的な森林評価指標を作成した。具体的には,(1)生態系の構成要素として,植生自然度,まとまりの大きさ(面積),特定生物相の有無,土壌の回復困難度の4つを体系的に捉え,(2)デルファイ法とAHP法のアルゴリズムを組み合わせて用いて評価関数を決定し,専門家の判断を反映した定量的な指標を作成した。さらに,(3)乗法型の総合評価式を設定し,神奈川県林政情報システムを用いて,実際に評価値を算出した。 評価関数を採用したことにより,専門家の知見を的確に評価指標に反映させることができた。この際,デルファイ法をAHP法のアルゴリズムを用いたが,専門家の評価をうまく集約し,評価関数に反映することができた。ここで,作成された指標の構造並びに指標作成手法は一般性をもつと考えられるので,広く各地域での自然保護や環境管理計画などの施策に役立つと考えられる。
著者
兜 真徳 本田 靖 青柳 みどり
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.45-57, 2006-01-30

地球温暖化やヒートアイランド現象に関連して,夏季高温日の個人の温度曝露実態を調べることは,対象地域についての健康リスク評価にとって重要である。筆者らはこれまで,携帯型の温度計を用いて直接測定を行ってきているが,その結果については別途報告予定である。一方,室内における空調機器(AC)による温度制御の実態は,温暖化対策との関連でも,重要な情報であるので,本研究では,質問調査によって,その実態を調査解析した。 約16000の対象者に郵送調査で質問紙を送り,2090の有効回答を得た(有効回答率=13%)。回答者を北海道,本州・九州,沖縄に分けると,AC利用率は北海道で低い(40%)が,その他の地域ではいずれも90%以上であった。AC利用者の中で,気温が25-30℃の範囲で「暑いと感じたらすぐに付ける」は238名,「我慢できなくなったら付ける」が1156名であった。前者では,15-30℃でスイッチを入れる人が60%,後者では30-35℃でスウィッチを入れる人は40%であった。全体的にみると,気温が35℃以上となると,ACを持っている人のすべてがACを利用していることが明らかであった。したがって,気温35℃は,ACを地域全体が一斉に利用する「行動的閾値」であると言える。暑熱日の主訴をみると,最も頻度が高いのが"よく眠れない"と"疲れるあるいは体が不調"が多く,前者は57%,後者が28%であった。また,これらの主訴はその他の地域より沖縄に高い傾向があった。一方,熱中症にかかったことがあるかどうかを聞いた質問に対しては,沖縄が一番低く,反対に北海道で高い傾向があった。北海道でも暑熱日には35℃を越える年もあり,そうした高温日にはその他の地域よりリスクが上昇することを示唆している。本調査結果のまとめには,有効回答率の低さ,また,郵送質問調査でもあり,バイアスがかかっている可能性が否定できない。別途報告している個人曝露調査結果のまとめと比較しつつこの結果を利用していただければ幸いである。