著者
須山 聡
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.597-618, 1993-10-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

本稿は,職人の地域的移動パターンの側面から輪島漆器の生産地域の拡大を考察することを目的とする.漆器関連事業所の分布は, 1960年代における輪島漆器業の発展に伴い拡大した.また1960年代には輪島漆器業の技能継承システムである徒弟制が変質し,漆器業とは無関係な出自をもつ労働力が広範囲から参入した.職人の移動をライフパスとして分析した結果,(1)家業継承者を主体とした,中心地域において滞留するパターン,(2)周辺・外縁地域出身で,中心地域で修業し,独立後周辺地域に移動するパターン,(3)中心地域出身で,独立後周辺地域に移動するパターン,が抽出された,輪島漆器の生産地域の拡大は,徒弟制の変質によって増加した漆器業とは無関係な出自をもつ,(2)および(3)のパターンに該当する職人が,良好な生産・居住環境を確保した結果生じたものである.同時に(1)のパターンは中心地域における漆器関連事業所の集積を継続させている.
著者
須山 聡
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.13, pp.957-978, 2003-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
52
被引用文献数
1 1

本稿は富山県井波町の瑞泉寺門前町の景観を分析し,井波彫刻業が景観形成に果たしな役割を明らかにする.彫刻業者は,1970年代半ば以降門前町に進出し,近世末から近代にかけての商家建築を借り,作業風景や作品が外部から見える工房を意図的に作った.伝統的な彫刻と伝統的な建築物との組合せを,歴史的背景を知らない観光客は,「伝統」的景観と理解するが,両者は歴史的に関連を持たない.ゴッフマンの劇場理論を用いた分析から,門前町には観光と工業の二つの舞台が併存することが明らかになった.前者は「伝統」を,後者は生産をテーマとし,いずれにおいても彫刻業者が主役を演ずる.「伝統」テーマを期待した観光客は,彫刻業者が生産をテーマとしていることを理解しようとせず,彫刻業をアトラクションとして楽しむ.行政・地域社会は,彫刻業を利用した街路の修景などで,舞台を「伝統」テーマに沿って演出した.彫刻業者は工業の舞台にあり続けながら,行政・地域社会が演出した観光地の景観を経営資源として利用している.門前町の景観は,異なる景観形成主体によって演出された舞台の二重構造によって形成された.
著者
須山 聡
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.3-20, 2018 (Released:2019-04-01)
参考文献数
13

本論は,奄美大島における世界自然遺産登録に向けたさまざまな取り組みをたどることにより,奄美大島の人びとにとって世界自然遺産が持つ意味を,地域間の関係性に即して明らかにすることを目的とする。奄美の世界自然遺産登録運動は,地域の活性化,観光の振興,奄振の延長・継続を具体的な狙いとしていたが,その本質は内地に奄美の存在を認めさせることであった。世界遺産の理念とは相容れない地域的なエゴイズムが,運動を進める推進力となった。そのため,顕著な普遍的価値という,世界遺産の理念は奄美では正当に理解されることなく,「言葉の受容」にとどまった。その背景には,国家を上回る権威と結びつくことにより,日本本土を奄美に振り向かせるという奄美の戦略があった。世界自然遺産は,日本に奄美を認めさせるための道具として機能した。
著者
須山 聡
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.219-237, 1992-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

本稿は,輪島漆器業が従来からの製造工程と高級品生産を維持したまま発展した基盤を明らかにすることを課題とし,生産流通機構・労働力・原材料の3点から検討した.輪島漆器業は,18世紀以降高級漆器の生産技術を蓄積し,塗師屋を中核とした分業によって手作業を主体とした生産を行なっていた. 1960年代以降の需要の急増に,輪島漆器業は生産流通機構を再編成し,〓漆工程の効率化と販売先の多様化によって,製造工程を変えることなく対応した.漆器生産に必要な労働力は,輪島市と近隣市町村から確保され,徒弟制によって技能を習得する.塗師屋を中核とした分業と徒弟制は,原材料基盤が能登半島内に存在した1920年代までに確立された.現在でも輪島市内には原材料調達機能が存在し,原材料基盤の消失を補完している.高級漆器の生産に必要な,漆器関連事業所・労働力・原材料調達機能が,すべて輪島に存在していることが,生産流通機構の再編成を実現し,輪島漆器業の発展の基盤となっている.
著者
須山 聡
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

本論は高齢化と過疎化の進展の結果,居住者がいなくなるという,図式的な「過疎化言説」を批判的に捉え,離島の過疎を客観的に評価する材料を提供し,離島の無人化について新たな知見を得た。戦後,全国で78島が無人化したが,多くは過疎化以外の要因によるもので,過疎化にともなう人口減少の末の「無人化島」はわずか15島にすぎないことがわかった。さらにそれらのうち12島は行政からの勧奨に応じた集団離島によって無人化した。無人島の発生は,過疎の終着点ではなく,むしろ行政が無人島化を最終的に進めた。集団離島に際しての行政/住民の意志決定プロセスを,詳細に検討する必要があることがわかった。
著者
石橋 洋輝 鈴木 博 府川 和彦 須山 聡
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. RCS, 無線通信システム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.130, pp.137-142, 2009-07-09

受信アナログ信号から同相・直交成分のディジタル信号を生成するIQ検波において,リアルゼロ系列から波形を再生する技術を適用し,受信信号の飽和増幅出力からIQ波形を生成する方法を提案する.この方法では受信線形増幅における非線形歪抑圧の要求が大幅に緩和される.そのため,今後のRFとベースバンドを一体化したSi-CMOS技術に適合している.まず変調された受信信号の帯域外に正弦波を加える.その後信号を増幅し直交検波を行う.受信増幅器としてはある一定レベル以下には線形増幅の領域があり,それ以上では飽和する飽和形線形増幅器と,線形領域がない完全なリミタ形の2種類について検討する.リアルゼロ系列の時刻をサンプリングするTDCには線形補間形と単純量子化形の2種類を検討する.計算機シミュレーションにより提案した検波器の性能を明らかにする.最大変調周波数の64倍の搬送周波数で信号を送信する狭帯域信号に対して,ピーク振幅の1/32以上が飽和する歪の大きな受信増幅器でもEVMが-50dB以下の高い精度で検波波形を再生できることを示す.また,それ以上の歪の増幅器の場合,EVMが-27dB程度と再生波形の精度が大きく劣化することを示す.
著者
小瀬良 開光 今井 哲朗 北尾 光司郎 須山 聡
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 B (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.J106-B, no.9, pp.618-627, 2023-09-01

現在,伝搬損失推定のためのDCNN(Deep Convolutional Neural Network)モデルが検討されている.本モデルは都市構造から伝搬損失に関連する特徴量を自動抽出することで伝搬損失を推定することから,高精度かつ汎用性の高い推定モデルとして期待されている.しかし,その性能は十分に明らかになっていない.本論文では,BS距離マップ(基地局からの距離を要素とするマップ),MS距離マップ(移動局からの距離を要素とするマップ),建物高マップ(建物高を要素とするマップ)の入力に対して,BS距離マップと建物高マップがそれぞれ伝搬損失の距離特性と場所依存特性に大きく寄与していることを明らかにする.また,Grad-CAM(Gradient-weighted Class Activation Mapping)による解析により,DCNNモデルが移動局周辺の“低層建物及び建物の存在しない空間の分布”を伝搬損失推定の判断根拠にしていることを明らかにする.
著者
奥村 幸彦 増野 淳 南田 智昭 須山 聡 岡田 隆
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.186-199, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
14

第5 世代移動通信システム(5G)の特長を生かした医療分野の新しいソリューション実現に向け,NTTドコモが推進してきた5G を医師対医師の遠隔診療に活用する事例の検討及びその実証試験の実施結果を紹介する.2017 〜 2019 年度に総務省の5G 総合実証試験として医療機関を含むパートナーとともに推進した実証試験は,地域医療・救急医療の充実に向け,5G の超高速通信を生かして複数の医療機器から出力される高精細診断映像とテレビ会議の映像をリアルタイムに同時伝送する試験用のシステムを構築し,それらを用いて複数の診療科を対象とした試験・評価を通して5G を活用する遠隔診療システムの有効性を確認した.地域医療分野における実証試験では,和歌山県において,山間部診療所での遠隔診療,遠隔訪問診療,遠隔教育,遠隔移動診療の各事例について,また,救急医療分野における実証試験では,群馬県前橋市において,救急搬送の高度化ソリューションとして,3 または4 拠点間で救急搬送情報を共有する形式の遠隔診療について,それぞれ実験用5G 無線通信装置を用いた試験を行い,各試験に参画した医療従事者及び関係者から多角的な評価結果を得た.
著者
須山 聡
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.23-45, 1995-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51
被引用文献数
1 1

本研究の目的は,在来工業の企業内における職業教育が,熟練労働力の養成を通じてもたらす,労働力の地域的移動パターンを明らかにすることである。 在来工業地域に関する研究は,従来新しい生産技術の導入を契機とした地域の変化を主な研究対象としてきた。しかし在来工業地域の過半数は現在でも伝統的生産技術に依存している。本研究では在来技術への依存度が高い輪島漆器業を事例とした。 輪島漆器業においては,現在でも徒弟制による熟練労働力の再生産が行われている。徒弟制は輪島漆器業の企業内技能教育制度である。本来の徒弟制は,漆器関連事業所の子弟が技能を「相続」することを第1の機能とし,熟練技能者の単純再生産に終始していた。しかし, 1960年代後半における輪島漆器の生産増加に伴い,漆器業に無関係な家庭に育った子弟の新規参入が増加した。その結果,徒弟制の機能は熟練技能者の拡大再生産に変質した。 加飾職人に対するアンケートをライフパスの概念を用いて時空間的に分析した結果,徒弟制による熟練技能者の養成過程における職人の移動パター・ンが3つ抽出された。第1は旧輪島町内で出生した家業継承者による「滞留」型である。このパターンは変質以前の徒弟制の機能である,技能の「相続」に伴うもので,旧輪島町における漆器関連事業所の集積を継続させている。 第2・第3の移動パターンは「求心-離心」および「離心」型である。このうち,第2のパターンは周辺・外縁地域,第3のパターンは旧輪島町で出生した新規参入者がたどる軌跡である。徒弟制による技能訓練を受けるためには漆器関連事業所が集積する旧輪島町に移動する必要がある。弟子入り時に旧輪島町で生まれた職人そのまま滞留するが,それ以外の者は旧輪島町方向に求心移動を行う。技能を修得した後,彼らは独立した職人となるが,自ら作業場となる場所を確保する必要がある。良好な作業・生活環境を有する土地を確保するために,彼らは周辺・外縁地域に離心的に移動する。これら2つの移動パターンは,漆器関連事業所の分布拡大をもたらした。
著者
須山 聡
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.100092, 2015 (Released:2015-04-13)

本論は高齢化と過疎化の進展の結果,居住者がいなくなるという,図式的な「過疎化言説」を批判的に捉え,離島の過疎を客観的に評価する材料を提供し,離島の無人化について新たな知見を得た。戦後,全国で78島が無人化したが,多くは過疎化以外の要因によるもので,過疎化にともなう人口減少の末の「無人化島」はわずか15島にすぎないことがわかった。さらにそれらのうち12島は行政からの勧奨に応じた集団離島によって無人化した。無人島の発生は,過疎の終着点ではなく,むしろ行政が無人島化を最終的に進めた。集団離島に際しての行政/住民の意志決定プロセスを,詳細に検討する必要があることがわかった。
著者
チョウ ケツテイ 須山 聡 鈴木 博 府川 和彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. RCS, 無線通信システム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.147, pp.59-64, 2007-07-12
被引用文献数
1

MIMO-OFDM移動無線伝送システムにおいて,周波数選択性フェージング環境における伝送特性の改善と送信信号のピーク電力の低減を同時に実現できるサブキャリア位相ホッピング選択マッピング(SPH-SLM)を,非線形入出力特性を有する送信電力増幅器のある伝送系に適用し,送信信号スペクトラムおよびパケット誤り率(PER)における改善効果を明らかにする.SPH-SLMは,各サブキャリアの位相を回転させ,誤り訂正符号による周波数ダイバーシチ利得を向上する.また,位相を回転させるパターンを複数用意し,ピーク対平均電力比(PAPR)を最小にするパターンを選択する.具体的には,4×4MIMO-OFDMシステムにおいて,SPH-SLMによりPAPRを抑えた信号を送信電力増幅器に入力し,非線形歪が送信スペクトラムや伝送特性に及ぼす影響について計算機シミュレーションを行う.位相パターン数U=16のSPH-SLMを用いることにより従来のMIMO-OFDMに対してCCDF=10^<-3>においてPAPRが3.1dB低減できることを示す.また,帯域外スペクトラムにおいて,入力バックオフ(IBO)を8dBとしたときSPH-SLMにより20MHzにおける帯域外幅射電力を5dB以上抑えられることを示す.さらに,伝送特性においては,R=1/2のQPSKとR=3/4の16QAM,64QAMにおいてSPH-SLMによりPERが改善され,非線形歪の影響をほとんど受けないIBOの下限はSPH-SLMでは6dBであることを示す.