著者
額賀 淑郎
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.132-147, 2016 (Released:2017-09-30)
参考文献数
40

社会学の秩序問題は多様な対立を調整する社会メカニズムの研究である. これまで多くの理論研究によって複数の秩序概念が示されたが, その主な構成要素であるコンセンサスを分析した研究は少ない. そのため, 本稿は政治哲学者J. ロールズが提唱した重なり合う合意の分析に焦点を当てる. 「重なり合う合意」とは, 立憲民主社会において自由で平等な人格をもつ市民が, それぞれの多様な世界観から共通の基本原則を支持し, その結果, 社会において長期の正義が可能になるという理念である. 本稿の目標は, 1) ロールズの重なり合う合意を分析し理念型の重複合意モデルとして再構成すること, 2) 重複合意モデルの事例分析が可能になる条件を分析すること, である.結果として, ロールズの重なり合う合意は, 狭い重なり合う合意と広い重なり合う合意に分類できること, その広い重複合意モデルは秩序問題の分析モデルとして利用できること, を示した. まず, 重なり合う合意は異なる抽象レベルの倫理判断の整合性という「反照的均衡」を前提とするが, その分類によって重なり合う合意を2分類した. 次に, 広い重複合意モデルには, 利益相反の回避, 機会均等の手続き, 集団構成の多様性, 共有価値の同一性, 背景理論・基本原則・データ間の整合性, 長期の安定性, という条件が必要であると考察できた.
著者
額賀 淑郎
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.815-829, 2006-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
48
被引用文献数
2 1

近年, 生物医学や先端医療の問題に対して, 科学社会学のアプローチを医療社会学に導入した「医科学の社会学」が起こりつつある.本稿の目的は, 医療社会学と「医科学の社会学」の交錯を理解するため, 医療化論から生物医療化論へ展開してきた過程を分析することにある.1970年代の医療化概念は, 1) 日常生活の問題から医学の問題への再定義, 2) 医療専門職の統制強化, を特徴とする.医療化論は「生物学的事実としての疾病」と「逸脱としての病い」という分類を前提とし, 前者を所与と見なし後者の分析のみを行ってきた.その結果, 1980年代には, 社会構築主義者は, 生物医学の社会的側面のみを分析し, 明確な定義がないまま「生物医療化」の術語を導入した.1990年代には, ゲノム研究などの進展により, 「遺伝子化」概念が生物医療化の1つとして提唱されたが, 遺伝医療の内容の分析は行われなかった.しかし, 2000年代になると, 科学社会学者は, 生物医療化をイノベーションによる生物医学の歴史的変動として定義づけた.そのため, 近年の生物医療化論は, 1) 科学的知識と社会的知識を共に含む包括的な研究, 2) 実証的な事例研究, 3) 内在的な立場からの内容の分析, という新たな展望を開く.
著者
額賀 淑郎
出版者
科学技術政策研究所 第2調査研究グループ
巻号頁・発行日
2012-04-26 (Released:2012-08-09)

本研究の目的は、科学技術コミュニケーションの中で、市民のニーズに応じて科学技術相談や調査研究を行うサイエンスショップに注目して、日本における「大学のサイエンスショップ」の現状を明示し、大学の社会貢献とサイエンスショップのつながりを明らかにすることである。調査結果によれば、大学のサイエンスショップの事例における特徴は、実習、研究、地域の社会貢献であり、取組方法、課題、コミュニケーション等において多様性があった。また、コンセンサス会議、シナリオワークショップ、倫理委員会と比べると、大学のサイエンスショップは、地域や科学技術のアセスメントを行うよりも地域リーダーらの育成を重視していた。
著者
額賀 淑郎
出版者
日本科学史学会
雑誌
科学史研究 (ISSN:21887535)
巻号頁・発行日
vol.43, no.231, pp.150-160, 2004 (Released:2021-08-12)

This paper analyzes the development and use of visual tools known as "family trees" that allow medical practitioners to see hereditary family diseases. Family trees, consisting of family names and a tree diagram on personal traits, became popular among neurologists during the late 19th century. However, social scientists have devoted only scant attention to the historical and social processes through which, before the rediscovery of Mendelian laws, medical practitioners came to use family trees as scientific devices for nosographical classification of hereditary diseases, such as hereditary chorea(one of the initial terms used to describe Huntington's disease). The purpose of this paper is to trace the complex processes by which family histories, namely the descriptive nosography of family members, and family trees became distinct during the late 19th century. This paper argues that family trees of hereditary chorea became an important clinical tool, with the establishment of teaching hospitals, although, in the case of hereditary chorea, family trees were used to support different interpretations of the notion of heredity. The use of family trees was made possible by three conditions including the centralization of medical care, the standardization of medical records, and the circulation of medical information among medical practitioners.
著者
額賀 淑郎
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.132-147, 2016

<p>社会学の秩序問題は多様な対立を調整する社会メカニズムの研究である. これまで多くの理論研究によって複数の秩序概念が示されたが, その主な構成要素であるコンセンサスを分析した研究は少ない. そのため, 本稿は政治哲学者J. ロールズが提唱した重なり合う合意の分析に焦点を当てる. 「重なり合う合意」とは, 立憲民主社会において自由で平等な人格をもつ市民が, それぞれの多様な世界観から共通の基本原則を支持し, その結果, 社会において長期の正義が可能になるという理念である. 本稿の目標は, 1) ロールズの重なり合う合意を分析し理念型の重複合意モデルとして再構成すること, 2) 重複合意モデルの事例分析が可能になる条件を分析すること, である.</p><p>結果として, ロールズの重なり合う合意は, 狭い重なり合う合意と広い重なり合う合意に分類できること, その広い重複合意モデルは秩序問題の分析モデルとして利用できること, を示した. まず, 重なり合う合意は異なる抽象レベルの倫理判断の整合性という「反照的均衡」を前提とするが, その分類によって重なり合う合意を2分類した. 次に, 広い重複合意モデルには, 利益相反の回避, 機会均等の手続き, 集団構成の多様性, 共有価値の同一性, 背景理論・基本原則・データ間の整合性, 長期の安定性, という条件が必要であると考察できた.</p>
著者
額賀 淑郎
出版者
科学技術政策研究所 第2調査研究グループ
巻号頁・発行日
2011-09 (Released:2012-03-13)

本研究の目的は、科学技術分野の文部科学大臣表彰等の受賞研究の現状を明らかにし、研究者のコミュニケーションと研究成果とのつながりを分析することである。アンケート調査の結果では、まず、受賞研究のアイデアを出すために「これまでの自分の研究」を情報源として、大学院のトレーニングが役に立ったとみなす回答者が多かった。次に、大学の理学工学領域において、研究者とチームに所属しない研究者とのコミュニケーション(以下「ノンチーム対面コミュニケーション」)回数は、研究成果と相関があった。特に、研究代表者のノンチーム対面コミュニケーション回数が多い場合、外国語論文数が多い比率は高かった。また、研究代表者のノンチーム対面コミュニケーション回数が多い場合、研究成果(論文等)が実用化につながった比率は高かった。