著者
大矢 雅彦 中山 正民 高木 勇夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.35-49, 1988-05-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
18
被引用文献数
5 8

(1) 平野地形をつくるもっとも重要な要因は上流から運搬されてくる砂礫の質,量である.これは流域の地形,地質と密接な関係をもっている.この地形,地質には著しい地域差がある. 一般的に日本は山地地域は地盤の隆起を,平野は沈降をくりかえしてきた.そして平野地形は河川が山地より運搬してきた砂礫によって形成されてきた. (2) 平野における基本的な地形要素の組合せは次のようになる. 扇状地+自然堤防(後背湿地)+デルタこれらの地形要素とその組合せは洪水の繰返しによって形成され,その代表例は中部日本の濃尾平野である. (3) しかし,実際には沖積平野の地形要素の組合せには著しい地域差がある.この地域差をもたらした重要な原因は上流における盆地及び遷急点をもった峡谷の有無である.盆地があると上流から供給された砂礫のうち,かなりの部分が盆地で堆積してしまい,小粒径のものだけが峡谷を経て流下する.このため扇状地はないかあっても小規模となる.これらの事を最上川など数河川の河床砂礫の粒度分析でたしかめた.盆地・峡谷の機能はその形態,規模,縦断勾配などによって異なる.これらの相違は河川の流向が島孤に対して平行であるか,交叉するかによって影響を受けている.また,海岸部では沖積面は基準面(海面)変動の影響をうけている. (4) 沖積扇状地,自然堤防,後背湿地,デルタなどの地形要素とその組合せの特色は洪水の歴史を示すものである.それ故平野の地形分類を行えば将来万一洪水氾濫があった場合の洪水の状態の予測が可能のはずである.水害地形分類図の価値は濃尾平野をおそったべラ(伊勢湾)台風によって立証された.この他地形分類図は地震の際の液状化地点の予測にも利用できる.