著者
高木 潤野
出版者
長野大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

場面緘黙は、話す力があるにも関わらず学校や職場等の社会的状況において話せないことを主たる症状とする。適切な介入により緘黙症状を改善させることが可能であるが、本人の治療への参加が消極的であると介入が困難となる。本研究の仮説として、治療への参加が消極的な場面緘黙当事者は「治療によって緘黙症状を改善させることができる」という期待(自己効力感=セルフ・エフィカシー、SE)が低いのではないかと考えた。そこで、場面緘黙当事者を対象としたセルフ・エフィカシーを高めるための心理教育を試みた。10代~30代の場面緘黙当事者10名(女性7名、男性3名)を対象に、各6回のカウンセリングを行った。初回と最終回を除く2~5回目では、個別のカウンセリングに先立ち「治療によって緘黙症状を改善させることができる」という期待を高めるための心理教育を実施した。各回において、1)治療への参加意欲、2)「緘黙症状を改善させることができる」という特定の課題に特異的な期待(SSE)、3)一般的な個人の行動傾向としての自己効力感(GSE)、4)緘黙症状を自己記入式の質問紙を用いて測定した。初回の参加意欲とSSE(緘黙症状の改善への期待)には相関がみられた。治療により緘黙症状が改善するという期待が高い者ほど、参加意欲が高い傾向があることが示された。一方、初回の参加意欲とGSEには相関がみられなかった。6回の介入を通じて、SSEについては10名中6名に上昇がみられた。GSEについてもわずかな上昇を示した者がいた。緘黙症状については10名中4名が顕著な改善を示し、その他の6名についても改善傾向がみられた。SEと緘黙症状の改善との関係をみると、緘黙症状の改善が大きい者の方がSSE及びGSEの上昇率が高い傾向がみられた。以上の結果から、「治療によって緘黙症状が改善すること」への期待を高める心理教育は有効性がある可能性が示された。
著者
角田 圭子 高木 潤野 臼井 なずな 冨岡 奈津代 梶 正義 金原 洋治 広瀬 慎一
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.47-55, 2022-11-30 (Released:2022-12-26)
参考文献数
21
被引用文献数
2

本研究の目的は,場面緘黙(SM)児の発話行動を評価する日本版SMQ(SMQ-J)を作成し,その信頼性と妥当性を検討することである。4歳から12歳のSM児の養育者139人を対象に日本語に訳されたSMQ及びCBCL/4-18を実施した。原版SMQは3因子構造であるが,探索的因子分析の結果,4因子が抽出された。「社会場面」と「家族関連場面」の他は,原版の「学校場面」因子が「教師」と「同級生」に区別された。各下位尺度の信頼性が確認された。また,本研究のSM児と冨岡(2016)の統制群101人との比較から,SMQ-Jの判別的妥当性が示された。さらに,SMQ-JとCBCL/4-18との関連から弁別的妥当性は示されたが,SMの程度と不安の高さとの関連性は明確には示されなかった。本研究の結果から,SMQ-Jの信頼性と妥当性が概ね確認され,SM児の発話行動の評定ツールとしての有用性が示唆された。
著者
高木 潤野
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.207-217, 2021-02-28 (Released:2021-08-31)
参考文献数
19

本研究は、十分な研究が行われていない青年期・成人期の場面緘黙当事者を対象に治療的介入を行い、緘黙症状を改善させることができるか否かを明らかにすることを目的とした。 対象は10代~30代の場面緘黙当事者10名(女性7名、男性3名)であった。プログラムは不安階層表を用いた段階的なエクスポージャーと心理教育により構成した。エクスポージャーは個々に設定した目標に基づき、対象者の日常生活場面で実施した。エクスポージャーを行う行動は人、場所、活動を組み合わせて検討し、不安階層表を用いて実施可能な行動を決定した。6回のセッションを約1か月間隔で実施した。その結果、緘黙症状を示す質問紙の合計得点は10名中9名で上昇が認められた。また10名全員に何らかの症状の改善がみられ、 2名については緘黙症状が解消した。以上のことから、青年期・成人期であっても治療的介入により緘黙症状を改善させることができる可能性が示された。
著者
高木 潤野
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.209-218, 2018-12-31 (Released:2020-03-10)
参考文献数
23

本研究は、日本語を母語とする場面緘黙(SM)児に何らかの言語・コミュニケーション能力の問題がみられるかを明らかにすることを目的とした。自閉スペクトラム症および知的障害の診断のない幼児から中学生のSM児32名を対象に、日本版子どものコミュニケーション・チェックリスト(CCC-2)、音声の聴取、場面緘黙質問票(SMQ-R)を行った。その結果、一般コミュニケーション能力群(GCC)値は32名中4名が44(3パーセンタイル)以下であった。領域ごとでは、2領域以上で5パーセンタイル以下の値があった者は13名であった。音声の聴取ができた21名中2名に構音障害疑い、2名に吃音疑いが認められた。これらを併せると言語・コミュニケーション能力に何らかの問題が認められた者は32名中16名であった。したがって、日本語を母語とするSM児においても海外の先行研究と同様に、言語やコミュニケーションに関連する能力に問題がある者が半数程度存在する可能性が考えられた。
著者
高木 潤野 梶 正義
出版者
長野大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は「場面緘黙」を対象とした大規模な実証的研究である。場面緘黙は話す力があるにも関わらず学校等で話せなくなってしまう状態である。適切な治療によって症状の改善が可能であるが、学校や医療現場において認知度が低く適切な対応が得られていないケースが多い。本研究では、縦断的調査によって場面緘黙の実態を解明し効果的な介入手法を確立することを目的とする。幼児期から中学生までの場面緘黙児200名を対象に、心理検査及び半構造化面接によって不安症や発達障害の併存、学校への適応状態、発症要因等を評価する。また5年間の縦断研究により心理療法等の介入の効果を比較することで、より効果的な介入方法を明らかにする。
著者
高木 潤野
出版者
長野大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

音韻表象の不完全さが、ダウン症児の構音の誤りの一貫性の低さや発話の不明瞭さに関わっている可能性が指摘されていることから、目標とする語からの異なり方の大きい刺激と小さい刺激を用い、ダウン症児・者がどのような反応を示すかを検討した。その結果、正答率は「異なりなし条件」90.5%、「異なり小条件」19.0%、「異なり大条件」52.4%であった。このことから、ダウン症児・者は誤り方の大きいものと比較して誤り方の小さいものでは誤りを認識することが困難であることが明らかとなった。これは、ダウン症児・者の音韻表象が不完全であることによる可能性が考えられた。また音韻表象の不完全さはダウン症児の一貫性の低い構音の誤りや発話の不明瞭さの要因の1つである可能性が示唆された。