著者
照井 克俊 藤田 友嗣 高橋 智弘 井上 義博 遠藤 重厚
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.857-863, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

トリカブトは毒性の強いアコニチン類を含有する有毒植物である。本研究では,1984年1月から2011年12月の間に当センターに搬送されたトリカブト中毒患者30症例について,中毒の原因,中毒が発生した時期,摂取した植物部位,中毒症状,治療,転帰を調査した。対象は男性22例,女性8例で,年齢は5歳-78歳(平均48.3歳)であった。トリカブト中毒の原因は,自殺目的での摂取15例,食用植物との誤食14例,民間療法としての使用1例であった。自殺目的によるトリカブト中毒は1年を通じて発生し,誤食による中毒は4-6月の山菜採取の時期に集中していた。自殺目的では根を,誤食では葉を摂取する傾向にあった。中毒症状は,不整脈(26),嘔気・嘔吐(24),口唇・口角の痺れ(23),四肢の痺れ(23),動悸(19),血圧低下(18),胸痛・胸部不快感(17),意識障害(13),脱力感(11),めまい(9),麻痺(5),腹痛(4)が生じた。不整脈では心室性期外収縮が最も観察され(26例中17例,65.4%),心室細動(VF)は26例中7例(26.9%)に観察された。不整脈の治療として抗不整脈薬のリドカインが主に投与され,軽症例には効果的であったがVFを生じた重症例には効果がなかった。難治性のVF患者には,経皮的心肺補助法(PCPS)による治療が効果的であった。転帰は30症例中3例が難治性のVFにより死亡した。トリカブト中毒では多彩な症状が出現したが,重篤な不整脈の出現の有無が転帰を左右した。トリカブト中毒で生じる不整脈の治療では,VFを生じるような重症例には抗不整脈薬や除細動の効果は限定的である。重症例では早期にPCPSの積極的な導入を行い,血行動態の安定化を図ることが救命にとって重要である。本結果は今後のトリカブト中毒の治療に有用な情報になるものと考える。
著者
高橋 智弘 照井 克俊 及川 浩平 青木 英彦 遠藤 重厚 小松 隆 中村 元行
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.SUPPL.2, pp.S2_36-S2_40, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
12

背景:早期の電気的除細動が院外心肺停止(CPA)患者の生存率改善に有用であると報告されている.当院救命救急センターへ搬送されたCPA症例の現状を調査したので報告する.方法:2007年4月から2010年3月まで当院救命救急センターの外来診療記録をもとにCPAの病名のある270名のうち,救急隊により直接当センターへ搬入された院外CPA 223例を後ろ向きに調査した.結果:CPA患者の原疾患のうち心血管疾患は136例(61.0%)で,そのうち一般市民の目撃のある症例は60例(自宅内発生が70%)であった.60例のうち心室細動(VF)は20例であり,その予後をみると生存退院例が8例(40%),社会復帰例が5例(25%)であった.対象の中に一般市民による自動体外式除細動器(AED)使用例(public-access AED:PAD)はなかったが,院外で救急隊員による除細動が成功した3症例は全例神経学的後遺症を残さず社会復帰していた.無脈性電気活動(PEA)または,心静止(asystole)は合計40例であり,生存退院例が3例(8%)あったものの,社会復帰した例はなかった.内因性CPA症例への一般市民の心肺蘇生法(CPR)実施率は42.1%であり,過去の当院での成績に比べてやや増加していた.考察:院外心肺停止患者の救命率向上には,一般市民へのCPRのさらなる普及と,AED設置の充実が重要と考えられた.