著者
齋藤 弘一
出版者
宮城県警察科学捜査研究所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

○研究目的脱法ドラッグ等のスクリーニング分析において、IR分析は、迅速、簡便であり、GC/MSやLC/MSによる分析結果に対して相補的な情報が得られ、構造異性体の識別等にも有効である。しかし、IR分析によるスクリーニングのためには、前提条件として、薬物標準品の実測スペクトルデータが必要であるが、それらを網羅的に得ることは必ずしも容易ではない。そこで本研究では、違法薬物の化学的構造から、量子化学計算により、赤外吸収スペクトルを予測し、予測されたスペクトルにより違法ドラッグのスクリーニングが実現可能である否かを検討した。○研究方法包括指定薬物の化学構造から、非経験的分子軌道法を用いて、種々の基底関数により構造最適化を行った後、振動解析計算により、IRスペクトルを予測した。予測されたスペクトルについて、標準品の実測データとの比較を行った。赤外吸収スペクトルの予測計算には、Gaussianを用いた。○研究成果置換基の位置がo, m, pの構造異性体であるJWH-250、JWH-302、JWH-201について、基底関数としてB3LYP/6-311G (d, p)を選択して計算を行った場合、予測されたIRスペクトルは、実測されたスペクトルの違いを反映していることが認められた。しかし、ピーク波数には、振動の非調和性等に由来する系統的なずれがあり、単一のスケーリング係数では、実測スペクトルとのずれを、完全に一致させることは出来なかった。量子化学計算で求められるのは、分子1個の孤立系の場合であり、実際の試料では塩酸塩等で結晶構造を有しており、孤立系では赤外不活性であった結合が、結晶状態では赤外活性となりピークが増える場合もある。従って、赤外スペクトルの予測は、試料が気体状態の場合に、実測により一致すると考えられ、今後は、GC-IR等のように、試料中の単一成分ごとに気体状態のIRスペクトルが測定できる分析方法が望ましいことが示唆された。また、スペクトル検索アルゴリズムも、波数のずれを考慮した新たな手法の開発が望まれる。