著者
石上 文正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-26, 2009-03-31

「ある程度閉鎖性をもった、人に安らぎを与えてくれる物理的・意味論的空間」を「窪地」と定義し、宮崎駿が製作した8本のアニメ映画にみられる「窪地」の意味を考察し、その結果、つぎの10の意味を析出した。1<子宮>、2<生命(死と再生、治癒・治療)>、3<聖域>、4<シェルター>、5<休息>、6<暖かさ>、7<ふるさと・基地>、8<一体化>、9<自己回帰>、10<秘密>。さらにこれらの意味を考察して、宮崎アニメの「窪地」は、水と樹木と深く関わっていることを明らかにした。「窪地」と水と樹木は、ユング心理学では、母親元型の形態であるとされている。宮崎は、それらのアニメ映画で、直接的には「母」を描いていないが、象徴的に描いていると考えられる。この"矛盾"にこそ、宮崎アニメの本質があるのかもしれない。そして、その「母なる」風景とそこに点在する「窪地」は、私たちの存在とも深く関わっている。
著者
日比野 雅彦
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.25-33, 2005-03-31

『ル・シッド』はコルネイユの代表作であるばかりでなく、フランス演劇を代表する作品として知られている。作品の書かれた17世紀前半は、フランスが混乱期から絶対王政へと移行する時期であり、社会に対する影響力の強かった演劇の世界でも、当然、作品は時代の雰囲気を反映するものとなった。『ル・シッド』は現代では恋愛劇ととらえられることもあるが、当時のパリの観客にとっては、スペイン軍の侵略を撃破する英雄ととらえられたはずである。また、主人公の一人シメーヌも女性でありながら、男性的性格が強く描き出され、独特の魅力となっている。
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.31-42, 2010-03-31

トマス・ワイアットは、ヘンリー八世に仕える詩人として、ペトラルカ恋愛詩の翻訳から出発した。彼は、権力構造の生む残酷な不条理を目撃し、宮廷の女たちの虚飾、不実を体験的に知り、そうした現実認識を、運命の冷酷さ、ペトラルカ的聖女とは対極の不実な女性像として、彼の恋愛詩に表現した。彼はまた、外交使節として説得、欺瞞、韜晦の語法を身につけ、宮廷社交界における求愛の言語を学び、その繊細な言語感覚により、イタリア・ソネットの形式と英語の自然な音調を融合させ、英語ソネットの原型を確立した。ワイアットの内省的な詩には、人間性の洗練と理性的な両性関係を指向するプロテスタント・ヒューマニズムの倫理性が見られる。
著者
石上 文正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-14, 2010-03-31

宮崎アニメの代表的な9作品を構造的に分析し、どのようなく世界>が制作されているかを明らかにした。その結果、 6つの特徴が得られた(1)「基準牡界」の設定が一作ごとに異なっている。(2)各作品において、基本的には、<現実世界>と<異世界>が制作されている。しかし、それらの<世界>の様相はさまざまで、一作ごとに異なっている。(3)さまざまな<世界>の制作ばかりでなく、<世界>同士の関係も複雑である。(4)さまざまな世界の制作が可能になったのは、魔法、異類、空飛ぶ機械等の不思議な事物が、「基準」として設定されているためであると考えられる。(5)二つの<世界>が対立的な場合には、しばしば、仲介者・仲裁者が登場する。(6)宮崎は、当然視されている分類体系に疑問符を投げかけている。
著者
日比野 雅彦
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-46, 2008-03-31

アレクサンドル・デュマの『三銃士』は19位紀フランスで書かれた小説の中でも人気の高いものの一つである。当時新たこ誕生したこの新開連載小説は、ダルダニヤンとその仲間たちの冒険とともに、フランスの歴史を再発見しようとした19牡紀の人々にとって時代の嗜好にあった作品であった。本稿は『三銃士』の文体を数量的に分析することでこの作品の劇的特徴と劇作家であったデュマの書いた小説の魅力を明らかにしようとするものである。
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.45-53, 2007-03-31

イギリス・ルネサンスの1590年代、<ソネット連作>流行のなかで書かれたシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』には、ペトラルカ恋愛詩の愛の観念がアイロニカルに扱われている。だが、ここにはまた、家父長制の維持装置としての結婚観も、発生期の「個人主義的情緒愛」と結びついた結婚愛の理念も、共存している。さらに、そうしたエリート文化に対して、カーニヴァル的肉体としての乳母に象徴される民衆的な性愛の観念がある。そうした文化のダイアロジズムのなかで、恋人たちの悲劇的な死は、生と死と再生の循環のなかに回収される。
著者
日比野 雅彦
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.37-46, 2009-03-31

外国語を学ぶと文化の違いに気が付くことがある。とりわけ日常生活の表現にとまどうことが多い。専門的な内容を扱う語は一義的な意味しかもたないため問題は少ないが、日常語は同じような表現でも様々な意味をもつことが多い。また、生活に密着した食べ物や動植物にも表現に差異を伴うものが多く見られる。また、日本語は英語やフランス語と比べて擬音語が多いことも知られている。日常生活に関連する表現を調べてみると興味深い文化の様々な側面が見えてくる。
著者
森 順子
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
no.1, pp.51-63, 2002-03

作家、宇野千代の九十九年間の人生は、絶対的権力者としての父親の存在を抜きにしては語ることが出来ない。それは恐怖心として、彼女の精神の髄まで刻み込まれる。父親の言葉によって植え付けられた自信喪失に懊悩し続ける中で、宇野千代がいかにして生涯、自分自身であることを希求して生き抜いたかを探る。
著者
石上 文正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-30, 2002-03-31

2001年9月11日の惨事に関わるブッシュ大統領の演説のフレーム分析を行った。とくに戦争に関する演説にしばしば活性化する二項対立フレームがいつ確立し、どのように変容したかを明らかにした。早くも惨事の夜に受け身型二項対立フレームが確立し、翌日にはさまざまな再定義が行われ、攻撃型二項対立フレームも確立した。また対立する二項には抽象化・拡大化・具体化・微細化等のさまざまな操作が加えられ、世界はさまざまなレベルで二分され、その対立が際だたされた。このテクストの分析から見る限り、惨事の翌日には軍事行動を決意したことがうかがえる。
著者
芳賀 康朗
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.61-70, 2008-03-31

本研究では、自分の位置を定位できなくなったり目的地やランドマークを見失ってしまった「迷子場面」において運行される対処行動と方向感覚の自己評定との間にいかなる関連性があるのかについて検討すること目的とした。迷子場面におけるエピソードを分析した結果、方向感覚の自己評定の高い人は自分の有している内的情報を活用して効率的な対処行動を選択する傾向が強く、方向感党の自己評定の低い人は他者の有している情報に依存した対処行動を不明確な意図の下に運行する傾向が強いことが示された。
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-74, 2005-03-31

ヘンリー・コンスタブルの『ダイアナ』は、1590年代のイングランドで流行した<ソネット連作>形式の詩集であるが、詩人の愛する女性がだれなのかはよくわからない。この詩集の特質をなすものは、当時の支配的な感情の様式であるペトラルキズムと、そこに混入したイングランド土着の要素、そして、コンスタブル特有の<奇想(コンシート)>である。コンスータブルの生涯と作品について、わかっていないことが多いのは、詩人のカトリックの信仰がかかわっている。
著者
小山 正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.43-50, 2002-03-31

本稿では、初期の子どもの象徴遊びの発達と言語獲得について、象徴機能、表象機能の発達という観点から考察を加えた。特に、ふり遊びなどにみられる表象・象徴化能力の発達が子どもの遊びやことばの生産性と密接に関係していることを強調した。遊びを通して象徴機能・表象機能の発達を支えていくことは、また学童期の子どもの良き自己感や自我形成を考えるうえにおいても重要であることを指摘した。
著者
石上 文正
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-14, 2007-03-31

この小論では、批判的談話分析の手法、とくにNorman Faircloughの手法を、科学哲学者Stephen C.Meyerのintelligent designに関するエッセーに応用し、分析を試みた。Faircloughは、ディスコースの中の「常識」や「前提」を「イデオロギー」と考えている。Meyerのエッセーには、"evidence"と"explain"という「科学性」を示す言葉が当然のごとく、しばしば用いられている。このことから、同エッセーは、科学イデオロギーの強い影響をうけた、科学的ディスコースであることが明らかになる。つまり、「科学」が「イデオロギー」として機能していると考えられる。さらに、同エッセーを科学的ディスコースに作り上げている手法について考察し、同ディスコースの議論構造、最先端の科学的知識の提示、著名な科学者の引用、科学的比喩の使用、"know"という叙実的動詞を用いた事実的前提の提示などを指摘した。
著者
岡 良和
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.27-36, 2008-03-31

ことわざは、文化による影響を大きく受けているため、従来、異文化理解の題材として扱われることが多かった。本論文では、認知言語学的な立場から、日本人の英語学習者に対して、ことわざを授業でどのように救うかについて、ひとつの提案を行うものである。このアプローチにより.普遍的な観点から、ことわざを取り上げる方向が示唆されよう。
著者
森 順子
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.15-29, 2010-03-31

萩原葉子は詩人萩原朔太郎の長女である。子供時代は「死に方が分からなくて生きていた」と述懐するほどに孤独であった。祖母に苛められ、抜きがたく植えつけられた自己否定の観念に苦しんだ日々である。作家になり、ダンスに没頭することによって、抑庄されてきた心を解き放ち、自己を高め続けたのである。彼女は自らの心に潜む父への「分析できない二重の愛憎」を吐露している。本稿では、父親に対する思いに焦点を当て、家族との関係を通して萩原葉子の内的世界を探る。
著者
岩崎 宗治
出版者
人間環境大学
雑誌
こころとことば (ISSN:13472895)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.47-60, 2006-03-31

恋愛ソネット集『アストロフェルとステラ』におけるフィリップ・シドニーの霊感の源は<自然の女神>である。ここに歌われている愛はペトラルカ風の精神的な愛ではなくて、中世文学の<自然の女神>に結びついたエロテイクな欲望である。この時代の文化のなかで、変という私的な領域は、政治という公的領域と交叉していて、ソネット連作における求愛のレトリックは、政治における雄弁のレトリックと通底している。シドニーは、ステラへの求愛の背後に、エリザベスに対する婉曲な政治的メッセージを隠しているのかもしれない。