出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-11, 2007 (Released:2019-03-03)

1. 端午の節句に供えられる全国のかしわもち,ちまきについて,利用植物,もちの名称,葉の利用形態,もちの種類などの調査を文献や聞き取りによって行った. 2. 46都府県よりかしわもち型224地点,ちまき型200地点の情報が得られた. 3. かしわもち型の利用植物は17種類で,サルトリイバラ(127)がもっとも多く,カシワ(57),ホオノキ(7),ミョウガ(7),ナラガシワ(5),コナラ(4)であった.サルトリイバラの利用は西日本に多いが,佐渡や関東地方にも認められた.カシワは東京を中心とした関東地方で利用されていた. 4. ちまき型の利用植物は21種類で,ササ類(108)がもっとも多く,ヨシ(28),ススキ(22),タケ類(14),マコモ(8),ゲットウ(7),トチノキ(4),ナラガシワ(4)であった.裏日本側ではササ類,表日本側ではヨシ,ススキ,マコモ,南九州ではタケ類,九州南端から琉球列島ではゲットウがよく利用されていた. 5. カシワを除く節句もちの利用植物は,各々の地域の里地・里山景観を構成するノイバラクラス,コナラ-イヌシデ群団,アカマツ群団,ヨシクラス,ススキクラスなどの代表的な構成種であり,きわめて身近な植物であった.カシワの利用は17世紀に江戸で始まったが,その拡大は20世紀初頭も関東周辺で止まっていた.その要因として里地・里山の植物ではないカシワの入手が困難なためと考えられた.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.123-134, 2013 (Released:2019-01-22)

森づくり開始から6 年が経過した尼崎の森中央緑地において,森づくりの現状を評価するための調査を行った.調査区数200 の植生調査資料をもとに,森づくりの目標である六甲山などの周辺地域に現存する森林群落の構成種を調査した.その結果,尼崎の森中央緑地で同様の森づくりを行うのに必要となる植物種数は302 種であることがわかった.これに対して2013 年3 月末時点の尼崎の森中央緑地での植栽種数は124 種であり,全体の41%であった.群落構成種に対する植栽種の割合を生活形別にみると,高木,小高木の比率は70%以上と高かった.つる,多年草については今後本格的な導入段階に入るため,現状では33%以下と低かった.中央緑地では種子供給源となる樹林が付近になく,自然状態での群落構成種の新入が不可能な立地条件にあるため,現存群落の種多様性と種組成に近づけるためには現存群落構成種の多くを占める多年草の苗の生産と導入が不可欠である.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.159-174, 1997 (Released:2019-09-29)

More than 100,000 wood buildings collapsed by the Hyogo-ken Nanbu Earthquake (Jan. 17, 1995. M=7.2). We researched the collapse pattern and direction of about 2700 wood buildings from Takarazuka City to the northern part of the Awaji Island to estimate the shock directions of the earthquake in the hypocentral region . The following remarkable features were observed. Most of the collapsed wood buildings were damaged in a similar manner: their basal floors were inclined or collapsed in a direction in the case both of one and two storied buildings, although their second floors and/or roofs were not severely damaged. Predominant collapse direction of the wood buildings was observed in the narrow zone, Shi nsai no Obi (zone heavily damaged by the earthquake), from Suma to Takarazuka. In the zone , five blocks were found out according to the collapse directions of the wood buildings. The predominant collapse direction implies that a strong shock collapsed most of the wood buildings in each block, and suggest that main shock directions were opposite to the collapse direction in the blocks.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.55-62, 2001 (Released:2019-06-30)

Unusual appearance of Japanese black bears (Ursus thibetanus) has seemed to increase after the latter half of the 1990s. Since black bears are endangered in western Japan, the viewpoint of protection should be considered along with the avoidance of fatal and injurious human-bear encounters. Prediction about moving-site-selectivit yof irregularly wondering black bears may help responsible administrates and local inhabitants when they select better countermeasures. In this study, we examined predictability of the moving-site-selection of the animals using 73 encounters between humans and an irregularly wondering bear recorded in areas of southeastern Hyogo including Rokkou Mountain, northern Osaka and southwestern Kyoto, in the period of June 29 to October 6, 2000. The predictabili twyas estimated from a model obtained by logistic correlation, with vegetation classifie dinto 27 types and human density as independent variables and the bear used or not used as objective variables. Present individual recorded chose three types of forest vegetation as moving-sites: Japanese cedar - Japanese cyress afforestation, Quercus serrata dominant forest and Pinus densiflora dominant forest. The bear may choose these forests not as habitat but as escape cover. Selected moving-sites also overlapped small-scale residential sections adjoining the forests. On the other hand, the bear avoided places characterized by high human density.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.127-150, 2007 (Released:2019-03-03)

日本の食生活全集編集委員会(1984 ~ 1992e)などの文献および聞き取り調査によって,大正末期から 昭和初期における植物の葉を包装用材料,食器あるいは調理時の下敷きなどに利用するカシワモチやチマキ などの食物の地域名,利用植物名,材料などの調査を行った.その結果,青森県から沖縄県に至る45 都府 県よりカシワモチ,チマキなどに関する512 の情報を得ることができた.これらの情報を一覧表としてま とめ,伝統的食文化の保存,継続,復活のための基礎資料として報告した.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.133-160, 2014 (Released:2019-01-21)
被引用文献数
13

日本におけるニホンジカの採食植物および不嗜好性植物について既存文献を元に一覧表を作成した.67文献を調査した結果,143 科900 種がリストアップされ,そのうち採食植物と判断されている種は114 科646 種,不嗜好性植物と判断されている種は68 科135 種,採食植物・不嗜好性植物のどちらにも判断されている種は119 科62 種であった.リストアップされた採食植物で種数が多かった科の上位3 科はキク科(60 種),バラ科(41 種),イネ科(31 種)であった.また不嗜好性植物で種数が多かった科の上位3科はキク科(8 種),サトイモ科(7 種),シソ科(6 種)であった.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-11, 2007

1. 端午の節句に供えられる全国のかしわもち,ちまきについて,利用植物,もちの名称,葉の利用形態,もちの種類などの調査を文献や聞き取りによって行った.2. 46都府県よりかしわもち型224地点,ちまき型200地点の情報が得られた.3. かしわもち型の利用植物は17種類で,サルトリイバラ(127)がもっとも多く,カシワ(57),ホオノキ(7),ミョウガ(7),ナラガシワ(5),コナラ(4)であった.サルトリイバラの利用は西日本に多いが,佐渡や関東地方にも認められた.カシワは東京を中心とした関東地方で利用されていた.4. ちまき型の利用植物は21種類で,ササ類(108)がもっとも多く,ヨシ(28),ススキ(22),タケ類(14),マコモ(8),ゲットウ(7),トチノキ(4),ナラガシワ(4)であった.裏日本側ではササ類,表日本側ではヨシ,ススキ,マコモ,南九州ではタケ類,九州南端から琉球列島ではゲットウがよく利用されていた.5. カシワを除く節句もちの利用植物は,各々の地域の里地・里山景観を構成するノイバラクラス,コナラ-イヌシデ群団,アカマツ群団,ヨシクラス,ススキクラスなどの代表的な構成種であり,きわめて身近な植物であった.カシワの利用は17世紀に江戸で始まったが,その拡大は20世紀初頭も関東周辺で止まっていた.その要因として里地・里山の植物ではないカシワの入手が困難なためと考えられた.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.127-150, 2007

日本の食生活全集編集委員会(1984 ~ 1992e)などの文献および聞き取り調査によって,大正末期から昭和初期における植物の葉を包装用材料,食器あるいは調理時の下敷きなどに利用するカシワモチやチマキなどの食物の地域名,利用植物名,材料などの調査を行った.その結果,青森県から沖縄県に至る45 都府県よりカシワモチ,チマキなどに関する512 の情報を得ることができた.これらの情報を一覧表としてまとめ,伝統的食文化の保存,継続,復活のための基礎資料として報告した.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.117-135, 2007 (Released:2019-03-29)

兵庫県の主要14水系における外来植物の分布と優占群落の形成状況を既存文献を元に解析した.外来植物の分布については,14水系に出現した外来植物の合計種数は309種,帰化率は22.1%で,水系別では加古川(186種,31.6%),揖保川(183種,32.6%),猪名川(177種,27.1%)の3水系で外来植物種数,帰化率が高かった.外来植物優占群落については,14水系で209地点31群落が確認され,加古川(14群落),武庫川 (12群落),明石川(12群落)で多く確認された.環境省の指定する特定外来生物指定対象種については,アレチウリ,オオカワジシャ,オオキンケイギク,オオフサモ,ナガエツルノゲイトウ,ボタンウキクサの6種が,要注意外来生物種については43種が確認された.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.103-116, 2007 (Released:2019-03-29)

Of the 1,497 specimens collected at Awaji area, Hyogo Prefecture, in 2005, 152 species of 84 genera in 34 families of Bryopsida, 66 species of 35 genera in 23 families of Hepaticopsida, and three species in three genera in one family of Anthocerotopsida were enumerated. Among them, two RDB species of Japan and eight RDB species of Hyogo Prefecture were recognized.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.117-128, 2016 (Released:2019-01-18)

戦前より火入れによる管理が行われてきた兵庫県神河町砥峰高原における戦中・戦後の草原の利用と管理や,集落周辺での農林業の営みについて,火入れ管理を実施している川上集落の古老に聞き取り調査を行った.結果,(1)草原の管理については,火入れは戦中に一時途絶えたが終戦後に再開され,火入れ面積は現在の2 倍はあったこと,ススキの利用が停止した後も山火事防止や観光目的で火入れが継続されてきたことなど,(2)草原の利用については,ススキだけでなく盆花や山菜,薬草などが採集されていたこと,ウサギやヤマドリ, キジ,マムシなどの小動物の狩猟が行われていたこと,採集されたものは販売せず自家消費していたことなど,(3)集落の農林業の営みについては,集落周辺の草地で農耕用の役牛が放牧されていたこと,昭和35 ~ 36 年頃まで炭焼きが行われていたこと,終戦前後の時期に焼き畑が行われていたことなど,が明らかとなった.
出版者
Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.1-11, 2016 (Released:2019-01-18)

ミシシッピアカミミガメ(Trachemys scripta elegans: 以下アカミミガメ)はアメリカ合衆国の一部と 隣接するメキシコ合衆国の北東部の在来種である.鮮やかな色彩に富んだ孵化幼体は,人気のペットと して世界的に長く親しまれてきたが,その一方でおびただしい数の個体が自然分布しない地域に持ち込まれ て野外に放され,定着してしまっている.その結果アカミミガメは,現在では南極大陸を除くすべての大陸 と,日本を含む温帯や熱帯の多くの島々に広がり,都市近郊を含む様々な環境で,繁殖個体群を確立してし まっている.そしていったん大規模な個体群として定着すると,在来のカメ類と競合し好ましくない影響を 与えることも珍しくなくなっている.ブリキ製のカメの玩具は何十年にもわたる日本の人気商品であり,第 二次世界大戦後は,重要な輸出品の一つともなってきた.日本における広範囲なアカミミガメ個体群の確立 に先立つ1920 年代から1950 年代にかけては,こうした玩具は,日本の在来カメ類に象徴される地味な色 のものによって特徴づけられていた.ところが1950 年代より後になると,玩具のカメはアカミミガメに典 型的な黄色,赤色,緑色といったより鮮やかな色の組み合わせを示すようになった.このような変化は,単 にアメリカ合衆国をはじめ玩具の輸出先での,より色鮮やかなものを求める需要を反影しただけである可能 性も完全には排除できない.しかしこの傾向が,ペット動物の貿易活動を通した多数の色鮮やかなアカミミ ガメの日本への輸入,そして続く日本の陸水域でのこのカメの定着や,数的優位化の進行の影響を受けて生 じたと捉える方が,よりありそうに思われる.つまり上記のような玩具のカメの色の切り替わりは,日本で 見られる典型的なカメ類における,外観構成の認識の文化的変遷を反映している可能性があり,もしそうで あるならば,アカミミガメは日本においてカメ類の外観の新しい文化的典型と認識され,実生活で遭遇する 事物を真似たアートの新たなモデルとなったとみなすことができる.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.49-68, 2019 (Released:2021-03-04)
被引用文献数
2

The history of man-monkey relationships is considered in terms of habitat destruction and hunting pressure by humans from the early Jomon period to the present. It seems that Japanese monkeys, Macaca fuscata, were not a very conspicuous species in the Jomon period when humans lived by subsistence hunting and gathering without agriculture. Humans have continued to alter their forest environment, changing the habitat most suitable for arboreal monkeys to sparsely foliated bushes and grasslands through burning, cultivation and daily exploitation for fuelwood, etc. Japanese raised no domestic animals for meat, fundamentally depending on wild animals for protein. As the human population increased, the forests were devastated widely and monkey populations became obliged to depend on steep rocky cliffs in the deep mountains for protection. This condition suddenly changed after the Fuel-Revolution, which occurred in 1960 to 1970. The managed forests were abandoned and the natural flora recovered. Wolves, Canis lupus, the predator of monkeys, became extinct in the early 20th Century. Accordingly, the distribution of wild mammals, including monkeys, has rapidly expanded with an increase in population size. As a result crop-raiding has increased drastically as well as their removal. Comprehensive management is needed.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.43-59, 2000 (Released:2019-07-26)

Mammals inhabiting Hyogo prefecture can be estimated to consist of seven orders, 17 families and about 40 species. Except for Logomorpha and Artiodactyla, the remaining five orders among them include species which need some protection and they total about 55 % of all species excluding extinct, introduced and feral species. Ecological information in Hyogo prefecture has been accumulated in few protection-required species: there is no recent information of spatial distribution on Oriental water-shrew, Japanese noctule-bat and Japanese dor-mouse; and little information on Japanese shrew, Japanese horse-shoe bat, Japanese large-footed bat, Schreiber's bent-winged bat ,Japanese tube-nosed bat ,common parti-colore dbat ,Japanese squirrel ,Japanese small flying-squirre lJ,apanese giant flying-squirre lS,mith's vole, harvest mouse and Japanese badger. Damage and population management is also necessary in sika deer and Japanese wild boar, in order to reduce their crop-damaging, and comprehensive management in Japanese black bear, an endangered local population, in order to prevent human-bear fatal accident. Habitat alteration due to human activities, however, has affected the population sizes and spatial distribution of all these protection-required and pest mammals in Hyogo. Habitat management has priority over damage or population management in the process of promoting wildlife management. The precondition for the promotion is :(1) enrichment and enlargement of related administrative function ,(2) fundamental and applied scientifi cstudies ,and (3) understanding of ecology and wildlife-management sciences and support of the promotion by citizens.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-15, 1994 (Released:2019-11-01)

Littoral and riparian zones make a typical ecotone between terrestrial and pelegial or running-water habitats. Concerning to the characteristics and conservation of the environment of these zones, the following subjects are outlined and discussed. (1) The natural environment of littora lzone. (2) Vegetations in littora lzone. (3) Ecological functions of littoral vegetations. (4) Fish habitat and littoral vegetations. (5) Avian habitat and littoral vegetations. (6) Dragonfly habitat and littora lvegetations. (7) Food plants of lepidopteran larvae and riparian vegetations. (8) Water-quality conservation and littoral and riparian vegetations. (9) The waterside landscape and littora lvegetations. (10) Causes of recent destruction of littora lvegetations in Japan. (11) Problems in the conservation of natural environment of littoral zone. (12) Restoration of littoral vegetations.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.97-115, 2017 (Released:2019-01-17)
被引用文献数
1

日本における中生界から産出した恐竜化石の状況を明らかにするために,学術論文,学会発表,各種報告書,博物館等が発信した情報,および一般向けの普及書等から情報を収集し目録を作成した.本目録においては,日本国内の19 県37 市町村の中生界から産出した恐竜化石に加えて,発見当時に日本領であった近隣のロシア,サハリン島産のニッポノサウルス・サハリネンシスを掲載した.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.69-73, 2019 (Released:2021-03-04)
被引用文献数
1

近年,愛知県北西部でニホンカモシカ(Capricornis crispus)の目撃事例が相次いでいる.本報告では, 過去に愛知県が実施した聞き取り調査で生息が確認されなかった犬山市を中心に,県北西部のカモシカの生 息に関する情報を収集した.その結果,7 市町(名古屋市(守山区)・春日井市・瀬戸市・尾張旭市・東郷町・ 犬山市・小牧市)から17 件の情報が収集された.このうち,東郷町(初記録は2013 年),犬山市(同2014 年), 小牧市(同2017 年)ではこれまでに数回実施された愛知県の調査で生息記録がなく,ごく最近に同市町に 侵入したと考えられる.県内での個体数の増加や,同所的に生息するニホンジカとの競争などによる食物環 境の悪化にともない,親の行動圏から離れた若齢個体が県の北西部に残る二次林に沿って分布を広げたこと が,近年の目撃情報増加の主要因と推測される.これらの地域では,今後カモシカによる農林被害への警戒 が必要であると同時に,保護行政・環境教育上必要な情報を積極的に収集する必要がある.
出版者
Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.1-45, 2022 (Released:2022-01-19)

形態の比較ならびに分子系統解析により,ジャゴケ属Conocephalum とヒメジャゴケ属Sandea は,そ れぞれ世界に6 種と3 種を持つ独立の属であることが示された(Akiyama and Odrzykoski 2020).こ のうちジャゴケ属については日本には4 種,台湾には3 種が分布する.本論文ではこの成果ならびにジ ャゴケ探検隊のメンバーによって日本全国各地ならび台湾から得られた生植物を用いた形態と分布につい ての詳細な検討に基づき,これまで和名だけが与えられていた日本と台湾に分布するジャゴケ属植物3 種 のそれぞれを,オオジャゴケC. orientalis H. Akiyama,ウラベニジャゴケC. purpureorubrum H. Akiyama,そしてマツタケジャゴケC. toyotae H. Akiyama を新種として記載した.また北半球冷温帯 に広く分布するタカオジャゴケC. salebrosum についても,日本・台湾産標本に基づいてヨーロッパ産植 物との違いを比較検討して記載を与えた.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.9-28, 2005 (Released:2019-03-30)

西南日本内帯の白亜紀~古第三紀火成岩類の活動場は, 主に磁鉄鉱の有無により領家・山陽・山陰の各帯に 区分されている. ここでは近畿西部~中国地方東部の白亜紀~古第三紀火成岩類の帯磁率を測定し, その帯状配 列について再検討を加えた. また, 歴史・考古学的分野への適用例として, 石材産地同定の可能性を述べた. 山陰帯の火成岩類は一般に磁鉄鉱系の深成岩が主体であるとされるが, 調査地域では低い帯磁率の花崗岩類が 山陰帯においても広範囲に分布し, 白亜紀の火成活動が山陽帯だけでなく西南日本全体に広がっていたことを示唆する. また, 従来チタン鉄鉱系岩石からなるとされている山陽帯においても, 北部には磁鉄鉱に富む花崗閃緑岩類が点在している. このように,この地域の帯磁率は,帯状配列よりむしろ岩体間のばらつきのほうが大きい.これらの火成岩類の磁性鉱物の有無は, たたら製鉄で代表されるように, 地域の産業や文化に大きな影響を与えた. また, 遺跡や歴史的遺物に使用された石材の産地同定に対しても, 帯磁率の測定が有効であることが明らかになった.
出版者
兵庫県立人と自然の博物館
雑誌
人と自然 (ISSN:09181725)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.41-54, 2021 (Released:2021-03-04)

兵庫県養父市には,蛇紋岩で構成される関宮岩体が分 布している.この岩体周辺における近世~近代の石造物 の分布を明らかにするため,兵庫県北部地域の神社の石 造物の観察と帯磁率測定調査を行った.この結果,蛇紋 岩製の石燈籠や狛犬,その他石造物は,江戸時代後期か ら第二次世界大戦終戦までの昭和時代のものが見出され た.現在露出している関宮岩体の蛇紋岩を帯磁率により, H 群,M 群,L 群に区分し,燈籠の石材と対比した結果, ほぼすべての石材がM 群に相当した.これらの石材は, 関宮町の相地川,大屋町の加保坂川,大谷川などで採取 されたと考えられる.