著者
Mottram Ruth Boberg Fredrik Langen Peter Yang Shuting Rodehacke Christian Christensen Jens Hesselbjerg Madsen Marianne Sloth
出版者
低温科学第75巻編集委員会
雑誌
低温科学
巻号頁・発行日
pp.105-115, 2017-03-31

Surface mass balance (SMB) is the builder of the Greenland ice sheet and the driver of ice dynamics. Quantifying the past, present and future state of SMB is important to understand the drivers and climatic processes that control SMB, and to both initialize and run ice sheet models which will help clarify sea level rise, and how likely changes in ice sheet extent feedback within the climate system. Regional climate models (RCMs) and climate reanalysis are used to quantify SMB estimates. Although different models have different spatial and temporal biases and may include different processes giving significant uncertainty in both SMB and the ice sheet dynamic response to it, all RCMs show a recent declining trend in SMB from the Greenland ice sheet, driven primarily by enhanced melt rates. Here, we present new simulations of the Greenland ice sheet SMB at 5 km resolution from the RCM HIRHAM5. The RCM is driven by the ERA-Interim reanalysis and the global climate model (GCM) EC-Earth v2.3 to make future projections for climate scenarios RCP8.5 and RCP4.5. Future estimates of SMB are affected by biases in driving global climate models, and feedbacks between the ice sheet surface and the global and regional climate system are neglected, likely resulting in significant underestimates of melt and precipitation over the ice sheet. These challenges will need to be met to better estimate the role climate change will have in modulating the surface mass balance of the Greenland ice sheet.
著者
村上 正隆
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.297-310, 2014-03-31

人工的に生成した氷の微粒子を雲内に導入し, 自然の雲が雨・雪を生成するメカニズムの持つ律速過程にバイパスをつけて降水を促進させる人工降雨技術(意図的気象改変)は, 第二次世界大戦直後に華々しく登場し, 現在では世界40か国で使用されている. 本稿では, 人工降雨の原理・歴史・現状と問題点を述べるとともに, 最新の人工降雨研究の取り組みを紹介する.
著者
上村 佳孝 三本 博之
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.39-50, 2011-03-31

動物の交尾器, 特にオス交尾器の形態は, 他の形態形質よりも進化・多様化が速い傾向にあり, その機構について議論が続いている. 本稿では, モデル生物であるキイロショウジョウバエを含むキイロショウジョウバエ種群について, 交尾器形態の機能とその進化に関わる研究についてレビューした. オス交尾器による創傷行動の発見により, 従来の研究では見出されてこなかった, オス交尾器に対応した多様性がメス交尾器の側にも同定されるようになった. しかし, メス交尾器の多様性は, 柔軟な膜質構造の形態変化によるものが多い. 交尾時の雌雄交尾器の対応関係の把握は, そのような旧来の手法では観察の難しい構造の特定を容易にし, 種間比較や操作実験による機能の研究に足がかりを与える. そのため手法の一つとして, 交尾中ペアを透明化する技術を紹介し, 本種群が交尾器研究のモデル系となる可能性を示す.
著者
大舘 智志
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.81-88, 2023-03-20

北海道などの寒冷地域に生息し冬季間も活動するトガリネズミ類の越冬生態について概観した.トガリネズミ類はおもに土壌表面や土壌中に生息している小型無脊椎動物を食べている.トガリネズミ類では冬期には餌資源量の減少が考えられるが,ある程度の安定した餌の供給は保たれていると考えられている.またトガリネズミ類では冬期には一旦,体サイズや頭骨サイズが縮小し,越冬後に急激にサイズが増大する.この現象はデーネル現象と言われており,トガリネズミ類の越冬生態と密接に関わっていると思われるが,そのメカニズムはほとんど解明されていない.
著者
堀井 有希 椎名 貴彦 志水 泰武
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.131-139, 2023-03-20

一部の哺乳動物は,冬季に環境温度付近にまで体温を低下させる冬眠を行う.また,数時間の低体温を呈する日内休眠を行う動物種もある.冬眠や日内休眠のメカニズムを解明する手立てとして,実験室内でそれらを再現することは重要である.シリアンハムスターでは低温で暗期の長い環境において冬眠が誘発され,与える栄養素により冬眠誘発までの期間が変化する.また,マウスでは絶食,スンクスでは寒冷環境が日内休眠を誘発する引き金となる.さらに,冬眠しない哺乳動物であるラットは,薬理学的な方法によって冬眠様の低体温へ誘導することが可能である.本稿では,実験室における哺乳動物の冬眠・休眠の誘導についてまとめ,冬眠研究の展望を論じる.
著者
吉川 正人 星野 義延 大橋 春香 大志万 菜々子 長野 祈星
出版者
低温科学第80巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.491-505, 2022-03-31

尾瀬ヶ原の湿原植生を構成する主要な群落について,構成種の種特性や食痕の確認頻度から,シカの採食圧に対する脆弱性の評価を行った.低層湿原や低木林・河畔林の群落は,シカの採食影響を受けやすい中・大型の広葉草本または低木を多く含み,食痕の確認頻度が高かったのもこれらの生活形をもつ種であった.このことは,低層湿原や低木林・河畔林で過去との種組成の違いが大きいという,既発表研究の結果と合致していた.また,構成種の積算優占度が大きい群落ほど食痕がみられた種数も多く,シカによく利用されていると推定された.これらのことから,尾瀬ヶ原においては低層湿原や低木林・河畔林の群落で保全対策の優先度が高いと判断された.
著者
広瀬 侑 佐藤 桃子 池内 昌彦
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.9-15, 2009-03-31

シアノバクテリアは真正細菌の中で独自の分類群を構成するが,非常に多様で生態学的にも重要である.またモデル生物として研究が非常に進んでいる.研究材料として代表的な種を選んでその特徴を概説する.
著者
茂木 正人 真壁 竜介 高尾 信太郎
出版者
低温科学第76巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.71-93, 2018-03-31

本稿では,南大洋における生態系研究の現状と課題を整理した.南大洋の生態系を論じるうえで最も重要な種はナンキョクオキアミであるが,近年ハダカイワシ科魚類が注目されている.日本の生態系研究チームはハダカイワシ科の中でも季節海氷域に分布するElectrona antarctica(ナンキョクダルマハダカ)をターゲットのひとつとして研究しているが,その繁殖生態や初期生活史については未解明の部分が大きい.季節海氷域では海氷に含まれるアイスアルジーや海氷融解時におこる植物プランクトンの大増殖を起点に始まる食物網が存在する.海氷と海氷下の生態系は密接な関係があり,温暖化による海氷変動は生態系変動をもたらすことになる.
著者
本堂 武夫
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.141-156, 2006-03-22

The plasticity of ice, which demonstrates the strongest anisotropy among the various properties of ice, is reviewed in terms of the characteristic nature of dislocations in ice. Ice is deformed as if all possible sliding systems except for basal sliding are forbidden; like a deck of cards in which the surface is parallel to a basal plane. This peculiar nature of ice plasticity is explained by the characteristic structures of dislocations in ice, or by the fact that it originates with cubic structure Ic embedded in hexagonal ice Ih. The dislocation in ice extends over the basal plane because there is a very small energy difference between Ih and Ic that restricts its movement on the basal plane. Even though only the basal system is active in ice plasticity, it is apparent in the text that non-basal systems are also important in the deformation mechanism.
著者
小池 裕幸
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.431-447, 2009-03-31

分光測定は,今や生化学,分子生物学では欠かすことのできない基本測定法である.さらに,光合成の分野では光誘起の微少スペクトル変化の測定も,分光光度計を使ってなされる.本項ではこの分光測定の基礎と,その装置の仕組みを解説する.
著者
深澤 倫子
出版者
北海道大学
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.89-94, 2006-03-22

氷や雪のもつ "滑りやすさ" は,スキーやスケート等のウインタースポーツには欠かせない性質である.この "滑りやすさ" の原因は,氷表面に存在する液体状の層(擬似液体層)にあると考えられている.氷結晶は,その表面に擬似液体層を持つことにより,成層圏におけるオゾン破壊や雷雲の帯電等,様々な自然現象を引き起こす.本稿では,最近の分子動力学計算による研究を中心に,氷表面の構造とダイナミクスについて解説する.
著者
竹内 望
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
no.70, pp.165-172, 2012-03-31

クリオコナイトとは, 氷河の雪氷中に含まれる暗色の物質である. 主に大気由来の鉱物粒子と雪氷上で繁殖する微生物, その他の有機物で構成され, これらは糸状のシアノバクテリアが絡まりあってクリオコナイト粒という粒状の構造体を形成している. クリオコナイトは氷河表面のアルベドを低下させ, 氷河の融解を促進する効果をもつ. クリオコナイトは世界各地の氷河にみられる物質である一方, その量や特性, 構成する微生物は氷河によって異なる. 近年グリーンランドや一部の山岳氷河で, 裸氷域のアルベドが低下していることが報告され, その原因としてクリオコナイトの量の増加があげられている. このような変化は, 現在の地球規模の気候変動が, 氷河生態系にも大きな影響を与えていることを示唆している.
著者
大和 勝幸 石崎 公庸 河内 孝之
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.23-29, 2009-03-31

ゼニゴケは,陸上植物の進化を考える上では基部陸上植物の1つとして鍵となる存在である.近年,形質転換法やゲノム情報などの分子生物学的ツールが整備され,実験生物として注目されはじめている.新たなモデル植物としてのゼニゴケの特性を紹介しつつ,その基本的な扱いについて紹介する.
著者
長嶋 寿江
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.113-118, 2009-03-31

植物の成長は,光合成生産速度だけでなく,葉への分配など成長のしかたにも大きく影響される.本章では,成長を解析する方法と,それを行うための実験デザイン,測定方法について述べる.
著者
高市 真一
出版者
北海道大学低温科学研究所 = Institute of Low Temperature Science, Hokkaido University
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.347-353, 2009-03-31

光合成生物にとってカロテノイドの存在は必須であり,多種多様なカロテノイドがある.光合成生物の分類群ごとに特有なカロテノイドもある.本章ではカロテノイドの抽出,精製,同定などの方法を解説する.
著者
小林 憲正 遠西 寿子 坪井 大樹 酒井 貴博 金子 竹男 吉田 聡 高野 淑識 高橋 淳一
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.39-46, 2008-03-31

炭素質コンドライトや彗星中に種々の複雑有機物が検出されていることから,地球外有機物が生命の誕生に重要な役割を果たした可能性が議論されている.隕石・彗星中有機物の起源としては,分子雲中の星間塵アイスマントル中で宇宙線・紫外線エネルギーにより生成したとするモデルが提案されて いる.われわれは模擬星間物質に重粒子線を照射することにより高分子状の複雑有機物に結合したアミノ酸前駆体が生成することを見いだした.このような高分子状結合型アミノ酸は遊離アミノ酸と比較して宇宙環境で安定であること,円偏光照射によりアミノ酸エナンチオ過剰を生じうることなどが わかった.これらの知見をもとに生命の起源にいたる新たな化学進化シナリオを提案する.
著者
村上 光 長尾 耕治郎 梅田 眞郷
出版者
低温科学第81巻編集委員会
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.27-36, 2023-03-20

温度は,生物にとって最も身近な環境因子の一つであり,生命活動に強く影響する.そのため,動物は自らの体温を調節する様々な手段を獲得することにより,環境に適応してきた.しかしながら,生命の最小単位である個々の細胞における温度制御の実態は長らく不明であった.我々は近年開発された細胞内温度計測技術を駆使し,ショウジョウバエ培養細胞内の温度がミトコンドリア熱産生により維持されていること,この現象に生体膜の流動性の制御に必須であるdelta9脂肪酸不飽和化酵素DESAT1が寄与することを見出した.今回の発見から,我々は「生体膜を介する細胞自律的な細胞内温度制御」という生命における温度制御の新規メカニズムを提唱した.

2 0 0 0 OA ヘムの分析

著者
高橋 重一 増田 建
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.327-337, 2009-03-31

光合成においてヘムは,光化学系のシトクロムや活性酸素消去系のカタラーゼなどのヘムタンパク質の補欠分子族として,酸化還元や電子伝達に機能している.本章では植物組織からのヘムの抽出・分析方法について紹介する.

2 0 0 0 OA 光合成細菌

著者
嶋田 敬三
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.3-7, 2009-03-31

酸素非発生型光合成機能を持つ細菌は絶対好気性のものを含め200種ほどが記載され,主に菌株保存機関から入手できる.培地,培養法は種や目的によりさまざまであるが,よく用いられる条件について注意点を記した.
著者
香内 晃
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.31-37, 2008-03-31

星間分子雲および隕石母天体で起こりうる新しいダイヤモンド形成過程を実験的に見いだした.星間分子雲では,不純物を含むアモルファス氷に紫外線が照射されることでダイヤモンド前駆体を含む有機物が形成された.さらに,それに紫外線が照射されるとダイヤモンドは5nm 程度に成長した.これ らの過程は宇宙では普通に起こっている現象なので,ダイヤモンドは宇宙のどこにでもあると言える.また,星間分子雲で形成された有機物が隕石母天体上で水と反応し,その後さらにドライな雰囲気で加熱される過程も実験的に再現した.得られた試料中にはかなりの量のダイヤモンドが含まれていた.隕石中に存在する性質の異なるナノダイヤモンドは,星間分子雲および隕石母天体上の双方で形成されたと考えられる.