著者
副島 隆
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.342-353, 1994-07-30 (Released:2010-10-27)
参考文献数
43
被引用文献数
2

う蝕予防のためのフッ化物の応用に際して使用すべき適正量の検討には, あらかじめ通常の生活の中でのフッ素摂取量を把握しておくことは意義がある。本研究では, 福岡市で日常的に入手できる14食品類の65食品目を測定の対象とした。食品試料中のフッ素含有量は, 前処理に乾式灰化法と微量拡散法, 測定法をイオン電極法でそれぞれ8回の繰り返し測定を行った。その結果, 測定値の範囲は, 穀類0.19~6.04μg/g, 種実類0.13μg/g, 芋類0.01~0.02μg/g, 豆類0.42~41.75μg/g, 果実類n. d. ~0.02μg/g, 野菜類n. d. ~0.94μg/g, 茸類0.01~0.75μg/g, 海草類0.06~0.58μg/g, 飲料類0.17~2.99μg/g, 魚介類n. d. ~2.87μg/g, 肉類0.04~0.21μg/g, 卵類n. d., 乳類0.35~1.52μg/gであった。これらの結果を基にして, 平成3年度の国民栄養調査にある食品群別摂取量を利用して成人1日あたりの食品からのフッ素摂取量を推定したところ, 全国平均は1.44mgおよび北九州ブロックは1.42mgであった。
著者
樋出 守世 井上 一彦 今井 奨 山本 実
出版者
一般社団法人 日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.206-213, 1991-04-30 (Released:2010-10-27)
参考文献数
31

1. Japanese third molars were divided into sample groups based on the donor's year of birth, and 90Sr level in each sample group of 10 teeth was determined to compare it with the previously reported data obtained from sample groups of 28 teeth.2. Trace and detection-limit amounts of 90Sr were detected in the teeth from donors born in 1929-1931. The 90Sr level increased in the teeth from donors born in 1935, and reached a peak value of 66.9-72.8mBq/g Ca in the teeth from donors born in 1953. It decreased afer 1954 and reached 25.5mBq/g Ca in the teeth from donors born in 1970.3. Compared with previous data using 28 teeth as a sample group, good accordance was observed in period showing detection-limit level of 90Sr, tendency of increase thereafter, peak period, radioactivity at peak period, tendency of decrease after 1953 and radioactivity after peak period.4. These results clearly indicate that a small sample, that is, 10 teeth, is sufficient for the examination of annual change in the 90Sr level.
著者
谷島 茜 犬飼 順子 向井 正視
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.2-9, 2015-01-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1

日常生活において歯質が酸により溶解する歯の酸蝕症が着目されている.飲食物として摂取される機会が多い各種の酸と,そのpHの違いがエナメル質の硬度に与える影響をヌープ硬さの経時的変化から検討した. エナメル質を浸漬させる酸として,市販飲料水に一般的に含有されている,乳酸,酢酸,クエン酸を選択した.pHは清涼飲料水のpH を想定して,2.5,3.0,3.5を設定した.これらの酸とpHのそれぞれの組合せと,対象として蒸留水を含む計10種の浸漬液にヒトエナメル質試料を浸漬させた.浸漬後15分後,30分後,60分後,120分後,180分後に試料を取り出し蒸留水で水洗し,大気中で乾燥させた後,ヌープ硬さを測定した.測定結果は浸漬液の酸の種類,pHの種類および浸漬時間を要因とした対応のある三元配置分散分析ならびにBonferroniの多重比較を行った. その結果,酸の種類と浸漬時間の要因は有意であったが,酸の種類とpHの種類に有意な交互作用が認められた.また,限定された条件ではpH の種類によるヌープ硬さの有意差が認められた.この結果より,エナメル質のヌープ硬さは摂取する食品のpHのみならず酸の種類や浸漬時間により変化し,それはそれぞれ酸のpKaなどの性質によるものと考えられる. したがって飲料水を摂取する場合は飲料のpHのみにとらわれるのではなく,酸の種類や摂取方法に注意を喚起する保健指導が必要である.
著者
三畑 光代 戸田 真司 小宮山 まり子 串田 守 宋 文群 荒川 浩久 内村 登 飯塚 喜一
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.294-303, 1999-07-30 (Released:2017-11-12)
参考文献数
16

飲料水には微量ミネラル元素であるフッ素が含まれている。日本の水道法の水質基準によれば,フッ素は0.8ppmを超えてはならないと規定されているが,低濃度フッ素飲料水にう蝕予防的価値はない。そこで,全国より集めた飲料水サンプルのフッ素濃度を測定した。本大学の学生に,帰省地の飲料水を採取し,必要事項を質問票に記入したうえで持参するように依頼した。フッ素イオン電極にてサンプル中のフッ素濃度を測定した。それとともに,水道統計資料から浄水場における飲料水のフッ素濃度を調べた。370サンプルの飲料水のうち,数のうえでは上水道が圧倒的に多く,次に井戸水,簡易水道という順であった。全サンプルの平均フッ素濃度は0.076ppmであり,最高値は上水道の0.55ppmで,最低価はすべての種類のサンプルにおいてみられた0.01ppm未満であった。さらに,昭和59年から平成8年度までの水道統計資料によれば,全国の浄水場における水道水平均フッ素濃度は徐々に低下する傾向を示し,平成8年度の平均で0.093ppmであった。以上のことより,ヒトが歯の健康のために飲料水から摂取するフッ素は不足していることは明らかである。今後は食品から摂取するフッ素量を考慮しながら,フッ化物の全身応用の実施を検討するべきである。
著者
畔脇 良逸
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.694-703, 1985 (Released:2010-10-27)
参考文献数
40

歯垢中には唾液に比べて, 高濃度のFが含まれていることが報告されている。しかし, そのFの存在様式や動態についての研究は少ない。そこで, 小・中学生 (7~15歳) を対象とし, 歯垢中のF濃度の測定を行った。また, 歯垢Fの存在様式の一端を解明する目的から, CaならびにPiの測定を併せて実施した。その結果, 歯垢のF, CaおよびPi濃度は, 小学生に比べて中学生の方がそれぞれ有意に高い値を示した (P<0.05~0.01)。FとCa (r=0.76, P<0.001) およびCaとPi (r=0.85, P<0.001) の間には, それぞれ高度に有意な正の相関関係が得られた。なお, FとPiの間にも正の相関性 (r=0.65, P<0.001) が認められたが, 偏相関分析によりCa因子の影響を除外すると, 両者間には統計学的有意な相関性は得られなかった。一方, 歯垢F濃度は歯垢Ca/Pi比との間に統計学的に有意な正相関を示した (r=0.53, P<0.001)。また, 歯垢F濃度は歯垢重量と負の相関関係にあることが示された (r=-0.57, P<0.001)。以上のことから, 歯垢のFは一部, 歯垢中のCaまたは不定形のリン酸カルシウムと結合した形で存在していることが強く示唆された。
著者
青山 貴則 相田 潤 竹原 順次 森田 学
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.16-24, 2008-01-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
49
被引用文献数
3

一般歯科医院において,修復物の生存期間とそれに関連する要因を検討することを目的とした.札幌市内の歯科医院にて,1991年1月1日から2005年3月31日の間に修復物を用いた治療を受け,その後,定期健診やその他の治療目的などで再来院した患者を対象とした.コンポジットレジン,メタルインレー,4/5冠,メタルクラウン,メタルブリッジの生存期間とそれに関連する因子をKaplan-Meier法と,Cox比例ハザードモデルを用いて検討した.総計95人,649歯の修復物について分析した結果,平均生存期間では,メタルインレーが3,804日と最も長く,次いでコンポジットレジン3,532日,4/5冠3,332日,メタルクラウン3,276日,メタルブリッジ2,557日であった.10年の生存率を推定した結果,メタルインレー67.5%,4/5冠60.5%,コンポジットレジン60.4%,メタルクラウン55.8%,メタルブリッジ31.9%であった.再治療の原因では二次う蝕によるものが多く,特にコンポジットレジン(78.2%),メタルインレー(72.4%)で著明であった.Cox比例ハザードモデルを用いて,修復物の生存期間の長さに影響している因子を検討した結果,アイヒナー分類で生存期間と有意な関連(p<0.05)がみられ,アイヒナー分類B1,B2,B3が予後不良であり,ハザード比はそれぞれ1.88 (1.16-3.05),3.18 (1.93-5.25),2.44 (1.31-4.53)であった.年齢,歯種,治療時の歯髄状態と生存期間との間に有意な関連は認められなかった.以上の結果から,メタルブリッジの生存期間が最も短く,また咬合の要因が生存期間と関連していることが示唆された.
著者
三畑 光代 戸田 真司 荒川 浩久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.361-374, 2000-07-30 (Released:2017-12-08)
参考文献数
41
被引用文献数
1

調査対象者は2つの集団からなり,某企業従業員38名と某短期大学の歯科衛生学科1年生26名である。これら2つの異なった集団に対して,歯磨剤と発泡剤の有無によるブラッシング感,歯垢と口腔細菌の除去,ブラッシング時間などのブラッシングに伴う諸因子の違いを評価項目とするクロスオーバー試験を実施した。ブラッシング方法は,方法A:発泡剤配合歯磨剤,方法B:発泡剤無配合歯磨剤,方法C:歯磨剤なし,方法D:各被験者の使用歯磨剤であり,それぞれのブラッシング方法を1週間ずつ実施して,各評価項目を解析調査した。その結果は以下のようにまとめることができる。1.方法Cに比較して,歯磨剤を用いる方法Aと方法Bは,有意にブラッシング感の評価が高かった。ことに,発泡剤配合の方法Aは総合的に評価が高く,より高い満足感をもってブラッシングできることが示された。2.ブラッシングは,歯垢除去と口腔細菌を減少する効果のあることが再確認できた。さらに,発泡剤配合の方法Aは,使用歯磨剤量が少なくても効果的にブラッシングができることが示唆された。3.歯磨剤量を増加(0.23〜1.66K)すると歯垢の再付着が抑制され,特に発泡剤配合歯磨剤ではその効果が大きかった。4.ブラッシング時間やブラッシングに伴う諸因子に対しても歯磨剤や発泡剤の影響はほとんど認められず,ブラッシング時間は左右されないことが示された。以上により,歯磨剤,特に発泡剤配合歯磨剤をブラッシングに用いることは,より良好なブラッシング方法であることが示された。
著者
竹中 彰治
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.361-370, 2016 (Released:2016-08-03)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究では,セルフケアにおける洗口液の継続使用に影響する要因を探索するために,新潟大学医歯学総合病院・歯の診療室に歯周基本治療あるいはメインテナンスのために受診した68名の患者を対象として,機械的清掃器具の使用頻度,洗口液の使用経験および使用感に関する質問票調査を行った. 洗口液使用者には,使用理由,期待する性質および選定時に重要視する要素を調査した.使用感は,国内で市販されている四種類の洗口液[コンクールF®(CHG),リステリン®(LF),リステリン®ナチュラルケア(LN),薬用GUM®ナイトケアBF(CP)]の味,刺激,爽快感,効果の実感および全体的な印象について,二重盲検法(LF は単盲検法)により5段階評価を行う形式で調査し,それぞれの評価項目の相関分析を行った. 洗口液の使用経験者は37名(54.4%)であり,洗口液の常用者は18名(26.5%)であった.洗口液選定時に重要視する要素の順位付けには一致性があり,優れた殺菌力,爽快感および味が上位要素であった.使用感調査において,CPおよびCHGの全体的な印象は,LFおよびLNと比較して有意に評価が高かった.LFとLNはすべての評価項目において有意な差は認められなかった。相関分析において,味が最も全体的な印象と相関性が高かった. 洗口液に求められる性質として,殺菌効果だけでなく,継続使用のためには味や爽快感も重要な要素であることが示唆された.
著者
四野宮 澄子
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.257-267, 1959 (Released:2010-03-02)
参考文献数
43
被引用文献数
1

Continuous observations were made on a total of 189 pupils, 89 boys and 100 girls, who were admitted as first grade pupils to two Grammar Schools in two villages outside of Tokyo City for a period of 9 consecutive years since 1949, having followed their physical and dental development.Measurements of height and weight and oral examinations were conducted four times a year, -April, July, October and January-making plaster models by taking alginate compound impres sions on both jaws, which totaled 13, 608 impressions and models of 72 consecutive models per examinee.Parallel studies were made on a total of 11, 060 girl students ranging from 1st to 3rd grades of 14 Middle Schools in Tokyo and 2 others in Chiba Prefecture.Surveys on menoplania were made every month for a period of 30 months during 1956 through 1958. Measurements of height and oral examinations were made on those at menoplania to determine the time element of parmanent teeth eruptions and to observe the growth and development of teeth.Having observed the time element of permanent teeth eruptions from the view point of height development and age, the frequency by the height factor demonstrated extremely narrower range than by the factor, i. e., it was learned that the height has much closer relationship with the eruptions than the age, as it had been known.It has also come to the attention that the eruptions of the second molar have closer relations with menoplania, therefore, observations were made on 1, 458 girls on whom the meneplania and the eruptions of permanent teeth were precisely determined.Examinee were segregated into five types; Type I with all four second molar eruptions, Type II with three, Type III with two, Type IV with single and Type V with no second molar eruptions.The Type I amounted to 81.41% of the total examined, and it was revealed that the menoplania coincided with the eruptions of bilateral second molar on both jaws.The average height and age of the Type I, or at the time of menoplania was 149, 5 cm and 13 years 6 months respectively.
著者
近藤 武 矢崎 武 奥寺 元
出版者
一般社団法人 日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.45-51, 1973 (Released:2010-10-27)
参考文献数
9
被引用文献数
2

日本の代表的産地の緑茶について, その浸出液中フッ素濃度を測定した結果, 一般的に高級茶 (玉露) に高濃度のフッ素を認め, さらに1回目の浸出で比較的多量のフッ素が浸出され2回目以後は少ない傾向がみられた。これらはお茶のおいしさを決める一つの科学的方法となるかもしれない。日本人のお茶からの平均的フッ素摂取量は0.48~0.97mg/日と計算され, 1日の食品よりのフッ素摂取の主要な部分を占るものと考えられた。成人男子について飲用実験を行つたところ, 緑茶浸出液中のフッ素の吸収はNaF溶液にくらべ遅れるが, 排泄は比較的速かに行なわれる傾向が認められ, NaFと緑茶中のフッ素との代謝のちがいを思わせた。また, この実験中, 尿中に排泄されるフッ素量について検討したところ, 尿中フッ素濃度 (ppm) は採尿量, 採尿時間により変動が大きいために, 尿中フッ素の測定と評価は一定時間内の蓄尿中のフッ素量 (μg) をもつて行なわれるべきものと考えられた。
著者
杉原 直樹 高柳 篤史 石塚 洋一 佐藤 涼一 鈴木 誠太郎 小野瀬 祐紀 今井 光枝 江口 貴子
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.66-72, 2020 (Released:2020-05-15)
参考文献数
26

顆粒配合歯磨剤の市販が開始されて,30年以上が経過しているが,その効果をランダム化比較試験を用いて調べた報告はほとんどなく,現状でその効果が明らかになっているとはいえない.本研究の目的は,顆粒配合歯磨剤の歯垢除去効果および歯周組織への影響を検討することである.対象者は歯周病メインテナンスのために歯科医院に通院している患者であり,研究デザインはランダム化二重盲検クロスオーバー試験である.顆粒配合歯磨剤と顆粒非配合歯磨剤を1か月のウォッシュアウト期間をはさんでそれぞれ3か月間使用し,各歯磨剤の使用開始時と終了時に,同一の歯科医師による検診を行った.PCR値と隣接部位のQHI値の変化は,顆粒配合歯磨剤を使用した場合に有意な改善が認められた.歯周組織の状態,歯肉出血の状況,および歯周ポケットの深さについては有意な差は認められなかったが,顆粒配合歯磨剤を使用した後すべての検診項目の値の改善が認められた.また,クロスオーバー試験における持ち越し効果は認められなかった.なお,顆粒配合歯磨剤使用後に顆粒状物質が残存したのは1名1歯であり,特に炎症,悪化などは認められなかった.顆粒配合歯磨剤は顆粒非配合歯磨剤よりも歯口清掃効果が高かった.しかしながら,歯周組織に対する影響においては顆粒非配合歯磨剤との差は認められなかった.
著者
佐原 久美子 福井 誠 坂本 治美 土井 登紀子 吉岡 昌美 岡本 好史 松本 侯 松山 美和 河野 文昭 日野出 大輔
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.106-114, 2022 (Released:2022-05-15)
参考文献数
25

本研究の目的は,口腔状態と後期高齢者の要介護状態や死亡など健康への悪影響の発生との関連を調べることである.対象者295名は,後期高齢者歯科健診プログラムに参加した75歳の徳島市の住民である.各対象者から得られたアンケート調査と歯科健診結果をベースラインデータとして使用し,さらに要介護状態または死亡(要介護等)の発生状況を縦断的分析のアウトカムとして口腔状態との関連性について調べた. ベースライン時で要介護状態であった20名を除いて,275名の対象者を5年間追跡した結果,18.9%にその後の要介護等発生が認められた.Kaplan-Meier分析により「固いものが食べにくくなった」「中程度/多量のプラーク・食渣の沈着」「現在歯数20歯未満」の項目該当者は非該当者と比較して,要介護等の累積発生率が有意に増加した.Cox比例ハザード分析により「固いものが食べにくくなった」「中程度/多量のプラーク・食渣の沈着」「義歯等の使用ができていない」「CPI = 2(深い歯周ポケット)」は,要介護等発生と有意に関連していることが明らかとなった. これらの結果は,「固いものが食べにくくなった」というオーラルフレイルに関連する症状が,後期高齢者の要介護等発生の予測因子となりうることを示唆している.また,口腔衛生状態不良,歯周状態の不良および義歯不使用は,高齢者の健康への悪影響と関連がある.
著者
坂本 治美 日野出 大輔 武川 香織 真杉 幸江 高橋 侑子 十川 悠香 森山 聡美 土井 登紀子 中江 弘美 横山 正明 玉谷 香奈子 吉岡 昌美 河野 文昭
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.322-327, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
25

近年,妊娠期の歯周病予防は周産期の重要な課題とされているが,日本における歯周病と低体重児出産や早産との関連性を示す報告は少ない.本研究の目的は観察研究により妊娠期の歯周状態と低体重児出産との関連性について調査することである.徳島大学病院の妊婦歯科健康診査受診者190名のうち,年齢バイアスの考慮から対象年齢を25~34歳とし,出産時の状況が確認できない者,多胎妊娠および喫煙中の者を除外した85名について,歯周状態と妊娠期の生活習慣や口腔保健に関する知識および低体重児出産との関連性について分析を行った.その結果,口腔内に気になる症状があると答えた者は61名(71.8%),CPI=3(4 mm以上の歯周ポケットを有する)の者は29名(34.1%),CPI=4の者は0名であった.また,対象者をCPI=3の群と,CPI=0, 1, 2の群とに分けてχ2 検定を行った結果,低体重児出産の項目,およびアンケート調査では,「歯周病に関する知識」,「食べ物の好みの変化」の項目について有意な関連性が認められた.さらに,ロジスティック回帰分析の結果,低体重児出産との有意な関連項目としてCPI=3(OR=6.62,95%CI=1.32–33.36,p=0.02)および口腔内の気になる症状(OR=5.67,95%CI=1.17–27.49,p=0.03)が認められた.以上の結果より,わが国においても,妊婦の歯周状態が低体重児出産のリスクとして関連することが確認できた.本研究結果は,歯科医療従事者による妊婦への歯科保健指導の際の要点として重要であると考えられる.
著者
市橋 透 斎藤 邦男 川村 和章 山崎 朝子 平田 幸夫 荒川 浩久 飯塚 喜一
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.419-427, 1995-07-30 (Released:2017-10-06)
参考文献数
24
被引用文献数
5

市販ミネラルウォーター類(25銘柄)および缶入りお茶類(21銘柄)を購入し,これら製品中のフッ素濃度などについて情報を得る目的で分析を行い,以下の結果を得た。1.国産品ミネラルウォーター類のフッ素濃度は,17銘柄中13銘柄が0.1ppm未満で,最も高い値を示した製品は0.76ppmであった。輸入品では8銘柄中4銘柄が0.1ppm未満で,最も高い値を示した製品は0.70ppmであった。2.国産品ミネラルウォーター類のCa量,Mg量はそれぞれ1.14〜58.81mg/l,0.70〜7.93mg/lであった。輸入品のCa量,Mg量はそれぞれ8.13〜88.78mg/l. 1.07〜25.86mg/lであった。3.お茶類のフッ素濃度は,緑茶飲料では番茶が1.29ppmで最も高く,緑茶は0.53ppm〜0.90ppm,ウーロン茶では0.75ppm〜l.50ppm,紅茶では0.47ppm〜2.19ppm,杜仲茶や麦茶(正確な意味でのお茶類ではない)では0. 1ppm未満であった。以上の結果から,ミネラルウォーター類や緑茶飲料などに存在するフッ素やミネラル含量などは銘柄間で異なっていることが明らかとなった。そのため,これらの飲料中の成分の情報をさらに明らかにしていくことは,フッ素やミネラルの供給源として,これら製品を有効に活用することに結び付くものと考えられた。
著者
小松﨑 明 小松 義典 小野 幸絵 田中 聖至
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.436-443, 2013-10

日本の東北地方の農村地域に在住する幼児162名を対象として,1歳6か月児歯科健康診査を受診以降,2歳,3歳児歯科健康診査の口腔診査,問診結果,Dentocult^@-Strip mutansのスコアを調査項目として,同児の11歳のDMF歯数との関連性を調査・分析した。その結果,1歳6か月時の結果では間食規則性と昼間保育者の2項目で有意差(p<0.01)が認められ,間食時間未決定群でう蝕が多くなっていた。同様に2歳時では,仕上げ磨き(p<0.01),間食規則性(p<0.05),昼間保育者(p<0.01)およびDent-SM(p<0.01)との間で有意差が認められた。また,ロジスティック回帰分析からは,2歳時仕上げ磨き(4.501,p<0.01)などで有意なオッズ比が得られた。分割表分析およびロジスティック回帰分析の結果から,2歳時,3歳時のう蝕罹患(dft),仕上げ磨き,間食時間の決定,昼間の保育者,およびDentocult^@-Strip mutansスコアの各要因について,11歳時のDMFTとの関連が認められた。これらの結果から,幼児期からこれらの項目でハイリスク者をスクリーニングし,歯科保健指導を重視することが,永久歯う蝕の抑制につながると考えられた。
著者
森田 学 石村 均 石川 昭 小泉 和浩 渡邊 達夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.788-793, 1995-10-30 (Released:2017-10-06)
参考文献数
19
被引用文献数
15

本調査の目的は,再治療が必要とされた様々な歯科修復物について,再治療に至った原因と,それまでの使用年数を調べることである。調査は,岡山市と名古屋市の10歯科医院において行われた。対象は,歯科修復処置が施されているにもかかわらず,歯科医師の判断により,再治療または抜歯が適当と診断された3,120歯であった。調査時に,既存修復物の種類,および,再治療が必要であると判断された理由を記録した。また,その修復物の使用年数を,患者への聞き取り調査から求めた。その結果,レジン,インレー,鋳造冠,アマルガムの平均使用年数は,それぞれ5.2,5.4,7.1,そして7.4年であった。レジン,アマルガム,インレーでは,2次齲蝕を原因として再治療される場合が多く認められた。インレーや前歯部で汎用される補綴物では,脱落によって再治療される場合が多くみられた。しかも,その場合の使用年数は,他の原因で再治療された場合の使用年数と比べて短かった。従って,インレーや前歯部で汎用される補綴物については,その脱落を可及的に防ぐことで,使用年数を効果的に延ばせる可能性が示唆された。
著者
森田 学 西川 真理子 石川 昭 木村 年秀 渡邊 達夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.158-163, 1997-04-30 (Released:2017-10-20)
参考文献数
22
被引用文献数
3

つまようじ法とフロッシングを併用したバス法の2種類の刷掃法について,歯肉炎に対するマッサージ効果を比較した。実験的歯肉炎を有する24名の男子学生を対象とした。各被験者の上下顎を左右に2分割した。それぞれランダムに,一方をつまようじ法で刷掃する部位,残りの2分の1顎をバス法で磨き,かつデンタルフロスで清掃する部位とした。以降,歯科医師が毎日1回,21日間,染色された歯垢が完全に取り除かれるまで,被験者の口腔内を清掃した。刷掃方法の割付を知らされていない歯科医師が,歯周ポケットの深さ(PD)とプロービング時の出血(BOP)を診査した。また,上顎第1小臼歯の頬側近心歯間乳頭と頬側中央部の遊離歯肉の上皮の角化程度を,パパニコロ染色法により判定した。その結果, 1. 21日後には,つまようじ法で刷掃した部位のBOP値が,バス法とデンタルフロスで清掃した部位の値よりも有意に低かった。2. つまようじ法で刷掃した歯間乳頭部のみ,ベースラインと比較して,21日後には角化細胞数の割合が有意に増加した。3. 歯垢が完全に除去されるまでに要した時間では,つまようじ法の場合は,バス法とデンタルフロスを併用した場合の約70%であった。以上の結果から,つまようじ法はデンタルフロスを併用したバス法と比較して,短時間で,より有効なマッサージ効果を得られる可能性が示唆された。
著者
西口 栄子 伊ケ埼 理佳 鈴木 幸江 藤野 富久江 渡部 恵子
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.314-321, 1995-07-30
被引用文献数
10

市販の各種清涼飲料水の歯牙エナメル質におよぼす影響を観察した。その結果、(1)各種清涼飲料水116銘柄について,そのpHを測定した結果,コーヒー飲料,ミルク入り紅茶飲料,茶飲料を除いて 他の清涼飲料水のpHは,2.3〜4.9の強酸性であった。(2)10銘柄の清涼飲料水に歯牙(中切歯)を浸漬して,エナメル質の脱灰状態を観察した結果,果汁入り清涼飲料水,無果汁清涼飲料水共に,pH 2.3〜3.7の清涼飲料水では,浸潰後1分間でエナメル質の脱灰が観察された。(3)1mM,10mM,100mMの乳酸および塩酸溶液に歯牙を浸漬して,エナメル質の脱灰状態を観察した結果,乳酸溶液塩酸溶液共に,1mMの濃度でエナメル質は脱灰した。その脱灰の程度は,塩酸溶液の方が強かった。これらの結果から,強酸性の清涼飲料水によって,歯牙エナメル質は脱灰し,その脱灰は,低pHによって起ると考える。
著者
荒川 浩久 大澤 多恵子 中野 貴史 堀 穣 荒川 勇喜 川村 和章 宋 文群 中向井 政子 石田 直子 石黒 梓
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.35-42, 2015-01-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
16

歯科診療所におけるフッ化物局所塗布に関する質問紙調査を実施し,244名から回答を得た(回収率14.6%).別の対象で実施した前回調査との比較,ならびに2年5か月前に静岡県歯科医師会会員を対象に実施した同様な調査との比較を行った. フッ化物局所塗布を小児に実施しているのは89.0%,成人および高齢者は52.4%と前回調査ならびに2年5か月前の同様な調査より増加したものの,成人期以降の実施率は低く,乳幼児期から高齢期まで生涯を通じてのフッ化物応用の必要性をさらに周知し,実践していくことが必要である.また,使用している塗布剤の中に,生産中止から3年以上経過しているものやフッ化物配合歯磨剤等があり,院内における医薬品管理の徹底が必要である. 小児へのフッ化物局所塗布の診療報酬の請求方法では,「フッ化物局所塗布の診療費の請求をしない」が59.5%で最も多く,「自由診療として請求する」が43.7%,「う蝕多発傾向者として保険で請求する」が14.0%,「C選療として請求する」が1.9%であり,本保険制度は利用しづらい状況にあった.フッ化物局所塗布のカルテへの記載について「診療費の請求はしない(無料サービス)ので記載しない」が28.4%あったが,医療行為であるため,カルテにその内容を記載することは必須である. 平成26年4月からう蝕多発傾向者の基準が半分以下に改正されたことから,今後の利用増加が期待される.
著者
山崎 洋治 森田 十誉子 藤春 知佳 川戸 貴行 前野 正夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.21-27, 2018 (Released:2018-02-28)
参考文献数
27
被引用文献数
1

歯周病の予防に影響する口腔清掃習慣を,産業歯科健診情報を用いて縦断的に検討した.対象は,某企業の事業所従業員で2002年と2006年に歯科健康診断を受診した者1,985名(男性1,617名,女性368名,平均年齢40.0±9.2歳)とした.歯周病の評価はCPIで,健康行動(歯磨き,歯間ブラシおよびデンタルフロスの使用頻度,喫煙習慣)は自記式質問紙で調べた.ベースライン時の健康行動およびCPIの所見と4年後の歯周ポケット形成との関連性を多重ロジスティック回帰分析した. 2002年に歯周ポケットなしであった臼歯部セクスタントの7.3~9.5%,前歯部セクスタントの1.9~2.3% が,それぞれ4年後に歯周ポケットありに変化した.また,歯周ポケットなしのセクスタントが4年後に一箇所でも歯周ポケットありに変化した者と関連性が認められた要因は,1日3回以上の歯磨き(1回以下に対するオッズ比:0.68,p<0.05),デンタルフロスの毎日の使用(使用しないに対するオッズ比:0.41,p<0.05)およびベースライン時の歯周ポケットの有無(なしに対するオッズ比:1.52,p<0.01)であった. 以上の結果から,1日3回以上の歯磨きと毎日のデンタルフロスの使用は歯周ポケット形成の予防に有効であることが,また,歯周ポケットの保有は,歯周ポケットがない部位での新たな歯周ポケット形成のリスクとなることが示唆された.