著者
森田 英明 大矢 幸弘
出版者
国立研究開発法人国立成育医療研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

疫学研究から衛生的な環境になったことがアレルギー疾患数の増加に繋がっている可能性が示唆されているが、そのメカニズムは不明な点が多い。衛生的な環境を作り出す契機一つとして合成洗剤の一般家庭への普及が挙げられるが、興味深いことに、アレルギー疾患の有病率の増加はこの合成洗剤が爆発的に普及した時期と一致している。そこで本研究では、環境塵中に界面活性剤が高濃度に存在する場所の特定、アレルギー性炎症惹起につながる界面活性剤の種類の同定、コホート研究を用いた環境塵中の界面活性剤の濃度とアレルギー疾患発症の関連性の検証を通じて、環境塵中の界面活性剤のアレルギー疾患発症への関与の詳細を明らかにすることを目指す。
著者
斎藤 豊治 前野 育三 西村 春夫 西田 英一 土井 政和 足立 昌勝 林 春男
出版者
甲南大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

日本では、大震災後には無警察状態となり、社会が解体して犯罪が急増するという認識が広がっているが、そのような認識は妥当ではない。一般に自然災害は被災者の間や社会全体で連帯意識を生成、強化させ、犯罪を減少させる効果を持つ。例外的に災害後に犯罪が増加するケースでは、社会解体の状況が先行して存在し、災害が引き金となっている。1923年の関東大震災では朝鮮人に対する殺害が広がったが、それに先行して朝鮮半島の植民地経営による窮乏化と日本本土への人口流出、1929年の三・一独立運動に対する軍事的制圧などが行われ、民族的偏見が強まっていた。戒厳令布告の責任者たちは、三・一独立運動弾圧の当事者であった。阪神大震災後、治安は良好であり、自然災害は犯罪を減少させるという一般的な傾向を裏付けた。阪神大震災後には民族の壁を越えて食糧の配給や相互援助が行われた。もっとも、被災者の間での社会連帯の強化は、外部から侵入する者の犯行を抑止するだけではなく、「よそ者」、とりわけ在日外国人に対する不合理な排除を生み出しかねない。ベトナム人たちは日本人による排除を感じて、避難所を出て公園での集団生活を開始した。また、ボランティアたちはFM局を開設し、外国人への正確な情報の提供につとめた。われわれは、社会連帯の核の一つとして自治会に着目し、神戸市東灘、中央、長田および西宮市の自治会長全員に対し震災後の地域防犯活動についてアンケート調査を実施した。その結果、以下の点が確認さねた。これらの活動は、基本的に警察や行政から独立した自発的な取組であった。自警活動として最も多く行われていたのは、夜の巡回であり、以下危険個所の点検、昼の巡回、立ち番・見張りと続き、さらに立ち入りの禁止・道路の遮断、街灯増設の要望等であった。そうした活動について、多くの回答は不安感の軽減、犯罪予防の双方にとって有効であったとしている。
著者
園田 潤 渡邉 学 金澤 靖 米澤 千夏
出版者
仙台高等専門学校
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

東日本大震災のような大規模自然災害における行方不明者の工学的捜索手法を開発した。本研究では,上空からの航空機搭載レーダと地上での父中レーダにより広域の行方不明者捜索手法を提案し,実証実験として名取市閖上における東日本大震災の行方不明者捜索に適用した。この結果,数多くの物体を地中から検出し,本手法の有効性を明らかにした。
著者
入戸野 宏 小森 政嗣 金井 嘉宏 井原 なみは
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

“かわいい(kawaii)”は日常生活でよく使われる言葉であり,日本のポップカルチャーの代表ともいわれる。本研究では,“かわいい”を対象の属性ではなく,対象に接することで生じる感情であると捉え,その性質と機能について質問紙調査と実験室実験を用いて検討した。その結果,“かわいい”は,好ましい人やモノを“見まもりたい”“一緒にいたい”という接近動機づけに関連した社会的なポジティブ感情であり,主観・生理・行動の3側面に影響を与えることが明らかになった。
著者
市川 一宏 室田 信一 原田 正樹 小松 理佐子 妻鹿 ふみ子 菱沼 幹男 永田 祐 高野 和良 渋谷 篤男 佐甲 学 秋貞 由美子
出版者
ルーテル学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

地域福祉の実践と理論を結ぶことを目的に、地域福祉政策において先駆的な取り組みを展開している「東京都三鷹市」「長野県茅野市」「宮崎県都城市」という3 つのフィールドの比較研究をもとに、それぞれの地域で地域福祉が形成されていく過程を明らかにし、その裏付けになった理論的背景を踏まえつつ、地域福祉の発展型モデルを提示した。さらに、その結果を踏まえ、包括的支援体制の構築の必要性を検討し、2017年9月に厚生労働省がまとめた「最終とりまとめ」における「地域における住民主体の課題解決力強化・相談支援体制のあり方に関する検討会」での検討内容と改正された社会福祉法を検証し、包括的支援体制をについて検証した。
著者
佐藤 実 山口 敏康 中野 俊樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

水産加工品および加工原材料の多くを世界各地から輸入している我が国では、原産地での安全性確保に力を注ぐべきである。安全性を確保することの一歩として、諸外国水産物の品質を把握するため、我が国に輸出実績のある諸外国、フィジー、中国、フィリピン、タイ、カンボジア、オランダ、ドイツ、ノルウェー、ペルー、アメリカ、ポルトガルに直接出向いたり、取り寄せたりして水産物(魚類)とその加工品を入手し、ヒスタミンを分析した。平成15年度から平成18年度までの4年間に216検体を分析した。分析した全試料216検体中40検体で、魚粉を除いた試料210検体では34検体でヒスタミンが検出された。ヒスタミン検出率はそれぞれ18.5%、16.2%であった。高濃度のヒスタミンが検出された検体は、オランダの新鮮マグロ(1,439ppm)、タイの塩蔵品(1,964ppm)、フィリピンの鰹節(1,530ppm)であった。それらの魚およびその加工品を摂取すればほぼ確実にヒスタミン食中毒を発症すると考えられた。その他、ドイツ、オランダ、タイ、カンボジア、フィリピンの検体から100〜1,000ppmの範囲でヒスタミンを検出した。それらも大量に摂取した場合、ヒスタミン食中毒を発症する可能性が高いと考えられた。今回の調査結果は各国で経年的に報告されたヒスタミン中毒例を裏づける結果であった。ペルー産フィッシュミールでは全ての試料でヒスタミンが検出された(ヒスタミン検出率100%)。本調査研究では、世界各地で「魚類の化学的危害因子ヒスタミン、ヒスタミンチェッカーによる簡易・迅速測定法」の講演と、ヒスタミンチェカーのデモンストレーションを行い、漁業、水産加工従事者にヒスタミンに関する情報を提供し、魚類ヒスタミン管理に役立てるための啓蒙活動を行った。本調査研究により、水産物の品質管理の重要さ、ヒスタミンによる魚類品質管理の実践などを提案した。安全な水産物供給を実現するために大きく貢献したと考える。
著者
山崎 秀夫 香村 一夫 森脇 洋 加田平 賢史 廣瀬 孝太郎 井上 淳
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

福島第一原発事故で放出され首都圏に沈着した放射性セシウムは東京湾に流入、蓄積していた。東京湾堆積物中の放射性セシウムの分布を解析し、首都圏における放射性セシウム汚染の動態を解明した。本研究では、東京湾の堆積物と水の放射性セシウム濃度の時空間分布を2011年8月から2016年7月までモニタリング調査した。東京湾に流入した放射性セシウムの大部分は首都圏北東部の高濃度汚染地帯が起源であり、そこから流出して東京湾奥部の旧江戸川河口域に沈積していた。現状では,放射性セシウムは東京湾中央部まではほとんど拡散していない。東京湾奥部河口域における放射性セシウムのインベントリーは事故以来、増加し続けている。
著者
加茂 利男 阿部 昌樹 砂原 庸介 曽我 謙悟 玉井 亮子 徳久 恭子 待鳥 聡史 林 昌宏 矢作 弘
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、現代の先進諸国に共通してみられる「縮小都市」という現象に注目し、その政治的および政策的意味を解明することを目的とする。少子高齢化や経済のグローバル化により、先進国の多くの都市は縮小を余儀なくされているが、そのことが衰退を意味するとは限らない。むしろ、縮小は政治的アクターや政策提唱者にこれまでにない方法で都市を再構築する好機を提供する。そこで本研究は、日独仏米4カ国の港湾都市を対象にして、縮小に対する地方政府の政策対応に相違をもたらす要因の特定を試みた。その結果、選挙制度、執政制度、政府間関係、地理的な分節や機能的分節の程度が多様性をもたらすことを明らかにすることができた。
著者
古谷 毅 犬木 努
出版者
独立行政法人国立博物館東京国立博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

形象埴輪樹立古墳は、古墳時代前半期に近畿地方から各地方に急速に拡大し、古墳時代前期末(4世紀後半〜末)頃と中期中(5世紀前半〜中)頃および中期末(5世紀後半〜末)頃に集中する。背景には埴輪工人(製作技術者)の移動を伴う地方埴輪生産の成立が想定され、形象埴輪の製作は高い技術的専門性を必要とするため、列島内の首長間における技術交流の契機には政治的な背景が想定される。研究対象は各地方初現期の形象埴輪樹立古墳出土資料で、現地調査では悉皆的な分類・分析により埴輪群・土器・土製品の組成を把握し、埴輪製作技術・使用工具等の比較研究・資料化のために、調書作成・実測・写真撮影による観察記録を作成した。対象は、福岡県沖出古墳古墳、大分県亀塚古墳、宮崎県西都原169号墳、広島県三ッ城古墳、京都府蛭子山1号墳、奈良県室宮山古墳、和歌山県車駕之古址古墳、岐阜県昼飯大塚古墳、愛知県味美二子山古墳、三重県宝塚1号墳、静岡県堂山古墳、山梨県豊富大塚古墳・三珠大塚古墳、群馬県赤堀茶臼山古墳出土埴輪である。調査に際しては、福岡・大分・宮崎・山口・広島・愛媛・兵庫・京都・大坂・奈良・和歌山・滋賀・岐阜・三重・静岡・長野・山梨・群馬各府県の古墳研究者を研究協力者として依頼し、調査精度の向上と効率化を図り、関連資料調査・文献収集を実施した。次に、研究成果の共有化と方法・課題の明確化を図るために、古代史研究者を招聘して年数回の研究会を実施し、古代手工業史からみた埴輪生産の技術交流の政治的意義について検討・意見交換を行った。また、作業は研究支援者を雇用して、東京国立博物館蔵の宮崎県西都原古墳群、群馬県赤堀茶臼山古墳出土資料の分類・実測も実施した。調査資料と文献資料はファイリングし、データはパソコンで簡単な統計処理を施した。19年度末には、平成17〜19年度の研究成果を集約した報告書を作成した。
著者
小池 健一 上條 岳彦 三木 純 坂下 一夫
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

1986年に起きたチェルノブイリ原発事故は隣接するベラルーシ共和国に高度の放射能汚染をもたらした。放射能汚染地域に住む小児は、今もってこれらの放射性核種による被曝を受け続けている。原爆における放射性障害は一度に全身被曝を受けたことに起因するのに対して、チェルノブイリ原発事故では低線量の放射能被曝が事故後10年経た現在も持続している点で大きく異なっている。ゴメリ州立病院に入院した小児白血病患者と、同期間にビテフスク州立病院に入院した小児白血病患者における病型を比較した。ゴメリでは、慢性骨髄性白血病(CML)症例が94例中5例を占めた。一方、ビテフスクでは66名の白血病患者の中でCML例は1例もみられず、CMLがゴメリ州でより多く発症した傾向がうかがえた。小児におけるCML発症はきわめてまれであるにもかかわらず、ゴメリ州立病院に入院した白血病患者の5%がCMLであったことは、放射能汚染との関連が推測される。しかし、最終的な結論を得るには、より多くの患者の集積が必要である。急性リンパ性白血病の初診時年齢や検査所見などを比較したところ,ゴメリ州において明らかに幼若年齢での発症が多くみられた。また、LDHが高値を示す症例の比率が高かった。末梢白血球数、Hb値、血小板数などは差が認められなかった。ゴメリ州立病院に入院したALL患児の臨床的特徴として、2歳以下の幼若児の比率が高いこと、LDHが500IU/L以上を示す患者の頻度が高いことが明かとなった。最近、小児期、特に2歳くらいまでの白血病発症は胎児期に始まることが報告されている。ゴメリ州での放射能被曝は胎児期から始まる低線量の長期間にわたる体内被曝様式をとっていることから、幼若発症例が多い要因として、出生前からの母体内被曝が重要な因子となっている可能性が考えられる。
著者
百瀬 響 遠藤 匡俊
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、平成25~28年度科研費(挑戦的萌芽研究)「北海道・東北を中心とする北方交易圏の理論的枠組み構築のための総合的研究」(研究代表者 百瀬響、課題番号25580150)での成果を発展させ、東北・北海道の日本海沿岸地域(石狩・余市地方)・樺太における「北方交易圏」の交流の実像を通時的に明らかにする。近世から近代を通じ、東北-樺太-北海道日本海沿岸地域に存在した交易圏と婚姻圏に関して、各地域の博物館・アイヌ系住民らと連携し、物質文化・古文書・オーラルヒストリー等の史資料から、地理学・歴史学・文化人類学等諸分野の手法を用い、かつてこれらの地域に存在した交易・婚姻圏の実態を探る。
著者
石川 禎浩 高嶋 航 小野寺 史郎 村上 衛 森川 裕貫 田中 仁 丸田 孝志 江田 憲治 瀬戸 宏 武上 真理子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

2017年度は、研究分担者の協力を得て2015年4月に発足した毛沢東伝研究についての共同研究グループの研究会を継続実施した。研究グループによる研究例会は基本的に隔週金曜午後に京大人文研で定期開催し、年度内に15回開催することができた。例会では2015年以来収集してきた毛沢東伝に関するデータ、資料、様々な版本などを持ち寄って分析するとともに、毛沢東の国外における影響をとりあげるなど、日本の研究者にしかできないアプローチで実態解明を進めた。主な研究報告の中身は以下の通りである:高嶋航「毛沢東とスポーツ」、田中仁「現代中国政治における毛沢東経路の発生」、江田憲治「遊撃戦争とは何か?」、石川禎浩「『全連邦共産党(ボ)歴史小教程』と毛沢東の党史」、三田剛史「毛沢東統治下の経済学者」、瀬戸宏「毛沢東時代の知識分子像」、丸田孝志「毛沢東の伝記・物語の成立と展開」、村上衛「大躍進と日本」、小野寺史郎「中華人民共和国初期の「記念節日資料」中の毛沢東略伝について」、森川裕貫「「ハリコの虎」から「精神原子弾」へ」。研究の中間段階の公開とデータの収集、および学術交流を主目的として9月に本研究グループの主要メンバー7名が北京をおとずれ、毛沢東研究の本山とも言える中国共産党中央組織の党史関連部門とのコンタクトをはかった。結果として、先方の面会不履行により交流は実を結ばなかったが、党史関連の収集という目標は達成することができた。また、研究成果の将来における公表を見越して、5月に石川が北京の出版社との打ち合わせをおこなう一方、9月、12月、3月にも中国、ドイツにおいて、研究成果の報告や資料調査を進めた。そのうち、いくつかの研究成果は中国の学術刊行物に相次いで掲載されるにいたっている。このほか、京大人文研の所蔵する旧鱒澤彰夫氏所蔵の文化大革命期紅衛兵資料の整理を継続した。
著者
柴田 正良 三浦 俊彦 長滝 祥司 金野 武司 柏端 達也 大平 英樹 橋本 敬 久保田 進一
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、その核心のみを述べれば、(1)ロボットと人をインタラクションさせることによって、来るべき「ロボットと人間の共生社会」において重要となる「個性」がロボットにとってなぜ必要となるのかを認知哲学的に解明し、また、(2)その結果を「個性」に関する哲学的なテーゼとして提示するとともに、(3)そのテーゼに経験的な支持を与えることを目的とした、人とロボットのインタラクション実験を設計・実施することである。まず、われわれが今年度に到達した個性概念テーゼは、「ロボットが<個性>をもつとは、それが<道徳的な行為主体 moral agent>だということであり、道徳的行為主体であるとは、他の何者も代替できない責任を引き受けるということであり、そのためにロボットは、他者が経験しえない(クオリア世界のような)内面世界をもたねばならない」、ということである。われわれは、このテーゼを、本研究の最も重要な哲学的成果だと考える。このテーゼはロボットに適用可能であるばかりか、「道徳」、「責任」、「クオリア」、「内面世界」、「主観性」といった従来の道徳哲学や心の哲学、ひいては認知心理学全般に大きな視点の転換をもたらすものと考えている。このテーゼを経験科学的に「確証」するために、われわれは、今年度、人とロボットをメインとするインタラクション実験を設計し、このテーゼと実験の「概要」を、平成29年7月にロンドンで開催された国際認知科学会(CogSci2017)で発表した。この実験に関しては、今年度においては数回の予備実験と、それによる実験手順の調整をおこなったにすぎないが、来年度の本格実験のためのほぼ完璧な準備を終えることができた。この実験は、最近、心理学や認知科学の分野で頻繁に取り上げられている「トロッコ問題」などの道徳的ジレンマに、まったく新しい光を投げかけるものとなるだろう。
著者
原田 浩二 小泉 昭夫 Steinhauser Georg 新添 多聞
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

福島第一原子力発電所におけるがれき撤去作業に伴う原子炉3号機建屋からの放射性物質放出量を基にした大気拡散シミュレーションを行い、2013年8月に南相馬市で実測された大気中濃度、降下量を再現した。粉じんが降下したとされる南相馬市原町区10地点で、撹乱されていない箇所での土壌試料21検体について放射性ストロンチウム、プルトニウム分析を実施し、放射性ストロンチウムは比較的高い地点が見られるなど挙動、拡散は異なる可能性が示唆された。これらの結果から、二次拡散における粗大粒子の拡散は降下物量に有意な影響を与え、コメをはじめとする農産物汚染を引き起こしうることが示された。
著者
宝達 勉 高野 友美 土岐 朋義
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

猫伝染性腹膜炎(FIP)はネコ科動物の致死性ウイルス感染症である。未だにFIPに対する有効な治療方法は報告されていない。我々は抗FIPV薬の検討と共に、新たに同定した抗FIPV薬を猫に投与して、FIPV感染に対する影響を調べた。その結果、細胞内コレステロールの輸送阻害薬であるU18666Aが野外に多く存在するI型FIPVの増殖を強力に抑制することを発見した。また、U18666Aを投与した猫においてFIP発症が抑制または遅延する可能性を確認した。さらに、獣医臨床で抗真菌薬として一般的に使用されているイトラコナゾールがU18666Aと同様の抗ウイルス作用を示すことを発見した。
著者
日野林 俊彦 赤井 誠生 金澤 忠博 大西 賢治 山田 一憲 清水 真由子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

2011 年 2 月に日本全国より 45,830 人の女子児童・生徒の初潮に関わる資料を収集した。プロビット法による日本女性の平均初潮年齢は 12 歳 2.3 ヵ月 (12.189 歳)で、現在 12 歳 2.0ヵ月前後で、第二次世界大戦後二度目の停滞傾向が持続していると考えられる。初潮年齢は、睡眠や朝食習慣のような健康習慣と連動していると見られる。平均初潮年齢の地域差は、初潮年齢が各個人の発達指標であるとともに、進化的指標でもあり、さらには国内における社会・経済的格差や健康格差を反映している可能性がある。
著者
櫻井 厚
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本報告書では、食肉産業、なかでも日常的には隠されている屠場労働者、さらに皮革産業では、原皮のなめし業従事者、革の加工のひとつである靴職人や太鼓職人などの生活史インタビューをとおして、かれらのライフストーリーを集積するとともに、それらの資料をもとに人びとのアイデンティティがどこにあるのか、今日の被差別観はどのような変化を見せているのかを、被差別部落内居住者、被差別部落出身だが部落外居住者、さらに非部落出身者など、部落差別と関連づけながら検討したものである。全体は二部構成になっている。第一部は、本書の問題意識と関連させて現在の被差別部落の様相と現状の課題を検討し、それぞれの産業従事者の生活史の具体的な様相と人びとがかかえる困難をあきらかにする論文から構成されている。第二部には、(1)屠場(食肉センター)労働者および屠畜関係者の生活史インタビュー・トランスクリプト(書き起こし)と解釈、(2)皮なめし業従業者の生活史インタビュー・トランスクリプトと解釈(3)靴職人の生活史インタビュー・トランスクリプトと解釈、を収録した。それぞれのライフストーリーに基づいた自己アイデンティティと被差別意識のとらえ方は、その方法論的な吟味とともに今後の課題でもあるが、さしあたり、本調査研究をとおしてこの業種に対して確認できたことは次の点である。ひとつは、食肉・皮革産業に対する忌避観を表象する言説は、かつての「ケガレ」意識や「環境問題」言説から、生命尊重や動物愛護に裏打ちされた「教育問題」言説へ移ってきていることである。この最近の変化は、長く食肉文化を謳歌してきた欧米においても動物愛護やベジタリアンの登場とあいまって静かな広がりをみせている。二つめは、「部落産業」と呼ばれるように部落差別の根拠とされていた産業が、被差別のまなざしを向けられる地域と離れることによって職業差別と結びついて発現されるように変化してきたことが、この産業に働く人びとの被差別意識の変化のなかに伺うことができる。
著者
Hanley Sharon 櫻木 範明 伊藤 善也 玉腰 暁子 大島 寿美子 山本 憲志 岸 玲子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

幼児期に身につけた生活習慣は成人期に持ち越され、その内容によってはがんのリスクを高める行動に繋がる。本研究の目的は、学童の健康教育の歴史が長い英国・豪州のがん教育を参考に、小中学生向けの教材を開発する。両国では、効果的な教材の開発の為に保健医療省と教育省が連携している。英国では小児期の肥満が問題となり、保育園から食生活と運動習慣が健康教育に含まれている。気候のよい豪州では、屋外での活動は一般的であるが、皮膚がんのリスクが増加する為、紫外線への曝露を避けるように学校単位で指導される。どちらの国でも、学校単位でのHPV教育が効果的に行われている。現在、英国の教材を日本で使えるよう翻訳を進めている。
著者
佐藤 郁哉 川嶋 太津夫 遠藤 貴宏
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

2017年度は特に、2014年に英国で実施された研究評価事業であるReserach Excellence Framework(REF 2014)を踏まえた制度の改訂点とそれが大学機関の対応行動に与えた影響に焦点をあてて分析を進めた。あわせて、英国の研究評価制度を重要なモデルにしながらも独自の発展を遂げてきた豪州の評価制度である、Excellence in Research for Australia(ERA)を第3の検討対象事例として、聞き取りを資料調査による分析をおこなった。REF 2014に関する第三者委員会による検討の結果は、2016年7月にいわゆる「Stern Review」として公表され、その結果を踏まえた次回のREF(REF 2021)における評価制度の大枠は2017年11月に示されることになった。その骨子となる評価対象となる研究者の幅の拡大と1人あたりの業績点数の柔軟化は、いずれも大学側での策略的対応を抑制することを主な目的としていたが、聞き取りや資料調査の結果は、それらの改訂が別種の策略的対応を生み出す可能性を示唆している。豪州のERAについては、英国のREFとは対照的に公的補助金の選択的配分とはほぼ脱連結された評価制度が大学および研究者個人の対応行動ひいては研究の質に与える影響を中心にして検討を進めた。その結果明らかになってきたのは、豪州の場合には、補助金の獲得というよりは、むしろ評価結果が各種大学ランキングへの影響等を介して間接的に授業料収入(とりわけ留学生の授業料)に結びつくという点が大きな意味を持っていることが確認できた。以上の知見は、今後日本で本格的な研究評価がおこなわれる場合の制度設計にとって大きな意味を持つと思われるだけでなく、日英豪の大学の収益モデルについて再考を迫るものだと言える。