著者
吉川 徹
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.127-136, 2020 (Released:2020-07-01)
参考文献数
9

発達障害のある子どもの育児には,多数派の子どもの育児と比較すると,より多くの大人の時間,気力,体力,経済力を要する場合が多い.このため発達障害のある子どもを育てている家族に対しては,マンパワーの確保,知識とスキルの伝達,気持ちの支えなど複数の観点からの評価と実際の支援とが必要となる.また特に気持ちの支えに関しては,専門家による支援のみでこれを充足することは難しく,ピアサポートを含む形での相補的な支援がなされることも期待される.家族が安心して地域を頼ること,家族が自分の人生を楽しむことが,ひいては子どもと家族の「こじれ」を防ぐ決め手になるのではないだろうか.本稿では養育者の負担軽減に主眼を置き,発達障害のある子どもの育児に必要な家族支援について考えてみたい.
著者
荻布 優子 川崎 聡大
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.231-237, 2023-10-01 (Released:2023-10-06)
参考文献数
12

近年,不登校の背景にある学習のつまずきの存在が指摘され学習障害と集団不適応が併存する事例報告も散見されるが,情緒の安定化を第一に据え学習面への直接的な介入は避けられる傾向にある.われわれは就学直後に登校しぶりを呈していた児童に読み書きの困難さを見いだし,学習場面への心理的負荷に対する配慮を十分に講じたうえで認知特性に合わせたひらがな読み正確性指導を行った.結果,約7か月間週1回の指導によりひらがな音読はほぼ完成し,未指導のカタカナや漢字に対して興味を示し,生活の中でひらがなを読んだり遊びに取り入れたりする姿が観察されるようになった.読み書き困難が背景の一つであると推測される不適応状況の解決の糸口として,体系的な文字学習での度重なる失敗の経験が比較的少ない学童期初期においては,発達段階や認知特性に配慮したうえでの苦手さそのものに対する段階的なアプローチの有効性が示唆されたと考えられた.
著者
山口 穂菜美 佐竹 隆宏 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.117-125, 2022-07-01 (Released:2022-07-01)
参考文献数
10

食後の嫌悪的な結果と食物による感覚的な特徴の回避という回避・制限性食物摂取症(Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder:ARFID)様の症状を呈した自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)のある9歳の小児に対して入院にて心理教育とトークンエコノミー法を用いた行動的介入を行った症例を報告した.入院開始時,患児の摂食量は1日1口程度であったが心理教育と行動的介入の開始後徐々に摂食量および体重が増加したため149日目に退院となった.心理教育によって食後の嫌悪的な結果への対処行動を身につけたこと,トークンエコノミー法によって経口摂食の動機づけが高まったことが有効であったと考えられる.さらに,保護者を通した心理的介入を行ったことや,ASD特性に配慮した方略を用いたことが重要な役割を果たした.また,精神科医,小児科医,心理職の多職種連携を行ったことで,身体面,栄養面,行動面の多面的な治療を行うことができたと考えられる.
著者
池上 将永 荒木 章子 増山 裕太郎 空間 美智子 佐伯 大輔 奥村 香澄 高橋 雅治
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.223-231, 2020 (Released:2020-10-01)
参考文献数
32

遅延時間に伴う報酬価値の割引を遅延割引と呼ぶ.遅延割引は即時小報酬への選好を予測することから,衝動性の指標とされている.本研究では,ADHD児およびASD児の衝動性を評価するために,児童用遅延割引質問紙を用いてADHD児とASD児の遅延割引率を測定した.また,得られた割引率の妥当性を確認するために,日常場面における自己制御質問紙と割引率の関連性を検討した.自己制御質問紙において即時小報酬を選択した参加児は遅延大報酬を選択した参加児よりも有意に高い割引率を示し,割引率の妥当性が確認された.ADHD群とASD群の割引率に有意な差はみられなかったが,定型発達児で報告されている値よりも大きいことから,ADHD児とASD児は衝動性が高い傾向があると考えられた.ADHD群において割引率は年齢と負の相関を示し,加齢とともに割引率が低下する可能性が示唆された.本研究の結果,ADHD児やASD児の衝動性を評価する際に,割引率が有用な指標となることが示唆された.
著者
安達 潤 吉川 徹
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.309-324, 2021 (Released:2021-01-05)
参考文献数
20

保護者の参加を伴う知的・発達障害の早期支援実践におけるICF情報把握・共有システム(安達,2018)の活用の効果を検討した.ICF情報把握・共有システムを用いて児の日常エピソードから支援関連情報を把握し,児の強みや支援効果の有無を確認して支援課題を絞り込み,支援者と保護者での情報共有・意見交換を通じて支援方法を考案・実行した.効果検証の質問票を行い,支援者からは環境要因を含む児の全体像を捉える大切さがわかった,保護者からは支援会議への参加で子育てのエネルギーをもらえたとの回答が得られた.活用前後の個別支援計画の比較では活用後の向上を認めた.一方,作業労力の軽減が今後の課題として示された.今後のシステム改善と運用方法の工夫は必要であるが,保護者が参画する早期支援実践への本システムの活用は,支援計画の実効性向上,支援者のスキルアップ,保護者の子育て支援によい効果をもたらすことが示された.
著者
山口 穂菜美 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.141-150, 2022-07-01 (Released:2022-07-01)
参考文献数
11

障害児通所支援におけるペアレントトレーニング(以下,PT)の実施状況に関する調査の二次分析を行い,医療型および福祉型児童発達支援センター(以下,センター)と児童発達支援事業所および放課後等デイサービス(以下,事業所)で行われるPTの実施と普及に向けた課題を検討した.その結果,実施プログラム,PT実施者,PTの評価についてセンターと事業所でおおむね共通した特徴がみられた.一方,運営やPTの対象となる子ども,PTを実施するうえでの困難については一部異なった特徴がみられた.課題として,障害児通所支援の職員に対するPT研修やPT実施者へのスーパーバイズの機会の増加およびPTを実施できる人員の確保,利用しやすい評価ツールの開発などがあげられ,センターがPT実施において中核的な役割を担っていくことが期待されることを指摘した.今後,PT実施に関する困難の背景や実態をさらに調査していくことが望まれる.
著者
杉山 登志郎 堀田 洋
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.15-23, 2019 (Released:2019-04-04)
参考文献数
15

わが国の子ども虐待は疫学統計の常識を覆す増加を続けている.われわれは,表向きは発達障害であるが,治療的に取り組んでみると,親子とも背後に子ども虐待の影響が認められる親子への併行治療に取り組んできた.子ども虐待によって生じる愛着障害から始まる一連の臨床像の推移は,発達性トラウマ障害(developmental trauma disorder)として知られている.その最終的な臨床像は,複雑性PTSDである.ICD-11の診断基準には,従来のPTSDの3症状(侵入症状,過覚醒,回避)に加え,気分変動と他者との関係の障害および,自己価値の障害の3者が加えられた.われわれは,これらの親子に対して,安全に実施できる治療手技について試行錯誤を繰り返してきた.発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの臨床像を紹介し,治療を実施するうえでの留意点を説明した.さらに,簡易型トラウマ処理を組み込んだ,安全に外来臨床で実施が可能な,複雑性PTSDへの治療パッケージを提示した.
著者
小沢 愉理 小沢 浩
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.43-51, 2021 (Released:2021-04-01)
参考文献数
12

知的障害・発達障害を有する患者の移行は各自の多様性やニーズの違いがあり困難を極める.当センターでは福祉相談科と連携し移行に関する流れを考案し,移行期医療における現状と取り組み,移行先の医師に移行に関するアンケートを実施したので報告する.2017年10月から2018年9月まで20歳以上で療育外来の診療を継続している症例は療育外来全受診者の5.5%であった.ASD,CP,ダウン症,てんかんが多かった.2018年1月から2019年4月までに精神科・心療内科への移行は44例であった.アンケートでは移行の困難さの理由について当事者の受診意欲,小児科と精神科の違い,治療関係の確立の難しさがあげられた.医療者側に障害に関する知識や対応のスキルが求められ,小児科と精神科・心療内科医師間の連携の強化とともに,社会が当事者の抱える問題点についてより理解を深める必要があり,教育や福祉など多分野との連携を強化し,シームレスな支援が大切である.
著者
柿沼 美紀
出版者
日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.376-378, 2010-12-30
参考文献数
9
著者
杉山 登志郎 堀田 洋
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.15-23, 2019

わが国の子ども虐待は疫学統計の常識を覆す増加を続けている.われわれは,表向きは発達障害であるが,治療的に取り組んでみると,親子とも背後に子ども虐待の影響が認められる親子への併行治療に取り組んできた.子ども虐待によって生じる愛着障害から始まる一連の臨床像の推移は,発達性トラウマ障害(developmental trauma disorder)として知られている.その最終的な臨床像は,複雑性PTSDである.ICD-11の診断基準には,従来のPTSDの3症状(侵入症状,過覚醒,回避)に加え,気分変動と他者との関係の障害および,自己価値の障害の3者が加えられた.われわれは,これらの親子に対して,安全に実施できる治療手技について試行錯誤を繰り返してきた.発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの臨床像を紹介し,治療を実施するうえでの留意点を説明した.さらに,簡易型トラウマ処理を組み込んだ,安全に外来臨床で実施が可能な,複雑性PTSDへの治療パッケージを提示した.
著者
本田 由美 河内 美恵 金 樹英 西牧 謙吾
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.345-359, 2024-01-01 (Released:2024-01-05)
参考文献数
165

本論文では,2010年以降に発表された和文の自閉スペクトラム症の介入実践研究を概観した.キーワード検索で該当した和文文献4,171編を抽出条件(1.査読付き実践研究,2.2010 年~ 2021年発表,3.対象は本人,保護者,支援者,4.個別・グループ含む)に従い選択し,最終的に148編の論文を対象とした.その結果,(1)対象者は「本人」が最多で75.0%,次いで「本人と養育者」(12.2%),(2)対象年代は学童期(35.1%),乳幼児期(25.7%)が多数を占める,(3)最も活用されている介入法は行動的アプローチであり,一定の介入効果をあげている一方で,結果が一様でないケースもみられることなどが明らかとなった.今後の課題としては(1)青年期・成人期への介入研究の増加,(2)統制群や待機群を設定した研究実施,(3)多面的な評価や中長期的フォローの必要性があげられた.
著者
多門 裕貴 小枝 達也
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.79-85, 2022-04-01 (Released:2022-04-01)
参考文献数
14

【目的】社会的コミュニケーション症(SCD)は,言語的および非言語的なコミュニケーションの社会的使用に困難さを示すことから自閉スペクトラム症(ASD)との鑑別が重要となるが,参考となる補助検査所見が乏しい.本研究ではSCDとASDの鑑別に有用な補助検査について検討した.【方法】SCD群5 名,ASD群25名に対して対人応答性尺度(SRS-2),比喩皮肉文テストを実施・検討した.【結果】SRS-2の(1)社会的コミュニケーションと対人的相互交流(SCI)および(2)興味の限局と反復行動(RRB)のT得点は,ASD群ではいずれも臨床域,SCD群ではSCIは臨床域でRRBは臨床域未満であった.比喩皮肉文テストではSCD群では皮肉文の正答率が極めて不良であった.【考察】SRS-2と比喩皮肉文テストの組み合わせによりSCDとASDの臨床的な相違点が明らかになり,両者は臨床的に異なった疾患概念である可能性が示唆された.【結論】SRS-2と比喩皮肉文テストは,SCDとASDの鑑別に有用な補助検査になり得る.
著者
児玉 由布子 藤井 秀比古 川口 智子 中嶋 義記
出版者
一般社団法人 日本小児精神神経学会
雑誌
小児の精神と神経 (ISSN:05599040)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.385-392, 2020 (Released:2020-01-06)
参考文献数
14

半年前の溶連菌感染症の罹患後,急性の強迫行為と摂食制限を呈し,低血糖と脱水症状に至った6歳女児例を報告する.特に誘引なく,朝の着替え,朝食のやり直し行為が始まり,次第に強迫行為が長くなり,食事も摂れなくなったため当科へ紹介入院となった.低血糖および脱水所見を認め,A群溶血性レンサ球菌(GAS)抗原検査は陰性,頭部MRI,髄液検査にて明らかな異常を認めなかった.入院後,補液を開始し,低血糖と脱水症状の改善とともに,強迫行為と摂食の回復がみられ退院となった.その後症状なく経過していたが,約1年半後に同様の強迫行為が出現した.外来にて経過観察し1か月ほどで自然軽快した.経過中に施行したGAS抗原検査は陽性,咽頭培養にてSt. pyogenesを検出した.臨床経過から,溶連菌感染に関連した自己免疫性神経疾患である小児自己免疫性溶連菌関連性精神神経障害(Pediatric Autoimmune Neuropsychiatric Disorder Associated with Streptococcal infections;PANDAS)や,明らかな先行感染がなく急性発症するOCD症状を包括した疾患概念としての小児急性発症神経精神症候群(Pediatric Acute-onset Neuropsychiatric Syndrome;PANS)が疑われた.今後の類似症例の蓄積が望まれる.