著者
三代川 正秀
出版者
拓殖大学
雑誌
拓殖大学経営経理研究 (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.111-135, 2004-03-31

技術はそれが発明・考案されたからといって、すぐに社会環境に順応するものではなく、技術転移のために環境との(技術的)対話が長らく行われて定着する。本稿は筆算技術と算板技術の相違から洋式簿記と和式簿記の思考方法を分析して、家計簿記が如何にして現在の計式を採用するように至ったかを探るものである。なお、本稿は拙著『日本家計簿記史』に記述した後閑菊野・佐方鎮らに始める多桁式現金出納簿構築にかかわる私見の訂正と彼らの再評価を行うものである。
著者
丸山 正博
出版者
拓殖大学
雑誌
拓殖大学経営経理研究 (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.77-91, 2007-03-25

書籍販売は市場全体では縮小傾向にあるが,ネット通販市場は拡大している。そこで(1)多品種小ロット生産などの商品特性,(2)再販制度といわゆる委託販売制度による取引システム,(3)大手取次のチャネル支配という流通システム,という書籍の流通構造を踏まえた上で,版元と書店が事業性の改善のために採りうる対応策を考察する。そして版元にとってはオンデマンド出版やデジタル書籍の積極的な導入,中小取次との取引や書店との直接取引の積極化,再販制度の不採用か少なくとも時限再販制度への移行が有効な施策であり,書店にとっては販売規模に応じた品揃えの主体的な選択と絞り込み,これを可能にするための返品を前提としない買切制度と,再販制度に代わる時限再販制度の積極的採用が有効な施策であると指摘した。
著者
芦田 誠
出版者
拓殖大学
雑誌
拓殖大学経営経理研究 (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.73, pp.20-52, 2004-12-20

物流コンセプトの変化の背後には、その時代のコアとなる物流施策の方向性が指し示されている。この点では、今日の物流戦略は車の両輪として位置づけられるSCMとDCMの連携に軸があるとみてよい。日本では、1990年代後半にSCMのコンセプトが、また21世紀に入ってSCMの実践例が盛んに紹介された。第3ラウンドとも言うべき今日のSCM研究は、逆に失敗例、言い換えればSCM推進上の課題、そして特に評価方法に議論の中心が移るべきであると考える。その課題には、情報交換のデータ様式の統一化、在庫圧縮と緊急時の対応、日本的商慣習とSCMの調整、環境問題との調整などがある。評価方法には、1CS、2顧客に対する付加価値、3総コスト、4部門収益性分析、5戦略的利益モデル、6株主価値手法などがある。
著者
嶋 和重
出版者
拓殖大学
雑誌
拓殖大学経営経理研究 (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.80-110, 2004-03-31

朝鮮戦争を跳躍台として日本経済は一気に停滞を回復する。企業は、朝鮮特需による一定の高収益を足場にし、さらに政府の投資促進・資本蓄積政策によって積極的な"合理化投資"を行いつつ、多様な手段による資本の蓄積を促進していく。それに大きく貢献した会計制度が、資産再評価と税制上の優遇措置であり、さらに実務規範として機能した「企業会計原則」である。資産再評価の効果は、減価償却費の増大、利益の過少計上からの税額、配当、賃金の抑制におる内部資本蓄積の強化であった。税制上の優遇措置は、特別償却・割増償却の容認、各種の準備金・引当金の設定を認める措置であり、資本蓄積と利益の内部留保にとって大きな効果があった。企業会計原則は、「経理自由の原則」に基づき企業経営の健全化を根拠として利益の政策的配慮を容認した。また、近代会計理論に立脚して資産再評価や税制上の過大償却、広範な引当金・準備金経理を合理化し、投資家保護を根拠とする企業主体理論の下、多様な資本概念が採用された。これらによって、資本蓄積促進機能が果たされていったのである。
著者
北中 英明
出版者
拓殖大学
雑誌
拓殖大学経営経理研究 (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.27-63, 2007-12

経営戦略の一環としてイノベーションをどのように展開していくかについては,改めてその重要性が認識されている。その際に,イノベーション・マネジメントの側面だけではなく,イノベーションがどのように普及していくかについてそのメカニズムを理解しておくことも重要なことがらである。イノベーションの普及の際に大きな役割を果たしているのが社会ネットワーク構造であるが,社会ネットワーク構造に関する研究が,近年になって飛躍的に発展してきた。本稿ではイノベーションが普及する際のメカニズムと社会ネットワーク構造の関係を,マルチエージェント・シミュレーションという手法を用いてモデル化し,それによる考察を試みる。
著者
小原 博
出版者
拓殖大学
雑誌
拓殖大学経営経理研究 (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.16-40, 2004-03-31

流通の最終段階位置する工業について、この分類の1つに業種と、業態という対峙する概念がある。業種が商品のうち「何を取り扱うのか(kind of business) 」に対して、業態は(業種を越えた)商品グループを包含した形での営業形態をとるもので、商品を「いかに取り扱うか(type of operation)」という分類である。このうち、業態はわが国ではどのような過程をたどって、その発展がみられたのか、あるいはみられなかったのか、その軌跡を追いながら、あるべき業態の姿を検討する。結論的に、われわれ消費生活者が小売店での買い物を通して、豊かさが現実のものになるという視点こそが重要で、種々雑多な業種、業態の小売店の存在を是とし、これらが消費生活者のさまざまなニーズを満たすものでなければならない。
著者
藤田 祥子
出版者
拓殖大学
雑誌
拓殖大学経営経理研究 (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.75, pp.25-54, 2005-08-31

今まで会計帳簿等の帳簿閲覧請求の可否が争われた事例で問題になったのは、会計帳簿および資料の意義や請求理由の具体性と会計帳簿等の特定といったことだった。近時、商法293条の7第1号前段を問題とし、請求を認める最高裁判決が出た。それを契機に従来議論されてきた商法293条の7第1号にでてくる「株主の権利」に何が含まれるかという問題について歴史的考察を加え、株主であることに基づく権利がすべてはいるものとする私見を述べた。そして新会社法における改正点に検討を加えた。
著者
芦田 誠
出版者
拓殖大学
雑誌
拓殖大学経営経理研究 (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.1-27, 2008-03

現代を代表する物流の考え方は,製販を統合し情報を共有することよって在庫縮小とリードタイムの短縮を実現するSCMであり,日本政府の現行物流政策は,「東アジアSCM」,「環境・静脈物流」,「DCM」,「安心安全を支える物流」の構築が中心となっている。現代企業100社の物流改革を探ってみると,「物流の再編・物流拠点の集約」と,「SCMの推進」,「輸送・倉庫の効率向上」,「グリーン物流」,4つに取り組んでいる。06年日本における物流大賞は「ITトラックを活用したCO_2削減の数値的把握」,「包装資材のリターナブル」,「配送状況の可視化によるCS向上」であった。アメリカの物流大賞では,06年が「貨物輸送費見積モジュールの構築」,「物流システムの一元化」,「荷主とトラック会社,ドライバーとの信頼関係回復による輸送効率の向上」であり,07年が「DCの新設による輸送費の削減とリードタイムの短縮」,「荷主の輸送貨物と運送会社のトラックを連動させたConnected Capacity Portalの開発」,「中国からの輸入物流における分散型から統合型物流システムへの転換」,「GHGを50%削減させるモーダルシフトの推進」であった。日米の物流大賞とも,日本の現代企業100社が取り組んでいる既述4大改革に収束される取り組みである。実際の物流現場ではSCMだけでなく,より広い範囲の物流改革が行われている。それらを動機付けているものは,物流に関する資産を縮減する一方,顧客サービスを充実することによって売上高の増大を図っていく企業の目的と経営戦略,そのものにある。問題は,棚卸・固定資産,ならびにロジスティックスコストの削減と顧客サービスの向上が対抗軸にある点であり,現代企業の物流改革の評価は,物流コストとカスタマーサービス,二つの対抗軸を関連させてみていかなければならない。
著者
金山 茂雄
出版者
拓殖大学
雑誌
拓殖大学経営経理研究 (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.65-94, 2007-12

インターネット,電子メール,携帯電話などの開発については日本企業のソフトウェア開発が旧態の開発手法で行われてきたため,現在その開発スピードについて行けないのが現状である。21世紀に入り大企業の経営者は皆「ITシフト」と言っていた。しかし,先進的技術がいつも社会に受け入れられてきたわけではない。企業グループ化の現れは企業を中心とした経済社会にとって重要であり,グループの本質や目的・方針など今日のような科学・技術革新のスピードが速い状況化でどのように変革を遂げていくのか興味深いものがある。すなわち,環境の変化による企業グループの戦略的対応の仕方が重要になり,さらに製造企業にとって生産を行うための技術展開が戦略上重要になるからである。つまり,経営者の理念精神は企業の事業活動に強いインパクトを与え,経営者の固有の価値観とそれに基づいた企業風土が企業の戦略の創出などに大きく貢献している。企業の新しい事業展開が第三者から観て,新しいビジネスになりそうな場合,仮にならなくても新ビジネスに繋がるものであれば,投資家はその企業に投資しはじめ株式時価総額が増え,企業価値が増し,その評価も上がる。「インターネットの勝ち組」だけではなく,「企業全体の勝ち組」へと好転するのである。共通する点は,関連の企業経営においてスピード経営が「時代の変化を読み取る」「素早い対応」を行うことであり,企業の価値評価を上げていることである。したがって,時代の変化に適応した企業経営は時価総額を上げた企業が「経営やビジネスモデル」として評価でき,企業価値を高め,成功した企業(勝ち組み)への一事例として参考にすべきであり,低迷している企業が一気に飛躍するチャンスも秘あていると考える。そのためには,企業の成長戦略モデルとしてなにが重要で大切かを知ることが必要であり,情報化社会や情報社会ではコンピュータなどITと企業にとって重要かつ大切な経営資源,競争力向上のための企業体質等の強化が必要である。つまり,一つの事業から他事業への相乗効果も考えることでもある。新しい技術を活用した製品,サービスを生み出すためには新技術創出とそれを活用した製品とサービス,製造,販売について研究開発もまた必要である。経営資源を最大限活用することで新技術の創出を生み出し,IT活用型社会からIT社会,つまり「情報社会」の形成に至ったとき,企業の成長が社会にとって大切な組織・集団であると再認識し,その評価と価値が高まるのである。