著者
森 啓之
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.317-327, 2008-06-01
被引用文献数
2

欧米諸国を中心に世界的に電力の自由化が進むにつれて,電力システムは一社の地域独占で発電,送電,配電,小売の形態から,電力市場や相対取引を介して電力を売買する形態に様変わりつつある.その結果,電カシステムは競争的環境に変貌し,個々のプレヤーは従来よりも利益を最大化する傾向にある.同時に,多様化するプレヤーの存在や分散電源の利用により,電力システムにおける不確定性の度合いが増し,従来の電カシステムよりも停電が起き易い環境が内外で懸念されている.そのような環境下で,電力システムの運用・計画の観点から,発電機で発電された電力が,送電ネットワークを通して適切に需要家に送電されるかを検討する信頼度評価に対する関心が高まっている.本稿では,電力システムにおける信頼度評価法について概説する.
著者
立平 良三
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.328-335, 2003-06-25

天気予報の信頼性についての基本的な情報は精度の検証によって提供される.天気予報の精度検証が組織的に行われるようになったのは比較的最近のことであり,利用者へはまだ十分浸透しているとはいえない.天気予報の精度は年々向上しているものの,気象観測網の粗さや大気現象のカオス的性質のため誤差は避けられず,効果的な利用のためには精度の把握は不可欠である.信頼性へ配慮することなく,予報を近似的にでも確報と考えて利用できる時代の到来はまだまだ先のことであろう.最重要の課題は,全地球大気(さらに海洋も)の三次元の高分解能観測網の確立である.天気予報の精度は,適中率などの単一の指標で評価できるものではないし,また日々の予報毎に変動する.降水確率予報のような確率形式の予報は,利用者に日々の予報の精度を含めて提供する,最も実用的な手段である.確率形式のメリットが利用者に広く認識されるようになれば,今後各種の予報の発表形式として要望されてこよう.
著者
臼井 光昭
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.25, no.8, pp.710-717, 2003-11-25
被引用文献数
1

近年,コンビニで使われるPOSシステムはコンビニの顧客サービスの高度化に伴いマルチメディア対応機能や高度な通信機能が必要になると同時に,24時間・365日,絶え間なく顧客サービスを提供する必要があり,極めて高い信頼性が求められている.また,コンビニ店舗でのローコスト・オペレーションやコンビニで働く店員の不足を補う為,パート・アルバイトの活用が不可欠になっており,不慣れな店員であっても間違いのない接客が可能な,容易,且つ簡素な操作や誤操作を未然に防ぐ様々な工夫がコンビニ向けPOSターミナルに求められている.本稿では,コンビニ向けPOSターミナルの信頼性を高める工夫の一部を紹介する.
著者
加藤 明
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.172-177, 2012-03-01

宇宙活動において,「宇宙のごみ」(以下「デブリ」)の発生を防止する取り組みは,国連や国際標準化機構が推奨するガイドラインや規格類,並びに宇宙先進国政府あるいは公的機関が発行する標準書等にて進められており,各国の関係者それぞれが可及的速やかに実行に移す必要がある.しかし,単なるデブリ発生防止策を続けてもここ数年間の増加傾向が今後も継続すれば,宇宙活動を持続することはいずれはかなり困難となるほどである.このような悪化した軌道環境では,デブリ発生防止の取り組みだけでは不足であり,デブリの被害に対して積極的に信頼性と安全性を確保する必要がある.衛星・ロケットの品質を運用終了まで維持する信頼性,運用終了時点での廃棄処置を行うことの信頼性は,デブリ衝突による故障発生確率を含めて保証されるべきである.本稿では更に処分した衛星・ロケットが地上に落下する際の対人安全性にも言及する.なお,本稿は筆者の調査の結果得られた個人的見解を示すものであり,組織としての見解を示すものではない.
著者
田村 信幸
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.26, no.7, pp.699-709, 2004-11-01
被引用文献数
3

本稿では,定期的にシステムの状態が観測され,この観測された状態が時間離散的マルコフ連鎖に従って劣化するシステムを考える.点検後,稼働,修理,取り替えの内の1つの行動を取る.修理はM通り存在し,修理後の状態は不確実である.このようなモデルについて,無限期間における総期待割引コストの最小化を目的としたとき,幾つかの適当な条件の下,一般化されたコントロールリミット・ポリシーが最適となることを導く.複数修理に着目したときの最適保全政策の性質を明らかにする.さらに,得られた性質が本稿で提示した条件よりも緩い条件の下でも成り立つことを数値実験によって検証する.
著者
清水 尚憲 梅崎 重夫
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.32, no.8, pp.546-553, 2010-12-01

クレーン等による死亡労働災害は,昭和48年のピーク時に約400件であったのと比較すれば,年間約100件と大幅に減少している.しかし,現在でも,クレーンからのつり荷の落下,つり荷による挟まれ,クレーンからの墜落,機体等の折損・倒壊・転倒,つり荷の激突などが依然として多発しており,これらの災害に対する適切な災害防止対策が必要とされている.このため,日本クレーン協会では,これらの多発する災害を未然に防止するための危険性または有害性の事前評価手法として,「クレーン等のリスクアセスメント実施要領(日本クレーン協会規格JCAS0001-2008)」を公表している.本稿では,前記規格を小型移動式クレーンに適用する際の基本的考え方とリスクアセスメントの具体的実施事例を概説する.
著者
田村 高志
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.345-355, 2005-08-01

この20年間, 国産の衛星開発はロケットの大型化と歩調を合わせて常に先端を目指し, 大型化, 高性能化を追求してきた.衛星の打上, 運用によって得られた知見は非常に大きく, 自主技術による衛星開発のリスクは想定の範囲内にあると思われた.しかし, 「みどり」, 「みどりII」と2機連続しての運用断念を経験し, 大型衛星の開発が従来の開発手法の単純な延長線上にはないことを思い知らされた.一方海外に目を向けると, 同様に大型化を進めた商用衛星に多くのトラブルが発生していることが知られている.このような状況から, 国産衛星に限らず大型衛星の開発には従来技術の範囲を超えたリスクが存在し, 確実な開発に向け新たな取り組みが必要であることが改めて認識されている.ここでは, 衛星開発における設計・評価・レビュー及び技術蓄積の観点から現状を分析し, 特に衛星の信頼性向上のためになすべきことについて述べる.
著者
秋田 雄志 荻野 隆彦
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.71-79, 2005-01-01
被引用文献数
6

鉄道の安全性を維持し、さらに向上するにはリスクの概念を採り入れた目標管理が必要である。本論文は、最初に過去50年間に発生した日本の鉄道の致死事故を分析し、事故の規模に応じた事故死リスクの実績を示す。次に、鉄道における事故死リスクを、自発的行為の結果を含む事故死リスクR_Aと被災による事故死リスクR_Bに分け、それぞれに対して許容リスク水準R_<A1>とR_<B1>、および広く受容されるリスク水準R_<A2>とR_<B2>の指標値を提案する。また、他の輸送機関における致死事故のリスク実績との比較等により、提案する水準の妥当性を考察する。
著者
柳 繁
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.411-420, 2003-07-25
被引用文献数
2

「難しい式がたくさん出てくる」.これが信頼性理論に対する殆どの方の印象だと思います.また,一般的に用いられる用語と信頼性用語のギャップも気になります.この点に注意しつつ,本稿では信頼性評価のための数学モデルのさわりの部分を紹介し信頼性理論への橋渡しにしたいと思います.
著者
長塚 豪己
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.31, no.8, pp.580-587, 2009-11-01
参考文献数
22

推定を安定化させる技術の一つとして最近注目されているL^p正則化推定法について紹介を行う.特にL^1ノルムを用いて正則化を行うLassoを中心に述べる.
著者
上野 誠也
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.386-391, 2008-07-01

航空宇宙システムの制御系は,その故障が重大な人身事故や多額の損失に至るために,高い信頼性が要求されている.本稿では,事例を紹介しながら,開発の歴史や将来の方向性を解説する.航空システムの制御系は,機体に搭載されたハードウエアのみならず,パイロットを含む閉ループ系で考察する必要がある.さらに地上支援の管制を含めれば,管制官を含むシステムで信頼性を扱う必要がある.安全性を高める目的で様々な対策が取られているが,人間が介在するために,人間中心の設計が重要であることが要求されている.一方,宇宙システムでは逆に人間が介在できない環境下で長期間運用することが要求されている.制御系を構成する電子部品には宇宙空間は厳しい環境であり,その環境でシステムが連続的に成立し続けることが必要である.高い信頼性の部品を使用し,冗長構成が採用され,故障が生じた時のFDIR機能を組込んだ制御系が使用される.それが厳しく制限させられたリソース内で実行されなければならない.また,ハードウエアの信頼性だけでなく,ソフトウエアの信頼性も高めることも必要である.その対策の事例を紹介する.
著者
向殿 政男
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.554-559, 2002-10-25
被引用文献数
1

これまで個別技術として発展してきた各分野の安全技術には,実はかなりの共通的な考え方がそこには横たわっている.各分野で開発された安全技術に共通する考え方を一般化,原則化することで,他の分野の安全技術にも応用可能な道が開けるはずである.これを実現するためには,あらゆる安全技術をその適用範囲の広さ,抽象度に従って階層化する必要がある.本稿では,それを三層構造で構成することを提案している.一方,安全には,個人の価値観やその時代の社会の価値観が深く関与している.従って,安全には,工学としての技術だけではなく,人文科学や社会科学が深く係りあっている.真の安全を実現するためには,広く人文・社会科学を包含した包括的な立場から安全を考察し,安全を学問として構築していく必要がある.本稿では,安全技術を基礎にした安全学の確立を提案している.以上を実現するために,本稿では安全に纏わるあらゆるキーワードを網羅してリストアップし,それらを分類し,階層化することを提案する.これを安全マップ,または安全曼荼羅と呼んでいる.
著者
石田 豊 高津 雅一 蓬原 弘一
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.25, no.8, pp.877-880, 2003-11-25

非常停止ボタン,トング利用のドアスイッチ,3-ポジションイネーブルスイッチは代表的な機械的安全コンポーネントとして現在現場で盛んに実用され,また国際的にもその利用が推奨されている。国際安全規格はこれらの機械的構造に対して安全確保原則を定め,その適用を強く推奨している。本報ではこれらのコンポーネントの機械的構造を論理的一般式にて表現し,安全確保の構造特性を安全確保原則に基づいて説明する。
著者
大日方 浩二
出版者
日本信頼性学会
雑誌
日本信頼性学会誌 : 信頼性 (ISSN:09192697)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.206-211, 2007-07-01

先端LSIプロセスの信頼性で, NBTI(Negative Bias Temperature Instability)と呼ばれるPMOSトランジスタの劣化が深刻な問題となっている. NBTIは,古くはスロートラップ現象として研究されていた劣化メカニズムであるが,埋込みチャネル型PMOSトランジスタを使っていたプロセス世代では劣化が少ないため, LSIの信頼性問題として取り上げられることはなかった.しかし先端MOSプロセスで表面チャネル型のPMOSトランジスタを使うプロセス世代になると, NBTIの劣化は無視できないものとなり,ホットキャリア(HCI)と並んでトランジスタの信頼性を決める要因となった. NBTIの劣化メカニズムは,薄いゲート絶縁膜では絶縁膜中の不純物やゲートトンネル電流の影響などの新しいプロセス要因に加え,パルスストレスでの回復現象など従来の故障物理では考えられていなかった現象のため,より複雑化してきた.最近の研究では,評価方法を含めた回復現象の解明によって,ようやくNBTIの劣化メカニズムが明らかにされつつある.ここでは,先端LSI開発におけるNBTIの故障物理について,最近の論文を基に解説する.