著者
刑部 敦 大久保 憲
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.127-134, 2015 (Released:2015-06-05)
参考文献数
80
被引用文献数
8 4

わが国におけるクロルヘキシジングルコン酸塩によるアナフィラキシー発生について文献調査を行い,1974年以降84例の報告を検出し,その症例について集計・検討を行った.   このうち使用部位及び使用濃度が明らかな77症例において,現在のわが国で承認されている適応範囲外の使用方法による発生が57例(74.0%)であり,適応範囲内の症例は10例にとどまった.また,発生症例の男女比は2.2:1 (男性55例,女性25例)で男性が多く,発生年齢層では小児及び高齢者よりも成年層が多かった(15歳未満が7例,16~64歳が62例,65歳以上が11例).   今回の集計・検討により,クロルヘキシジングルコン酸塩の使用にあたっては,使用部位,使用濃度の適応を遵守することが,アナフィラキシー発生の頻度を低下させるために重要な因子であることが示唆された.
著者
児玉 泰光 吉田 謙介 永井 孝宏 西川 敦 後藤 早苗 青木 美栄子 内山 正子 高木 律男
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.48-57, 2020-01-25 (Released:2020-07-22)
参考文献数
28
被引用文献数
1 2

歯科外来における抜歯に関連した経口抗菌薬について,歯科ICTによる抗菌薬適正使用支援プロブラム(ASP)の前後で調査した.2015年1月~2018年12月において,電子カルテを用いた後ろ向き調査から抜歯当日の経口抗菌薬処方(術後投与)を抽出し,経口抗菌薬投与の有無,種類,期間を検討した.対象期間の後半(2017年1月)から,ASPとして抗菌薬適正使用に関する設問を含むe-learningを実施し,同時に関連情報を歯科系全医療スタッフで共有した.対象期間の普通抜歯は12,225件で,前半68.1%(4110/6036),後半50.4%(3120/6189)で経口抗菌薬が処方されていた.下顎埋伏智歯抜歯は4,740件で,前半90.5%(2130/2354),後半60.3%(1419/2354)で経口抗菌薬が処方されていた.ガイドラインによると普通抜歯では抗菌薬投与不要,下顎埋伏智歯抜歯では術前投与が推奨されており,適正使用化傾向が確認された.また,経口抗菌薬の種類は,第三世代セフェム系が激減し,普通抜歯では2015年上半期86.9%であったのが2018年下半期には28.3%に,下顎埋伏智歯抜歯では2015年上半期87.4%であったのが2018年下半期には8.5%となった.歯科ICTが主導するASPが歯科外来での抜歯における経口抗菌薬の適正使用に寄与したと推察された.
著者
尾家 重治 河合 伸也
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.157-160, 2021-05-25 (Released:2021-11-25)
参考文献数
4

“除菌”,“アルコール”,“99.9%”などの表示から殺微生物効果を連想させる市販製品(環境用または環境・手指用)の殺細菌効果について,Enterococcus faecalisを用いて調べた.28製品中13製品(46.4%)が5分間の接触で殺細菌効果を示さなかった.これら28製品のうちのエタノールを含有する14製品(実測値で7.9~65.7 vol%のエタノールを含有)では,14製品中1製品(7.1%)が殺細菌効果を示さなかった.また,塩素系薬剤を含有する10製品(実測値で0.06~144 ppmの遊離残留塩素を含有)では,すべての製品(100%)が殺細菌効果を示さなかった.殺微生物効果を連想させる市販製品の半数近くが殺細菌効果を示さなかった.
著者
鈴木 広道 石丸 直人 木下 賢輔 中澤 一弘 大西 尚 木南 佐織 多留 賀功 石川 博一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.265-272, 2014 (Released:2014-10-05)
参考文献数
30

白衣・聴診器は多剤耐性菌による汚染源となるが,白衣の交換頻度,聴診器の消毒の有無に関して我が国では実態調査は行われていない.今回,国内の4病院において入院診療に携わる常勤医を対象に2013年7~8月の期間において,アンケート調査を実施した.対象医師314名中312名より協力が得られ,有効回答が得られた308名(98%)において解析を行った.白衣の交換頻度は約半数(48%)で週1回程度であり,毎日白衣を交換している医師は23名(7.5%)であった.聴診器膜面のふき取りは162名(53%)で実施されていたが,患者1人毎の診察でふき取りを行っている医師はその内37名(23%)であった.背景因子との比較において,医師経験年数(10年以上)が白衣の交換頻度の低下と独立して関連を認めていた(p=0.04).男性医師において聴診器膜面の消毒が行われる頻度が低い事が示唆された(p=0.01).いずれも施設間の差は独立因子としては認めなかった.多剤耐性菌の抑制には,毎日の白衣交換,患者毎の聴診器膜面消毒が重要であるが,本研究において適切な白衣交換,聴診器膜面消毒が行われている割合は少数であることが示された.今回のデータを基に対象施設における改善を図ると共に,大規模な実態調査を行い,白衣交換・聴診器膜面の消毒が適切に行われていない要因をより明らかにする必要がある.
著者
馬嶋 健一郎 古谷 直子 細川 直登
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.44-52, 2021-01-25 (Released:2021-07-21)
参考文献数
16

季節性インフルエンザワクチンの接種法は本邦では皮下注射(皮下注)であるが,海外では局所副反応が軽度で抗体価上昇が良好なため筋肉注射(筋注)が推奨されている.しかし,皮下注・筋注での発症予防効果の差までは明らかではなく,接種時の疼痛の差異は今まで検討されていない.当院は病院職員と看護学生への接種が皮下注・筋注の希望選択となっており,発症率,接種時疼痛,接種後副反応の接種法による違いを前向きコホート観察研究で調査を行った.病院への発症者報告は皮下注11.3%(65/574),筋注8.2%(258/3147)で,有意に筋注で少なく(P=0.02),性別,年齢,15歳以下と同居,感染予防のタイプを調整したロジスティック回帰でも有意に筋注で少なかった(odds比0.73,P値=0.04).接種時痛や接種後副反応は看護学生320名(皮下注77,筋注243名)で調査し,接種時の痛みスコア(0痛くない~10非常に痛い)中央値は皮下注4,筋注2であり,筋注群で有意に痛みが少なく(P<0.001),注射への恐怖心等で調整した多重回帰でも筋注の方が1.26有意に少なかった.接種後の痛みや腫脹についても,筋注群の方が軽度であった.筋注は皮下注に比べて,インフルエンザ発症の報告数が少なく,接種時疼痛,接種後疼痛腫脹も少なかった.筋注は優れた投与方法と考えられ,本法の用法として認められることが望まれる.
著者
山下 ひろ子 小山田 玲子 奥 直子 西村 正治 石黒 信久
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.210-214, 2011 (Released:2011-10-05)
参考文献数
7
被引用文献数
1

当院職員を対象に,麻疹,風疹の感染防御に十分な抗体価を有していない者(麻疹PA抗体価128倍未満,風疹HI抗体価16倍未満)に麻疹,風疹ワクチン接種を行った.麻疹ワクチン接種後に128倍以上の抗体価を獲得したのは123名中92名(74.8%)で,256倍以上の抗体価を獲得したのは123名中70名(56.9%)であった.風疹ワクチン接種後に16倍以上の抗体価を獲得したのは130名中118名(90.8%)で,32倍以上の抗体価を獲得したのは130名中101名(77.7%)であった.幼児に麻疹,風疹ワクチンを接種した場合の抗体陽転率は95%以上とされているが,医療従事者に麻疹,風疹ワクチンを接種して(単に抗体陽転ではなく)感染防御に有効とされるレベルの抗体獲得を期待する場合,接種後の抗体獲得率は95%よりも低いことに留意するべきである.
著者
富成 伸次郎 島本 裕子 谷口 美由紀 谷口 智弘 白阪 琢磨
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.249-252, 2011 (Released:2011-10-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1

ノロウイルス胃腸炎に罹患したHIV感染者の便から3ヶ月以上にわたりノロウイルスが検出された2症例を経験した.うち1症例では下痢症状も持続しており,入院中に同一病棟内において二次感染者も出現した.2症例ともHIV感染症のため免疫不全状態であった.ノロウイルスの持続感染とそれに伴う二次感染は,HIV感染者以外にも造血器腫瘍患者や原発性免疫不全症候群の患者,ステロイドなど免疫抑制薬使用患者からの報告がある.病院などの施設においてノロウイルス感染者が発生した場合,免疫機能が低下した患者においては感染が数ヶ月以上にわたり長期化する可能性があることを認識し,感染対策を継続することが重要であると考えられた.
著者
黒須 一見 小林 寬伊 大久保 憲
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.345-349, 2011 (Released:2012-02-03)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

結核患者を受け入れている施設ではN95微粒子用マスクの使用頻度は高く,毎回着用時にユーザーシールチェックを実施し,年1回程度定性的なフィットテストを実施する必要がある.ユーザーシールチェックは,着用者自身の感覚による影響があり,毎回実施していれば適切な使用ができているとはいいきれない.今回,医療機関における正しい呼吸器感染防護具の使用法の促進のため,N95微粒子用マスクの漏れ率に関する検討をおこなった.   JIS規格日本人標準人頭にN95微粒子用マスク9種類を着用させた状態で,労研式マスクフィッティングテスターMT-03型®を用いて漏れ率を各15回測定した.   更に,漏れ率の低値だった製品を選択して,同一製品間の漏れ率のばらつきを検討した.   その結果,国産製品と折りたたみ型製品がカップ型製品よりも漏れ率が低く,より密着性が高かった.微粒子測定器(particle counter)を使用して漏れ率を定量的に示すことで,日本人に適した種類やサイズを示すことが可能となった.   漏れ率の低かった3社製品について,同一製品間のばらつきを検討した結果,同一製品間のばらつきが少ないことが明らかとなった.
著者
小野寺 直人 櫻井 滋 吉田 優 小林 誠一郎 高橋 勝雄
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.58-65, 2008 (Released:2009-01-14)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

岩手医科大学附属病院(以下,当院)では院内感染予防のための新たな支援策として,実施すべき予防策を指標色制定(color coding)により視覚的に周知させることを意図した,当院独自の「感染経路別ゾーニング・システム」を2005年4月から導入した.   本論文では,システム導入の経緯を示すとともに,新たな支援策が各種の感染制御指標に及ぼす影響について,1) 擦式手指消毒薬および2) 医療用手袋の使用量,3) MRSAの発生届出件数,4) 入院患者10,000人当たりのMRSA分離報告件数,5) 院内のアウトブレイク疑い事例に対するICTの介入件数の5指標を,システム導入前(2004年度)と導入期(2005年度),導入後(2006年度)の各年度で比較した.   調査の結果,導入前,導入期,導入後でそれぞれ,1) 擦式手指消毒薬の月平均総使用量は242L, 250L, 235Lと差が認められず,2) 医療用手袋の月平均使用量は261,700枚,338,000枚,410,100枚で導入期・導入後に増加,3) MRSA月平均発生届出件数は23.6±4.3, 20.3±5.5, 19.8±4.6と導入後有意に減少,4) MRSA月平均分離報告件数は21.1±5.1, 14.5±3.9, 13.6±3.1で導入期・導入後に有意に減少,5) 年間ICTの介入件数は7件,5件,3件と減少した.以上から「感染経路別ゾーニング・システム」の導入は院内感染対策の充実,特に大多数を占める接触感染の予防支援策として有効と考えられた.
著者
藤田 次郎 比嘉 太 健山 正男 仲松 美幸 大湾 知子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.319-326, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
1
被引用文献数
2

近年,院内感染によって医師の法的責任が認められ多額の損害賠償責任を命ぜられる裁判例が増加している.今回我々はmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(以下,MRSAと略す)の院内感染症を対象とした判例を解析した.過去12年間の裁判例をコンピューターの判例検索システムを用いて検索し,MRSAの院内感染による病院側の責任が直接の争点となったものを抽出した.検討しえた23件の判例のうち,22事例を解析したところ,うち13件においては,医療従事者の過失が一部認容されており,残りの9件においては請求が棄却されている.また13件の一部認容と判定された事例のうち,10件においてはMRSA感染症関連のものであった.MRSA院内感染事例においては,MRSA院内感染そのものが医療従事者の責任であると判断されるケースはほとんどなかった.医療従事者の過失があると判決が下された例においては,そのほとんどがMRSA感染症の早期診断,または早期治療を適切に行わなかったことに関連するものであった.
著者
清水 優子 牛島 廣治 北島 正章 片山 浩之 遠矢 幸伸
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.388-394, 2009 (Released:2010-02-10)
参考文献数
17
被引用文献数
3 3

ヒトノロウイルス(HuNoV)は,未だ細胞培養系が確立されていないため,各種消毒薬のHuNoVに対する有効性について十分な知見が得られていない.そこで,HuNoVに形態学的にも遺伝学的にも類似し細胞培養可能なマウスノロウイルス(MNV)を用い,塩素系およびエタノール系消毒薬の不活化効果をTissue Culture Infectious Dose 50% (TCID50)法を指標に評価した.次亜塩素酸ナトリウムおよびジクロルイソシアヌル酸ナトリウム(塩素系消毒薬)は,200 ppm, 30秒間の接触でMNVは99.998% (4.8 log10)以上不活化して検出限界以下となり,125 ppmの場合でも30秒間で99.99% (4 log10)以上の不活化が認められた.70 v/v%エタノール,0.18 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有72 v/v%エタノールおよび0.18 w/v%ベンザルコニウム塩化物含有75 v/v%エタノールは,30秒間の接触で検出限界以下までウイルス感染価を低下させた.   本研究で対象とした2種類の塩素系消毒薬は,いずれも終濃度125 ppmで高いMNV不活化効果を示した.また,3種類のエタノール系消毒薬については,エタノール濃度70 v/v%以上で使用すれば,いずれも短時間でMNVの不活化が達成できることが分かった.以上の結果から,これらの市販の消毒薬はHuNoVに対しても高い不活化効果を有することが期待され,ノロウイルス感染症の発生制御および拡大防止の感染対策を目的とした環境用消毒薬として有用であると考えられる.
著者
三﨑 貴子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.21-27, 2019-01-25 (Released:2019-07-25)
参考文献数
17

近年の交通網の発達や社会環境の変化とともに,新興・再興感染症はいつ国内に持ち込まれるかわからない脅威となっている.しかしながら,容易に伝播し重症化する新興・再興感染症の輸入例であったとしても,初発症状は発熱や呼吸器症状など国内で普通に見られる感染症と何ら変わりがないことが多く,医療機関での初診時のチェックをかいくぐり,しばしば院内感染や市中への感染拡大の可能性をはらむ.常に決め手になるのは「疑う」ことであり,旅行歴を含む詳細な病歴の聴取や適切な時期の適切な検体を正しい方法で採取して診断に足る検査を行うことである.また,患者と対峙する医療従事者は日頃から必要な予防接種を確実に受けておき,まずは標準予防策を徹底してこれらの感染症に備える必要がある.さらに,確定診断の後は感染源や感染経路の特定により自らへの感染予防と拡大の防止に繋げなければならない.我々は,麻疹や中東呼吸器症候群(MERS),インフルエンザA(H7N9)など国内外で見られた過去の事例に学び,院内感染する輸入感染症に対して「感染制御におけるBest Practice」を実施する使命があると考える.
著者
川村 英樹 徳田 浩一 川上 雅之 有村 敏明 川口 辰哉 松井 珠乃 西 順一郎
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.282-290, 2017-09-25 (Released:2018-03-25)
参考文献数
14
被引用文献数
3

鹿児島県JMAT(日本医師会災害医療チーム)では宇土市で感染対策チームを構成し,4月21日(本震5日後)~5月1日に被災地医師会と自治体保健活動との協働で避難所感染対策支援活動を行った.今回の研究の目的は避難所感染対策を検証し,有効性を検証することである.各避難所で把握された発熱者,呼吸器・消化器の有症者数を調査票に記録し症候群サーベイランスを実施した.期間中14の指定避難所で40名の呼吸器・8名の消化器の有症状者がみられたが,インフルエンザ・ノロウイルス感染症は除外された.設備・感染対策物品・衛生環境・隔離スペース等を巡回時に確認し,リスクアセスメントを行ったが,次亜塩素酸ナトリウムが不足し,トイレ清掃や吐物処理物品の準備が不十分であった.次亜塩素酸ナトリウム等の必要物品配布やトイレ清掃・吐物処理方法の指導,感染症発症例への対応も併せて実施した.アウトブレイクの発生はなく,リスクアセスメントと症候群サーベイランスを活用した避難所感染対策支援活動は感染拡大防止に有用と思われた.一方,情報収集や活動内容に他の医療支援チームや保健師活動と重複するものもあり,情報共有が可能なスキームの確立が望まれる.
著者
松島 幸慧 白坂 大輔 松井 隆 守殿 貞夫
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.86-90, 2013 (Released:2013-06-05)
参考文献数
11
被引用文献数
1

東日本大震災後,避難所である岩手県の高校体育館でインフルエンザが集団発生した.今回我々は,その時間経過と感染拡大防止策について報告する.   近くの基幹病院退院後,避難所体育館に戻った60歳代女性患者が,2011年4月4日に発熱のため救護所を受診し,迅速キットを使用してインフルエンザA型と診断された.空き教室を利用して隔離治療を開始したが,その後から発症者が増加した.発症者が体育館の壁際に偏っていたことから,4月9日より保険適応基準でのオセルタミビルリン酸塩(オセルタミビル)の予防投与を開始した.加えてマスクと擦式消毒用アルコール製剤の設置場所を増やし,校内放送やポスターで実施を呼びかけた.また感染場所として体育館内以外に,給食の列と風呂の脱衣所を疑い,給食の列でのマスクの着用と脱衣所の掃除方法の確認を行った.同時に発熱患者に対して積極的な救護所への受診を呼びかけた.4月16日以降発生患者が減少し,4月20日を最後に新規発生はなく,4月24日に隔離を終了した.この間,発症者の総数は40名であった.   今回重症例を発生することなく,インフルエンザ集団発生を終息に導くことができた.1例目からの隔離治療,一般的感染予防策の徹底,オセルタミビルの予防投与,発熱患者への積極的な受診の呼びかけが終息に寄与したと考えられた.
著者
石渡 渚 鈴木 佳奈子 松本 晴菜 矢島 慶子 小野 麻里子 土田 沙織 保戸塚 麻里 湯原 瑞紀 前澤 佳代子 寺島 朝子 小林 典子 木津 純子
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.319-324, 2009 (Released:2009-12-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

手指衛生は病院感染予防策として重要である.中でも速乾性擦式消毒剤(擦式消毒剤)は簡便性と高い消毒効果を兼ね揃え,現在の医療現場では必須となっている.そこでグローブジュース法に準じた方法により,薬学生を対象として,現場で汎用されている代表的な擦式消毒剤0.2 w/v%ベンザルコニウム塩化物含有製剤,0.5 w/v%ポビドンヨード含有製剤,0.2 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有製剤,0.5 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有製剤の擦り込み量を変えて,消毒効果および持続効果を比較検討した.また,ノズル付きの各擦式消毒剤を用いて女子薬学生が日常手指消毒に用いるようにノズルを押して消毒剤を採取し,その用量を測定した.   各製剤を1 mL, 2 mL, 3 mLを3回ずつ擦り込んだ際の減菌率の比較において,いずれの製剤においても2 mL以上の擦り込みにより良好な消毒効果が得られた.さらに2 mLを3回擦り込むと,その消毒効果はいずれも4時間後まで持続した.また,日常の衛生的手洗いにおいて,0.2 w/v%ベンザルコニウム塩化物含有製剤と0.5 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有製剤は1回に約2 mLを採取していたが,0.5 w/v%ポビドンヨード含有製剤と0.2 w/v%クロルヘキシジングルコン酸塩含有製剤は2 mL未満であった.手指消毒を効果的に行うには,消毒剤の採取量についても注意喚起する必要性が認められた.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.131-134, 2017

<p>ウイルスの不活化や殺菌効果を標榜する,据え置き芳香剤型の剤型で二酸化塩素ガスを放散させる製品の,環境表面上の病原体に対する同効果の有無を検証した.本邦の冬の生活空間を想定した室温20℃,相対湿度25%の密閉空間を,製品から放出されたガス濃度が0.03 ppmになるよう調整した.その中に,スライドグラスの上に一定量のA型インフルエンザウイルス溶液あるいは<i>Staphylococcus aureus</i>菌液を滴下し短時間で自然乾燥したものを置き,2時間後に回収し一定量のメディウムで洗い流し,活性ウイルス量や生菌数を測定した.その結果,当該条件下でガスの曝露を受けた検体での活性ウイルス/生菌量は,曝露のない対照のそれと変わらなかった.</p>
著者
李 宗子 八幡 眞理子 三根 真 山本 将司 小松 香子 吉田 葉子 吉田 弘之 荒川 創一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.164-171, 2014 (Released:2014-08-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1

ここ数年,アルコール手指消毒剤が効きにくいとされるエンベロープを持たないウイルスに対する効果が改善された製剤が開発・販売され,臨床現場に導入する施設もみられるが,その有用性についていくつかの報告があるのみである.そこで当院において,このような製剤が臨床現場での継続使用に耐え得るか,手肌への影響面から調査,検討することにした.   冬季に,看護師40名に対し,リン酸配合によりpHが酸性に調整された試験製剤であるアルコール手指消毒剤(P–AL)使用群と,従来から使用しているほぼ中性のアルコール手指消毒剤(従来品)使用群の2群に分け,約1ヶ月間使用し,使用前後に客観的および主観的評価をした.客観的方法として,経表皮水分蒸散量,角層水分量,皮膚pH,角層細胞剥離率,皮溝の均一性を各々の対応機器で計測・評価し,主観的方法として皮膚状態に関するアンケート調査を行なった.   その結果,客観的評価では,P–AL使用前後の比較において角層水分量に有意な改善が認められ,その他の項目と主観的評価では使用前後で有意差はなく肌荒れの兆候もなかった.   本研究により,P–ALは,手荒れが発生しやすい冬季でも医療従事者の手肌に対する影響は問題なく,エンベロープを持たないウイルスに対する常時の感染対策として継続使用できる可能性があると示唆された.
著者
大久保 耕嗣 阿部 政典 小林 謙一 長井 一彦 長井 知子 樋口 多恵子 継田 雅美
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.290-294, 2008 (Released:2009-02-16)
参考文献数
19
被引用文献数
1

著者等は,新潟県内の医療施設に1988年,1994年および2007年にアンケートを取り,手指衛生の変遷について調査した.1988年に主流であったベイスン法は,現在では行われていない.1994年は,速乾性擦式アルコール製剤のラビング法と消毒薬を用いたスクラブ法が多く,2007年は,流水と石鹸,抗菌性石鹸および消毒薬を用いたスクラブ法が多かった.一方,日本環境感染学会において1992年から2007年までの手指衛生に関する全ての発表と論文を分析した.手指衛生についての発表および論文タイトルが,全体に占める割合は10%であった.学会発表は,2002年にCenters for Disease Control and Prevention (CDC)手指衛生のためのガイドラインが発表された翌年に,8.7%から15.3%と高くなった.このガイドラインは,水場のない場所での手指衛生を踏まえてアルコール含有のラビング法を推奨しているが,日常手洗いでは石鹸と抗菌性石鹸を用いたスクラブ法を推奨している.2007年の調査では,アルコール含有ラビング法が減少していた.各病院において基本である流水下で行う手洗いが実施されていることが示唆された.日常手洗いと衛生的手洗いが区別されて行われているのではないかと考えられた.
著者
森 伸晃 柏倉 佐江子 高橋 正彦
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.48-54, 2016 (Released:2016-04-05)
参考文献数
17
被引用文献数
1

医療関連感染は入院期間の延長や予後の悪化,医療費の増加をもたらすため,各施設の感染対策に関わる専従もしくは専任者に期待される役割は大きい.今回,専従もしくは専任者の存在によるClostridium difficile感染症(CDI)対策を含めた院内感染対策の違いを明らかにするためにアンケート調査を行った.アンケート調査は,「国立病院機構におけるC. difficile関連下痢症の発生状況と発生予防に関する研究」のデータを利用し,2010年8月に全国144の国立病院機構施設のうち感染制御チーム(ICT)がある47施設を対象に行った.調査項目は計22項目で,1)院内感染対策の体制,2)ICTの業務と権限,3)標準予防策,4)環境・設備,5)CDI対策に大別した.専従もしくは専任者がいるのは26施設(55.3%)であった.専従もしくは専任者がいる施設では,ICTのコンサルテーション対応,抗菌薬の届出制,一般病室の清掃頻度が週5日以上,CDIに関する患者および患者家族に対する指導の項目が,いない施設に比べて統計学的に有意に実施されていた.専従もしくは専任者のいる施設では院内感染対策に関して優れた点がみられ,その役割が示された.しかし,専従もしくは専任者がいたとしてもまだ十分にできていない項目があり,これらについては今後の課題である.
著者
岡山 加奈 藤井 宝恵 小野寺 一 荒川 満枝 小林 敏生 片岡 健
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.269-277, 2011 (Released:2011-12-05)
参考文献数
23
被引用文献数
1

2002年にCenters for Disease Control and Prevention (CDC)より公表された “Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings” や2009年にWorld Health Organization (WHO)より公表された “WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care” では,現場でより効果的に運用可能な擦式アルコール製剤を用いたラビング法と自然爪の長さが6.35 mm未満であることが推奨されている.我々は,自然爪の長さが擦式アルコール製剤を用いた手指消毒と手指細菌叢に及ぼす影響を細菌学的に明らかにするため,手指衛生について学習経験のある看護学生および大学院生17名を対象に検討を行った.その結果,自然爪の長さが短い群(2.4 mm)と長い群(5.4 mm)で比較すると,手指消毒後の手指菌数において,自然爪の長さが短い群は4.3 CFU,長い群は40 CFUと長い群の菌数が有意に多かった.爪下菌数は,手指消毒前後とも自然爪の長短による有意差を認めなかったが,手指消毒後にも関わらず自然爪の長さが2.4 mm以上では1.6×103 CFU/mm2以上の細菌が検出された.爪下と手指から検出される菌種は類似しており,coagulase-negative staphylococciやBacillus spp.の検出率が高く,菌数も多くを占めていた.さらに,自然爪の長さが長くなるとmethicillin-resistant S. aureusやS. aureusのような医療関連感染原因菌が手指と爪下へ残存しており,除去することが困難であった.本研究結果は,自然爪の長さが長いと擦式アルコール製剤を用いた手指消毒効果が減弱することを示唆している.