著者
松本 光代 大塚 美奈 鈴木 祐子 福井 宏行 町田 季衣子 向井 孝夫 大堀 均
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.59-65, 2005 (Released:2006-08-01)
参考文献数
34

ウシコロナウイルス(BCV)は主な牛下痢症を発症し,また牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)はウシに重篤な粘膜病を発症する可能性を持った病原体で,どちらも家畜飼育現場からの根絶が困難なウイルスである.本研究では消毒剤の新たな候補として電気分解陽極水のBCVおよびBVDVに対する不活化効果を検討した.電気分解陽極水は0.12%のNaClを含む水を電気分解して調製した.電気分解陽極水で1分間処理した両ウイルスを牛腎細胞に接種し,細胞上清の赤血球凝集反応もしくは細胞内RNAのRT-PCRによって,ウイルスの存在を検討した.その結果,電気分解陽極水で処理したウイルスは細胞内および培養上清から検出されなかった.本研究で調製した電気分解陽極水は,低pH値(3.0前後)であり,低濃度(7.0~20.0ppm)の遊離形有効塩素(EC)を含むことが示された.BCVの増殖はECを含まない低pH溶液あるいは低濃度のECを含むが高pH値(9.0以上)を示す溶液による各処理では阻害されなかったことから,電気分解陽極水のウイルス不活化はpHとECの相乗効果によるものと推察された.
著者
有賀 秀子 高橋 セツ子 倉持 泰子 浦島 匡 筒井 静子
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.253-260, 1988-03-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

古代の乳製品といわれる生酥,熟酥,醍醐につき,「本草網目」(李時珍著)の記述を根拠としてその再現を試みた.製造は,(加熱濃縮)-(静置•凝固層分離)-(攪拌再加熱)-(静置固化)-(オイル溶離)の様式に従い行なった.凝固層分離により生酥を得,再加熱濃縮により熟酥を得た.熟酥を冷却固化し孔をうがって室温に放置し,自然に溶離したオイル状物質を醍醐と判断した.製造過程で得られた知見は以下に示す.生酥は,生乳を静かに攪拌しながら83~85°Cで120分程度加熱し,一夜静置後凝固層を集めることによって得た.その成分組成は固形分が約60%で,タンパク質含量対脂肪含量比は約1:4,芳香性のクリームよう食品であった.熟酥は,生酥を湯煎により20分程度加熱することにより得られ,鮮やかな黄色の半流動体で,ゼリー強度,粘性率ともにマヨネーズに比べはるかに大きいが,赤色辛みそより小さく,光沢のある脂肪性の食品であった.固形分含量は約80%を占め,タンパク質含量対脂肪含量比は1:5.5前後であった.熟酥は一夜静置し冷却固化した後,孔をうがっておくと,試料温度25°C以上で透明な明るい鮮やかな黄色のオイル状物質が孔の周縁に溶離してきた.このオイル状物質を「本草網目」の記述にもとづく醍醐であると判断した.本試験により得られた醍醐は,バターオイルよう食品で,製造様式からみて,モンゴルの乳製品シャルトスに類似した食品と考えられる.一方,酥については,生酥および熟酥はそれぞれ醍醐製造の第2段階および第3段階で得られる中間産物で,現代の乳製品中では,他にその類似品は見当らない.
著者
佐藤 邦忠 三宅 勝 菅原 正善 武山 友彦 大橋 昭市 岩間 長夫 岩野 信也 七海 清志
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.447-450, 1973-08-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
4

種雄馬を効率的に利用するには精液性状の適確な判定と,一年を通じて精液を採取(以下採精と略記)することが重要である.今回非繁殖期に種雄馬より採精する機会を得たのでその結果について統計学的分析を試みた.材料は十勝管内で種雄馬として供用中のブルトン種2頭,ペルシュロン種1頭の計3頭,期間は1969年11月より1970年1月まで,採精頻度は1日1回,5日連続,2日禁欲の繰返しで行ない,延180回の射出精液を使用した.精液性状の各検査項目の平均値は精液量:62.5ml,pH値:6.8,精子活力:45.9%,精子濃度:2.1×108/ml,原形質滴付着精子の出現率(トロッペン率):15.4%,精子奇形率:27.8%および精子耐凍性:30.8%で,各検査項目中,重相関係数に有意性が認められたのは量,活力,濃度,トロッペン率,および頭部奇形率であった(p≤4.05).また精液性状の各検査項日中,2要因を選び,耐凍性を推定するための重回帰方程式として次式を求めた,Y=10.29+0.34X3+2.38X4;Y:耐凍性の推定値,X3:活力,X4:濃度
著者
宮本 元 西川 義正
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.601-608, 1979-09-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
22

牛射出精子を37°Cでインキュベート,4°Cで液状保存,または凍結•融解したときの精子生存性におよぼすカフェイン添加の影響について検討し,つぎの成績をえた.1. 塩化カルシウムを除去したクレーブスーリンゲルリン酸緩衝液(Ca欠KRP液)に洗浄精子を浮遊させ,37°Cで8時間インキュベートした.外因性基質が存在しない場合も,カフェインを添加した精子は,対照の無添加のものに比べその添加直後に運動性が高まり,2時間後も対照より高い運動性が維持された.しかし,4時間以上のインキューベート後には,カフェインを添加した精子の運動性は対照よりかえって低下した.外因性基質であるぶどう糖,果糖,乳酸塩ピルピン酸塩の存在下でカフェインを添加すると,約5時間にわたって精子の運動性が高められた.2. 牛精子を卵黄クエン酸ソーダ液で希釈し,37°Cで6時間インキュベートまたは4°Cで7日間保存した.いずれの場合も,カフェイン添加によって,対照の無添加のものに比べ精子の運動性が高まり,生存時間が延長された.精液を37°Cでインキュべートまたは4°Cで保存すると,カフェイン濃度がそれぞれ5.4~18mMおよび5.4~13.5mMのとき,比較的高い精子生存性が維持された.3. 卵黄クエン酸ソーダ液で希釈した牛精子を4°Cで保存し,保存3日目にカフェインを添加した後さらに4日間保存した.カフェイン添加直後に精子の運動性が高まり,さらに生存時間の延長が認められた.4. 7%のグリセリン存在下で隼精子を凍結する場合,凍結前にカフェインを添加した精子にグリセリンを加えると,グリセリン添加直後および凍結•融解後の精子の運動性は,カフェイン無添加の対照より低下した.これに対して,凍結•融解後にはじめてカフェインを添加すると,対照に比べ精子の運動性が高まり,生存時間が延長した.10mMのカフェイン添加の精子に各種濃度のグリセリンを加え,4°Cで保存すると,グリセリン濃度が0および2%の精子はカフェイン添加によって対照のカフェイン無添加のものより運動性が優れていたが,7および10%の精子は対照のものより運動性が低下し,牛精子の生存性におよぼすカフェインの影響は,グリセリン濃度と関連のあることが判った.
著者
大武 由之 中里 孝之
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.75-80, 1972-02-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
20

めん羊肉脂質の性質,特性をさらに明らかにするために,5頭の雌のめん羊について,背肉(背最長筋),肩肉(上腕三頭筋)および腿肉(半膜様筋)から抽出した脂質について,その脂肪酸組成ならびにトリグリセリド構造をしらべた.その結果,背肉は肩肉よりもいくらか全脂質や中性脂質が多く,腿肉は他の部位よりもリン脂質が少なかったが,統計的には有意な差は認められなかった.背肉の全脂質は肩肉や腿肉よりC18:2が少なく,飽和酸が多い傾向があった.肩肉の中性脂質は,背肉や腿肉よりもC16:0が少なかった.また肩肉のリン脂質は,背肉や腿肉のに比べて,C16:0やC18:0が少なくC18:2が多く,したがって不飽和酸が多かった.めん羊肉脂質ではC15:0,C16:0,C17:0およびC18:0,したがって飽和酸はトリグリセリドの1と3の位置に多く,これに反してC17:1,C18:1およびC18:2,それ故に不飽和酸は2の位置に多く存在していた.めん羊肉脂質のトリグリセリドの平均組成は,SSS,9.64%;SUS,31.45%;SSU,10.77%;SUU,35.47%;USU,3.08%およびUUU,10.23%であった.また1-パルミト-2,3-ジオレイン,1-パルミト-2-オレオ-3-ステアリン,1,3-ジパルミト-2-オレイン,1-ステアロ-2,3-ジオレイン,トリオレイン,1,3-ジステアロ-2-オレイン,1,2-ジパルミト-3-オレインなどが,めん羊肉脂質を構成するおもなトリグリセリドであると考えられた.なお,背肉や腿肉は肩肉に比べて,ジパルミト•オレインとトリパルミチンが多かった.
著者
川﨑 淨教
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.265-278, 2021-08-25 (Released:2021-10-08)
参考文献数
86
被引用文献数
4

近年,新たな動物性タンパク質源として昆虫の飼料化が世界的に検討されている.本総説では,飼料用昆虫に関する海外や日本国内の動向を紹介し,ニワトリやブタを対象とした先行研究をまとめて検討した.飼料用昆虫の価格は高価であり,法律も未整備な点が多く,その両方が飼料用昆虫の大量使用を阻害する大きな要因となっていることを示した.一方,ニワトリやブタでは飼料用昆虫は魚粉や大豆粕などの従来のタンパク質源と代替可能であり,家畜の腸内環境の改善や免疫を賦活する可能性が示された.今後は飼料用昆虫の給餌が家畜に及ぼす影響の作用メカニズムの解明と飼料用昆虫が社会に受容されるための法整備,安全性の確立が必要になると考えられた.
著者
萬田 正治 奥 芳浩 足達 明広 久保 三幸 黒肥地 一郎
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.521-528, 1989-06-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1

牛の色相の識別能力の有無を,牛の学習能力を利用した動物行動学的手法により検討した.そのため二叉迷路型の学習装置を用い,供試牛の前方左右に正•負刺激の色パネルを提示し,配合飼料を色パネルの後方に置き,供試牛が正刺激の色パネルを選択した場合にのみ,配合飼料が摂食できるよう学習訓練した.色パネルの左右交換は乱数表によりランダムに行ない,1セッション20試行とし,適合度の検定により,正反応率が80%以上に達した場合,供試牛はその学習実験を完了したとし,その供試色を識別出来たと判定した.供試色には有彩色として赤,緑および青の3色,無彩色として灰色を用いた.供試牛には鹿児島大学農学部付属農場入来牧場生産の牛5頭を用いた.まず赤色パネルを正刺激,灰色パネルを負刺激とした実験では,2~18セッションでいずれの供試牛も正反応率は80%を超えた.同様に緑色パネルを正刺激,灰色パネルを負刺激とした実験では1~31セッションで,青色パネルを正刺激,灰色パネルを負刺激とした実験では,2~13セッションで80%を超えた,次に赤,緑および青色の有彩色同士の実験においても,赤色と緑色パネルの識別実験における3号牛を除き,供試牛はいずれも1~16セッションで正反応率は80%を超えた.次に紫外線を除去した条件下で赤色パネルを正刺激,緑色パネルを負刺激とした実験では,供試牛はいずれも4~5セッションで80%を超えた.以上の結果より,いずれの供試牛も色相を識別出来る能力を有していることが明らかとなった.
著者
平田 昌弘 板垣 希美 内田 健治 花田 正明 河合 正人
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.175-190, 2013-05-25 (Released:2013-11-25)
参考文献数
28

本研究は,BC1200~BC300年頃に編纂されたVeda文献/Pāli聖典をテキストに用い,古代インドの乳製品を再現・同定し,それらの乳加工技術の起原について推論することを目的とした.再現実験の結果,dadhi/dadhiは酸乳,navanīta/navanīta・nonītaはバター,takra/takkaはバターミルク,ājya/—はバターオイル,āmikṣā/—はカッテージチーズ様の乳製品,vājina/—はホエイと同定された.sarpiṣ/sappihaはバターオイル,sarpirmaṇḍa/sappimaṇḍaはバターオイルからの唯一派生する乳製品として低級脂肪酸と不飽和脂肪酸の含有量が多い液状のバターオイルであると類推された.Veda文献・Pāli聖典は,「kṣīra/khīraからdadhi/dadhiが,dadhi/dadhiからnavanīta/navanītaが,navanīta/navanītaからsarpiṣ/sappiが,sarpiṣ/sappiからsarpirmaṇḍa/sappimaṇḍaが生じる」と説明する.再現実験により示唆されたことは,この一連の加工工程は「生乳を酸乳化し,酸乳をチャーニングしてバターを,バターを加熱することによりバターオイルを加工し,静置することにより低級脂肪酸と不飽和脂肪酸とがより多く含有した液状のバターオイルを分離する」ことである.さらに,ユーラシア大陸の牧畜民の乳加工技術の事例群と比較検討した結果,Veda文献・Pāli聖典に記載された乳加工技術の起原は西アジアであろうことが推論された.
著者
林田 重幸
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.301-306, 1957-12-30 (Released:2011-01-25)
参考文献数
16

鎌倉市材木座遺跡の中世日本馬の骨を観察, 計測した結果, 次の所見を得た。1. この骨は1333年 (元弘3年), 新田義貞鎌倉攻めの際の新田勢および幕府方の軍馬のものを主体とし, その前後の鎌倉・室町時代の馬の骨を含むと考えられる。これらの馬は関東産馬を主体とし, 甲斐, 信濃等の産馬をも含むと考えられる。2. 四肢骨から馬の体高を推定すると, 109~140cm, 平均129.477±1.098cmとなり, 主体は先史時代の中形馬であるが. また先史時代の小形馬も存し, なお両者の交雑による馬も含まれていると考える。これらの馬は軍馬が主体であるから, 当時の比較的大格馬が選択されているものであろうが, 同じ時代により多くの小格馬も存したと考えられる。これら鎌倉時代の馬も, 漸次文化の進展にともない, また軍馬としての必要上, 小形馬は淘汰せられ, 日本内地においては, わずかに在来馬として現在の木曽馬のように体高124~143cm平均133cmを有するものが残されたのであろう。3. 中手骨・中足骨の長幅指数, 尺骨, 第2・第4中手足骨の退化度において, 今回観察した鎌倉馬は, 日本先史時代馬, 現存日本在来馬に類似し, 蒙古馬とは異なる点が多々ある。漢代すでに中央アジアから, 西域馬としてアラブ系統馬が中国に入り, 蒙古馬との交雑も行なわれているから, 大陸からの導入と見なければならぬ日本在来馬の祖源をなした系統は, アラブ系統馬の影響を多分に受けたものであると考えざるを得ない。
著者
増田 豊 久保 喜広 山下 大輔 柏村 文郎 鈴木 三義
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.1-12, 2014-02-25 (Released:2014-04-04)
参考文献数
28
被引用文献数
1

農用馬の体重ならびに体尺測定値(体高,尻高,体長,胸深,胸幅,尻幅,腰幅,尻長,胸囲,管囲)に関して遺伝的パラメータを推定した.データは,家畜改良センター十勝牧場において1999年から2011年までに誕生したブルトン種307頭とペルシュロン種324頭から得た.測定間隔は平均して2ヵ月であった.誕生から6ヵ月齢まで,7から19ヵ月齢まで,20から34ヵ月齢までを,それぞれステージ1,2,3と定義した.各ステージを異なる形質とみなした3形質の反復アニマルモデルを当てはめて分散成分を推定した.各ステージの遺伝率は,11の測定項目について,ブルトンでそれぞれ0.05~0.36,0.16~0.54,0.08~0.66,ペルシュロンで0.05~0.38,0.03~0.76,0.23~0.84の範囲にあった.各ステージ間の遺伝相関は,いずれの品種においても正であり,0.37から1.00の範囲にあった.
著者
沖 博憲
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.215-219, 1984-04-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
9

サラブレッド種の芝とダートにおける競走能力を調査するために馬場の種類別,父産地別および性別に4歳時の良馬場の資料を用いて,比較した結果は下記のごとくである.1. 加重平均タイムは,父外国産,父内国産の雌雄とも芝馬場がダートに比べ危険率1%水準で有意に小さかった.加重分散は,父外国産の1,400mを除き,芝馬場の方がダート馬場に比べ小さい傾向がみられた.変異係数は,芝馬場で距離が長くなるにしたがって減少する傾向がみられた.以上のことから芝馬場とダート馬場の環境要因が異質的であることが示唆された.2. 同一個体の芝馬場とダート馬場の走行タイムの相関係数は,統計的有意水準に達するものが多く,γ=0.245~0.574の範囲であり,距離が長くなるにしたがって相関係数が小さくなる傾向がみられた.
著者
渡邊 彰 木下 一成 村元 隆行 中井 瑞歩 鈴木 結子 井上 朔実 平田 滋樹
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.91, no.4, pp.395-401, 2020-11-25 (Released:2020-12-12)
参考文献数
45
被引用文献数
3 8

国内で流通しているシカおよびイノシシ肉の品質向上のために,処理施設より胸・腰最長筋を購入して,熟成終了時のpHを測定し変動要因について調べた.調査票から動物種,性別,体重,捕獲方法(箱わな,囲いわな,足わな)を要因とし分散分析により解析した.また,タンパク質の変性程度を測定しPale, Soft, and Exudative (PSE)の発生についても調査した.その結果,調査個体の35%はDark, Firm, and Dry (DFD)が疑われるpH>6.0であり,足わなによる捕獲がpHを有意に高くし,オスがメスより高くなる傾向が認められた.一方,PSEと判定されたのは箱わなおよび囲いわなで捕獲された頭数の52%,足わな捕獲の5.8%であった.以上の結果より,品質の高い野生獣肉を提供するには早期発見によるDFDの回避と,興奮を抑えた止め刺し技術によるPSE回避が重要であることが示された.
著者
李 登輝 王 燕軍 中村 佐都志 長嶺 慶隆
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.7-11, 2018-02-25 (Released:2018-03-23)
参考文献数
12

台湾牛(TWN)は台湾の日本統治時代(1895年~1945年)に日本から台湾へ輸送された和牛の子孫だといわれるが,現在は陽明山で放牧される19頭(雄牛8頭,雌牛11頭)のみとなった.本研究ではこの19頭のTWNと黒毛和種(JB)さらにヘレフォード(HER),シンメンタール(SIM),ショートホーン(SH),アンガス(ANG),ホルスタイン(HOL),シャロレー(CHA),リムジン(LIM)の7種の欧米品種を加えた9品種間の遺伝的な関係をSNP(Single Nucleotide Polymorphism,一塩基多型,スニップ)マーカーを用いて調べた.クラスター分析(ウォード法,群平均法),主成分分析,近接結合法を用いて解析した結果,台湾牛TWNは黒毛和種JBや外国種からは独立した集団として位置していた.
著者
飯田 勲
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.146-151, 1957-08-30 (Released:2011-01-25)
参考文献数
9

加えられた燐脂質及びレシチンが精子の呼吸及び運動性にいかなる影響をあたえるかをみたのが本実験であつて,次のような結論を得た。1. 卵黄より分離した粗燐脂質を精子に加えた場合,糖の存在しない好気的条件下では,精子(豚でも牛でも)の酸素消費に好影響をあたえ,運動性を支持した。2. 糖の存在下では,豚精子の呼吸は粗燐脂質及びレシチンの添加によつて促進されず,むしろ阻害の傾向であつた3. 粗燐脂質より精製されたレシチンは,好気的条件下では,豚・牛精子の運動性にも呼吸にも無影響であつた。4. 卵レシチンは,自動酸化をおこしたものは,豚精子の運動性を阻害する物質を生ずるが,呼吸には無影響であつた。5. 卵黄の非透析部より分離された燐脂質は,豚精子の運動性及び呼吸に無影響であつた。また粗燐脂質を透析して得られる非透析性燐脂質も,豚精子に利用されなかつた.このことは,燐脂質の精子の代謝に有効な物質がレシチン,ケフアリンなどではなくむしろ透析性の物質であることを示すものである。6 (粗大豆燐脂質は豚精子の呼吸を促進せず),また運動性においても有効ではなかつた。
著者
佐藤 泰 梅本 弥一郎
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.185-189, 1961 (Released:2008-03-10)
参考文献数
8

湯はぎ鶏皮を原料として,その組成分析,それより製造したゼラチンおよび油の性質,それより製造したクロム革の抗張力などを,家兎皮の場合と比較した.そして鶏皮は,皮革資源とするよりも,ゼラチンおよび食用油の資源とするほうが有用であることを,分析値および試験結果に基ずいて論じた.
著者
高田 偲帆 村元 隆行
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.335-338, 2017-08-25 (Released:2017-09-16)
参考文献数
14
被引用文献数
3 1

パイナップル果汁に浸漬させた牛肉のテクスチャー特性から,パイナップル果汁のブロメライン濃度を推定する方法について検討を行った.日本短角種去勢牛(n=5)の棘上筋から調製した筋肉サンプルをブロメライン溶液(0.1%,0.5%,1.0%,2.0%,および3.0%)またはパイナップル果汁に1時間浸漬させ,テクスチャープロファイル分析を行った.筋肉サンプルの最大荷重,凝集性,およびガム性荷重は溶液のブロメライン濃度に伴って有意に減少した.溶液のブロメライン濃度と筋肉サンプルのガム性荷重との関係について回帰分析を行い,得られた回帰式に,パイナップル果汁に浸漬させた筋肉サンプルのガム性荷重を適用させた結果,パイナップル果汁のブロメライン濃度は0.43%と求められた.
著者
佐々木 林治郎 原澤 久夫
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.25-39, 1931 (Released:2008-03-10)

鷄卵を石灰水又は食鹽水に浸漬するときの理化學的變化を知る爲に,室温に其儘静置せるものを對照として比較研究したるに,次の如き成績を得た.表面張力に就ては,石灰水浸漬法の卵黄は變化少く卵白は低下する.食鹽水浸漬法の卵黄は上昇し卵白は低下する.粘度に就ては,石灰水浸漬法のものは卵黄卵白共に低下するが,食鹽水に浸漬せるものの卵黄は著しく増加し,卵白は減じて遂に水様液となる.鷄卵を食鹽水に浸漬すれば,水分を減じ食鹽は卵内に多量に浸入することを知る.石灰水に浸漬せるものは蛋白質の變化多くして,alcohol可溶窒素,amino態窒素及無機態燐の増加すること多けれども,食鹽水に浸漬せるものに於ては蛋白質の分解することはない.鷄卵を食鹽水に浸漬すれば,食鹽の浸入すること多きのみならず殼の石灰が溶解して,卵内に浸入することも亦多い.然るに,石灰水に浸漬したるものは石灰の浸入すること割合に多からざれども,石灰臭を帶び卵黄の色澤を損する故,貯藏法としては不適當である.食鹽水浸漬法は,生卵貯藏法としてよりも寧ろ加工法として用ふることが適當である.
著者
松石 昌典 久米 淳一 伊藤 友己 高橋 道長 荒井 正純 永富 宏 渡邉 佳奈 早瀬 文孝 沖谷 明紘
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.409-415, 2004 (Released:2006-07-26)
参考文献数
7
被引用文献数
19 21

黒毛和牛肉に特有な好ましい香りである和牛香に寄与する香気成分を明らかにするために,和牛肉と輸入牛肉(豪州産)から連続水蒸気蒸留により香気画分を取得し,ガスクロマトグラフィー分析,ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメトリー分析,ガスクロマトグラフィー-においかぎ分析を行った.分析の結果,ラクトン類5種,ケトン類5種,アルコール類8種,不飽和アルコール類3種,エステル類2種,脂肪族アルデヒド類9種,脂肪族不飽和アルデヒド類8種,酸類2種,その他6種の計48成分が同定された.このうち,40成分は輸入牛肉より和牛肉に多く検出され,特にラクトン類は和牛肉に著しく多かった.同定された成分についてAEDA(Aroma Extract Dilution Analysis)法により香気寄与率を示すFD factor(flavor dilution factor)を求め,香気特性と合わせて和牛香への寄与を検討した.その結果,和牛香の甘さには,ココナッツ様,桃様の香りを有するラクトン類が寄与し,脂っぽさには脂臭い香りを有する一部のアルコール類やアルデヒド類などと,バター様の香りを有するジアセチルやアセトインなどが寄与していると推定された.
著者
園田 裕太 大石 風人 熊谷 元 広岡 博之
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.1-11, 2019-02-25 (Released:2019-03-27)
参考文献数
89
被引用文献数
4

近年,アニマルウェルフェアと生産性・経済性を考慮した家畜生産が世界的に求められている.本総説では牛肉のフードチェーンにおいてアニマルウェルフェアがどのように牛肉の生産性や消費者のニーズに影響しているかについて主に欧州の先行研究をまとめて検討した.農家レベルではアニマルウェルフェアを考慮することで生産性の向上が見込まれ,輸送・屠畜レベルでは肉量や肉質の損失が軽減されうることが示された.消費者レベルではアニマルウェルフェアを考慮した生産方法による牛肉には付加価値が付与される傾向が認められた.これらの結果から,アニマルウェルフェアはフードチェーンの様々な段階で家畜生産に影響を及ぼすため,今後,アニマルウェルフェアと生産性ならびに消費者のニーズとの関係性を科学的に実証した知見や情報を統合し,学際的・総合的視点からアニマルウェルフェアと生産性・経済性とを両立する生産システムの構築が必要になると考えられた.
著者
浦田 克博 萬田 正治 渡邉 昭三
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.325-331, 1992-03-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1

塩味(塩化ナトリウム),酸味(酢酸),甘味(ブドウ糖),苦味(塩酸キニーネ),旨味(グルタミン酸ナトリウム)に対する鶏•鶉の味覚反応を2瓶選択法で調べた.これらの味物質を水道水に溶かしてそれぞれ11段階の濃度を設定し,低濃度から高濃度へ向けて実験を行なった.各濃度における総飲水量に対する試験液の摂取割合を選好指数とし,濃度上昇に伴う選好指数の推移を味覚反応曲線として表し,味覚反応を推察した.X2-検定により,選好指数39.7%から60.3%は不弁別範囲,60.3%以上は嗜好範囲,39.7%以下は拒絶範囲と定義した.塩味の濃度は鶏が0.64%,鶉が1.28%まで弁別せず,鶏が1.28%,鶉が2.5%以上で拒絶反応を示した.酸味の濃度は鶏が0.04%,鶉が0.16%まで弁別せず,鶏が0.08%,鶉が0.32%以上で拒絶反応を示した.甘味の濃度は鶏が20%まで弁別せず,鶉は1.28%と2.5%で弱い嗜好を示した.苦味の濃度は鶏が0.02%まで弁別せず0.04%以上で拒絶反応を示し,鶉は0.32%まで弁別しなかった.旨味の濃度は鶏が0.64%,鶉が5%まで弁別せず,鶏が1.28%以上,鶉が10%で拒絶反応を示した,以上の結果より,鶏と鶉は特に強い嗜好を示す味物質はないことと,鶏は鶉より味覚が敏感であることが明らかとなった.