著者
中山 哲夫
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.6, pp.605-611, 2012-06-20
参考文献数
14
被引用文献数
1

感染症対策にワクチンの果たしてきた役割は大きく, ワクチンで予防できる疾患はワクチンで予防する基本的な方針で欧米は積極的にワクチン政策をすすめてきた. 一方, わが国では種痘禍, ジフテリア・百日咳・破傷風 (DPT) の事故, 麻疹・風疹・ムンプス (MMR) スキャンダルと予防接種に関する訴訟が続き積極的な予防接種政策を執ることができなかった. ワクチンメーカーも新規ワクチン開発や外国からの導入もなく空白の十数年が経過し, その間欧米においては1990年代にはインフルエンザ桿菌ワクチン (Hib), 結合型肺炎球菌ワクチン (PCV) が開発され日本発の無細胞型百日咳ワクチン (DTaP) をベ-スに多価ワクチンの開発と積極的に予防接種政策を推し進めてきた. ワクチンの品目, 制度の違いからワクチンで予防できる疾患 (vaccine preventable diseases: VPD) の流行が制圧できずワクチンギャップとして問題視されてきた. 最近になって2008年にはインフルエンザ桿菌ワクチン (Hib), そして2010年春から小児用の結合型肺炎球菌ワクチンが使用できる様になった. わが国の予防接種政策が立ち遅れた原因は何か, そしてこれからの予防接種対策について考えてみたい.
著者
今野 良
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.2, pp.73-84, 2012-02-20
参考文献数
76
被引用文献数
1

子宮頸癌は発癌原因が主にHPV感染であることが明らかにされていた. 50年以上前から行われてきた子宮頸癌検診による二次予防に加えて, HPVワクチン開発・臨床応用によって一次予防も可能になり, 疾患の征圧を視野に入れた予防活動が世界的に繰り広げられている. 一方, 分子疫学の発展により, 子宮頸癌以外の性器肛門癌や頭頸部癌の多くにもHPVが関連していることが認められ, 予防・検診・治療に新しい展開がみられる. 本稿では, 前半にHPVの生物学, 子宮頸癌およびHPV関連疾患の概説を行い, 後半には頭頸部癌とHPVの関わりを解説する.
著者
奥田 稔 宇佐神 篤 伊藤 博隆 荻野 敏
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.12, pp.1181-1188, 2002-12-20
被引用文献数
4 7

アレルギー性鼻炎患者(AR)における昆虫アレルゲンの症状への関与を調べるため,560例のARを対象にしてガ,ユスリカ,ゴキブリを含む13アレルゲンに対するIgE抗体を測定した.また,65例の患者でこれら3種の昆虫の鼻誘発試験を実施した.<br>ガ,ユスリカおよびゴキブリに対するIgE抗体保有率はそれぞれ32.5%,16.1%,13.4%であった.これらIgE抗体保有率には,地域,年齢,治療および合併症による差は認められなかった.<br>鼻誘発試験で陽性と判定される割合は,RASTクラスが高いほど多くなる傾向があった.とくにゴキブリ,ガにおいて,RASTクラス3以上では,各々55.6%および61.5%が鼻誘発試験に陽性を示した.<br>昆虫間のIgE抗体価の相関を検討したところ,ガ,ユスリカ間には強い相関が認められ共通抗原性を示唆したが,ゴキブリ,ガ間およびゴキブリ,ユスリカ間では強い相関は認められなかった.また,いずれの昆虫もヤケヒョウヒダニおよび室内塵に対するIgE抗体価との相関は認めなかった.<br>以上の結果,日本においてガ,ユスリカ,ゴキブリは,アレルギー性鼻炎を起こす原因となっていることが示された.
著者
岸部 幹 斎藤 滋 原渕 保明
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.8-14, 2005-01-20
被引用文献数
4 11

鼻骨骨折は, 顔面骨骨折のうち最も頻度の高いものであり, 一般および救急外来でよく遭遇する疾患のひとつである. 鼻骨骨折は, 骨折による偏位がある場合や, 鼻閉や嗅裂の狭窄により嗅覚障害が惹起される可能性がある場合に整復する必要がある. しかし, 整復の成否については, 客観的に判断していない症例が多いと思われる. この理由として, 救急外来受診者が多いこと, 骨折の診断で単純X線検査やCTを使用した場合の被曝への配慮などが考えられる. しかし, 小さな偏位を見逃す例, 後に鼻閉や嗅覚障害を来す例もあり, 整復の成否について確かめる必要がある. 当科では徒手的整復を行う際に, 整復の成否を被曝のない超音波検査装置 (エコー) にて判定し有用な結果を得ている. その方法として, 特別な用具等はいらず, 鼻背にエコーゼリーを塗りプローブを置くだけで鼻骨を描出できている. これにより, real timeに鼻骨を描出しながらの整復が可能であった. また, 腫脹が強い場合は, 外見上, 整復がなされたか判定できないとして, 腫脹が消退するのを待ってから整復を施行する症例もあるが, エコーを用いれば腫脹が強い時でも整復が可能である. また, CTとほぼ同様にエコーでも鼻骨の輪郭が描出されることを考えると, その診断にも用いることが可能と考える. 以上から, エコーは診断から治療判定, 再偏位の検出といった鼻骨骨折診療の一連の流れに有用であり, 特に整復時の指標については, 現在のところ客観的にreal timeに判定できる機器はエコーのみであり, これを整復時に用いることは特に有用と考えられた.
著者
佐藤 美奈子 松永 達雄 神崎 仁 小川 郁 井上 泰宏 保谷 則之
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.192-197, 2001-03-20
被引用文献数
8 8

突発性難聴の重症度分類は, 初診時の5周波数平均聴力レベルを4段階に分類し (Grade 1: 40dB未満, Grade 2: 40dB以上60dB未満, Grade 3: 60dB以上90dB未満, Grade 4: 90dB以上), めまいのあるものをa, ないものをbとして, 初診時に突発性難聴のグレーディングを行う方法である. しかし臨床データによる研究は少なく, その有用性・問題点については未知の部分が多い.<BR>本研究では, 発症後1週間以内に治療を開始した初診時聴力レベル40dB以上の突発性難聴263例を, 前述の重症度分類に基づき6群に分類, 聴力回復との関係を検討した. 固定時聴力の比較では, 予後良好な順にGrade 2b>2a>3b>3a>4b>4aであった. 初診時聴力レベルに影響を受けない予後の定量的評価の方法として, 聴力改善率と各群の治癒症例の割合を用いて検討すると, 予後は良好な順に, Grade 2b, 3b>2a>3a>4b>4aの5段階に位置づけられ, Grade 4aの予後が顕著に不良であった. Grade 2, 3では, 初診時聴力レベルよりめまいの有無の方が予後に対する影響が大きいと考えられた. Grade 4を聴力レベル100dBで分けた場合の聴力予後は, 4aでは100dBを境に大きな差が見られ, 100dB未満の4aは3aと同程度であった. しかし4bでは, 100dB以上の予後がやや悪いものの, その差は小さかった. 今回の検討により, 発症後1週間以内に治療を開始した突発性難聴では, 初診時聴力にかかわらず, ほぼ同程度の聴力改善が望めるレベルが存在し, このレベルはめまいのない場合40-89dB, めまいのある場合60-99dBであると考えられた. 各々の予後は, めまいのない場合, 治癒する可能性約60%, 聴力改善率平均80%以上, めまいのある場合, 治癒する可能性約40%, 聴力改善率平均60%程度と推察された. また, 初診時Gradeと重症度分類に準じた固定時Gradeを比較すると, 初診時Grade 2, 3では, 固定時Grade 1, Grade 4では, 固定時Grade 3の症例が多かった.
著者
山本 哲夫 朝倉 光司 白崎 英明 氷見 徹夫 小笠原 英樹 成田 慎一郎 形浦 昭克
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.108, no.10, pp.971-979, 2005-10-20
被引用文献数
7 3

1995年4月から2002年の間に札幌市南区にある耳鼻咽喉科診療所を受診し4種のCAP (シラカバ, カモガヤ, ヨモギ, ダニ) を検査した例を対象にOASの有症率を調査した. そしてシラカバ花粉の感作とOASの関係を調べるとともに, イネ科やヨモギ花粉の感作とOASとの関係も調べた. シラカバ感作例843例のうち37% (378例) が問診上OASを有しており, 多くの原因食物 (リンゴ, モモ, サクランボ, キウイ, ナシ, プラム, メロン, イチゴ, カキ, ブドウ, トマト, スイカ, マンゴー, バナナ) に対しシラカバ陰性例より多く, またこの中でブドウとマンゴーとバナナ以外はいずれもシラカバCAPスコアの増加とともに有症率が上昇した. また原因食物の数もシラカバCAPスコアの増加とともに増大した. シラカバ感作例におけるOASの有症率は92年の調査より増加していた. シラカバ感作例において同じシラカバCAPスコアごとで比較すると, イネ科重複感作例はメロンとスイカとモモのOASが多く, ヨモギ重複感作例はメロンのOASが多い場合があった. シラカバ感作例においてロジスティック回帰分析を用い. OASの合併に影響する因子を調べると, シラカバCAPスコア以外には, 性別 (女性に多い) とダニCAP (陽性例に少ない) が有意であり, また原因食物別にはキウイとトマトに対するOASはヨモギ陽性例に有意に多かったが, イネ科に関しては有意差はなかった.
著者
杉内 智子 佐藤 紀代子 浅野 公子 杉尾 雄一郎 寺島 啓子 洲崎 春海
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.12, pp.1126-1134, 2001-12-20
被引用文献数
17 8

軽度・中等度難聴児の現況を調査し, 問題とその背景について考察した.<BR>対象は補聴器外来にて聴覚管理を行ってきた軽度・中等度難聴児30人である.<BR>全体象例について, 難聴を疑った時期と診断の時期, 補聴器の装用開始時期, そして補聴器の使用状況を調査し, 24人に知能検査 (WISC-III) を行った. また, アンケートを用いて, 児の聴取状況および児の「きき返し」に関する母親の意識と対応について調査を行った.<BR>難聴を疑った時期は平均2歳10ヵ月と遅く, その診断は平均4歳2ヵ月, 補聴開始は平均5歳3ヵ月と, 難聴を疑いながらも診断, 補聴がさらに遅れる傾向があり, また補聴器を有効に活用できていないと考えられる児がみられた. WISC-IIIを行った24人のうち14人は, 言語性IQが動作性IQより15以上低く, 言語発達に遅れがみられた. これら言語発達の遅れと, 聴力レベル, 難聴の診断および補聴器開始時期との関連は見出せなかったが, その背景として, 定着していない補聴器装用状態と, 帰国子女, 両親がろうであるなどの言語環境, すなわち音声コミュニケーションの質と量の問題が関与していることが示唆された. また, 母親は児のきき取りの状態を気にかけてはいるものの, 児からの「きき返し」には"くり返す"以外, ストラテジースキルを導くような対応は少なく, 意識していても対処する術を知らないという現実がうかがえ, この傾向は言語発達に遅れのある群で顕著であった.<BR>小児難聴は早期発見が不可欠である. 同時に, とくに軽度・中等度難聴児においては, 聴覚障害を適正に認識, 受容できるような指導, 補聴の定着, そしてコミュニケーション指導が重要である.
著者
山本 哲夫 久々湊 靖 縫 郁美 高田 竜多 平尾 元康 上村 正見 斎藤 博子 朝倉 光司 形浦 昭克
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.98, no.7, pp.1086-1091, 1995-07-20
被引用文献数
10 3

シラカバ花粉, カモガヤ花粉, ヨモギ花粉, ダニの4種類のCAPを検査した650例に果物の口腔咽頭の過敏症状の有無を調べた.<BR>(1) シラカバCAP陽性例 <スコア2以上> 174例の16%に, 他のCAP陽性例 (253例) の2%に果物に対する口腔咽頭の過敏症が見られた.<BR>(2) シラカバCAP陽性例の13%にリンゴで症状が, 6%にモモで症状が見られ, ともにシラカバのCAPスコアーの高い方が多く, 他の例よりも多く, 花粉の感作の診断の参考となると思われた.<BR>(3) キウイの症状は, シラカバCAP陽性例の3.5%に, シラカバ以外のCAP陽性例の1.2%に見られたが, 有意差はなく, 必ずしもシラカバ花粉の感作を示すとは限らないと考えた.
著者
梅野 博仁 宮嶋 義巳 森 一功 中島 格
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.100, no.12, pp.1442-1449, 1997-12-20
参考文献数
20
被引用文献数
16 9

1971年1月から1996年7月までの26年間に久留米大学耳鼻咽喉科で治療した腺様嚢胞癌54症例 (一次例44例, 二次例10例) の臨床統計を行った. 原発部位は口腔13例, 口唇1例, 鼻腔11例, 副鼻腔3例, 顎下腺8例, 耳下腺5例, 上咽頭3例, 中咽頭3例, 外耳道3例, その他4例 (眼窩2例, 涙嚢1例, 気管1例) であった. 性差は男性19例, 女性35例と女性に多く, 平均年齢は男性60.8歳, 女性57.5歳であった. 全症例の5年生存率は72%, 10年生存率53%, 15年生存率46%であり, 諸家らの報告と大差はなく, 原発部位別の治療成績に有意差はみられなかった. 病悩期間は1日から13年4カ月までであり, 平均病悩期間は1年5カ月であった. 病悩期間が長い程, 生存率が低下した. 腺様嚢胞癌に対してSzantoらの組織grade分類を行うと諸家らの報告と同様にsolid patternを多く含むgradeでは転移を来しやすく, 予後も不良であった.<BR>死因の解析では, 原病死17症例中遠隔死が10例と最も多く, その10例中8例が肺転移であった. 原発巣死は5例で, 原発巣死全例が癌の頭蓋内浸潤で死亡していた. 頸部リンパ節転移に対しては頸部郭清術で十分制御可能であり, 頸部リンパ節死した症例はなかった. また, 腺様嚢胞癌は従来, 放射線感受性が低いといわれていたが, 術後に放射線療法を行った群が手術単独群より有意に良好な生存率が得られた.
著者
藤田 芳史 久保田 彰 古川 まどか 八木 宏章 佃 守
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.3, pp.115-122, 2010-03-20
被引用文献数
1 2

過去11年間に当科で治療した耳下腺癌症例34例について検討した.T1/2/3/4aが5例/12/7/10, N0/1/2が25例/3/6, stage I/II/III/IVが5例/10/6/13であった. 病理組織型は, 多形腺腫由来癌が9例, 腺癌が8例の他, 計10種類の組織型を認めた. 同期間の良性腫瘍98例を含め, 穿刺吸引細胞診 (FNA) の有用性を検討したところ, 感度76.0%, 特異度95.4%, 良悪性の正診率91.1%であり, 過去の報告と同等であったが, 4例の偽陽性と, 6例の偽陰性を認め, FNAの結果のみで悪性腫瘍と判定し, 顔面神経の処置を決定するのは危険なことが判明した. 悪性腫瘍29例に手術を施行した. 顔面神経は可能な限り温存を試み, 15例で全5枝を温存した. 悪性腫瘍で, 顔面神経浸潤が疑われる症例, リンパ節転移陽性, 高悪性度の症例, 切除断端陽性の15症例に対して, 術後放射線照射を施行し, そのうち3例に再発を認めた. 手術不能例5例に対しては, 化学放射線同時併用療法または放射線単独照射を行ったが, 現在まで全例生存している. 5年overall survival (OS) は87.4%, 5年progression free survival (PFS) は71.4%であった. stage分類別5年PFSは, stage I/II: 91.7% (stage I: 100%, stage II: 87.5%), stage III/IV: 51.6% (stage III: 50%, stage IV: 47.9%) で, 両者の間には有意差が認められた. またN分類別5年PFSでも, N0: 86.2%, N+: 38.1% (N1: 66.7%, N2: 20.8%) で, 両者の間には有意差が認められた.
著者
瀬野 悟史 嶽 良博 硲田 猛真 齊藤 優子 池田 浩己 北野 博也 北嶋 和智 榎本 雅夫
出版者
The Oto-Rhino-Laryngological Society of Japan, Inc.
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.232-239, 2002-03-20
被引用文献数
5 3

近年花粉症の治療として, 従来のメディカルケアに加えてセルフケアの重要性が認識されてきている. 飛散花粉観測より得られる情報は, セルフケアに重要であるが, 特にリアルタイムの花粉情報はよりきめ細やかなセルフケアに役立つ可能性がある. リアルタイム花粉モニターは, リアルタイムの飛散花粉情報が得られること, 簡便に飛散花粉数を測定することができることから今後普及していくと考えられる. 今回このリアルタイム花粉モニター (KH-3000) の精度などについて検討した. 和歌山市において, 2001年2月2日から4月26日までに観測された飛散花粉を対象とし, ダーラム型花粉捕集器とリアルタイム花粉モニターの結果について比較検討を行った. スギ花粉飛散のピークとなる3月のスギ花粉の相関係数はr=0.69, ヒノキ科花粉飛散のピークとなる4月のヒノキ科花粉の相関係数はr=0.89であり, 良好な相関関係が認められた. しかし, リアルタイム花粉モニターの結果には, 花粉ではないピークも認められた. 検討の結果その原因は雪やそれ以外の可能性が考えられた. 現在本機器に, 改良品として雪対策も行われており, スギ・ヒノキ科花粉のリアルタイム測定には, 本モニターが有用であると考えられた.
著者
鈴木 淳 小林 俊光
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.11, pp.844-850, 2010-11-20
参考文献数
16
被引用文献数
3

目的: 2009年におけるインターネット人口普及率は75.3%であり, 今後インターネット上での医療情報収集がますます進むと予想される. インターネット上には顔面神経麻痺に関するさまざまな情報が存在するが, それらを検討した報告はない. 今回, インターネット検索サイト (Google Japan, Yahoo! Japan, Google USA) にて「顔面神経麻痺」, 「facial palsy」「facial nerve paralysis」をキーワードに検索を行い, 上位50サイトについて検討を行った. 結果: 鍼灸院のサイトは日本語サイトの約40%と多数を占めた. 日本語サイトでは, 医師作成サイトや公共性の高いサイト (大学・学会・公共組織) の割合が英語サイトに比較し少なかった. 耳鼻咽喉科医以外が作成した日本語サイトでは, 中耳炎・耳下腺腫瘍・側頭骨腫瘍の記載率が少なかった. 医師作成サイトと鍼灸師作成サイトの比較では, 改善率, 改善時期, NET (nerve excitability test)・ENoG (Electroneuronography), ステロイド, 形成外科手術の各記載率について, 医師作成サイトが有意差をもって多かった. 結論: 十分な情報が記載された日本語サイトは少ない. 今後は公共性の高い組織から, 質の高い情報が発信されることが望まれる. 耳鼻咽喉科医は, インターネット上での情報提供により積極的に参加していくことが必要と考えられる.
著者
清野 宏 岡田 和也
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.11, pp.843-850, 2011-11-20
参考文献数
36
被引用文献数
1

生体防御の上で極めて重要な位置にある粘膜には, 粘膜免疫として知られる全身免疫とは異なる巧妙な免疫システムが構築されている. 粘膜固有の免疫担当細胞としてB1系B細胞や&gamma;&delta;T細胞, またNK22細胞などが見出され, それぞれ重要な役割を果たしている. また, 粘膜面に, 病原体に対する防御に不可欠な, 抗原特異的分泌型IgAを効率的かつ臓器特異的に誘導するメカニズムとして, MALT (粘膜関連リンパ組織) を中心とした粘膜免疫システムが構築されている.<br>頭頸部領域での粘膜免疫については, MALTに相当するものとしてヒトにおけるWaldeyer輪がよく知られている. マウスなどでは扁桃が存在せず, 鼻腔のNALT (鼻咽腔関連リンパ組織) がそれに相当するものと考えられる. 加えて近年, 鼻腔や口腔のみならず眼結膜や涙嚢にもCALT (結膜関連リンパ組織) やTALT (涙道関連リンパ組織) などのMALTが見出され, 全体として頭蓋顔面粘膜免疫システムという広大な粘膜免疫ネットワークを構築することが明らかになってきた. さらに, リンパ節や腸管のMALTであるPeyer板が胎生期に発達するのに対し, NALTやTALTは生後に発生し, また組織形成に必要な遺伝子群も明確に異なるなど, 非常にユニークな発生過程をとっている. NALTやTALTの形成に関わる遺伝子は頭蓋顔面粘膜免疫システムの鍵を握るものと予想され, その究明が待たれる.<br>頭蓋顔面粘膜免疫システムの臨床応用として, 経鼻ワクチンが挙げられる. 現時点では米国でインフルエンザワクチンとしてFluMistが使用されている. 点鼻により痛みもなく, また効果的に気道系での免疫が得られる, 優れた経鼻ワクチンの開発は呼吸器感染症対策のために必須であるが, 嗅粘膜からの吸収による中枢神経系への移行が懸念されてきた. Nanogelは新しく開発された生体用の素材で, マウスでの検討では, ワクチンデリバリー用素材として用いると中枢神経への移行もなく, 極めて効率的に鼻汁中でのIgA抗体を誘導できており, 今後の発展が期待できる.
著者
加藤 明彦 山田 弘之 山田 哲生 石永 一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.45-50, 1997-01-20
参考文献数
9
被引用文献数
12 3

当科において超音波ガイド下吸引細胞診 (FNA) を施行し, 手術により組織学的に確認された甲状腺腫瘍333症例につき検討を行った. 正診率は92.4%, 特異性は100%, 感受性は88.3%であった. またFNA陽性例のうち2回目以降に陽性となった症例が24例 (12.8%) あり, 反復穿刺が重要であると思われた. FNAを手術適応の決定に際し重視することで, 甲状腺手術例における悪性腫瘍の割合が増加し, 不要不急の手術を減少させることが可能になるものと考えられる. 一方, 超音波ガイド下にFNAを行うことで, FNAの診断精度を上げる努力をするとともに, 偽陰性例を見逃さないような総合診断を心がけるべきであると思われた.
著者
久保 伸夫 中村 晶彦 山下 敏夫
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.98, no.8, pp.1263-1269, 1995-08-20
参考文献数
24
被引用文献数
6

成人178例に対し, 塩酸コカイン200mgとエピネフリン1mgを含んだガーゼタンポンによる表面麻酔下に内視鏡下鼻内手術を行い, 術前および術中の中枢症状, 脈拍, 血圧などの全身症状と術中の出血量, 手術時間を検討した. コカイン麻酔に伴うショック, 妄言, 呼吸抑制などの中枢症状と血圧の変動はなかったが, 毎分20回以上の脈拍の増加を26例で認めたが, 硫酸アトロピンを用いなかった症例では少なかった. 術中出血量は対象群とは有意差はなかったが, 手術時間は有意にコカイン使用群で短かった. コカインは200mg用いて安全であり, 粘膜微小血管からの滲出性出血を抑制することで, 手術時間を短縮すると思われた.
著者
小川 浩司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.106, no.6, pp.685-691, 2003-06-20
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

滲出性中耳炎55症例に風船を使った自己通気(鼻吹き風船)治療を行い次の結果を得た.<br>1. 中耳換気チューブの既往歴のない小児27例49耳の87%,成人16例23耳の65%が著効以上の成績を示した.鼻吹き風船で治癒した小児の26%,成人の31%が14日以内に,また小児の24%は15日から21日までに治っていた.<br>2. 3年以上治療し換気チューブの既往歴がある小児7例中5例,成人5例中1例が鼻吹き風船によって治癒した.引き続き治療が必要だった6例中2例はアレルギー性鼻炎を合併していて,換気チューブ留置により貯留液が消失しても音響耳管法による耳管開口が認められず,成人2例は喘息,副鼻腔炎を合併した好酸球性中耳炎であった.中耳や耳管粘膜病変が強い場合は受動的換気だけでは治らない.また,他の2例は自己通気を決められた回数どおりに続けられなかった症例で,通気回数と継続が結果を左右するものと考える.<br>3. 風船を膨らませるとき鼻咽腔にかかる圧力は40~48mmHgでポリッツェル送気圧の40~60mmHgやユニット付き送気管の60~100mmHgに比べ低く,より安全なものと思われる.当院ではこれまで圧外傷等の副作用はなかった.
著者
島田 純 保富 宗城 九鬼 清典 山中 昇 満田 年宏 横田 俊平
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.103, no.5, pp.552-559, 2000-05-20
参考文献数
15
被引用文献数
7

近年,市中においてペニシリン耐性肺炎球菌による上気道感染症が急速に蔓延し治療に難渋する疲例に遭遇する機会が増えてきている.急性中耳炎は鼻咽腔から中耳への細菌の侵入と増殖によって発症するとされているが,耐性菌感染症の病態を考える上では,感染源としての鼻咽腔細菌の状態を把握することは重要である.<br>小児急性中耳炎患児の鼻咽腔より検出された肺炎球菌80株についてPCR法によりペニシリン結合蛋白(penicillin binding protein: PBP)遺伝子の変異を検索したところ,pbp1a, pbp2x, pbp2bの3つの遺伝子すべてが変異した株が30%にみられ,74%が何らかの遺伝子変異を有するものであった.またこれらの遺伝子変異株は1歳児から最も多く検出された.最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)が0.06&mu;g/mL以下を示す菌株群(46株)のうち,セフェム耐性化に関わるpbp2x遺伝子の変異を有する株が43%(20/46)を占めていた.<br>また,急性中耳炎を繰り返した11組のエピソードについて,エピソード毎に鼻咽腔から分離された肺炎球菌の遺伝子型をパルスフィールドゲル電気泳動法を用いて比較したところ9組(82%)において菌株が異なっていた.さらにpbp遺伝子の変異パターンから菌株を識別した場合には,8組(72%)において菌株が異なつておりほぼ同様の結果が得られた.<br>以上のことから,急性中耳炎患児の鼻咽腔においてはpbp遺伝子に変異を有する菌株が大きく関与しており,エピソード毎に異なる菌株によって感染が起こりやすいことが判明した.したがって急性中耳炎においては鼻咽腔検出菌の各種薬剤に対する感受性をエピソード毎に評価していくことが重要である.また,PCR法によるpbp遺伝子検索方法は分離菌の薬剤耐性判定を迅速に行えるだけでなく,個々の菌株を識別する上でも有用であると思われる.
著者
下屋 聡子 牧野 邦彦 大村 文秀 天津 睦郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.8, pp.1029-1037, 1998-08-20
参考文献数
23
被引用文献数
1

ヒトの弛緩部型真珠腫は弛緩部が内方に向かって伸展陥凹し嚢状となって,その中に表皮角化物をいれた状態をいう.モンゴリアンジャービル(以下ジャービル)は高率に真珠腫を自然発生する動物であり,その真珠腫では一見ヒトの外耳道真珠腫に類似した所見を呈する。その一方で本動物では鼓膜弛緩部表皮が肥厚角化し,弛緩部内側に貯留液を認め真珠腫へ進展する所見が報告されている.このジャービルの弛緩部の変化がヒトの弛緩部型真珠腫の実験モデルとして適するかを確認するため予備実験を行った.その結果,無処置耳および耳管咽頭口焼灼耳で弛緩部表皮の肥厚角化と同時に弛緩部の内陥が出現し,その弛緩部内陥部を中心として表皮角化物の堆積が高率に認められた.このような病態は,ヒトの弛緩部型真珠腫と類似した所見である.<br>次にヒトの弛緩部型真珠腫形成要因を明らかにすることを目的にジャービルを用いて以下の実験を行った.<br>対象は13匹22耳で,上皮の増殖能をBrdUを用いて検討し,中間層の変化を血管数を指標として墨汁灌流により算出た.BrdU陽性細胞数(以下陽性細胞数)は鼓膜弛緩部粘膜層において初期変化耳では正常耳と比較すると有意に増加し,真珠腫耳では変化はなかった.緊張部,外耳道表皮では真珠腫形成過程で陽性細胞数の増加する傾向は認めなかった.また鼓膜弛緩部の血管数は初期変化耳で有に増加し,特に粘膜側に多く認められた.鼓膜緊張部の血管数は少数であり,真珠腫形成過程で増加する傾向は認められなかった.<br>これらのことから真珠腫形成過程では初期変化耳の鼓膜弛緩部粘膜層において最も増殖能が亢進していることが明らかとなつた.この変化に対応して,鼓膜弛緩部の漸生血管が増加したと考えられた.このような弛緩部粘膜層の変化は弛緩部内側の貯留液が刺激となって生じると思われた.
著者
市村 恵一 石川 浩太郎 中村 謙一 斎藤 知寿
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.112, no.6, pp.474-479, 2009-06-20
参考文献数
32
被引用文献数
1 4

目的: 再癒着率の多さや聴力改善率の低さで知られる癒着性中耳炎に対する手術法の一つとしてcartilage palisade tympanoplasty (CPT) を適用し, その有用性を調べる.<br>対象: 2006年1月から2007年12月までの2年間に癒着性中耳炎症例としてCPTによる鼓室形成術を受けた9耳で, 緊張部型真珠腫の合併例は除外した. 平均年齢は35.2歳で, 2例は鼓膜後部のみの癒着で, 残りは全面癒着であった. 術前の平均聴力は3分法で20dBから102dBまで, 平均56dBであった.<br>方法: 耳介軟骨を採取し, 柵状に斜め切りして並べて鼓膜再建材料とした. 2例にI型, 6例にIIIc型, 1例にIVc型が行われた.<br>結果: 術後の鼓膜状態に関しては, 再癒着は1例もなく, 穿孔例もなかった. 一過性の鼓膜表面びらんが2例見られたが局所処置で軽快した. 聴力については術後6カ月の段階で評価し, 気骨導差15dB以内が3/9, 15dB以上の聴力改善が5/9, 聴力レベル30dB以内が3/9で, これらの一つ以上を満たす成功例は7/9 (78%) であった.<br>結論: 予想を上回る成功率であった. CPTが癒着性中耳炎の基本術式になり得るかについては, 症例数を増やして長期の経過を見た上での検討が必要であるが, その期待に応えうる可能性がある.