著者
山西 優二
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.5-19, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
16

本稿は,エンパワーメントの視点から日本語教育のあり様について考察することをねらいに,まず関係性の視点からエンパワーメントを捉え,そのエンパワーメントと多文化共生の関係,多文化共生に向けての教育課題を考え,さらにはその教育課題に即したことばの教育そして日本語教育のあり様について考察したものである。関係性を基軸に,「文化」そして「ことば」を動的に捉えること,「道具としてのことば」と「対象としてのことば」を教育で関連づけることを基本的な視座としながら,学習者そして社会的なニーズに即した,エンパワーメントの視点からのこれからの日本語教育のあり様として,「目標の明示」「人間関係づくり」「場づくり」「教材開発」などの点について考察した。
著者
李 文平
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.157, pp.63-77, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
30

本研究では,教科書の改善の方法を探るために,中国で使用されている日本語教科書のコロケーションを調べ,母語話者の使用実態との比較を行った。今回の調査の結果,次の三点が明らかになった。第一に,教科書のコロケーションは頻度も種類も母語話者の使用より多い。第二に,教科書において母語話者がよく使うコロケーションを提示することは,これまでの日本語教育と補完し合うものと期待できるにもかかわらず,現行の教科書は母語話者の使用実態を十分に考慮していない。特に,「影響を受ける」「役割を果たす」などトピックに依存せず,広く使われているものを積極的に取り入れていない傾向がある。第三に,教科書は新出単語を母語話者がよく使うコロケーションの形で提示しておらず,母語話者があまり使わないコロケーションを大きく取り上げる傾向も見られた。これらの問題点を指摘した上で,今後の改善点を提案した。
著者
渡辺 裕美 松崎 寛
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.61-75, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
22
被引用文献数
1

日本人教師,ロシア人教師,一般日本人各20名にロシア語母語話者の発音評価を求め,その評定値と,評価後のコメントを分析した。分析の結果,日本人教師は,ロシア語母語話者の典型的な発音特徴が見られた場合に評価が厳格化し,日本語母語話者にとっての異音が見られた場合に評価が寛大化した。一方,ロシア人教師は,ロシア語の単音やストレスアクセントなどのロシア語の特徴が見られた場合に評価が厳格化し,「ほんをよむ」が「ほのよむ」になるような,拍の減少と[n]が同時に見られた場合に評価が寛大化した。以上の結果をもとに,教師の評価特性について考察した。
著者
松下 光宏
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.30-45, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
12

本稿では,終助詞「もの」について,多くの先行研究や日本語教育での導入における意味・用法の記述(主に正当化や言い訳に用い,主に若い女性や子供が用いる)の妥当性を母語話者の使用実態を基に検証し,その本質的意味を考える。また,非母語話者の使用実態を調査し,コミュニケーション上の問題点を考察する。結果は次の4点である。1.「正当化・言い訳」用法は使用が少なく,理解・同意を提示/要求する用法や例などを示し理解を促す用法の使用が多い。2.性別・年齢差による使用の偏り(主に若い女性が使用)は各用法においてない。3.意味は「先行発話/事態の正当性を示す根拠を強い気持ちで提示する」ことを表す。4.非母語話者は上級者であっても使用が少なく,理解・同意を提示する用法の不使用がコミュニケーション上の問題点となりうる。以上の結果から,日本語教育では頻度・有用性ともに高い,理解・同意を提示する用法での導入を提案する。
著者
大平 幸
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.160, pp.79-93, 2015 (Released:2017-06-21)
参考文献数
11

日本に住む外国人の多様化が進む中,ことばの教育や学習を生活の中において捉えようという取り組みが進んでいる。本稿(1)では異なる文脈における語り直しを経て,自動車整備に関する専門用語が研究協力者の「生活においてなくてはならない重要なことば」になっていく様子を記述する。そして,このことによって生活におけることばの学習の様相を捉え,ことばの学習のひとつのかたちを提示する。
著者
横須賀 柳子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.175, pp.50-64, 2020-04-25 (Released:2022-04-26)
参考文献数
21

日本社会では少子高齢化により労働者人口が減少する中,若年者の職業的・社会的自立を促すインターンシップへの参加者数が著しく拡大してきている。大学在籍中の就職活動前に行う企業でのビジネス実践は,日本人学生のみならず,グローバル人材としての活躍が期待される外国人留学生のキャリア形成に大きな影響を与えるはずだ。質的転換を志向する大学教育にとっても,インターンシップはアクティブ・ラーニングの重要な一方法となる。 本稿では,「キャリア」を生涯発達の視座から捉え,まず,政府・民間企業などによる調査結果を基にインターンシップ全般について概説する。また,留学生の事例を取り上げて,ビジネスの現場と多様な他者との関わりの中でことばや文化を学び,将来の自分の生き方を探求する実態を明らかにする。
著者
御舘 久里恵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.172, pp.3-17, 2019 (Released:2021-04-26)
参考文献数
36

本稿では,地域日本語教育のあり方と,そこに関わる人材に必要とされる資質・能力,及びそれら人材の育成内容と方法について検討した。地域日本語教育は社会参加のための言語保障と地域社会の変革を目指して実施される相互学習とを包含したシステムとして位置づけられ,そのシステムを機能させるための専門職を配置し体制を整備することが不可欠である。地域日本語教育に関わる人材は専門職としてのシステム・コーディネーター,地域日本語コーディネーター,地域日本語教育専門家の3者と,日本語ボランティアとに分けられ,それぞれの役割に応じて求められる資質・能力と育成内容は異なるが,育成方法としては現場主義,振り返り,共有と協働,継続性といった点が共通して重視される。また,地域日本語教育において指摘される参加者間の非対称性の問題を人材育成の観点から打開する視点として,外国人等人材の育成と,実践の振り返りの徹底が挙げられる。
著者
仙田 武司 小菅 扶温
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.176, pp.1-15, 2020-08-25 (Released:2022-08-26)
参考文献数
13

人口減少が進む地域社会においては,持続可能な地域づくりとその担い手の確保が大きな課題となっている。課題解決への取組として,経済活動の担い手としての外国人材の受入れは,既にかなり広がってきているが,これからは社会活動の担い手としても外国人材の活躍が期待されている。本稿では,外国人材が単なる労働力にとどまらず,持続可能な地域づくりの担い手として活躍できるようにすることを目指した事例として,共同執筆者の一人である小菅の取組を取り上げた。そこから,外国人材が地域から望まれる形で受け入れられるようにするには,「外国人材に対する地域社会からの信頼の醸成」,「外国人材のキャリア形成支援」,「外国人材と地域社会とのつながりの形成」という三つの課題を達成することが重要であるとの示唆が得られた。これを踏まえて地域日本語教室を改めて捉え直すと,これら三つの課題の達成につながる五つの機能を地域日本語教室は潜在的に有しており,持続可能な地域づくりおける重要な役割を果たすことができると考えられる。
著者
曹 大峰
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.66-78, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
16

2000 年以降,中国(大陸)の日本語教育は,世界の流れと中国の社会経済の発展を背景に,教育規模,教育理念と実践,教育目標と評価基準,教育研究と教師研修などの面で大きな変容があった。当面の課題には,規模調整と格差縮小,環境整備と目標転換,理念更新と実践連結,新スタンダードの効果的適用,教育研究と教師研修の継続的発展などあるが,今後の再構築の行方として,各教育段階(初等・中等・大学専攻・大学非専攻・大学院)間の多角的連携と均衡的発展が望まれている。そのためには,引き続き国際間特に中日両国間の交流と協働が不可欠であろう。
著者
山元 一晃 稲田 朋晃 品川 なぎさ
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.175, pp.80-87, 2020-04-25 (Released:2022-04-26)
参考文献数
9

日本語教育で扱うべき語を選定することを目的として,医学用語と一般語のはざまにあたる語彙を医師国家試験を対象として分析した。まず,『現代書き言葉均衡コーパス』と対照し,対数尤度比に基づく特徴度により,特徴的な語を抽出した。その後,『日本医学会医学用語辞典Web版』に,見出し語またはその一部として含まれている語以外の語 (ただし,『日本語教育語彙表 Ver. 1.0』に含まれている語を除く) を,医学用語と一般語のはざまの語彙とした。はざまの語彙は,異なりで全体の12.5% (272語) あり一定数あることが確認された。これらの語のうち頻度が5以上ある語について用例にあたった。その結果,「体の部位や位置を表す語」,「患者の状態を表す語」「医療・福祉分野以外では使わないような語」などに分類できた。また,このような語の中には医療分野以外では用いられず,かつ,推測の難しいと考えられる語があった。
著者
福島 青史
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.175, pp.65-79, 2020-04-25 (Released:2022-04-26)
参考文献数
31

「海外の日本語学習者」は,「日本語教育機関において,外国語としての日本語を学ぶ外国人成人」だけではない。移動の時代において,移住や国際結婚などにより,「日本 / 海外」「日本人 / 外国人」という枠を超えた,世界で生きる人を対象としている。そのような世界市民の育成のためには,日本語教育は人の生を日本と海外で分断することなく,一つの連続した生としてみなし,それぞれの生の意味を見出す支援をしていくことになる。このためには,日本と海外の日本語教育,外国語教育,国語教育,教科教育の関係者が連携を取り,社会を形成する人の複言語教育とその体制を開発しなければならない。
著者
深尾 まどか
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.173, pp.31-45, 2019-08-25 (Released:2021-08-28)
参考文献数
18

『名大会話コーパス』を対象に終助詞「わ」の使用の実態を見た。世代別データの分析を通して次のことが明らかになった。60歳以上の女性の94%が「わ」類を使用し,「わ」「わね」「わよ」の1人あたりの使用頻度も高い。一方,10代~50代の女性の約70%~80%に「わ」類の使用が見られたが,1人あたりの使用頻度が60歳以上の女性に比べ低い。「わ」類の中で,10代~50代の女性は「わ」の使用が最も多く,次に「わね」,そして「わよ」と少なくなる。男性の「わ」類の使用率は20代が67%と高く,使用頻度も同世代の女性よりやや高い。若い世代では,単に感情を表出したり,事実や話し手の主張を伝える発話だけではなく,反論する,共感する,軽口をたたく,冗談を言うなど様々な場面で「わ」が単独で選択,使用され,会話が活発にやり取りされている様子が観察された。
著者
小池 亜子 古川 敦子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.172, pp.88-101, 2019 (Released:2021-04-26)
参考文献数
16

学校教員の現職研修では教員の主体的な計画による研修の推進が求められている。日本語指導に関する教員研修については,学習項目の提示や教育実践を基盤とする研修方法の提言があるが,事例研究は少ない。本研究では,教員の自主的・主体的研修活動である「自主研究班活動」と市教育委員会主催の「市教委研修」とを関連づけて研修を行っている群馬県伊勢崎市の約5年間の取り組みを対象として,市教委研修の内容や方法の変化とその要因を考察した。その結果,自主研究班活動に参加した教員が指導主事とともに市教委研修を企画し運営することにより,地域の教育課題や教員自身の実践上の課題に基づくワークショップを中心とした課題解決型の研修へと変化する道筋が示された。自らの実践に即して教員自身が研修の内容を企画し運営する「ボトムアップ型」の研修の促進要因として,活動を推進する教員の思考と管理職からの助言が影響を与えていることが示唆された。
著者
南浦 涼介
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.139, pp.72-81, 2008 (Released:2022-10-30)
参考文献数
15

JSL児童生徒の社会科学習には,「言語的課題」と「文化的課題」の2つがあると考えられる。これらの課題の克服のために,第二言語習得理論の応用や(Pappamihiel et, al. 2005),児童生徒の文化的背景と学習内容を関連づける試み(Weisman & Hansen 2007)などが提案されてきた。しかし,JSL社会科が上の2つの課題に答えるためには,母文化理解を包含した内容理解も重要であると筆者は考える。 本小論では,この課題に答える授業構成の理論を構築することを目的としている。まず,JSL児童生徒が母文化と第二文化双方の社会的意味を共に理解するための「二文化統合理解学習」を提案し,その授業構成論を,授業過程,題材,支援の方法の視点から試案として示した。この試案に沿って,授業を計画,実施した。授業の分析の結果,事例の範囲内ではあるが,本試案の有効性が示された。
著者
嶋津 拓
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.163, pp.17-31, 2016 (Released:2018-04-26)
参考文献数
9

海外に対する「日本語の普及」は,今日,国際文化交流事業の「重点領域の一つ」とされている。しかし,この「日本語の普及」という営みに対する日本国民の意識に関しては,それに焦点を合わせた総合的かつ大規模な調査が,過去に一度も実施されたことがない。 このような状況を踏まえ,筆者は日本国籍を有する成年男女約5,400人を対象に,彼らの日本語普及事業に対する意識に関し,インターネット調査を行った。その結果,日本語学習者を「増やす」という営み(日本語普及事業)は,国際文化交流事業全体の中で必ずしも優先度の高い事業とは見なされていないこと,また,とくに若い世代において,日本語学習者が「増える」という現象に比べて高くは評価されていないこと等がわかった。さらには,日本語普及事業のみならず,日本語学習者の増加という現象に対しても,世代間で意識の違いがあることがわかった。本稿では,この調査結果の概要について報告する。
著者
横山 紀子 福永 由佳 森 篤嗣 王 瑞 ショリナ ダリヤグル
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.141, pp.79-89, 2009 (Released:2017-06-21)
参考文献数
11

海外の日本語教育では,聴解技能が弱点であるばかりでなく,聴解技能開発の必要性やその方法論に対する認識が一般に低いことが指摘される。このような海外の日本語教育における課題を解決に導く事例として,カザフスタンおよび中国で非母語話者日本語教師が実践したピア・リスニングの試みを紹介した。ピア・リスニングとは聴解の過程をピア(学習仲間)で共有し,協力しながら理解を構築していく教室活動である。ピアの話し合いを文字化した資料および学習者からの意見聴取をデータとして,実践の成果を分析した。ピア活動では,言語知識の共有および欠落した理解を補う方策の共有が行われていた。また,ピア学習に合わせ,カザフスタンでは聴解を仮説検証的に進めていくためのタスク中国では学習者のモニターを促進するために「質問」を作るタスクを導入したが,これらのタスクとピア活動が相乗的な効果を上げたことを考察した。
著者
中川 健司
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.145, pp.61-71, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
8
被引用文献数
2

『留学生のための二漢字語に基づく基礎医学術語学習辞典』は先行研究を基に選定した基礎医学術語(全7073語)の学習を目的としているが,基礎医学術語から抽出した二漢字語(漢字二字からなる熟語)を学ぶことによって基礎医学術語のより効率的な学習が期待できるという考えに基づいている。しかし,医療分野の漢字には難解なものも多く,二漢字語を介して基礎医学術語を学ぶ場合も高い漢字知識が必要とされる。本研究では,二漢字語を介して基礎医学術語を学ぶ場合に優先的に学習すべき漢字を選定することを目的として,二漢字語及び基礎医学術語中の出現漢字の頻度と傾向についての調査を行った。その結果,学習者に日本語能力試験2級までの漢字の知識がある場合,二漢字語中に出現する1級以上の漢字228字に加えて級外の38字及び第1水準削除分の1字を学べば基礎医学術語中の出現漢字の約96%と級外漢字の約90%がカバーできることが明らかとなった。
著者
川上 尚恵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.144-158, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
22

本稿では,北京近代科学図書館で編纂発行された日本語教科書『初級日文模範教科書』と『日本語入門篇』の分析を行い,編纂背景をふまえ,占領初期の華北における日本語教育の一側面を明らかにした。『初級日文模範教科書』は,国定国語教科書と内容が重なる部分と例文・会話文の部分からなっていた。教科書に付された「教授参考」では,対訳的ではない中国語を利用した教授が提唱されており,日本語の学習過程をふまえた学習者への配慮が見られた。しかし,それを入門用教科書として再編纂した『日本語入門篇』では,中国語での説明が増加し,「読書的な対訳法」に近づいた教科書となった。両者の編纂には日本人図書館職員・中国人日本語講師が関わっていたが,特に『日本語入門篇』には中国人の伝統的日本語学習法が強く反映していた。今後の中国人の日本語学習・教育史をふまえた研究の必要性を指摘した。
著者
柏崎 秀子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.34-48, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
37

より良い教育のためには,その対象たる学習者の心理を知ることが不可欠である。心理には情意的側面だけでなく認知的側面もあり,学習者の内部でどのようなことが起きているのか,その認知過程を踏まえることが大切である。本稿では,文を越えたまとまりである文章の理解・産出過程が,単語や文の理解に加え,知識による推論も含んだ,全体として結束した一貫性ある心的表象を形成する過程であることを示し,心理学諸研究を概観した。その上で,相手に伝える目的を持った読解と作文との融合実験から,伝達目的を持つことが想定相手の理解も推測した状況モデルの構築と産出を促進することを示し,かつ,実証的研究の取り組み方と日本語教育への示唆を述べた。さらに,第二言語としての日本語教育における最近の心理学的研究に触れ,認知過程を踏まえた教育の発展を希求した。
著者
宇佐美 洋
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.147, pp.112-119, 2010 (Released:2017-02-15)
参考文献数
9

日本語母語話者が学習者の日本語作文を評価する際,評価の基本的方針(評価スキーマ)は人によって大きく異なる。評価スキーマのばらつきの全体像をとらえるため,評価観点に関する質問紙への回答傾向によって評価者をグルーピングする試みを行った。 評価者155名に学習者が書いた手紙文(謝罪文)10編を読んでもらい,「最も感じがいいもの」から「悪いもの」まで順位づけを依頼し,作業後,「順位づけの際どういう観点をどの程度重視したか」を問う質問紙(22項目,7段階)に回答してもらった。得られた回答に対して因子分析を実施した結果,「言語形式」,「全体性」「読み手への配慮・態度」「表現力」と名付けられる4因子を得た。さらに,評価者ごとに算出した上記4因子の因子得点に対しクラスタ分析を実施したところ,評価者は「言語重視型」,「非突出型」,「態度・配慮非重視型」,「言語非重視型」という4グループに分類するのが適当と解釈された。