著者
藤村 善安 仲宗根 忠樹 徳江 義宏 城野 裕介
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.109-116, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
13

1. 近年の調査報告が少ない沖縄県与那国島の湿地植生を記載するとともに,過去の記録と比較して,どのような変化が生じたかを明らかにした.2. 調査の結果,過去に記録された7群落に加え,新たに5群落を記録した.これら新たに認められた群落の多くは,かつて水田であったが,現在牧場となっている場所,あるいは放棄水田に成立している群落が主であった.3. 外来種について,過去の記録にないものとしてパラグラスとホウキギクを認めた.また,キシュウスズメノヒエとツルノゲイトウは以前から記録のある種であるが,以前よりも増加している可能性が考えられた.4. 1976年と2014年の土地利用を比較すると,水田面積が68%減少し,かつて水田であった場所の一部に湿地植生が成立していた.このような二次的な湿地が島内の湿地面積に占める割合は大きく,これら二次的な湿地は湿地性の外来種の生育地となるとともに,湿地性の絶滅危惧種にとっての貴重な生育地にもなっていると考えられる.
著者
松村 俊和 内田 圭 澤田 佳宏
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.193-218, 2014-12-25 (Released:2015-07-03)
参考文献数
225
被引用文献数
8

1. 世界的に生物の生息空間として重要な農地の辺縁部は,土地利用の変化によって急速に生物多様性が減少しつつある.日本の水田畦畔に成立する半自然草原は草原生植物を多く含むが,圃場整備や耕作放棄によって植生は大きく変化しつつある. 2. 本論文は日本の水田畦畔植生に関する知見を生物多様性保全の観点から整理し,生物多様性に影響を与える要因とその保全策および研究の方向性を示すことを目的とする. 3. 1990 年以前,畦畔草原は植生の研究対象としては注目されなかったが,1990 年代に非整備地の畦畔草原の重要性や,圃場整備および耕作放棄の影響が報告された.2000 年以降は保全方法の提案,裾刈り地の種多様性,同一地域内での比較,埋土種子の調査など多様かつ数多くの研究が行われている. 4. 伝統的な景観を維持する棚田やその畦畔は,生物多様性の保全機能,生態的防除機能,環境保全機能を有し,また文化的価値や景観的価値が高い. 5. 水田畦畔での種多様性の維持に関する仮説は,時間的・空間的に大規模な要因から小規模な要因まであり,長期的な歴史など大規模な要因はほとんど検討されていない. 6. 畦畔草原は歴史的に関連の深い周辺の草原から強く影響を受けてきたと考えられ,その植物相の成立の検証には,歴史学の史料,水田景観,花粉,プラントオパール,微粒炭,遺跡の植物遺体などが参考になる.また,全国的な植生調査および生物地理学や集団遺伝学的な手法によって畦畔草原の種組成の成立機構を明らかにできる可能性がある. 7. 畦畔には多様な環境条件や管理方法があるが,これらと植生との対応は未解明な部分が多い.管理との関連では,草刈り頻度や時期についての研究が多くあるものの,草刈り高さなどの草刈り方法と植生との対応はあまり研究されていない. 8. 耕作放棄によって水田の面積は減少し,畦畔草原における種多様性の減少と種組成の変化が急速に起こっている.放棄対策には希少種を多く含む場所(ホットスポット)の抽出,草刈り機械や方法の効率化,外部支援,放牧などがある. 9. 圃場整備によって,畦畔草原では種多様性の低下や外来種の増加など,植生は大きく変化する.この対策として圃場整備の工事段階では表土の再利用,種子供給源の配置,農業土木的方法の改善が,圃場整備後の段階では播種,刈り草の撒き出し,外来種の除去,保全の場としての整備地の活用などがある. 10. 調査・解析方法の課題として,種多様性の比較方法や草原生植物のリストの作成がある. 11. 畦畔草原は現状把握や保全が急務であるため,具体的な調査手法や保全手法の確立に向けた提案を示した.さらに,畦畔草原を含む半自然草原全体の保全の必要性を指摘した.
著者
齊藤 みづほ 星野 義延 吉川 正人 星野 順子
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.17-31, 2019 (Released:2019-07-30)
参考文献数
39

1. 沖縄県西表島の渓流辺植物群落(渓流帯に成立し,渓流沿い植物を主な構成種とする群落)の成立立地と冠水頻度の関係について,流積と集水域面積の2軸で冠水頻度を指標した渓流帯テンプレートを用いて明らかにすることを目的とした.2. 西表島の7河川において277の植生調査資料を収集した.また,河川横断面図の作成と冠水痕跡の調査から,平水位と年最高水位における流積を算出して渓流帯テンプレートを作成し,西表島の河川における渓流帯の範囲を推定した.3. 得られた植生調査資料から,ヒメタムラソウ-サイゴクホングウシダ群集,ヒナヨシ-シマミズ群集,マルヤマシュウカイドウ-イリオモテソウ群集の3群集を識別した.植分あたりの出現種に占める渓流沿い植物の割合は,ヒメタムラソウ-サイゴクホングウシダ群集,ヒナヨシ-シマミズ群集,マルヤマシュウカイドウ-イリオモテソウ群集の順で大きかった.4. 識別された3群集の分布を渓流帯テンプレート上にプロットした結果,ヒメタムラソウ-サイゴクホングウシダ群集とヒナヨシ-シマミズ群集は,年1回かそれ以上の頻度で冠水する立地に成立する渓流辺植物群落であると判断された.とくに前者は冠水頻度が高い立地にも成立していた.一方,マルヤマシュウカイドウ-イリオモテソウ群集は,年1回程度の増水では冠水しない立地に成立しており,渓流辺植物群落ではないと考えられた.5. 西表島の河川では,定期的な冠水による攪乱が,渓流辺での通常の陸上植物の生育を妨げ,冠水に適応した種からなる渓流辺植物群落を発達させていると考えられた.そのため,冠水頻度を低下させるような河川の人為的改変が行われた場合,渓流辺植物群落が衰退するおそれが高いことを指摘した.
著者
下田 路子
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.37-50, 1996-07-30 (Released:2017-01-06)
参考文献数
24
被引用文献数
1

There are many abandoned rice fields all over Japan. Most of them were abandoned by set-aside programs that began in 1970. This paper deals with the vegetation of wet abandoned rice fields in Hiroshima Prefecture. From the case study in the Saijo Basin, Higashi-Hiroshima, four plant communities are described : the Juncus leschenaultii community on the first-year fields, and three communities on older fields, the Ischaemum aristatum var. glaucum-Eupatorium lindleyanum community, the Isachne globosa community and the Eleocharis kuroguwai community. Vegetation change on abandoned rice fields is explained based on the species composition of abandoned rice fields communities and natural wetlands communities. Six threatened plant species were found on abandoned rice fields in Hiroshima Prefecture. Old abandoned rice fields have developed into various kinds of wetlands such as swamp woods, Moliniopsis marshes, sedge marshes and reedswamps. Although the old abandoned rice fields are the secondary wetlands, they will be more and more valuable in the future as the wildlife habitats not only in Hiroshima Prefecture but also in many other places in Japan.
著者
服部 保 南山 典子 小川 靖彦
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.45-61, 2010-12-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
81
被引用文献数
3

1. 万葉集に詠まれている植物,植物群落,立地条件をもとに同じ歌の中の植物間の組合せや植物と立地条件の組合せおよび植物群落を解析し,万葉時代の植生景観について考察した.  2. 万葉集に詠まれている維管束植物種数は145種(1650首),植物群落数は44(235首)であった.  3. 同じ歌の中の植物間の組合せや植物と立地条件の組合せは現存植生の種組成や植物と立地条件の組合せとほとんど矛盾しておらず,万葉集の写実性の高さが確認できた.  4. 「浜」,「里」,「野」,「山」における植生分布は万葉時代も現在も大きな差はなく,田畑,クロマツ林,チガヤ草原,ススキ草原,ヨシ草原,里山林などが当時広がっていたと推定した.万葉集の「山」は,現在使用されている用語でいうと「里山」に該当すると考えられた.  5. 万葉時代の西日本の暖温帯における「奥山」の植生はスギ・ヒノキ個体群と照葉原生林の混生林か,両者が地形的にすみ分けていた樹林と考えられた.「奥山」は,その後人の土地利用によって里山化が進み,万葉時代の「奥山」は現在では里山放置林やスギ・ヒノキの人工林に変化している.  6. 万葉集にもっとも多く詠まれていた植物はススキクラスの植物であった.しかし,「庭」に植栽されているススキクラスの植物を詠んだ歌が多く,その点を考慮すると,万葉集でもっともよく詠まれた植生景観は「庭」の景観であった.
著者
大橋 春香 星野 義延 大野 啓一
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.123-151, 2007
被引用文献数
12

&nbsp;&nbsp;1. 1990年代以降ニホンジカの生息密度が急激に増加した東京都奥多摩地域において,ニホンジカが増加する前の1980-1985年に植生調査が行われた77スタンドにおいて,1999-2OO4年に追跡調査を行い,植物群落の階層構造,種組成,植物体サイズ型の変化を比較した.<BR>&nbsp;&nbsp;2. 調査地域の冷温帯上部から亜高山帯に成立するシラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計7タイプの植物群落を調査対象とした.<BR>&nbsp;&nbsp;3. 1980-1985年と1999-2004年における植物群落の各階層の高さおよび植被率を比較した結果,全ての植物群落で草本層の高さまたは植被率が減少していた.さらに,森林群落では低木層の植被率が減少する傾向がみられた.<BR>&nbsp;&nbsp;4. 1980-1985年と1999-2004年における総出現種数は471種から397種に減少し,奥多摩地域全体での植物種の多様性が低下していることが示唆された.<BR>&nbsp;&nbsp;5. 1980-1985年から1999-2004年の間に,調査を行った全ての植物群落で種組成の変化が認められた.種組成の入れ替わりはミヤコザサ-シモツケ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集の順に高く,シラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集では低かった.<BR>&nbsp;&nbsp;6. 各植物群落の構成種を植物体サイズによって類型化し,その増減傾向を比較した結果,中型・大型の草本種に減少種が多く,小型の草本種と大型の高木種には増減のない種が多い傾向が全ての植物群落に共通してみられた.<BR>&nbsp;&nbsp;7. スタンドあたりの出現種数はシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計5群落で減少していた.これらの群落では特に中型草本および大型草本のスタンドあたりの出現種数の減少が著しかった.また,森林群落のシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集ではスタンドあたりの低木の出現種数も減少していた.<BR>&nbsp;&nbsp;8. コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集ではスタンドあたりの出現種数に変化がみられなかった.これらの植物群落ではスズタケの優占度の減少量と調査スタンドに新たに加入した種数の間に相関がみられることから,摂食によって種数が減少する一方,スズタケの優占度の低下に伴って新たな種が加入することにより,種数の変化がなかったものと考えられた.
著者
高槻 成紀
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.85-91, 2022 (Released:2022-12-10)
参考文献数
35

1. シカ(ニホンジカ)が生息する金華山島のシカ高密度な場所で,ススキ群落がシバ群落に移行した.この現象を説明するため,両種の摘葉実験により,摘葉間隔の違いが両種に与える影響を調べた.2. ススキは摘葉間隔が短くなるにつれて葉長,草丈,積算生産量が減少した.3. ススキは摘葉間隔が30日より短いと開花しなくなった.4. シバは摘葉間隔にかかわらず葉長,積算生産量に違いがなかった.5. このことから,シカの強い採食圧がススキ群落を減少させてシバ群落に移行・維持させていることが説明できた.
著者
鐵 慎太朗 星野 義延 吉川 正人
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.17-35, 2021 (Released:2021-07-06)
参考文献数
54

1. 神奈川県東部の三浦半島の9箇所の岩石海岸に成立する草本植生を対象に,① 植生を構成する群落の把握,② 各群落の立地条件の解明,③ 保全上重要な植物種と群落の関連の把握を行った.2. 調査地の植生はmodified TWINSPANにより11群落に区分され,第一分割では5群落 (A-E) を含むグループと6群落 (F-K) を含むグループに二分された.主に,前者は湿地生の植物で構成される群落,後者は海崖生の植物で構成される群落だった.3. 区分された11群落を調査地周辺の既存群集と比較すると,A-Eはイソヤマテンツキ群集やナガミノオニシバ群集,シオクグ群集といった塩沼地生の群集に,シバが優占するFとGはツボクサ-シバ群集などに,Hはハマホラシノブ-オニヤブソテツ群集に,I,J,Kはイソギク-ハチジョウススキ群集に相当,類似していた.4. A-Eの5群落は,主に低海抜で湿った平坦地の隆起海食台 (もしくは波食棚) 上に成立し,各群落は水文環境 (海水もしくは淡水の供給,滞水域の有無など) や水質 (塩分濃度 (EC) の違い) の違いに応じて成立していると考えられた.一方,F-Kの6群落は,主に相対的に高海抜で乾いた海食崖上に成立し,土壌硬度,傾斜角度や関東ローム層の有無などから推測される立地の物理的な安定性などが群落の差異に関わっていると考えられた.5. 調査スタンドでは保全上重要な植物種 (レッドリスト掲載種,地域固有分類群) が多種記録された.岩石海岸上の草本植生は,三浦半島において生物多様性の保全上重要な存在であるといえる.6. 保全上重要な植物種は特定の群落 (B,C,D,G,J,K) に偏在していた.これらの群落の多くは緩傾斜地に成立しており,岩石海岸において相対的に人為的影響 (踏圧など) を受けやすいと考えられた.岩石海岸における草本群落や植物種多様性の保全にあたっては,立地環境への人為影響の程度や人為改変に対するぜい弱性が群落間で異なることに留意する必要があるといえる.
著者
李 娥英 冨士田 裕子 五十嵐 博
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.65-80, 2016 (Released:2016-12-25)
参考文献数
47

湿地生態系における生物多様性は,湿地周辺での農業活動や都市化のような様々な人為攪乱によって脅かされている.湿地の農地開発前後の植物相調査データを比較することにより,湿地の荒廃に伴う植物相の変化の特徴を明らかにすることを本研究の目的とし,北海道南部の静狩湿原で植物相調査を実施し,植物リストを作成した.リストでは,さらに開発以前に実施された植物リストと我々が作成した植物リストに出現する植物種を,湿地性在来植物種/非湿地性在来植物種/湿地性外来植物種/非湿地性外来植物種の4つの属性に区分し,絶滅危惧植物種と準絶滅危惧植物種も区別した.開発以前の植物リストと比較したところ,開発以後の方が維管束植物種の全体種数は増加していた.その内訳をみると,湿地性在来植物種の出現数は減少し,一方,非湿地性在来植物種,湿地性外来植物種,非湿地性外来植物種は増加していた.次に,開発以前の植物リスト,開発以後の残存湿原部植物リスト,湿原周辺部(湿原を道路,排水路,植林地に変えたところ)植物リストごとに,科別,属性別の種数を算出した.開発以後に残存湿原部で顕著に減少したのは,カヤツリグサ科とイグサ科の湿地性在来植物種であった.残存湿原部で多くのカヤツリグサ科とイグサ科の湿地性在来植物種が消失していたことから,これらの植物種は人為撹乱に敏感であり,生態的耐性が低いことが示唆された.一方,湿原周辺部では,キク科,イネ科,バラ科の湿地性在来植物種以外の属性の植物種が多く出現した.特に,湿原周辺部で新たに出現したキク科とイネ科の植物種は,人為撹乱に対して強い耐性を持ち,湿原域へ侵入しやすいことが示唆された.また,湿原面積の減少は希少植物種の消失につながることが示唆された.
著者
大橋 春香 星野 義延 大野 啓一
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.123-151, 2007-12-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
60
被引用文献数
13

1. 1990年代以降ニホンジカの生息密度が急激に増加した東京都奥多摩地域において,ニホンジカが増加する前の1980-1985年に植生調査が行われた77スタンドにおいて,1999-2OO4年に追跡調査を行い,植物群落の階層構造,種組成,植物体サイズ型の変化を比較した.  2. 調査地域の冷温帯上部から亜高山帯に成立するシラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計7タイプの植物群落を調査対象とした.  3. 1980-1985年と1999-2004年における植物群落の各階層の高さおよび植被率を比較した結果,全ての植物群落で草本層の高さまたは植被率が減少していた.さらに,森林群落では低木層の植被率が減少する傾向がみられた.  4. 1980-1985年と1999-2004年における総出現種数は471種から397種に減少し,奥多摩地域全体での植物種の多様性が低下していることが示唆された.  5. 1980-1985年から1999-2004年の間に,調査を行った全ての植物群落で種組成の変化が認められた.種組成の入れ替わりはミヤコザサ-シモツケ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集の順に高く,シラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集では低かった.  6. 各植物群落の構成種を植物体サイズによって類型化し,その増減傾向を比較した結果,中型・大型の草本種に減少種が多く,小型の草本種と大型の高木種には増減のない種が多い傾向が全ての植物群落に共通してみられた.  7. スタンドあたりの出現種数はシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計5群落で減少していた.これらの群落では特に中型草本および大型草本のスタンドあたりの出現種数の減少が著しかった.また,森林群落のシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集ではスタンドあたりの低木の出現種数も減少していた.  8. コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集ではスタンドあたりの出現種数に変化がみられなかった.これらの植物群落ではスズタケの優占度の減少量と調査スタンドに新たに加入した種数の間に相関がみられることから,摂食によって種数が減少する一方,スズタケの優占度の低下に伴って新たな種が加入することにより,種数の変化がなかったものと考えられた.
著者
服部 保 栃本 大介 南山 典子 橋本 佳延 藤木 大介 石田 弘明
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.35-42, 2010-06-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
15
被引用文献数
12

1. 宮崎県東諸県郡綾町川中の照葉原生林において,シカの採食による顕著な被害が発生する以前の1988年当時の植生調査資料と激しい被害を受けている2009年現在の植生調査資料とを比較し,照葉原生林の階層構造,種多様性,種組成へのシカの採食の影響を調査した.  2. 階層構造についてはシカの採食によって,第2低木層と草本層の平均植被率がそれぞれ約1/2,1/5に大きく減少した.  3. 階層別の種多様性については全階層と第2低木層において平均照葉樹林構成種数がそれぞれ約3/4,1/2に大きく減少した.  4. 生活形別の種多様性については照葉高木,照葉低木,照葉つる植物,多年生草本において平均種数がそれぞれ2.4種,3.8種,1.2種,2.4種減少した.  5. 減少種数は25種,消失種数は35種,増加種数は6種,新入種数は33種となり種組成は変化した.  6. 他地域から報告されている不嗜好性植物と比較した結果,増加種のうちバリバリノキ,マンリョウ,マムシグサなどの12種が本調査地の不嗜好性植物と認められた.  7. 本調査地の照葉原生林の階層構造,種多様性,種組成はともにシカの採食によって大きな被害を受けており,照葉原生林の保全対策が望まれる.
著者
原 正利
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.137-152, 2006
被引用文献数
3 3

&nbsp;&nbsp;1. 八溝山地,阿武隈山地,北上山地を中心とする関東北部以北の太平洋側地域において,ブナの分布域を水平的,垂直的にカバーするように,54地点に植生調査区(投影面積111.3-1039.2m^2)を設置し,ブナを含む森林群落について,上層木(胸高直径5cm以上)の毎木調査と下層の植生調査を行った.<BR>&nbsp;&nbsp;2. 各林分における種の存否に基づいたTWINSPANによる第3水準までの植生分類によって,調査林分はA-Eの5林分群に分かれた.A-Dの4林分群は,太平洋側の温帯,特に下部温帯の気候的極相と考えられる自然林であるイヌブナ林やモミ林,あるいはブナ林に広く出現する種を多く含んでいた.一方,E群は日本海型のブナ林と共通する種群を多く含んでいた.<BR>&nbsp;&nbsp;3. 優占型の点からは,A-Cの3林分群はブナのほかコナラ,アカシデ,イヌブナ,モミなど多様な種の混交した林分が多かった.D・E群は優占種数が少なく,ブナが優占する林分が多かった.<BR>&nbsp;&nbsp;4. A群からE群に至る林分群の配列は,気候傾度に沿ったもので,A群からE群に向かって暖かさの指数WIが低下し,これと並行的に冬期降水量と最深積雪深が増加していた.<BR>&nbsp;&nbsp;5. 地形的には全ての林分群を通じて,尾根や斜面上部に成立した林分が多かった.<BR>&nbsp;&nbsp;6. ブナの個体群については,A群からE群に向かって,1)優占度(胸高断面積の相対値RBA)の増加,2)局所的な個体群密度の増加,3)稚樹や小径木の少ない断続的なサイズ構造から連続的なサイズ構造への変化が認められた.<BR>&nbsp;&nbsp;7. 当地域のブナは本来,温帯域全体にまたがる広い垂直分布域を持ち,上部温帯域において優占林分を形成するだけではなく,下部温帯域においては,混交林の1要素として,密度こそ低いものの広範囲にメタ個体群構造をとりつつ分布していたと考えられる.<BR>&nbsp;&nbsp;8. 低海抜域に低密度で分布するブナ個体群の維持再生機構については未解明な点が多く,保全上からも今後の重要な課題である.
著者
鈴木 伸一
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.61-74, 2001
被引用文献数
7

&nbsp;&nbsp;1.日本のコナラ林について植物社会学的な種組成および分布の検討を行った.各地域から報告された既発表文献と筆者らの報告した合計562の植生調査資料を用い,総合常在度表により広域的に比較した.その結果,日本のコナラ林群落を次の9群集にまとめ,イヌシデ-コナラ群団,コナラ-ミズナラオーダー,ブナクラスに位置付けた.1)オニシバリ-コナラ群集,2)ノグルミ-コナラ群集,3)アベマキ-コナラ群集,4)ケネザサ-コナラ群集,5)ケクロモジ-コナラ群集,6)クヌギ-コナラ群集,7)クリ-コナラ群集,8)カシワ-コナラ群集,9)オクチョウジザクラ-コナラ群集 <BR>&nbsp;&nbsp;2.コナラ林は各群集の分布状況から,沿岸地域,西南日本地域,中部内陸地域,東北日本地域および日本海地域の5つの分布型にまとめられることを明らかにした.特に西南日本地域と東北日本地域はほぼフォッサ・マグナを境界とし,植物区系上の境界である牧野線に対応していた.<BR>&nbsp;&nbsp;3.垂直分布では,コナラ林は沿岸低地から海抜1350mまでみられ,2つの分布パタ-ンに大別される.1つはヤブツバキクラス域のみに分布する群集で,自然立地をもたない集約的管理によって形成されてきた二次林である.中国大陸の夏縁性ナラ林との類縁をもつと考えられる.他の1つはヤブツバキラス域から下部ブナクラス域まで分布する群集で,二次林だけでなく自然植生としても存在する.ブナクラスの種群が優勢で,二次林としては下部ブナクラスの夏縁広葉樹自然林に由来すると考えられる.
著者
金子 和広 冨士田 裕子 横地 穣 加藤 ゆき恵 井上 京
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.31-41, 2022 (Released:2022-06-28)
参考文献数
38

1. 北海道新篠津村の石狩泥炭地内に残存する小規模な湿地では,1960年代以前に掘削された排水路の影響で乾燥化が進行しており,保全のために2006年から毎年,5月から8月の期間に湿地への灌漑用水の導水が行われている.導水が与えた影響を評価するため,導水以前,導水初年,導水開始13年後の地下水位と植生を比較検討した.2. 導水期間中の地下水位は,導水初年・13年後においていずれの地点でも導水以前から平均で30 cm程度上昇した.地下水位の変動パターンは地形によって異なり,窪地では導水期間中に水位が湛水状態を保った一方,窪地以外の地下水位は最高でも地表面から20 cm以下だった.3. 導水開始13年後の植生について,窪地では草本層でヨシを主とする湿生在来種が優占し,導水以前に出現した非湿生外来種のオオアワダチソウが消滅した.窪地以外では,高木層で優占したシラカンバの大半が枯死した場所があったものの,草本層に占める湿生種の割合は50%未満で窪地よりも低く,湿地の乾燥化後に侵入したと考えられるワラビやオオアワダチソウが多くの場所で増加した.4. これらの結果から,地形・地下水位・植生は密接に関連することが示された.窪地では導水がもたらす湛水状態が湿生植物の優占する群落の維持や復元に十分効果的であったが,窪地以外での地下水位上昇は,湿地保全の観点からは十分な水準に達していないと結論付けられた.
著者
前迫 ゆり 和田 恵次 松村 みちる
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.69-78, 2006-06-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
40
被引用文献数
3

1. 奈良公園平坦域の森林植生においてニホンジカの樹皮剥ぎに関する調査を行い,シカの樹皮剥ぎを樹種選択,樹木のサイズ選択および空間的環境傾度との関係から検討した.  2. 奈良公園において樹高1.3m以上の樹木39種1041本について樹皮剥ぎの有無などを調査した結果,31種352本で樹皮剥ぎが確認された(樹皮剥ぎの個体数比率33.8%,種数比率79.5%).  3. シカの樹皮剥ぎ樹木に対する嗜好性の指標としてIvlevの選択性指数Eを算出した結果,サルスベリ,サンゴジュ,イヌマキ,アセビなどが正の選択性を,クロマツ,ケヤキ,ナンキンハゼ,シラカシ,イチョウ,イヌシデ,ウメなどが負の選択性を示した.  4. 全調査樹木(樹高1.3m以上)において,シカによる樹皮剥ぎは小径木で行われる傾向が認められたが,樹種別にみた場合,樹皮剥ぎのサイズ依存性は認められなかった.  5. 春日山原始林あるいは若草山からの距離と不嗜好性種群(E&le;-0.3)の個体数比率との間には有意な正の相関が,逆に,市街地からの距離と不嗜好性種群の個体数比率との間には有意な負の相関が認められ,シカの樹皮剥ぎと空間的環境傾度との関係が示唆された.
著者
冨士田 裕子 小林 春毅 平出 拓弥 早稲田 宏一
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.43-57, 2022 (Released:2022-06-28)
参考文献数
49

1. 北海道北部のサロベツ湿原を含む地域で2014年から2017年にかけ収集された環境省による9頭の雌のエゾシカのGPS首輪のデータを再解析し,1/25000植生図や日最深積雪データとの重ね合わせから,エゾシカの植生利用の日周あるいは季節移動の特徴を明らかにした.2. エゾシカの越冬地は海岸砂丘上の針葉樹林(一部,針広混交林)で,1月から3月は越冬地とその周辺で活動していた.厳冬期の1月・2月は,昼夜ともに針葉樹林や針広混交林内に留まることが多かった.強風で雪が飛ばされやすい近隣の牧草地や海岸草原を採食場所として利用でき,国立公園の特別保護地区である砂丘林はエゾシカにとって安全で,積雪が深い内陸の針葉樹林より魅力的な越冬地と考えられた.3. 定着型の1頭を除き,4月積雪深が10 cm以下になると,エゾシカは越冬地から夏の生息地に3週間以内で移動していた.4頭が移動時に湿原を横断し,砂丘林の両端付近を越冬地にもつエゾシカなど4頭は湿原を横断せずに夏の生息地に移動していた.4. 夏の生息地はサロベツ湿原から離れた場所にあり,昼間は広葉樹林やヨシクラスの植生を主に利用し,夜間は牧草地を利用していた.1頭のみ湿原に隣接する場所が夏の生息地になっていたが,夜間は牧草地に移動し,湿原をエサ場にはしていなかった.今後の個体数増加や湿原への影響の累積化に,注視が必要と考えられた.5. 夏の生息地の行動圏面積の平均値は狭く,広域移動せずに小さな行動圏で十分なエサを得ていることから,エゾシカは夏の生息地として良質な場所を選択していることが明らかになった.6. 10月中旬から12月に夏の生息地から越冬地への移動が徐々になされ,積雪があると急激に移動距離が長くなることが明らかになった.
著者
中西 弘樹
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.99-106, 2001-12-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
35
被引用文献数
1

1.アカザ科マツナ属(Suaeda)のヒロハマツナについて,分布の現状および群落の生態,特に植生単位を決定すると共に,ヒロハマツナと比較するために,日本のマツナ属すべてが産する九州西部においてそれらの詳しい分有を明らかにした.   2.ヒロハマツナの分布は,東海,近畿,中国,九州の11県から記録されているが,岡山県,福岡県,熊本県,鹿児島県ではすでに絶滅したか現状不明であり,愛知県では生育地が1ケ所,兵庫県,広島県,大分県では減少が著しく,絶滅が危惧される状況であった.現存する分布は南北に狭く,東西に広がっており,分布の東限は愛知県渥美町,西限は長崎県五島の若松町であった.   3.九州西部において,マツナは北東部のみで,対馬上島に最も生育地が多く,ハママツナはマツナ属の中で最も産地が多く,九州西部全体に分布していた.シチメンソウは有明海沿岸の佐賀県、長崎県に限られ,分布域に入る対馬には発見されなかったが,ヒロハマツナは対馬の浅生湾沿岸部,上五島,長崎県本土中北部の佐世保市,有明海湾奥部に分布していた.   4.ヒロハマツナは対馬と上五島のそれぞれ1ケ所においてハママツナと同じ塩湿地に,有明海湾奥部においてはしばしばシチメンソウと同じ塩湿地に生育していたが,混生することは少なく,すみ分けしていた.しかし,ハママツナとシチメンソウは同じ地点に分布していることはなかった.   5.ヒロハマツナの優占する群落を新群集としてヒロハマツナ群集Suaedetum malacospermaeを命名した.
著者
服部 保 南山 典子 小川 靖彦
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.45-61, 2010
被引用文献数
1

&nbsp;&nbsp;1.&nbsp;万葉集に詠まれている植物,植物群落,立地条件をもとに同じ歌の中の植物間の組合せや植物と立地条件の組合せおよび植物群落を解析し,万葉時代の植生景観について考察した.<BR>&nbsp;&nbsp;2.&nbsp;万葉集に詠まれている維管束植物種数は145種(1650首),植物群落数は44(235首)であった.<BR>&nbsp;&nbsp;3.&nbsp;同じ歌の中の植物間の組合せや植物と立地条件の組合せは現存植生の種組成や植物と立地条件の組合せとほとんど矛盾しておらず,万葉集の写実性の高さが確認できた.<BR>&nbsp;&nbsp;4.&nbsp;「浜」,「里」,「野」,「山」における植生分布は万葉時代も現在も大きな差はなく,田畑,クロマツ林,チガヤ草原,ススキ草原,ヨシ草原,里山林などが当時広がっていたと推定した.万葉集の「山」は,現在使用されている用語でいうと「里山」に該当すると考えられた.<BR>&nbsp;&nbsp;5.&nbsp;万葉時代の西日本の暖温帯における「奥山」の植生はスギ・ヒノキ個体群と照葉原生林の混生林か,両者が地形的にすみ分けていた樹林と考えられた.「奥山」は,その後人の土地利用によって里山化が進み,万葉時代の「奥山」は現在では里山放置林やスギ・ヒノキの人工林に変化している.<BR>&nbsp;&nbsp;6.&nbsp;万葉集にもっとも多く詠まれていた植物はススキクラスの植物であった.しかし,「庭」に植栽されているススキクラスの植物を詠んだ歌が多く,その点を考慮すると,万葉集でもっともよく詠まれた植生景観は「庭」の景観であった.
著者
鳥居 太良 冨士田 裕子
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.89-97, 2016 (Released:2016-12-25)
参考文献数
41

1. 外来種オニハマダイコンの出現状況と群落の組成を把握することを本研究の目的とし,北海道の6地域の砂質海岸で植生調査を行った.調査は,砂質海岸の後浜から第一砂丘の前面で行った.2. 後浜の中でも汀線に近い打ち上げ帯でオニハマダイコンの出現頻度,優占度が高く,オカヒジキ-オニハマダイコン群落が認められた.さらに内陸側の後浜後部から第一砂丘前面にかけてのハマニンニク帯と呼ばれるゾーンの群落内でもオニハマダイコンは生育していた.3. 十勝の大津海岸の調査区には,オニハマダイコンが出現しなかった.これは,オニハマダイコンがすでにこの地域に定着しているものの,他の地域に比べ出現頻度が低いことから,調査測線上に生育していなかったためと考えられた.
著者
指村 奈穂子 大谷 雅人 古本 良 横川 昌史 澤田 佳宏
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-19, 2018 (Released:2018-07-06)
参考文献数
26

1. バシクルモンは新潟県,青森県,北海道の海岸に局所分布する希少な植物である.バシクルモンの生育立地特性を考察することを目的として,新潟県の生育地で,143個の方形区を作成し,植生調査を行った.2. バシクルモンは,表面が硬く間隙のほとんどない岩場や,堆砂により埋没する砂丘不安定帯や,暴浪による基盤流失のような強い攪乱を不定期に受ける後浜には生育していなかった.また,他種との競争が激しい,Multiplied dominance ratio (MDR)(群落高と植被率の積)が高い風衝草原などにも,バシクルモンは生育していなかった.3. バシクルモンは,適度な環境ストレス(例えば,風化の進んだ凝灰岩の崖地の群落)や自然攪乱(例えば,砂丘や礫質海岸の安定帯の群落)および人為攪乱(例えば,海浜後背の斜面などの風衝草原)のもとに成立する群落に高頻度で出現した.これらの群落では他種は大きく繁茂できず,MDRが高くならない立地であるが,バシクルモンは長い地下茎で進入し,高い被度で生育できるようである.4. 本研究により,バシクルモンは,地下茎を伸ばせるような基質であり,かつ適度なストレスや攪乱でMDRが抑えられた場所に生育することが明らかになった.