著者
諸熊 一則 友清 和彦 高橋 元秀
出版者
熊本保健科学大学
雑誌
熊本保健科学大学研究誌 = Journal of Kumamoto Health Science University (ISSN:24335002)
巻号頁・発行日
no.19, pp.1-17, 2022-03

国内外に生息する毒蛇による咬傷患者は重篤な報告例が多く,毒蛇咬傷は感染症対策と同様に公衆衛生上の重要な課題である。蛇毒の成分には多種類の酵素,インヒビター等のタンパク質・ペプチド成分が含まれており,異なる作用物質の混在は,咬傷後は複雑な病態として現れることになる。このことが適切で有効な治療法の開発の妨げとなっており,毒蛇咬傷に対する新規治療用医薬品の開発が急がれる所以である。近年,急速に発展しているタンパク質工学的,分子生物学的分析手法は,蛇毒成分の構造分析,作用解析において多くの成果をもたらしている。本項では,蛇毒成分解析の現状を先行論文のプロテオーム解析結果や毒素成分の構造を整理し,特に血液凝固系に関連した毒成分については解析を追加した。また,ハブ,マムシ及びヤマカガシの国内咬傷被害の実情と咬傷患者への一般的な治療法であるウマ抗毒素製剤の導入や歴史的背景を含めて概説する。さらに抗毒素製剤の品質管理と今後の課題に関して概説する。
著者
岩村 健司 井﨑 基博 永友 真紀 畑添 涼 小薗 真知子
出版者
熊本保健科学大学
雑誌
熊本保健科学大学研究誌 = Journal of Kumamoto Health Science University (ISSN:24335002)
巻号頁・発行日
no.19, pp.129-137, 2022-03

2011年より本学に言語聴覚学専攻が新設された。本専攻では3年次に臨床実習が行われる。しかし,そもそも全国的にも小児を対象として言語聴覚療法を実施できる施設が少ないこともあり,それらを志望する学生について実践的教育の機会が少ない現状があった。そこで2017年度に本学において,「地域の言語発達障害児支援と大学生の学びの場充実化プロジェクト」を実施し,本学言語聴覚学専攻において,子どもの言語障害の支援を行うための体制を整えた。2018年度には「言語発達臨床教育研究室」として大学運営協議会によって認可され,これまで地域支援と学生教育を続けてきた。 2020年度からは,世界中に蔓延した新型感染症の影響により,これまで行ってきた活動を転換せざるを得なかったが,今後も,教育及び地域貢献の一環として継続していく。
著者
行平 崇 田中 哲子 土井 篤 小牧 龍二 福永 貴之 申 敏哲
出版者
熊本保健科学大学
雑誌
熊本保健科学大学研究誌 = Journal of Kumamoto Health Science University (ISSN:24335002)
巻号頁・発行日
no.16, pp.39-47, 2019-03

一般の食酢に比べタンパク質を構成するアミノ酸の他にクエン酸やコハク酸,有機酸やビタミン,ミネラル,メラノイジン等が多く含まれている黒酢の様々な効果が報告されている中で,学習及び記憶力に及ぼす影響に対しては,未だ明らかになっていない。そこで本実験では,黒酢とDHA の摂取がラット学習・記憶力に及ぼす影響について行動学的及び免疫組織学的手法を用いて検討した。その結果,8方向放射状迷路試験において,黒酢,DHA の単独投与では所要時間の有意な短縮は認められなかったものの,黒酢とDHA の同時投与群では有意な短縮が認められた。Working memory error(WME)では,DHA 単独投与群と黒酢とDHA 同時投与群で有意なWME の減少が認められた。Step-down 試験においても,黒酢とDHA 同時投与群で有意な潜伏期の増加が認められた。また,神経細胞の活性と細胞の増殖を確認するために行ったc-Fos とBrdU の免疫染色でも,黒酢とDHA の同時投与群では陽性細胞の有意な増加が認められた。本研究の結果,黒酢の継続的な摂取はDHA と同様に記憶力の中心である海馬を刺激し,細胞新生を促進する事で記憶力の増強に影響を与える可能性が示唆された。また,黒酢又はDHA の単独摂取と比較して,双方を同時に摂取することで相乗効果を得ることができた。今後更なる濃度と実験期間の検討により,黒酢とDHA の効果を明確にすることで,認知症の改善や脳発達障害の改善に応用でき,患者のQOL の向上に繋がっていく可能性が考えられる。
著者
松田 純一 上仲 一義 野崎 周英
出版者
熊本保健科学大学
雑誌
熊本保健科学大学研究誌 = Journal of Kumamoto Health Science University (ISSN:24335002)
巻号頁・発行日
no.15, pp.19-26, 2018-03

アルツハイマー病克服のアプローチの一つとして,アミロイドβをターゲットとしたワクチン開発が進められている。過去,全長のアミロイドβペプチドにサポニンをアジュバントとして加えたワクチンの臨床試験が行われたが,細胞性免疫によると考えられる髄膜脳炎が出現し,中止となった。その原因は全長のアミロイドβペプチド内のT細胞エピトープ,アジュバントにあったと考えられている。従って有効で安全なアミロイドβペプチドアジュバントの組み合わせの開発が望まれている。これまでに我々は細胞性免疫を誘導する可能性がある配列を除いた改変アミロイドβペプチドにシステインを付加することで高い抗体産生能を示すことを見出し報告した。今回,脂質異常治療薬のシステイン付加アミロイドβペプチドワクチンに対するアジュバント効果を検討した。脂質異常治療薬はスタチン類,小腸コレステロールトランスポーター阻害剤,フィブラート類およびビグアナイド系薬剤を用いた。その結果,いずれにおいてもシステイン付加アミロイドβペプチドワクチンに対するアジュバント効果が認められ,特にロバスタチン,イコサベント酸エチル,ベザフィブラートはAlum アジュバントと比較しても高いアジュバント効果を示した。以上の結果から,脂質異常治療薬は高い抗体産生誘導能を示すことが判った。アルツハイマー病ワクチン開発において脂質異常治療薬は有望なアジュバント候補の一つになり得ると考えられる。
著者
角 マリ子 多久島 寛孝
出版者
熊本保健科学大学
雑誌
熊本保健科学大学研究誌 = Journal of Kumamoto Health Science University (ISSN:24335002)
巻号頁・発行日
no.15, pp.109-120, 2018-03

本研究は,認知症カフェおよびサロンについて報告されている13件の文献を概観し,研究の動向,取り組みの実態と効果を整理して,今後の研究の方向性,認知症者およびその家族への支援についての示唆を得ることを目的とした。 その結果,以下の結論を得た。1.認知症カフェおよび認知症者に関連するサロンの開設の要素を明らかにすると,認知症者やその家族にどのような影響を及ぼすのか検証することができる。2.認知症カフェの効果については,家族の心情の吐露や家族の人生の回顧等,サロンの効果については,参加者の楽しみの増加や参加者の対人交流の増加等を参加者への効果から明らかにすれば,認知症カフェおよび認知症者に関連するサロンに繋がる継続要因を明らかにすることができ,認知症者とその家族が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けていくための支援の方策に繋げることができる。