著者
岡本 雅享
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.11-31, 2009-01-08

筆者は拙稿「日本における民族の創造」(大阪経済法科大学『アジア太平洋レビュー』第5号、2008年9月)で、1880年代末の日本で「民族」という言葉・概念が生じてから、どのよう に民族が創造されてきたかを、大和民族(1888年初出)と出雲民族(1896年初出)を対比しながら検証した。本稿では民族の三要素(歴史・文化、言語、宗教)の中で、日本の中ではより単一だと思われがちな言語に焦点をあてて、単一・同質だといわれるものの内部から、その幻想を解体してみたいと思う。
著者
森 久美子 福田 恭介 松尾 太加志 志堂寺 和則 早見 武人
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.33-44, 2015-02

Pupil dilation is mediated by the inhibition of the parasympathetic Edinger-Westphal oculomotor and the facilitation of sympathetic ophthalmic nerve activity. That emotional and sensory events provoke pupillary dilation is well documented. We examined the relationship between pupillary response and depression-anxiety among university students through affective word presentation. Twenty-five students were classified into high (12students) or low (13 students) groups via all of the following-BDI (Beck Depression Inventory), depressive scheme, and STAI (State-Trait Anxiety Inventory). The students individually and voluntarily participated in an experiment whereby their right eye was recorded while affective words (positive, neutral, and negative) consisting of two Chinese-characters were presented successively on a computer monitor. Participants were instructed to determine whether they personally considered each words to be pleasant or unpleasant while pressing a key to the next affective word. Reaction time and pupil dilation were measured. Reaction time was found to be significantly longer in cases of neutral words than in cases of either positive or negative words.Pupil dilation appeared approximately one second after negative word onset, and approximately one second before neutral word onset. No significant difference in pupillary response and reaction time was observed between high-depressive or anxiety-affected groups. These results suggest that pupils may dilate due to the sympathetic activation associated with negative affection, and also by the information processing load associated with the determination of neutral words.
著者
山﨑 めぐみ 住友 雄資
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.55-69, 2018-02

本総説論文は、長期入院の精神障害者に対する退院支援に関する文献レビューを通して、精神科病院の精神保健福祉士が行う退院支援に関する研究課題を提示することである。文献レビューの結果、精神科病院の精神保健福祉士が行う退院支援研究は少なく、しかも精神障害者との関係づくりや退院の意欲喚起に限定されていることが明らかになった。このことから長期入院者の退院を阻む各要因を精神保健福祉士がどのように把握し、その総合的な把握から要因を取り除いていく研究、退院支援の内容やプロセス等を丹念に質的に探究しそれを記述していくという質的研究、長期入院患者と家族の関係を再構築するための具体的な方法を明らかにする家族に関する研究、具体的な社会資源の活用・開発を推進していく研究、精神保健福祉士が地域住民等にどのような実践を積み重ねていけばよいのかという研究、という5点の研究課題を提示した。
著者
池本 賢一 村山 浩一郎
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.45-58, 2019-02-28

今日のわが国における社会福祉制度の動向を鑑みると、各福祉分野で地域支援が重要視されていると考えられる。しかしながら、これまで地域支援の方法論とされてきたコミュニティワークは、概念や展開プロセス、用いる技術等が必ずしも明確化されていないという課題がある。 本稿は、これまでのコミュニティワークに関する研究から、特に定義及び範囲に着目して整理を行い、それらを踏まえた上で、理論の再構築に向けた試論を提示するものである。先行研究の検討から、「ニーズ・資源調整」、「インター・グループ・ワーク」、「統合」、「組織化」、「計画・政策」、「ソーシャル・アクション」、「アドミニストレーション」、「個別課題を踏まえた地域支援」、「主体形成とプログラム開発とその循環」がコミュニティワーク理論のキー概念として明らかになり、これらを基にコミュニティワークの体系図の提示を行った。
著者
郝 暁卿
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.1-19, 2014-01-08

本稿は世界記憶遺産の保存・活用に関する総合的研究という奨励交付金の報告の一部として作成したものである。いわゆる記憶遺産とは過去のものでありながら、現在の人々に常に深遠な意義を示し、影響し続ける存在でないといけないものである。その意味で他の記憶遺産と同じように『黄帝内経』もそのような存在である。本稿は中国に複数ある「世界記憶遺産」の中で『黄帝内経』に考察の焦点を当てて、その現代的な意義を考えた。また、それと同時にその背景にある中国文化の要素も改めて吟味しようとした。結論の一つとして、『黄帝内経』は中医学の基礎理論を確立しただけではなく、その魅力と価値はまた病気治療と養生保健の実用性及び中国伝統文化の特殊な思惟方式にあるということである。
著者
阪井 俊文 中村 晋介
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.21-31, 2018-09-30

本研究の目的は、青年期女性の恋愛観を測定するための尺度を作成することである。これまでにも、同様の試みは数多く行われているが、先行研究の問題点を指摘した上で、それを改善することで現代の青年期女性に適合する尺度項目を選定し、大学生と専門学校生を対象にして質問紙調査を実施し、1341名の回答を得た。因子分析の結果、「恋愛向上志向」「恋愛苦悩志向」「恋愛没入志向」「恋愛享楽志向」「恋愛実利志向」「友愛志向」の6因子が抽出され、統計的にその妥当性も確認された。また、いくつかの因子は専門学校生と大学生で結果が異なっており、これらの恋愛観の個人差に、階層などの社会的要因も影響していることが示唆された。今後は、この尺度を活用することで、心理的要因と社会的要因の双方について、個人の恋愛観に及ぼしている影響が解明されることが期待される。
著者
細井 勇
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.1-20, 2017-02

日本の戦後社会福祉理論は、社会福祉を社会政策との関係から説明する「補充論」に特徴があった。この場合の社会政策とは大河内一男のマルクス主義的な社会政策論であり、労働力の保全策、言い換えれば労働力の「商品化」政策であり、経済政策と同定される社会政策であった。それは正義や自由の問題を形而上学=非科学として排除するものであった。しかし、今日の社会福祉のテキストでは、「補充論」と併記して、エスピン・アンデルセンの福祉レジームとその指標としての「脱商品化」や、ロールズやセンによる自由の正義論が紹介されている。そこで本論文は、「商品化」論と「脱商品化」論の関係は如何に把握されるべきかを以下のように論じた。すなわち、正義と自由の概念との関係で社会福祉が論じられる背景を正義論の歴史的系譜として説明し(1章)、戦後日本の社会福祉理論形成において正義と自由が何故排除されたかを歴史的文脈から説明し(2章)、戦後日本の社会福祉展開において「脱商品化」論は如何に受容されてきたか、またされるべきかを論じた(3章)。
著者
河野 高志
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-17, 2013-07-31

日本のケアマネジメントは従来、制度・政策に組み込まれ、法律の施行と改正によって発展し、また展開されてきた。しかし一方では、利用者の生活を支援するうえで十分なケアマネジメント実践が行われていないという問題が指摘されてきた。その背景にはケアマネジメントとソーシャルワークの乖離という状況がある。この状況は、利用者の生活に寄りそったケアマネジメントの実践方法の未発展や、そこにかかわるソーシャルワーカーの不足という事態を引き起こしてきたのである。 そこで本稿では、こうした問題を解決する糸口を見出すため、ソーシャルワークとケアマネジメントの先進国であるアメリカとイギリスとの比較から、日本のケアマネジメントの問題を明らかにし、それをソーシャルワークとの関係から考察した。そして、その考察をふまえてソーシャルワーカーを活用したケアマネジメント展開の試案を提示し、実現への課題を整理した。
著者
神谷 英二
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.113-125, 2021-10-01

1920-30年代の日本における都市モダニズムの文学者が、ベンヤミンの言う「遊歩者」であり得るという仮説が本研究の出発点である。この時期、モダニズムの芸術運動は世界同時的に進むとともに、芸術間の交流が著しくなり、特に文学と映画、文学と絵画、文学と音楽の交通と越境に興味深い現象が発生している。また、都市モダニズムは芸術に限らず、都市文化全般に広がり、その起点に、詩雑誌・文芸雑誌があったことが重要である。ベンヤミンによれば、街路名により都市は言葉の宇宙となり、解読可能なテクストとして、遊歩者である芸術家・詩人に示される。だが、日本の都市では、それは19世紀パリのような解読を待つ織物としてのテクストではなく、スクリーンとしての頭脳に映る猛スピードで飛び去る形象であり、断片化による描写が不可欠と言える。研究の第1部である本稿では、都市モダニズム文化を詩に昇華させる方法として、映画的芸術としてのシネ・ポエムに焦点を当て、竹中郁の「ラグビイ」を代表作とする『詩と詩論』同人や関係の深い詩人のシネ・ポエム作品と詩論を扱う。
著者
岡本 雅享
出版者
福岡県立大学
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.73-99, 2012-01-08

筆者は拙稿「アテルイ復権運動の軌跡とエミシ意識の覚醒」(『アジア太平洋レビュー』 第8号)で、1980年代後半から2000年代にかけて東北で生じたアテルイ復権運動を検証したが、 本稿では、ほぼ同じ時期(1990年代前半)、南九州(熊本県球磨郡免田町)で起きたクマソ復権運動の軌跡を辿り、それが意味したものを検証し、南九州人のアイデンティティについて考察する。
著者
寺島 正博
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.1-16, 2015-02

本研究は全国の障害福祉サービス事業所で働く従事者を対象としたアンケートによる意識調査を行い、観察従事者が加害従事者による無意識の不適切行為を判断する傾向について個人属性と労働環境から明らかとし、間接手法を用いて無意識の不適切行為の防止を図ることを目的とした。回答は7,813名であり回収率は30.7%であった。結果については、①知的障害者の女性観察従事者はさまざまな状況下における無意識の不適切行為の判断が必要であること、②知的障害者の施設入所支援観察従事者は無意識の不適切行為を見極める能力が必要であること、③知的障害者の観察従事者は福祉系学校の卒業と福祉系国家資格の取得が必要であること、④知的障害者の観察従事者は従事者間の確認体制が必要であることを明らかとした。そして、無意識の不適切行為とは加害従事者だけではなく、観察従事者についても起こり得るため、本研究結果はすべての従事者に活かされることになる。
著者
細井 勇
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.1-20, 2017-02-28

日本の戦後社会福祉理論は、社会福祉を社会政策との関係から説明する「補充論」に特徴があった。この場合の社会政策とは大河内一男のマルクス主義的な社会政策論であり、労働力の保全策、言い換えれば労働力の「商品化」政策であり、経済政策と同定される社会政策であった。それは正義や自由の問題を形而上学=非科学として排除するものであった。しかし、今日の社会福祉のテキストでは、「補充論」と併記して、エスピン・アンデルセンの福祉レジームとその指標としての「脱商品化」や、ロールズやセンによる自由の正義論が紹介されている。そこで本論文は、「商品化」論と「脱商品化」論の関係は如何に把握されるべきかを以下のように論じた。すなわち、正義と自由の概念との関係で社会福祉が論じられる背景を正義論の歴史的系譜として説明し(1章)、戦後日本の社会福祉理論形成において正義と自由が何故排除されたかを歴史的文脈から説明し(2章)、戦後日本の社会福祉展開において「脱商品化」論は如何に受容されてきたか、またされるべきかを論じた(3章)。
著者
石崎 龍二
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.21-40, 2017-02-28

統計教育科目における学生の学習到達度を、記述統計・推測統計の知識、データ分析スキルに関する学生の自己評価、グループワーク報告書の課題別評価、毎回の授業評価等の観点から考察した。 自己評価の高群と低群についての比較検定から、記述統計・推測統計の知識の理解度について、記述統計に関する5項目、推測統計に関する7項目に有意水準1%で有意差が認められた。また、記述統計・推測統計のデータ分析スキルの習得度については、記述統計に関する2項目、推測統計に関する11項目に有意水準1%で有意差が認められた。さらに、記述統計・推測統計の知識の理解度、データ分析スキルの習得度について、自己評価(高群・低群)を外的基準、有意水準1%で有意差が認められた項目を説明アイテムとする数量化理論第Ⅱ類の分析を行った。記述統計・推測統計の活用力については、グループワーク報告書の課題別評価から学習到達度を考察した。