著者
鵜飼 熊太郎 鈴木 洋一郎 仁木 和昭 高野 元信
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

素粒子・原子核実験では、大量のデータ(〜1TB)を処理する必要がある。通常汎用大型計算機のテープ装置は、オープン・リール型又はカセット型である。これらのテープ媒体で1TBのデータは、5千本以上のテープとなり、その保管場所及びテープの取り扱いが問題となる。またワークステーションの標準的テープ媒体である、Exabyteテープは1本で2.5〜5GBの容量があるが、データ転送速度は500KB/秒と遅く大量データの扱いには問題が多い。このためExbyteテープと同じヘリカル・スキャン方式の、VHSテープを使用した汎用計算機用のテープシステムを構築した。VHSテープは、1本で14.5GBの容量を持ち、公称データ転送速度は2MB/秒で、外部機器との接続はSCSI(Small Computer System Interface)規格である。東京大学原子核研究所の汎用大型計算機(FACOM M-780/10s)にVHSテープ装置を接続してマス・ストレージ・システムとすることを行った。汎用計算機のBMC(Block Multiplexer Channel)とVHSテープ装置のSCSIを接続するために、汎用計算機用インタフェースをティアック社で制作した。次いで各種のテストを実施した。FORTRANプログラムによる、VHSテープのwrite処理は1.7MB/秒、read処理は1.1MB/秒で、オープン・リール型テープよりも高性能である。VHSテープ用に変更したARCSプログラム(ディスク装置上のデータを退避・復元・複写・移行を高速に行うプログラム)による原子核研究所計算機システムのバックアップ(容量8.3GB)作業は、完全に無人状態で1台のVHS装置で約80分で終了した。通常この作業は4台のカセット型テープ装置と30本のテープを使用して、必要なテープを装着・脱着することにより30分程度の時間がかかる。このようにVHSテープ装置が、汎用機用の大容量テープ、マス・ストレージ・システムとして非常に有効であること実証した。
著者
馬場 一憲 丸茂 元三 町田 芳哉 海野 信也 岡井 崇 香川 秀之 坂井 昌人 上妻 志郎
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

早産未熟児、特に妊娠24週未満で流産または早産した新生時は、皮膚が弱く肺も未熟なため、従来から使われている保育器と人工呼吸器を用いた方法では、必ずしもインタクト・サバイバルが望めない。そこで、子宮内のような生理的状況下で保育可能な人工子宮の開発を行なっている。本研究では、人工子宮の体外循環回路の改良と以下に述べるような一連の関連実験を行ない、それぞれ示すような成果が得られた。帝王切開により取り出したヤギ胎仔を、人工羊水で満たした水槽内に移し、臍帯動脈から脱血して模型人工肺を用いた装置で酸素化して臍帯静脈に還流するシステムの改良を行ない、良好な結果が得られた。模擬実験にて還流システムの特性試験を行ない、体外循環血流量の変化に対し、回路内の血液量が胎仔循環血液量の10〜20%に相当する量ほど変化することが分かった。しかし、実際の保育実験の結果から判断して、この程度の変動に対しては胎仔は順応可能であることが示唆された。人工子宮の体外循環に相当する胎盤循環の障害が胎仔の脳に与える影響を調べるため、マイクロスフェアを用いた胎仔各部の血流計測および過酸化脂質の測定を行なった。その結果、臍帯の間欠的圧迫により、脳血流が一時的に増加し、その後減少に転じること、およびフリーラジカルによる障害を意味する過酸化脂質の増加が特に脳に顕著であることが確認され、今後の人工子宮開発に役立つ重要な所見が得られた。さらに、人工子宮の適応の対象となりうる横隔膜ヘルニアの動物実験モデルを作成することを目的に、ヤギ胎仔の胎児手術を行なった。横隔膜に切開を加えた胎仔を再び子宮内で育てることで、実際の横隔膜ヘルニア症例と同じように、腸の胸腔内脱出と肺の低形成を作ることに成功した。将来、この実験モデルを用いることにより、横隔膜ヘルニアの外科的修復と人工子宮での保育を組合せた新しい治療法の開発が期待できる。
著者
伊藤 敞敏 金 武祚 菅原 弘 戸羽 隆宏
出版者
東北大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1991

シアル酸は生化学試薬として、また医薬品製造のための出発原料として、近年需要が急増しているが、その製造のための原料は、ツバメの巣などのごく限られたものとなっており、安価で大量の製造が困難な状況にあった。卵処理工場において卵成分の濾過の際に得られるカラザや卵黄膜の中には、多くのシアル酸が含まれていることに気付いたので、これを原料として工業的規模でシアル酸を製造することを試みた。これらの成分中には、シアル酸として代表的なN-アセチルノイラミン酸が高濃度で含まれているので、これを取り出すことを実験室的規模で検討した。原料を硫酸酸性下で加熱してシアル酸を遊離させ、陰イオン交換樹脂に吸着させたのち、ギ酸で溶出させ、減圧乾固、活性炭処理を行なった結果、湿カラザ試料100gより約50mg,湿卵黄膜試料100gより約175mgのシアル酸を得ることができた。これらの検討をもとに、つぎに大規模工業的製造のための製造テストを行なった。原料としては、カラザおよび卵黄膜部の混合試料800Kgを使用して、実験室的検討で得られた工程に従って処理を行なうことにより精製N-アセチルノイラミン酸を約300g得ることができた。現在試薬として市販されているN-アセチルノイラミン酸の価格は、1g約3万円と非常に高価であるが、卵は世界的に広く分布した食品であり、しかも卵の加工工場で得られるカラザや卵黄膜部は、従来は利用されず廃棄されていた部分である。従って原料は非常に安価であり、シアル酸の含量はかなり高く、かつ分離のための処理工程も比較的簡単であることから、本法によって今後はシアル酸の大量かつ安価な製造が可能となり、シアル酸を用いての研究や医薬品製造が容易になるものと期待される。
著者
須見 洋行 赤木 玲子 H P Klocking 中島 伸佳 浜田 博喜 KLOCKING H P KLOKING H.P.
出版者
岡山県立短期大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

日本の伝統食品納豆より分離された新規の線溶酵素ナットウキナーゼは分子量約2万,等電点8.6で,血栓(フィブリン)に対する強力な分解活性の他,プラスミン基質であるH-D-Val-Leu-Lys-pNAへの反応性を示した。しかし,プラスミンのタイトレーターp-nitrophenyl-guanidinobenzoate(NPGB)には働かず,N-trans-cinnamoylimidazoleによるタイトレーションで53.0%activeであった。NKをLys-peptidase処理して得られた9個のペプチドを分析し、NKはN末端にAlaを持ち,S-S結合のない27個のアミノ酸からなるセリン酵素であること,従ってこれまでのいかなる線溶酵素とも異なり,分子内に“kringle"を持たない一本鎖ポリペプチド構造であることを明らかにした。納豆から得たPoly-Gluを含むNK-rich蛋白をウイスター系ラットに3ケ月間わたり経口投与した(4.8万単位/kg)。その結果,血漿ELTの著しい短縮(p<0.01),pyro-Glu-Gly-Arg-pNA及びH-D-Val-Leu-Lys-pNAでみた血漿アミダーゼ活性の増加(p<0.01)に加えて腎及び肺の組織プラスミノーゲンアクチベーター活性(t-PA)の亢進(p<0.1)を確認したが,血液凝固系であるAPTT及びRe-Ca^<++>Tの変化はなかった。また,純化したNKの腸溶カプセルをボランティアーヘ投与をした結果,血漿EFAの増加と共に血中での血栓溶解を示すFDP抗原量の著しい増加(p<0.001),さらにはendogenous酵素の産生を示すt-PA抗原量の増加(p<0.005)を確認した。今後さらに例数を増やし検討する必要があるが,以上の結果よりNK(あるいはNK-rich納豆)は血栓症の治療剤として,あるいは予防目的の機能性食品素材としてその応用開発が大いに期待できる。
著者
渡辺 建彦 目黒 謙一 谷内 一彦 一ノ瀬 正和 小野寺 憲治 前山 一隆
出版者
東北大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

ヒスタミンH3受容体は、中枢ヒスタミン神経系のシナプス前部に存在するオートレセプターで、ヒスタミンの遊離、合成を調節している。最近、末梢にも、また、他の神経系にも存在するといわれている。本研究では、ヒスタミンと関連する病態として喘息と痴呆をとりあげ、H3リガンドのこれらの疾患モデル動物での効果を検討した。まづ、老化促進モデルマウスを用いて、シャトルボックス法で学習・記憶能を評価した。異常老化系(P/8)は、正常老化系(R/1)に比して、学習獲得が遅かったが、H3アンタゴニスト、チオペラミドの投与で、R/1マウスと同じレベルまで改善した。しかし、R/1マウスの学習能が更によくなることはなかった。スコポラミン投与によりアセチルコリン系を障害した痴呆モデル・マウスにおいても、elevated plus maze testで評価したところ、チオペラミド投与が改善を示した。種々の喘息モデルに対するH3作動薬(R)-α-メチルヒスタミン、イミテットの効果を検討したが、明確な効果は得られなかった。より適したモデル系の確立が必要である。新規H3アンタゴニスト、AQ0145(ミドリ十字社)は、マウスの電撃痙攣に対する抑制作用においてチオペラミドとほぼ同程度であった。6-ヒドロキシドパミンをラットの片側線条体に注入する除神経において、障害側の線条体と黒質ではヒスタミンH3受容体の密度は上昇した。この上昇は、ドパミンD1アゴニスト、SKF38393処置で対側レベルまで低下したが、D2アゴニスト、キンピロールは影響しなかった。即ち、ドパミン神経系の障害に伴う神経可塑性において、D1受容体を介してヒスタミンH3受容体のアップ・レギュレーションが制御されていることが判明した。チオペラミド、(R)αメチルヒスタミンのラットにおける体内動態を検討したが、いずれも脳への移行性がわるいことが判明した。本研究の過程で、H3アンタゴニストに抗痙攣作用が有ることが判明し、今後に期待を抱かせた。結論として、H3アンタゴニストは、てんかん、痴呆の薬物となりうることが示された。そのためには、なお一層の基礎的知見の集積が必要である。
著者
竹内 敬人 伊藤 眞人 小川 桂一郎 吉村 伸
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

3年前このプロジェクトを開始したとき、我々はそもそも「課題研究」が実際にどう運用されるか、クラスでの授業の一部として行われるのか、あるいは夏休み等の宿題・自由活動となるのか、あるいは実質的には無視されるのか、といったことすら分からない状態だった。又、課題研究が取り上げられるにしても、化学史がとの程度対象となるかも見当がつかなかった。そこで、課題研究のテーマとして、「化学の歴史的実験例の研究」が取り上げられたものとして、研究を構成した。そのような前提にたっても、なお、多くの問題点、疑問が残り、我々が最初に討議したのは以下の様な問題点であった。(1)高校生が使える「データベース(DB)」とは何か。そういったものがあるのか。(2)どういう資料をDB化すべきか。(3)DB作成の物理的作業はどのくらい大変なのか。(4)実際に学校で使って貰えるのか。(5)著作権の問題はどうクリアできるか。これらについて、先例となるものは無く、すべて自力で解決していかなければならなかった。研究を計画した当時のコンピュータ事情から言えば、そして、現在においても高校でのコンピュータ事情は、三年前と大差ないことから言えば、FD(1MB)ベースによるDB製作の計画は技術的には極めて現実的なものであり、手堅い企画だったといえる。だが、世の中一般について言えば、コンピュータ事情はかなり変わってきている。さらにいわゆる「マルチメディア」化が急速に進行している。「マルチメディア」化の正体は幾分曖昧だが、ともかく、コンピュータに音声・画像、特に動画像を組合わせたもの進歩は著しい。この様な状況を考えると、我々が構築したDBは、内容の問題ではなく、入れ物の問題のために古くさいものになってしまうだろう。だから、本研究の延長、第二弾として、蓄積したデータの「マルチメディア化」を計画しなければなるまい。さしあたって書き込み可能なCD-ROMをメディアとしたDB構築を検討すべきであろう。その際、本研究で可読化した資料が元になるのは当然である。それに新たに動画像、音声などを加えたマルティメヂア型DBが構築できれば、生徒たちにとっても新しい装いをもった課題研究や化学史に接する機会を得ることになる。その結果これらに対する関心が高まり、ひいては自然科学一般への関心が高まると期待される。
著者
小佐古 敏荘 志田 孝二 杉浦 紳之 岩井 敏 東郷 正美
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

(1)自然界にはバックグラウンド放射線が存在し、キャリブレーションファントムの測定においてはバックグラウンド放射線の安定化を図ることが、精度の良いホールボディカウンタ測定のためには極めて重要である。このため、自然放射線のうち変動幅が大きいと考えられるラドン(気中放射能)をとりあげ、ラドン濃度の変化がホールボディカウンタ測定値に及ぼす影響、気象条件や測定室・鉄室の換気条件とラドン濃度の関係を検討した。この結果、大地からの影響を受けにくい建屋屋上に呼気口を設け、高性能Hepaフィルターを通す形で十分換気を行うことにより、安定したバックグラウンド測定条件を得ることができることが判明した。(2)体内被曝線量評価システムは、昨年度、開発したデータ処理プログラムのアウトプットとして得られる核種、体内負荷量の情報に加え、体内動態モデルとして国際放射線防護委員会(ICRP)が刊行物No.30で提示したモデルを採用し、そこから得られる初期負荷量、線量換算係数を組み合わせて構築した。(3)本計測システムの実用条件への適用性の評価のため、点線源、人体模擬ファントム(K-40,Cs-137)および人体についてそれぞれ測定し、放射性物質の位置・分布状態の違いによる16本の光電子増倍管を通して得られるエネルギースペクトルへの影響について検討を行った。その結果、点線源の測定結果から得られたスペクトル形状の変化、人体模擬ファントムと人体の測定結果の比較から、広く低濃度で分布する人体内の放射性物質の定量が可能であり、詳細な位置情報もある程度推定できることが明らかとなった。
著者
鈴木 庸夫 梅津 和夫
出版者
山形大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

兎で、右大腿上部を乳児用駆血帯で8時間緊縛した後、解除することによって外傷性ショックのモデルを作成した。緊縛解除後、兎は早いもので半日後、最も遅いものでも3日後に呼吸速迫、乏尿、体温降下などの典型的なショック症状を呈して死亡した。これらの例について、死亡後、各臓器の肉眼的並びに組織学的所見を検索した。肉眼的所見では、緊縛解除後死亡までの時間が長い例では肺水腫や胃粘膜下出血がみられるようになったが、しずれにもショック腎の所見や心内膜下出血は認められなかった。組織学的所見では、肺の骨髄細胞塞栓は死亡まで半日のものから見られ、死亡までの時間の長いもので著明になった。肝細胞壊死は死亡まで1日以上のもの、肺脂肪塞栓および腎臓の糸球体のボ-マン氏嚢の膨化や尿管の拡張は死亡まで30時間以上のもの、心筋の帯状変性は最も遅く緊縛解除後2日以上のもので初めて認められた。以上のことから、外傷性ショックの原因が作用した後、死亡までの時間が組織所見から類型化されることが判明した。これらの結果を外傷性ショック死の剖検例と比較すると、肉眼所見、組織学的所見共ほぼ共通して認められ、また、緊縛解除後の死亡時間によって見られる所見もほぼ共通していた。ただ兎での外傷性ショックモデルでは、ショック腎と心内膜下出血のみられたのがなかったのは緊縛解除後死亡までの時間が12時間以内に死亡するものがなかったためと考えられる。また、肝細胞壊死などの修復過程が見られなかったのは緊縛解除死亡までの時間が最高でも3日にすぎなかったためと思われる。以上のことから、外傷性ショック死の法医病理学的所見は類型化され、これをもとにすれば外傷性ショック死の診断はもとより、外傷から死亡までの時間も推定されると考えられる。
著者
岡井 崇 桑原 慶紀 海野 信也 上妻 志郎 岡井 崇
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1990

人工羊水中胎児保育装置の開発を目的として、装置及び管理方法の改良を行いながらヤギ胎仔を対象とした動物実験を行ってきた。平成2年度において新たに安定したincubationを行う為のsystem構築を行い、平成3年度より、胎仔の各生理的パラメーターの厳密な観測に基づいた胎仔保育実験を続行した。その結果、子宮外保育中の胎仔の状態悪化が、未熟動物を対象とした体外循環による生命維持systemに本質的なものではなく、むしろ、胎仔の活発な生命活動に起因する可能性が高いことが示唆された。これを証明する目的で平成4年度に胎仔の胎動抑制による長期間子宮外保育実験を行い、これまでの記録を大幅に延長する20日間以上の安定した子宮外保育とそれに続く肺呼吸への移行を実現した。これにより、我々の開発してきたsystemが、未熟個体の長期間の維持に適したものであることが示され、今後の臨床応用の可能性が示唆された。
著者
千田 佶 井上 千弘
出版者
東北大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

鉱山排水起源の集積培養菌による硫黄および鉄の酸化実験を行った。硫黄基質では、硫黄酸化細菌と原生動物が共存する硫黄酸化細菌による単体硫黄の酸化挙動と,純粋培養菌による酸化挙動を比較し,両者の挙動について検討するために,若干の酸化条件について実験を行い,また,鉄基質では鉄酸化細菌以外の微生物の存在を検討するために栄養塩無添加における酸化実験および有機物であるSDSを添加した実験を行った。また,高速液体クロマトグラフィーを用いて鉄基質集積培養における培養液中の物質の分析を行った。以上の結果,以下の結論を得た。(1)原生動物が生存する集積培養の場合,硫黄酸化細菌による酸化速度および増殖収率は純粋培養の場合よりも小さくなる。(2)Cu^<2+>を添加した集積培養において,硫黄酸化細菌は阻害作用を受けたにもかかわらず増殖したが,原生動物はCu^<2+>濃度100mgdm^<-3>以上では増殖できなかった。さらに,原生動物はCu^<2+>にたいする耐性を獲得しなかった。(3)鉄基質集積培養菌の栄養塩無添加における酸化挙動は,時間の経過とともに細菌によるFe^<2+>の酸化速度が大きくなり,細菌の増殖がみられた。(4)鉄基質集積培養において,SDSを添加した場合,鉄酸化細菌は1×10^<-5>moldm^<-3>以上の濃度で阻害された。しかし,この濃度で継代培養を行うと,鉄酸化細菌はSDSに対する耐性を獲得する。(5)鉄基質集積培養を行った培養液中からピルビン酸は検出されなかった。しかし,9K培地には含まれていない物質が検出された。栄養塩類無添加における鉄基質集積培養の実験結果と併せて考えると,それが鉄酸化細菌の栄養素となっている可能性がある。
著者
伊福部 達 井野 秀一 泉 隆 川嶋 稔夫 高橋 誠
出版者
北海道大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

電子義手や機能的電気刺激およびテレイグジスタンス型ロボットや人工現実感などの分野では触感覚をどのように人間の皮膚にフィードバックさせたり呈示させるかが大きな課題となっている。本研究では、これらの課題に応えるために、材質感のような触覚の質に関する感覚がどのような物理的要因で規定されるかを心理物理実験を通じて調べ、触感覚をできるだけ忠実に呈示するシステムを提案した。また、水素吸蔵合金を利用したアクチュエータを利用し、触感覚ばかりでなく上腕に力感覚を呈示する装置の開発を行った。これらの呈示システムを感覚フィードバック型ハンドに組み込んで評価を行い、その有効性を確かめた。以下に、得られた結果を要約する。(1)表面粗さ、粘度および熱容量の異なる物体を指先で触れたとき、粒子径が30μmを境に「さらさら」感から「ざらざら」感に移行すること、粘度17dPa・sで「ぬるぬる」感が最大になること、皮膚温度の時間パターンが材質の識別の手がかりとなることが分かり、ペルチエ素子により皮膚温を可変にすることで、ある程度の材質感を呈示することができることを実証した。(2)物体を把持したときの「ずれ弁別閾」は20μm-30μmとなり、ずれ弁別閾には方向依存性があること、皮膚温が32℃のときに弁別閾が最も低くなることが分かった。水素吸蔵合金を利用したアクチュエータを設計し、アクチュエータを上腕に装着して力情報を呈示した結果、仮想物体の重量感を知覚させることができることが分かった。以上から、触感覚に関する多くの形容詞が表面粗さ、粘性及び温度の3つのパラメータで表現できる可能性が示された。今後は、本課題で得られた知見や技術を基に、感覚フィードバック型ハンドのための触感覚呈示システムを構築していきたい。
著者
川添 豊 紺野 邦夫 鈴木 日出夫 高橋 和彦
出版者
名古屋市立大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

「目的」リグニン類のエイズ治療薬としての可能性を確立する事を目的として、quasi-in-vivoとでも言うべきassay法を採用し検討した。即ち、動物モデルの確立していないエイズ薬選別には、一般に、細胞レベルの効力判定にたよっているのが現状である。多くの候補リグニン類の中から、今回は、p-coumaric acidの脱水素重合体(DHP-pCA)を選び検討を行った。「結果と考察」合成リグニンをマウスに静脈内投与し、経時的に血清を採取してその抗HIV活性を測定したところ、投与直後から5時間にわたって、血中に有効な抗HIV活性が持続し、その活性は時間依存的に減衰し24時間後には消失することが明かとなった。これによりリグニンが抗HIV薬として非常に有望であることが示された。また、その活性本体は血清の熱処理によって消失しないことも明かとなった。おそらく、投与されたリグニンは生体成分によって不活性化されることなく10時間程度は有効濃度が維持されるものと考えられる。経口投与では、静脈内投与に比べ有効性は低いが、効果を発現していることも示された。これらの検討の過程で、合成リグニンの静脈内投与後15分から30分の間、血清中に細胞毒性因子が誘導されることが明かとなった。しかし、この因子は抗HIV活性本体とは異なるものである。この毒性は一過性のものであり、治療上支障があるとは考えられない。事実、マウスに対して、100mg/kg以上の連続投与によっても何等の毒性も検出されない。合成リグニンとしてp-クマ-ル酸、フェルラ酸、カフェー酸の重合体を用いて検討を行ったところ、毒性に関しては、フェルラ酸を前駆体をする合成リグニンが最も優れていることが判明した。今後、本格的な毒性試験を行う予定である。
著者
大和 裕幸 渡辺 岩夫 小山 健夫
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

「SES型高速艇(側壁型エアクッション艇)の運動制御システムの研究」は平成6、7年度の二カ年に渡り行われた。このタイプの高速船では、ある海象条件以上では、波浪に対する船体運動応答とそれにより生ずる推進性能の低下が起こり、高速が出し得ないという定時性の重要視される高速交通機関では致命的な問題がある。本研究では、シミュレーションを通して、この船舶の波浪中の推進性能、運動応答を把握し、その特性を理解することから始めた。SES型高速艇の運動は、いわゆる非線形影響の無視できない力学系で、制御系としての取り扱いも難しく、船体に取り付けられたルーバーとフインを用いてバンバン制御やファジ-制御で俊敏な応答が必要であることがわかった。また、波高に対する船体推進性能の特性をシミュレーションに抵抗成分を取り入れることで大雑把に把握したが、このことは制御系設計により船体計画の段階から取り入れる手法を示し、今後の船舶設計のあり方として非常に示唆に富むものと考えられる。非線形影響の大きい系に対して、理論的に制御システムに取り込むことは困難であるため、スライディングモード制御手法を用いて非線形に応じた制御入力を設定出来るシステムの有効性について検討した。スライディングモード制御は基本的に非線形性の比較的弱いところに有効でかなり強い非線形影響をもつSES型高速船の運動には工夫が必要であることがわかったため、それを改良した修正スライディングモード制御手法を提案、本システムでシミュレーションを用いて検討した。これらSES型高速艇の制御手法を運動応答の解析と、非線形制御手法の検討から本研究を取りまとめた。本研究は、今後のSES型高速艇実用化への最も重要な課題を一つとなるもので、研究的にもまた実際の設計上も重要なものであると自負している。
著者
中井 泉 山崎 一雄 望月 明彦 飯田 厚夫 河嶌 拓治
出版者
筑波大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1988

最終年度はこれまで不十分であった状態分析に重点を置いて研究を進め、以下の成果が得られ美術考古学試料の新しい分析法として確立できた。a)古代鉄器の腐食相の状態分析弥生時代のものと推定される腐食した鉄刀について、鉄の2次元状態分析を行った。試料は中心部に反射率の高い金属鉄の地相があり、周辺部は赤褐色のさび相が発達している。またその外縁部には黒色のやや反射率の高い相が帯状に広がっている。それぞれの部分について、鉄の吸収端スペクトルを測定した結果、黒色の酸化相は四三酸化鉄(磁鉄鉱Fe_3O_4)の様な2価と3価の鉄を含むもの、赤褐色の酸化相の部分は酸化第二鉄または針鉄鉱(FeOOH)であることがわかった。さらに選択励起蛍光X線分析により、状態別の2次元イメ-ジを得、鉄器の鉄地相とさび相の分布状態をイメ-ジとしてとらえることができた。このような分析は放射光蛍光X線分析で始めて可能になったものである。b)天目茶碗の油滴の状態分析中国福建省建窯の窯跡からプラマ-教授が1935年に採集した油滴文様のある天目茶碗の破片について研究を行った。本研究は建窯で焼造された曜変天目茶碗の研究の一貫として行ったもので、油滴の実体と成因を明らかにすることを目的とした。油滴の部分は周囲の地の部分に比べて鉄が濃縮しており、鉄のK吸収端スペクトルにより両者の状態を比較した。標準試料との比較により、油滴の部分のスペクトルの吸収端エネルギ-はFe_2O_3に類似し、また地の部分のスペクトルのエネルギ-はFe_3O_4に近く、前者の方が含まれる鉄はより高い酸化的状態にあることがわかった。油滴の成因として焼成時に於ける内部からの気泡の発泡によるという説が有力であるが、今回の結果は内部から酸素などの酸化性のガスが発生し、周囲に比べて鉄が酸化されたと考えると妥当である。
著者
棚沢 一郎 永田 真一 二宮 淳一
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

本研究は、多細胞生体組織を凍結し、液体窒素温度(-196℃)で長期間保存したあと、解凍して蘇生させる技術の確立を目的とするものである。単細胞のように寸法の小さい生体組織の場合には、生体組織を直接に液体窒素中に浸漬することにより、急速凍結が行われ組織がガラス化するため、凍結保存は比較的容易である。実際、赤血球・精子・卵細胞・骨髄などの凍結保存はこのような方法により成功している。しかし、もっと寸法の大きな多細胞組織の場合には、急速凍結は不可能であり、また全体を均一に冷却することも難しい。本研究では、ある程度の大きさを持つ多細胞組織を、緩慢凍結によって保存する技術を確立させるための実験および解析を行った。まず、本研究者らがこれまでに行ってきた微小生物の凍結保存に関する実験の継続として、ミジンコ(淡水棲プランクトンの一種)を行い、冷却凍結速度・加熱解凍速度・凍害防御剤の種類と濃度などの主要パラメータを適切に選定することにより、凍結保存が可能であることを確認した。これに引続いて動物の血管の凍結保存実験を行った。試料としては、主としてラットの大動脈を使用したが、他にイヌの大動脈・ブタの頚動脈も用いた。これらの試料について凍結保存の最適条件を決定した。凍結保存後の生死判定は、まず外観検査、続いて細胞培養を試み、(ラットの場合)最終的には同種ラットへの再移植を行った。現在までに32匹のラットに移植し、内8匹以上が1週間以上生存した。解剖により移植した血管が健全な状態であることを確認した。以上のような実験と並行して、細胞の凍結過程の数値シミュレーションを行い、諸因子の影響について考察した。
著者
棚橋 光彦 大田 親義 則元 京
出版者
岐阜大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

新しい木材の加工法として高圧水蒸気による木材の圧縮成形加工技術の発展に向けて,装置やプレス治具の開発および処理条件の検討を行った。この装置を用いることにより丸太から切削せずに直接角材に圧縮成形することを可能とした。特に軟化条件や変形を固定するための処理条件、減圧及び冷却条件などについて検討した。また処理条件を検討する際,高温高圧水蒸気下で木材を圧縮成形している時点での木材内部の温度及び応力の測定を経時的に行い、プレスによって木材中に発生した応力が水蒸気処理の過程で減少していく状況を追跡し、変形を完全に固定する条件を明らかにした。また種々の形状への圧縮成形加工についても検討し,断面が6角やロッグハウス用に組み合わせられるように凹凸のほぞ加工を施した形状への圧縮加工、立体トラス用の金属との接合部材用に1方向にのみ圧縮し、表面のみを圧密化した角材などの製作を試みた。さらに木材を種々の形状の治具でプレスすることによる木材表面の加飾性などについて検討し実用規模での応用の可能性について検討した。また木材に大変形を与えられる事を応用して、小径木や枝材などの未利用材を丸太のまま数本接着剤を用いて集成する事により大きな板材や大断面集成材の製造を試みた。樹皮を除いた場合はJIS規格を充分満たす接着強度が得られ、スギのような軟質材から硬質広葉樹のように表面硬度の硬い板材の製造が可能となった。しかし、小径木から樹皮を除去するのは手間がかかるため、樹皮付きのままで集成材に成形することを試みた。接着剤としては樹皮への浸透性の高いものが要求されるため、含浸用の接着剤を使用し、処理条件の検討を行った。樹皮付きでも集成材の製造が可能であり、おもしろい断面形状のものが得られたが、樹皮と木材との境界部分の強度が弱く、この点については今後接着剤の種類を変えて適正なものの選抜や、新しい接着剤の開発が必要である。また接着剤を使用しないで、圧縮変形を用いて物理的な接着剤による集成材の製造についても検討した。接着したい木材にドリルで孔をあけておき、細い角材を通して圧縮する事により、物理的に数本の太鼓挽きした小径木を一枚の板に成形した。これによって接着剤を使用しない簡単な集成材の製造が可能となった。このように圧縮成形技術によりこれまで利用法の無かったスギ間伐材を効率よく利用できる方法を開発でき、新しい木材工業が発展できるものと期待している。
著者
冨士 薫 武田 節夫 田中 圭
出版者
京都大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

イチイ科植物から単離されるタキソ-ルは乳癌、卵巣癌等に対して強い抗腫瘍活性を持つことと作用機序の特異性の両面から今日最も注目されている天然由来の抗癌剤の一つで、1990年代の抗癌剤と称されている。本研究では新規タキソ-ル類似構造(タキソイド)を有する抗癌活性物質の開発を目的とし、各種中国産イチイ科植物につき成分研究を行ない、新骨格を持つリ-ド化合物の発見と活性物質への化学変換が可能なタキソイドの検索を行なった。Taxus chinensis, Taxus Yunnansis並びにTaxus chinensis ver. maireiからそれぞれタキソ-ルを含む既知ジテルペン16種と共に、20種以上の新ジテルペン化合物の単離に成功し、そのうち16種の新化合物の立体をも含めた構造解明に成功した。この精密構造解明には、2次元核磁気共鳴法が効果的で特に遠隔^<13>C-^1H COSY法(ROESY)により各種の置換基の結合位置を決定することができた。これらの新ジテルペンは従来型のタキソイド4種、6/8/6のタキソイド転位体といえる5/7/6系新骨格ジテルペン12種であった。後者の型のジテルペノイドの大部分は溶液中で室温下数種の立体配座の混合物として存在し、それらの詳細な溶液中での立体配座を明かにした。尚、その存在比はテルペンのB及びC環上の置換基の有無、種類、位置により種々変化する。新化合物のtubulinに対する活性については残念ながら現在のところタキソ-ルに匹敵する活性は認められていない。抗癌活性物質開発のための化学変換に必要な上記5/7/6型を含む化合物の量的確保と、それらへの抗癌活性に必須とされるC13位側鎖の導入、並びに活性試験を行なう予定である。また、活性配座解析と計算化学データに基づく人工設計タキソ-ル系抗癌剤の開発については現在なお進行中であり、今後継続していく予定である。
著者
佐々 政孝 山下 義行 徳田 雄洋 脇田 建
出版者
東京工業大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、属性文法に基づくコンパイラ生成系をフリーソフトウェアとして公開するものである。1.Rieは,1パス型属性文法に基づく生成系である.これは,GNU Bisonをベースに,C言語で実装してある.Rieについては,平成5年度に1.0.3版と1.0.4版,平成6年度に1.0.5版を公開したが,平成7年度は寄せられたコメントやバグ情報へ対応などを行い,GNU規約に基づいたフリーソフトウェアとして1.0.6版を公開した.これらは,fjのニュースグループおよび世界的なネットワークであるusenetのニュースグループcomp.compilersでアナウンスし,具体的にはfip.is.titech.ac.jp:/pub/Rieよりanonymous ftpで入手できるようにした.これに対し,海外からはGNU規約をゆるめられないか等の問合せがあったり,国内ではfjのニュースグループで取り上げられたりしている。また,Rieを用いたコンパイラ記述に関する解説を図書に掲載した.2.Junは,木の上の属性文法に基づく,コンパイラのバックエンド用の生成系である.これはCommon Lispで実装してある.Junは,属性の依存関係にサイクルがある場合も扱えることが特徴で,これにより最適化器の定式化が可能になった.Junについては,初期版に対し,入力記述の仕様を改訂し,継承属性と合成属性とを対称的に扱うよう生成される属性評価器の形を変更し,全面的な書き直しを行った.これをfj.lang.misc,fj.sources.dなどでアナウンスし,具体的にはftp.is.titech.ac.jp:/pub/Junよりanonymous ftpで入手できるようにした.3.RieとJun双方を用いた実用規模言語に対するコンパイラ作成を行った.具体的には言語Cのサブセットについて,フロントエンドをRieにより,最適化器,レジスタ割付け,コード生成器をJunにより記述することで,コンパイラ作成を行った.
著者
松元 弘巳 薗田 徳幸 岡林 巧 持原 稔 平田 登基男 斉藤 利一郎
出版者
鹿児島工業高等専門学校
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1989

桜島は活発な火山活動を続け、火山灰は周辺地域の生活環境や生産活動に大きな影響を与えている。この火山灰の処理については、各自治体は苦慮しているのが現状である。本研究は、この無用の廃物として処理に因っている火山灰を材料面に有効的に利用することを目的とするものであり、その研究成果の概要は次のとおりである。1、火山灰中の水に可溶性フッ素イオン、塩化物イオンおよび硫酸イオンなどの陰イオンを浮選法により分離除去した。除去率はF^ー:89%,Cl^ー:87%,SO^<2ー>_4:60%を示した。2.コンクリ-ト中の鉄筋の電位差を測定し、腐食状況と電位差との相関を検索した。その結果、腐食の経時変化とともに電位の変動が認められた。3.火山灰は海砂に比べ、比重が大きく、摩耗抵抗性もよい性質を有している。したがって、コンクリ-ト用細骨材として用いた場合、高強度コンクリ-トおよび摩耗特性を求める構造物への利用が十分可能である。4.火山灰の陶磁器素地への利用は、火山灰60〜70%、粘土30〜40%を配合することにより、従来の黒薩摩焼の焼成温度より160℃も低い温度で焼成することができ、省エネルギ-化が画られた。また、陶磁器釉薬への利用は、火山灰325メッシュ通過粒分を単独で用い、良好な釉薬が得られた。5.火山灰80%、粘土20%の配合割合の50mm×50mm×5mmのテストピ-スを作り、焼成温度1160℃で、1〜2時間焼成することにより、陶磁器質タイルを試作することができた。これは日本工業規格の試験法に適合し実用化できることがわかった。
著者
渡邊 継男 柴田 健一郎
出版者
北海道大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

汚染細胞から高率に検出されるマイコプラズマ(Mycoplasma oraleとMycoplasma fermentans)の増殖能に対する界面活性剤、trypsin、MnCl_2、加熱ならびに培養温度の影響を調べた結果を参考にして、人為的にM.oraleで汚染したHeLa細胞からのマイコプラズマの除去を以下の通り試みた。1.Triton X-100処理:汚染細胞5x10^4個を0.01%Triton X-100添加DME medium5mlに浮遊させ、37℃で3、6、9分間強く振盪しながらincubateした。遠心(1,000rpm、5分間)で細胞を沈澱させ、10%FCS添加DME medium(FCS-DME)10mlで3回、毎回遠心管をかえて、洗浄した後に、FCS-DME5mlに浮遊させ、flask(25cm^2)で培養した。confluent layerとなったところで、細胞を収穫し、マイコプラズマ増殖用培地に浮遊させ、培養し、マイコプラズマの検出を試みた。2.trypsin処理:汚染細胞5x10^4個を0.25%trypsin(Gibco)5mlに浮遊させ、37℃で30分間、Triton処理と同様に、incubateし、以下、同様の処理を行った。3.MnCl_2添加培地での培養:0.5、1.0あるいは2.0mM MnCl_2添加FCS-DME5mlに汚染細胞5x10^4個を浮遊させ、flaskで培養し、confluent layerとなったところで、細胞を収穫して、以下、Triton処理の場合と同様の処理を行った。4.50℃での加熱:汚染細胞5x10^4個を5mlのFCS-DMEに浮遊させ、50℃で1、2、3分間加熱して、遠心で細胞を収穫し、以下、Triton処理の場合と同様に処理した。5.40℃での培養:汚染細胞5x10^4個を5mlのFCS-DMEに浮遊させ、40℃で強く振盪しながらincubateし、48、72、そして96時間後に、細胞を集め、以下、Tritonの場合と同様に処理した。その結果、40℃での培養で、比較的高い成功率でマイコプラズマを除去することが出来たので、以下の方法を確立した。1.汚染細胞5x10^4個をFCS-DME5mlに浮遊させ、40℃で強く振盪しながらincubateする。2.24時間後に、細胞を集め、10mlのFCS-DMEで、3回、毎回遠心管を変えて、洗浄する。3.step1と2をさらに3回以上繰り返す。以上の実験と同時に、M.fermentansの諸性状について検索していたところ、このマイコプラズマはprotein tyrosine phosphatase活性を持つことが明らかにされた。