著者
溝畑 剣城 谷川 英二 竹田 秀信 松尾 耐志 奥野 修一 平瀬 健吾 増田 幸隆 福井 学 木村 智
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.65-77, 2006

これは,3歳のMr.Rが両親の離婚で「父親」に見捨てられ,19年後,自ら求めて再会した抑圧的な父親に思いの丈を突きつけた,直面化と長引いたエディプス・コンプレックスの自覚,克服の物語である。5歳以後,母は再婚し「義父」と彼の連れ子の義兄,母が産んだ異父弟との生活で,Rは居場所を失った。7歳時,交通事故はそんな状況で起こった。現場に急行した警官に「理想の父」を見てRは救われた。そして24歳で結婚,26歳の12月長男誕生の予定である。しかし口唇裂の長男を堕胎するか否かでRは苦悩する。「妻の父」への報告も躊躇した。通常業務に,通信大学履修,論文作成,三種の仕事と第一子堕胎の決断を迫る,苦悶の極みに,父親を殺したいと思うまでにRはなった。だが「論文指導教授」が精神分析医Dr.Jで,RはJに精神療法を希求した。僅か9回,4ヶ月の面接での回復は,基本的信頼感がほぼ達成されたことを暗示している。
著者
天羽 薫 田中 静子 堺 俊明
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.85-89, 1999

我々は摂食障害患者の中から,様々な自己破壊的行動をともなう症例をとりあげ,eating disorders with multiple self-destructive behaviors:EDMULとして類別し,1例を報告するが,このようなEDMULでは,摂食障害の他に,アルコール乱用,薬物乱用,自傷,自殺,窃盗癖,性的逸脱行動その他の,身体的生命および社会的生命にたいする破壊的行動が,同時に,あるいは互いに入れ替わって出現し,その家族内にも,アルコール症や問題行動の負因が多く認められた。このような問題行動の基礎として,遺伝的背景に基づく衝動性とそのコントロール障害が考えられた。
著者
天羽 薫 足利 学 山根 知子 垣之内 鈴子 魚橋 武司 堺 俊明
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.43-48, 2004
被引用文献数
1

摂食障害とアスペルガー障害の合併した症例の報告は,僅かしか見られない。今回我々は,重度の摂食障害とアスペルガー障害の合併(comorbidity)した症例を経験した。患者はドイツ留学を契機に摂食障害を発症し,10年余り処々の医療機関や心理カウンセリングを受けていたにもかかわらず,来院時体重は,わずか22.8kgの低体重で,生命の危機的状況にあった。入院時使用していた下剤や,腹部を締め付けていたベルトの使用を禁止し,外泊・退院のための目標体重を設定し,それを努力目標とした。その結果,入院52日目に退院できた。なお,アスペルガー障害については,DSM-IV-TRの診断基準を満たしていた。単純な指示的な入院行動療法が,効を奏したものと考えられた。
著者
佐々木 恵雲
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-16, 2009

『はじめに』「死」は宗教・哲学のみならず, 最近は生物学・医学にとっても非常に重要なテーマとなっている. 「アポトーシス」といった概念抜きには現代生物学を語ることは出来ない程である. また「死」があるからこそ, 芸術・文学・哲学といった人類の文明・文化が生まれてきたといっても差しつかえないと考えられる. 死による愛する人や家族との別れ, そして悲しみや苦しみ, 死が近づくからこそ生まれる周囲の人に対する思いやりや慈しみの心といったように人間独特の多様な心や思いは, 死の存在抜きには考えられないのではないだろうか. 人間に「死」が存在せず, 人間が「不老不死」と想像してみれば, そこには人間しか持ちえない愛や憎しみ, 苦悩や不安といった感情や思いはなく, 切迫感のないダラダラとした生活, 平板で薄っぺらな心や精神しか生まれなかったと考えられる. しかし「死」は現代社会にとって最大のタブーでもある. 現代社会は常に世界が大量生産, 大量消費を繰り返しながら, 進歩・成長していくという思想に支えられている.
著者
橋本 美貴 廣田 彬世 松本 藍 八尾 佳代子 鎌田 由美子 足利 学 中野 博重
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.51-57, 2005
被引用文献数
1

若者へのエイズ予防啓発活動に重要な役割を果たす媒体に着目し,無関心期の若者に受け容れられるパンフレットを作成し,C大学1回生計82名(男性46名,女性36名)を対象として,作成したパンフレットの評価を自記式質問紙を用いて実施した。パンフレットの評価は,(1)大きさ,(2)形,(3)デザイン,(4)字の大きさ,(5)内容の分量,(6)内容の分かりやすさについて行った。結果は,(1)大きさ,(2)形,(3)デザイン,(6)内容の分かりやすさは高い評価を得た。パンフレットを読んで今後,性行為時にコンドームを使用しようと思うと答えたのは,男性95.7%,女性91.7%であった。しかし,保健所の存在,レッドリボンの認識は低く,更なる啓発活動の必要性を強く感じた。
著者
小海 宏之 朝比奈 恭子 岡村 香織 石井 辰二 東 真一郎 吉田 祥 津田 清重
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.59-66, 2000

Folstein, M. F.(1975)らが開発した簡易な認知機能検査であるMini-Mental State Examination(MMSE)は,臨床的有用性が高く,様々な分野の認知機能検査として用いられてきている。しかし,原版及び既に訳出されている日本語版ともに,重症度の判別基準は,まだ示されていない。そこで,今回,われわれは,改変した日本語版MMSE-Aino(MMSE-A)を作成し標準化を行い,さらに,MMSE-Aに重症度判別基準を適用した。その結果,MMSE-Aの平均点±標準偏差は,重度認知障害群で4.6±4.1,中等度認知障害群で11.2±3.8,軽度認知障害群で16.9±3.5,境界域認知障害群で19.1±2.4となった。また,MMSE-Aは,HDS-R(Hasegawa Dementia Scale-Revised)及びNDS(Nishimura Dementia Scale)との併存的妥当性が非常に高いことが確認された。また,MMSE-Aの再検査信頼性もきわめて高く,高い内的整合性と高い信頼性をもっていることが確認された。
著者
河野 益美 黒田 研二
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.79-87, 2001

2000年4月の介護保険導入後,日本の高齢者介護サービスの提供主体が行政から個人の契約へと転換した。本研究はこの保険制度導入後の高齢者施設でのケアの実態を明らかにするものである。この調査により,次のような諸点について改善すべきいくつかの問題点が存在することが分かった。すなわち施設職員の入居者に対する日常の接触,食事・排泄の介助や痴呆のある入居者への援助内容,あるいは入居者や家族の意向を尊重する取り組みについてである。
著者
足利 学
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.27-33, 2001

本研究は健常成人のストレス・マネジメントに関する2つの研究から成り立っている。第1研究では,セルフ・コントロールスケジュール(Rosenbaum)を332名の健常成人に実施し,本検査の因子構造を明らかにした。因子分析の結果,本尺度は3因子20項目,すなわち消極的対処行動,気分転換対処行動,および実践的対処行動の3つの対処行動を抽出した。本検査の標準化に関しては,さらに妥当性の検証などの詳細な検討が必要であると考えられるが,わが国においてストレス対処行動を測定する尺度の一つとして有用であると考えられる。第2研究では,第1研究で得られたストレス対処行動尺度およびエゴグラム(TEG)を299名の健常成人に実施し,ストレス・マネジメントの観点から,対処行動別にストレスヘの対処方法について考察を加えた。
著者
岸田 秀樹
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.89-100, 2008

本稿では, 近世都市大坂の千日墓所の死亡埋葬記録の分析に基づいて, 1)大多数の死体が火葬にされ(平均95%), 2)土葬は自殺死体を含む不審死体(犯罪者の刑執行前の死体, 身元引受人のない死体, それらが疑われる死体)に適用される少数事例であったこと(平均5%), 従って3)都市大坂の墓所の本質的機能が火葬にあり, 専門的に火葬業務に従事する職業が成立していたこと, を明らかにする. さらに死亡埋葬記録に記載された死亡語彙を「死亡の種類」(病死, 自殺, 他殺, 事故死)の定義に基づいて分類し, 自殺を含むすべての死亡の種類を含意する可能性のある行倒死について, 1)享保飢饉を契機に町奉行所への届出が聖六坊の義務となったが, 検使役が出動した期間は14年間(1758-1772)に過ぎなかったこと, 2)行倒死体は墓所の大穴に投げ込むだけの土葬にされたこと, を明らかにする.
著者
竹久 洋子 前田 環 中田 裕二
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.17-22, 2007

一般的な医療現場における有効な手洗い方法を明らかにするために,看護学生を対象とした示指細菌数の測定と手洗い効果判定を行った。手洗いの方法は,通常石鹸,0.1%塩化ベンザルコニウム液,通常石鹸+0.1%塩化ベンザルコニウム液,70%エタノール,ウエルパス,市販薬用石鹸の6通りを比較した。手洗い前後の菌数の比較では,0.1%塩化ベンザルコニウム液,通常石鹸+0.1%塩化ベンザルコニウム液,70%エタノール,ウエルパスについてはそれぞれ手洗いの後に有意に細菌数が減少していたが,通常石鹸・市販薬用石鹸では有意な減少が見られなかった。また,示指に存在する抗生物質(アンピシリン,カナマイシン)耐性菌の構成率を測定し,耐性菌の存在が確認された。以上より,各段階における結果を踏まえた上でより有効な手洗い方法を確立していくことが重要と考える。
著者
野田 亨
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.63-71, 2004
被引用文献数
1

2004年8月22日から27日まで国立京都国際会舘において開催された第16回国際解剖学会(16 th International Congress of the IFAA ; Anatomical Science 2004, From Gene to Body)に参加し,そこでなされた発表を通して,解剖学会の現状,解剖学の特殊性,解剖学教育などについて,自らの感想を交えて報告する。特に日本社会全体の高齢化に伴い急増するコメディカル教育機関において行われている解剖学教育,その中でも人体解剖学実習の意義と実習を実施する際の問題点について考察を加えた。今回の国際学会で表れてきたいくつか問題点の改善はコメディカルの教育機関の社会的な貢献により可能であるかもしれない。
著者
島崎 義孝
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.93-105, 2007

現代のわが国では,若い世代になるほど生と死との明確な見境が失われつつあるように見受けられる。自分たちの日常生活の周辺で,死に直接かかわる機会が減少しているからであろう。たしかに現代は若い世代の人たちも含めて,以前であれば誰しもが嫌でも経験せざるを得なかった生死の現実をいよいよ見ない社会に生きている。欧米社会はキリスト教の強い影響下で,伝統的に生死を明確に分けて捉える伝統の中に身をおいてきた。しかし,わが国では通俗的な生死の観念が色濃く作用し,仏教移入後も,むしろ仏教の教説をたくみに換骨奪胎させながら独自の,連続性をもった生死観を形成してきた。ありていにいえば死の世界の仮説や物語は実証方法がないため,あらゆる憶測や伝承,仮説が生き続け,それが巧妙かつ乱麻のごとく長年にわたって人々の観念の中に定着してしまっている。それが現代に至って,以前からある生死観を引きずりつつ,同時に現実の死の実感を希釈させてしまい,それらをない混ぜにした非連続性のある広汎な「生死感」のようなものが形成されつつあるようだ。しかしながら,それはいよいよあやふやな,かつ感覚的・無感動で底の浅い生と死の内容しかもたなくなってしまったのではないだろうか。
著者
緒方 巧 田中 静美 原田 ひとみ
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.53-62, 2002
被引用文献数
3

看護基礎教育において,背景の異なる学生集団を対象に基礎看護技術の習得レベルを一定の水準に向上させることを目的とした研究を行った。ジグソー学習法を用いた結果,「看護技術の習得度」が前年度のクラス平均よりも15.1点/100点満点と向上した。さらに,この学習法は,「責任感」,「主体的な学習行動」,「コミュニケーションによる人間関係の形成」など,看護師としての資質を高めることにも有効であることが認められた。
著者
近藤 元治
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.147-155, 2006
著者
荒井 光治
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-8, 2007

荒井らのガンマヒドロキシ酪酸の先のレポートは,タイトル,データその他の数ケ所で間違っていた。今回の報告は前回の訂正版である。ガンマヒドロキシ酪酸は薬理学的に重要で興味ある物質である。人脳脊髄液中のガンマヒドロキシ酪酸の存在は始めて荒井らが証明した。前回のレポートでは血清中のガンマヒドロキシ酪酸の存在について否定した。そして人脳脊髄液中のガンマヒドロキシ酪酸の濃度を間違って報告した。人血清中のガンマヒドロキシ酪酸の存在は著者のデータでは明確でない。しかし今日では血液中のガンマキドロキシ酪酸の存在が明らかにされている。今回の報告で人脳脊髄液中のガンマヒドロキシ酪酸の濃度は約6.22〜36.36nmol/mlと訂正した。
著者
西村 美里 大町 弥生 中山 由美
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.11-21, 2008

本研究の目的は, 臨地実習で認知症高齢者を受け持った看護学生がどのような感情を抱いたのかを明らかにすることである. そして, 認知症高齢者を受け持つ看護学生の指導や支援の一示唆を得ることである. 8名の看護学生に対して臨地実習で認知症高齢者を受け持った際に感じたことについてインタビューし, KJ法を用い分析した. その結果, 【予期しない言動にびっくりする】【思いが通じなく, もどかしい】【受け入れてもらえて嬉しい】【一緒にいることが楽しい】【ケアのポイントに気付けて, 充実感がある】【認知症高齢者は可哀想】の6カテゴリーが抽出された. 認知症高齢者に攻撃的発言や拒否反応を示され, 困惑しながら看護学生は感情のコントロールをしていた. そのような学生には, まず感情を表出・認知させるような関わりが教員には求められる. そして感情が生じた根源や, 高齢者の心身の状態について学生と共に考える時間を持つことが必要であると考えた.
著者
岸田 秀樹 足利 学 木下 泰子 江副 智子 飯田 英晴
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.119-130, 2007

自殺現象は複雑であり,自殺のタイプに対応した多様な自殺予防戦略が必要である。そこで本稿でわれわれは,まず自殺をめぐるジレンマに起因する自殺予防の困難性を確認する。第2に,自殺者の意志や動機に基づく定義の問題を示しつつ,行為とその痕跡に基づく定義の必要性をうったえる。第3に,我が国の自殺認定が行為論的定義に基づいて,個々の死因を分類していることを示す。第4に,行為論的定義に基づいた,デュルケームによる自殺の社会的タイプ,自己本位的自殺,集団本位的自殺,アノミー的自殺,宿命論的自殺に基づいて,自殺予防のための個人への介入の可能性を探求する。最後に,地域住民自身によるヘルスプロモーションに貢献するため,予防医学モデルに基づく精神医学による自殺予防と社会政策的な社会学的自殺予防を概観しつつ,われわれのうつ病についての啓発活動と地域社会に潜在する対自殺抵抗資源の発見を目指した地域研究に言及する。
著者
山科 百合子 柴田 真理子 小倉 寿美
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.47-51, 2001

大阪市は日本一結核の罹患率の高い都市と言われている。ことに,日雇い労働者の多く集まるあいりん地区の結核罹患率は10万人あたり1,636.7と全国平均の47倍の高率である。その対策として,大阪市はあいりん地区の結核患者を対象に,継続治療のためDOTS(直接服薬確認による短期化学療法)を採用し,治療の中断を防ぐことにした。その結果,平成13年3月末日,DOTS療法を初めて行った22名のうち,平成13年9月末日にDOTS療法を完了した者は19名(86.4%)で,中断したものは3名(13.7%)であった。この値は,東京,川崎などとほぼ同じ数値であった。なお,これら22名のうち,過去に結核治療の中断歴のあるものは6例で,そのうちDOTSを中断したものは僅か1例にすぎず,残りの5例はDOTSを完了した。これらの事実から,DOTSが継続的な結核治療として有効なものであることがわかった。なお,DOTSの成功率の高い患者は,受診時に自分の経歴や,身の上話をしていく者が多く,このことはDOTSナースの存在がDOTS治療のために必要であることを示唆していた。