著者
別府 玲子 村橋 けい子
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.142-146, 1999-04-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
13

心因性難聴に健忘を伴った2症例を経験した。 健忘は精神医学的には意識の障害を呈する解離性障害の一症状である。 症例1は年齢16歳, 症例2は15歳と, 思春期の女性であり, 難聴, 健忘以外にも多彩な症状を示した。 症例1は精神科において全生活史健忘との合併と診断された。 症例2は, 幼少時より両側高度感音難聴のため経過観察をしており, 既存の難聴が高度で, 他覚的聴力検査で閾値が確認できないので, 精神医学的状況から心因性難聴と推定した。 心因性難聴の場合は, 十分な心理的ケアが必要であり, 特に他の重篤な精神症状を合併している場合は精神科のカウンセリングを要すると考えられた。
著者
奥野 秀次 小松崎 篤
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.54-60, 1995-02-28 (Released:2010-04-30)
参考文献数
16

自衛官の受ける音響外傷はその原因となる音源やその被曝の繰り返し具合い, また, 受傷する際の身体的条件も多岐にわたり複雑である。今回は自衛官における音響による内耳外傷の病態のひとつとして内リンパ水腫の様な病態がありうるかどうかを推察することを目的に, 音響外傷後の耳症状を主訴に受診した自衛官を対象として蝸電図法を用いて検討した。その結果一部の例で, 単に有毛細胞の傷害のみでなく蝸電図上-SPの増大が示されるような病態を有する例が存在することが分かった。しかし-SPの増大を示す例は30%以上あったが, 反復性聴平衡障害を示した例はわずか一例であり, 音響との因果関係を述べるのには更に症例を増やすと共に, 各症例についてより詳細に調査をすることが必要と考えられた。
著者
内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.155-162, 2021-04-28 (Released:2021-05-19)
参考文献数
25

要旨: 脳内に病的な変化を有していても, 臨床的に認知症を発症せずに機能を保つ能力として, 認知予備能 (cognitive reserve), 脳予備能 (brain reserve), 脳の維持 (brain maintenance) などの概念がある。脳の衰えへの耐性を想定する予備能仮説で, 予備能の代理尺度として用いられる指標には, 比較的測定が容易な脳容積や頭囲, 脳重量という形態学的パラメーター, 教育 (教育年数や教育の質), 職業内容の複雑さ, IQ や識字率, 精神的活動, 社会的活動, 身体的活動などがある。難聴があると, 脳容積萎縮速度, より高度な学業達成率, 就労の継続, 社会交流などの側面で不利であることを示す多種の研究報告がある。認知症発症を遅らせる可能性のある予備能の強化にとって, 難聴や, 難聴が関与する事象が妨げとなるとすれば, 難聴対策はこれまで以上に重要になると考える。
著者
御子柴 卓弥 新田 清一 中山 梨絵 鈴木 大介 坂本 耕二 島貫 茉莉江 岡田 峻史 藤田 航 鈴木 法臣 大石 直樹 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.315-325, 2019-08-30 (Released:2019-09-12)
参考文献数
18

要旨: 音楽幻聴は, 外部からの音刺激がないのに歌や旋律が自然に聞こえる現象であり, 耳鳴患者の中にも稀に存在する。2011年1月から2018年10月までに当科を受診した耳鳴患者のうち, 音楽幻聴を訴えた23例の臨床像を検討した。このうち11例に対し耳鳴について詳細に説明した上で補聴器による音響療法を行い, 治療効果を検討した。音楽幻聴症例は, 高齢者・女性に多く1例を除く全例で感音難聴を認めた。全例で病識が保たれており, 精神神経科疾患の合併を認めなかった。治療後に Tinnitus Handicap Inventory の合計値, 耳鳴の自覚的大きさ・苦痛の Visual Analogue Scale は有意に改善した。本検討から, 精神神経科疾患の合併がなく難聴が主病因の音楽幻聴に対し耳鳴の説明と補聴器による音響療法が有効な治療である可能性が示唆され, 耳鼻咽喉科医が中心となり診療に携わることが望ましいと考えられた。
著者
矢部 多加夫 澤木 誠司 中本 吉紀 伊藤 茂彦 小寺 一興 中村 雅信
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.223-230, 1997-08-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
17

スポーツクレー射撃時の衝撃音が射手に与える影響について検討するために, 衝撃音測定用のダミー人形装置 (KEMAR) を用いて衝撃音を測定し, 63名のクレー射手を対象に純音聴力検査と質問紙調査を実施した。 1) 衝撃音のピーク音圧は約155dBで, 2msec前後にピークをもち, 約50msecで減衰した。 2) 銃口側耳と反対側耳間にピーク音圧差が認められ, 耳介の集音作用が考えられた。 3) 音響外傷予防用具の遮音効果についてはイヤープラグとイヤーマフの併用, イヤープラグ, イヤーバルブ, イヤーマフの順であった。 4) 高音域で明らかな高音急墜ないしC5 dipを示した異常群は非異常群に比べ平均年齢が高く, 平均経験年数が長く, 予防用具使用率が低率を示した。 音響外傷予防用具は遮音に効果的で, 予防用具の必要性と適切な使用法についての今後の一層の普及, 使用率の向上が望まれる。
著者
福田 友美子 森本 行雄 四日市 章
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.229-235, 1994-06-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
3
被引用文献数
1

現在の日本社会における聴覚障害者のコミュニケーション手段の使用に関して, 先天性の重度聴覚障害者の集団を対象にして, 郵便によるアンケート調査を行った。 3740通の質問紙を発送したのに対して回答数は1696通で, 回答率は45%であった。 その結果次のことがわかった。1. コミュニケーションの相手によって, 異なったコミュニケーション手段を用いていた。2. 音声言語でのコミュニケーションが要求される場面では, 筆談を用いているものが多かった。3. コミュニケーションの手段として, 手話が最も有効であり, 続いて指文字・読話・補聴器の順に有効性が高いという判断がなされていた。4. 先天性の聴覚障害者であっても, 情報補償の方法として, 手話だけでなく文字による補償への希望も同様に多かった。
著者
小渕 千絵
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.221-229, 2023-08-30 (Released:2023-09-14)
参考文献数
32
被引用文献数
1

要旨: 音は聞こえるが聞き取りにくいという症状に対しては, 他覚的, 自覚的な聴覚検査を組み合わせ末梢聴覚系での問題を鑑別することとなるが, 最近では拡張高周波数聴力測定の有用性も指摘されている。これらの鑑別後にもその症状が残存する場合, Listening difficulties (LiD) である可能性が考えられる。聞き取りにおける認知機能, 特に注意機能の弱さが関与するとされ, 必要な音やことばへの選択的注意や他刺激への分散的注意などの問題が実証されている。また, 頭に浮かぶとりとめのない思考であるマインドワンダリングに時間を要したり, マインドレスな状態である例もみられ, 不要な情報の抑制と必要な情報への注意集中がうまくいかない可能性が考えられた。現在の評価方法では, 日常生活での困り感があっても検査上で検出できない, 困り感はなくても検査上で弱さを示す例の存在により, LiD 例の実態の把握が困難である。評価法の再検討や特異的な例の機序解明などが急務といえる。
著者
岩崎 聡
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.261-268, 2013-08-30 (Released:2013-12-05)
参考文献数
26
被引用文献数
1

要旨: 新生児聴覚スクリーニング検査の普及により一側性難聴と診断される機会は増えてきたが, その頻度はまだ不明と言える。小児の場合, 主な原因として内耳・内耳道奇形, ムンプス難聴, 先天性CMV感染症があげられる。その他, 髄膜炎, auditory neuropathy spectrum disorder, 内リンパ水腫があるが, 半数以上は原因不明である。CTとMRIによる画像検査は今後必須になると思われる。保存臍帯によるCMV DNA解析の結果, 一側性感音難聴児の約9%にCMV DNA (+) が認められたが, 難聴遺伝子変異は1例もみられなかった。一側性難聴は心因性難聴が関与する場合もあるので, 特に小児においてはABR, ASSR, OAEなどの他覚的検査を実施する必要がある。 一側性難聴児は言語発達遅滞や学業成績への影響, 人間関係のトラブルを生じる場合があるため, 周囲の気遣いが重要である。成人発症の一側性高度難聴が残った突発性難聴は, SF-36によるQOL, HHIAによるハンディキャップの検討により, 生活面のQOLの低下とハンディキャップを認めた。最近片側聾に対する介入方法として埋め込み型骨導補聴器や耳鳴りを伴った片側聾に対する人工内耳が行われている。
著者
小川 郁
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.37-44, 2021-02-28 (Released:2021-03-20)
参考文献数
43
被引用文献数
3 3

要旨: 超高齢社会を迎え, 認知症と加齢性難聴の増加が社会問題となっている。本稿では認知症予防に対する現状での政策について概説し, さらに認知症と加齢性難聴との関係, 認知症予防対策としての補聴器の効果について文献的に考察した。
著者
朝隈 真一郎 村井 和夫
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.46-53, 2010 (Released:2010-03-19)
参考文献数
28
被引用文献数
11 10

原因も, また内耳に起こっている病態についても全くわかっていない突発性難聴の診断と治療をいかに行うか, そのことを考える上での問題点とそれへの対応について述べた。1989年から2006年までの18年間に報告された論文をみると治癒率の向上はなく治療成績に変化はなかった。治療成績を調べるために検討された症例数が少ないと得られた治癒率のばらつきが大きく, 症例数が増えるにつれてそのばらつきは小さくなる。症例数が200例以上になると治癒率は30数%に集まる。また治療法が違っても症例を増やして検討すれば同じ治癒率が出ることが分かった。このことから, この治癒は治療によるものではなく自然治癒の可能性が高いことを述べた。治療に当たっては, この疾患について十分に説明することが重要である。治療法の選択については身体的にまた経済的にも負担の少ない方法を選択することが望ましい。
著者
麻生 伸
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.535-542, 2022-12-28 (Released:2023-01-18)
参考文献数
9
被引用文献数
1

要旨: 身体障害者に該当しない軽度から中等度の難聴であっても生活には補聴器が必要であるという方は数多いが, 国の費用助成制度がない。2021年初頭に実施された2つの実態調査によって, 地方自治体独自の助成制度が拡がりつつあることが分かったが, 地域差が大きいことも明らかとなった。身体障害者の資格があるか否かで不公平にならないように, きこえに困っている難聴者全体に対して, 地域差のない国の制度として0歳から終生切れ目のない支援が早期に確立されることが望ましい。
著者
岡野 由実 原島 恒夫 堅田 明義
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.195-203, 2009 (Released:2009-09-18)
参考文献数
15
被引用文献数
4 2

本研究では, 一側性難聴者の自己開示の実態, 日常生活において対人関係の中でどのような感情を抱いているのかを明らかにするために, ソーシャルネットワーキングサービスを利用した調査を実施し, 135名の一側性難聴者から回答を得た。自己開示の実態については, 自己開示の有用性について理解していても, 開示しにくい背景があるということが分かった。その理由として, ネガティブな感情や, 周囲の理解不足があると考えられる。聞こえに関する問題だけでなく, 対人関係の中から生じる心理的問題も抱えている現状が示唆された。また, 自由記述より, 一側性難聴者同士が悩みや不安を共有し合うピア・カウンセリングの有用性が示唆された。聞こえの問題から二次的に生じる問題, 特に対人関係の中から生じる心理的問題やその実態など, 一側性難聴への理解を深め, 支援を行っていく必要があると考えられる。
著者
片岡 祐子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.543-548, 2022-12-28 (Released:2023-01-18)
参考文献数
13

要旨: 小児難聴のうち身体障害者に該当しない軽度・中等度難聴児は約60%を占める。近年新生児聴覚スクリーニングによる早期診断, 療育開始や軽度・中等度難聴児補聴器助成事業導入といった社会的制度が拡充されてきた。軽度・中等度難聴児は一般的に聴取や言語発達が良好で, 通常学校・級在籍児が多く, 通級も含めて聴覚に関する特別支援教育を受ける児は少数である。しかし一方で, 聴取能, 言語発達遅滞や学力の低下, 社会性の問題などが出現する頻度が高く, 年齢が上がるにつれて顕著化,複雑化する傾向がある。インクルーシブ教育においては一見コミュニケーションに支障がなさそうであるが故, 必ずしも適切な介入, 教育者等による適切な理解と支援が受けられていないことが多い。通学校での合理的配慮や課題の把握を行うとともに, 言語聴覚士や聴覚支援学校教師等による専門的検査や指導を併用できるよう, 連携した支援体制の構築,情報共有が望まれる。
著者
和田 仁
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.161-169, 2016-06-30 (Released:2016-11-16)
参考文献数
32
被引用文献数
3

要旨: 五官 (視覚, 聴覚, 味覚, 嗅覚, 触覚) の中で, 聴覚器は空気の疎密波などの機械的振動を捉える器官である。 ヒトはこれを音として感じ取っている。 従って, この音を感じ取る感覚細胞のメカニクスも実にメカニカルである。 また, 我々の聴覚は非常に感度がよいが, これは2種類の感覚細胞, すなわち内有毛細胞と外有毛細胞がコルチ器の中で相互に協調することにより実現している。 本総説では, これまでの多くの研究者の研究成果を踏まえ, まず有毛細胞の構造について概説し, 次に内有毛細胞における音受容メカニズムについて説明する。 さらに, 内有毛細胞と外有毛細胞がいかに協調し合っているかについて講述する。
著者
永井 賀子 萩原 晃 河口 幸江 小川 恭生 服部 和弘 河野 淳 鈴木 衞
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.58-65, 2016-02-28 (Released:2016-08-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2 7

要旨: 突発性難聴例の治療開始後の聴力改善経過と改善率について検討した。2009年1月から2013年12月までの5年間に東京医科大学病院耳鼻咽喉科を受診し, 入院加療を行った Grade3 または 4 であった突発性難聴121例, 121耳を対象とした。Grade3 は70例, Grade4 は51例であった。治療開始後7日以内に5周波数の平均聴力が 20dB 以上改善した例を早期改善群, 8日以上14日以内に改善した例を中期改善群, 14日以内に改善がみられない例を改善なし群に分類した。治癒率は早期改善群で68%, 改善なし群で8.2%であり, 早期改善群で有意に高い結果であった。早期改善群では聴力予後は良好で, 改善なし群では聴力予後が不良であった。