著者
Noritomo Kawaji Yasuhiro Yamaguchi Yukihiro Yano
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
Journal of the Yamashina Institute for Ornithology (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.80-88, 2002-10-25 (Released:2008-11-10)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

栃木県において,野外個体群の回復のために放鳥されたヤマドリ養殖個体の運命について,狩猟者からの足環の回収報告結果およびラジオトラッキング調査から調べた。1989年から1997年にかけて放鳥されたオスのヤマドリのうち,放鳥時に装着された足環が狩猟者により回収されたのは1.3%であった。また,回収された個体のうちのほとんどが,放鳥されたのと同じ狩猟期に得られたものであり,2年以上生存した個体は,わずか0.3%に過ぎなかった。栃木県県民の森で行った放鳥ヤマドリに対するラジオトラッキング調査の結果,短い寿命(平均11.4日)であることがわかった。栃木県で放鳥した場所と足環が回収された場所との間の直線距離を算出したところ,それほど大きな値は得られなかったが(平均で14.6km),40km以上移動したと思われる個体が複数個体存在し,最高で87km移動した個体もあった。今回の結果から,現在の放鳥方法では放鳥の所期の目的を達成することは困難と思われる。そこで,オスの放鳥場所をこれまでの鳥獣保護区から可猟区にすることやメスを繁殖期直前に放鳥するなどの改善策を提言する。
著者
Kazue Nakamura
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
Journal of the Yamashina Institute for Ornithology (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.64-66, 1979-01-30 (Released:2008-11-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1

1976年9月4日,岩手県岩手郡滝沢村の篠木小学校附近の水田で生きて拾われ,翌日死亡したというシロハラミズナギドリ一種はオオシロハラミズナギドリ(Pterodroma externa)と同定されて報告された(岩手の鳥獣,岩手県環境保健部,1978)。これは単にnominal recordであり,オオシロハラミズナギドリとした根拠が示されていないことから筆者はその同定に疑問を持った。中村茂氏から送付された標本写真をみてこの鳥がPt.externaではなく,Pt.phaeopygiaであろうと考え,宮古国民休暇村のビジターセンターを訪れ保管されている標本を実検したところ,この鳥が本種であることを確かめることができた。大きさと脇羽が暗褐色であることからハワイ産のPt.p.sandwichensisに含まれるものであると思われる。本種の体上面は前額を除いて暗褐色で,とくに頭頂で黒く,体下面が白色の中型のシロハラミズナギドリである。英名をDark-rumped(Gadfly)Petrelと呼び,Pt.externa(2亜種)に近縁であるが,体上面がほぼ一様に暗褐色でM斑がでないこと,翼下面の縁どりが太く顕著である点でこの種との区別は容易である。また太西洋産のPt.hasitata(Black-capped Petrel)にも似るが,上尾筒が白くない点でこの種とも容易に区別できる。これらの特徴は野外識別の際にも重要な区別点になるであろう。和名は原産地でUauと呼ばれ,ハワイ特産であることからハワイシロハラミズナギドリと命名した。日本初記録である。基亜種はガラパゴス産で,ハワイ産亜種より大型である。本種の非繁殖期における渡りについてはほとんど知られていないが,1862年4月17日,インドネシアのモルッカ海で1羽採集されている(Bourne1967)。この1例と今回の記録は本種に北太平洋の西または北西部海域に達する長距離の渡りがあることを示唆するものであろう(cf.King1967)。基亜種の北方への渡りでは少なくとも北緯10度に達し,メキシコ西海岸からの記録もある(Murphy1936)。この鳥が得られたのは,大雨を伴った低気圧が東北地方の太平洋岸を北東進した後である。