著者
田中 康夫 井上 庸夫 鈴木 雅一
出版者
独協医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

誘発耳音響放射(OAE)に関する私共の行なってきた研究(Tamaka et al.,1988他)からこの音響現象が騒音難聴などの内耳障害程度の指標として役立つことや,更にそれがdip型聴力障害の易傷性と関係を有していることが示唆されてきた。本研究では実際の騒音環境にある対象で耳音響放射の測定を行ない,音響易傷性の個体差について検討を行なった。対象としてF中学校女子吹奏楽部員33名およびS自動車部品工場勤続2年従業員16名を選び,聴覚検査とOAEの測定を行なった。騒音測定装置を用いて解析した作業場の騒音レベルは90.0〜97.0 dBLcegであった。1). 中学吹奏楽部員33名64耳のうち,41耳(63.5%)に自記オ-ジオグラム上のdip型聴力損失を認めた。OAEの持続が6ms以上であった。cーOAEは36耳(56.3%)に認められた。cーOAE(+)耳群のうちdip損失のあった耳は80.6%なかった耳は19.4%であった。dip損失のあった群のうちcーOAE(+)耳は70.7%,cーOAE(-)耳は29.3%であった。2). 工場従業員16名32耳のうち,16耳(50.0%)にdip型聴力損失が認められ,20耳(62.5%)にcーOAEが観察された。cーOAE(+)20耳のうち,13耳(65.0%)にdip型損失あるいは高音急墜がみられたが,7耳(35.0%)には障害が認められなかった。cーOAEが(+)であり,かつdip損失を伴っていた耳群のうち8耳は,22ケ月前の調査で,全例がcーOAE(-)であり,そのうち7耳はdip損失も伴っていなかった。今回の中学校における調査結果は以前に行ったH中学校で得られた成績と同様に,OAEの持続する耳と音響易傷性の関係を支持するものであった。工場における調査では,両者の関係を実証する統計的に有意な結果は得られなかった。工場の調査ではcーOAEが素因ではなく結果である可能性が示唆され今後,作業環境,耳栓装用,および検査前休養時間などの条件をさらに厳密に一定化して検討する必要があると考えられた。

言及状況

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こんな研究ありました:耳音響放射を用いた音響易傷性の個体差に関する研究(田中 康夫) http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/02670771

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