- 著者
-
岡田 泰伸
- 出版者
- 岡崎国立共同研究機構
- 雑誌
- 試験研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1992
小腸上皮は吸収組織であると共に分泌組織でもある。糖やアミノ酸などのNa^+依存性の能動的吸収は絨毛上部で、Cl^1の能動的分泌はリーバーキューン腺部で行われるものと広く考えられている。ところが一部にはこの教科書的見解に対する強い疑問も依然として存在し、この「吸収・分泌機能の絨毛内分化」仮説にといての細胞レベルでの直接的検討がますます必要となっている。本研究の目的は、パッチクランプ法の適用によってこれを可能とするための哺乳動物小腸上皮細胞実験システムを得る点にある。まず私たちは、酵素的に単離した小腸上皮細胞enterocyteを用いてこの点の検討を始めたが、刷子縁の消失に見られるような単一細胞への分離による極性の喪失という致命的欠点によってそれを阻まれた。そこで今年度以前は刷子縁膜・基底側壁膜極性を完全に保持したモルモット小腸の絨毛上皮及び腺上皮の単離組織標本を得るための方法を開発した。今年度は、単離絨毛及び単離腺にパッチクランプ法を適用して、それらから各種イオンチャネル電流が記録できることを明らかにした。また絨毛部からはグルコースに応答する電流の存在も観察された。それゆえ、チャネル特性やグルコース応答の小腸「腺-絨毛軸」における勾配についての今後の研究に適用可能であることが明らかになった。今年度は、スライス標本を得るための方法の開発にも成功をみたが、これにおけるギガシールの達成には今までのところ成功せず、これにパッチクランプ法を適用していくためには細胞表面をクリーンにするためのいくつかの工夫などが必要であることがわかった。